この記事で分かること

  • キャップレート=NOI÷物件価格。逆に「価格=NOI÷キャップレート」で価格を逆算できること
  • キャップレートが「リスクフリーレート+リスクプレミアム-期待成長率」に分解して読めること
  • 金利上昇でキャップレートが0.5%ポイント動くと、NOI一定でも価格が約11%下がる感応度の構造
  • 直接還元法とDCF法の関係(還元利回り・割引率・最終還元利回りの違い)と、J-REITのインプライドキャップレートの読み方

結論:キャップレートとは「NOI ÷ 物件価格」で表す不動産の還元利回り

キャップレート(Cap Rate、日本語では還元利回り)とは、不動産が1年間に生み出す純収益(NOI)を物件価格で割った利回りのことです。株式のPERの逆数に近い発想で、「この物件は投資額に対して年何%の収益を生むか」を1つの数字に圧縮した指標です。

キャップレート = NOI ÷ 物件価格
物件価格 = NOI ÷ キャップレート
NOIは年間ベース(通常は今後1年間の安定稼働時の純収益)。この2式は同じ関係式を分子・分母で入れ替えただけですが、実務では後者、つまり「NOIを利回りで割って価格を出す」使い方が圧倒的に多くなります。

ここが最初のポイントです。キャップレートは「計算して求める結果」であると同時に、「市場から与えられる入力値」でもあります。すでに取引価格が決まっている物件では前者(実績値の逆算)ですが、これから買う物件・評価する物件では、市場で観察されるキャップレートを当てはめて価格を求める後者の使い方になります。不動産鑑定評価における直接還元法は、まさにこの後者の考え方です。

本記事はキャップレート1指標を深掘りするものです。NOIの計算そのものはNOIとは?計算方法・NOI利回り・NCFとの違いで、1棟の収支をモデル化する全体像は不動産のプロフォーマ入門で扱っています。

計算式と逆算:設例で確かめる

以下は説明用の仮設例です。実在の物件・取引を示すものではありません。

東京都内のオフィスビル1棟、年間のNOIが120百万円(1.2億円)、取引価格が3,000百万円(30億円)だったとします。

キャップレート = 120百万円 ÷ 3,000百万円 = 4.0%
逆算:3,000百万円 = 120百万円 ÷ 4.0%

この物件を「市場のキャップレートが4.0%だから3,000百万円」と説明することもできますし、「3,000百万円で買ったので取得利回りは4.0%だった」と事後的に説明することもできます。同じ数式ですが、実務で意味が変わるのはどちらを所与とするかです。

逆算の使い方はもう1つあります。売却価格の想定です。5年後に売却するとき、そのときのNOIと、そのときの市場キャップレート(最終還元利回り、Exit Cap Rate)を置けば、売却価格が求まります。5年後のNOIを132百万円、Exitキャップレートを4.5%と置けば、売却価格は132 ÷ 4.5% = 2,933百万円です。NOIが10%成長しても、キャップレートが0.5%ポイント上がるだけで、売却価格は取得価格3,000百万円を下回ります。この非対称性が、不動産投資でキャップレートが最重要視される理由です。

表面利回り・NOI利回り・NCF利回り:分子と分母を揃える

キャップレートの誤用の大半は、分子(収益)の定義を揃えていないことから起きます。同じ物件でも、分子の取り方で利回りは大きく変わります。前述の設例を分解してみます。

指標分子の定義金額(百万円)÷価格3,000
表面利回り(グロス)満室想定の年間賃料収入1806.00%
実効総収入ベース空室損等を控除した収入1735.77%
NOI利回り(キャップレート)実効総収入-運営費用531204.00%
NCF利回り(純収益)NOI+敷金運用益1-資本的支出91123.73%
表:同じ物件・同じ価格でも、分子の定義で利回りは6.00%から3.73%まで動く(説明用の仮設例)

表面利回り6.00%とキャップレート4.00%は、2.0%ポイントも違います。売買図面に「利回り6%」と書かれていても、それが満室想定賃料ベースであれば、運営費用を引いた実力値はまったく別物です。稼働率・空室率の前提とあわせて、必ず分子の定義を確認してください。

また、日本の不動産鑑定評価では、還元利回りに対応する純収益としてNCF(資本的支出控除後、敷金等の運用益加算後)を用いるのが一般的です。一方、投資家同士の会話やJ-REITの開示で「NOI利回り」と言うときはNOIベースであることが多く、鑑定書の還元利回りと投資家の言うキャップレートは同じ物件でも水準が異なります。上表では0.27%ポイントの差ですが、実務ではこの差が価格に直結します。どちらのベースで話しているかを最初に握るのが、不動産ファイナンスの基本動作です。

キャップレートは何でできているか:リスクフリー+プレミアム-成長

キャップレートの水準を「市場がそうだから」で終わらせず、構成要素に分解して考えると、金利や賃料見通しが変わったときに何が起きるかを説明できるようになります。理論的には次のように整理できます。

キャップレート ≒ 割引率 - 期待成長率 =(リスクフリーレート+リスクプレミアム)- 期待成長率
割引率は投資家が要求する総合的な期待収益率、期待成長率は純収益(NOI/NCF)が将来どれだけ伸びると見込むかです。永久成長を仮定したゴードン成長モデル(価格=翌期CF÷(r-g))を不動産に当てはめた形と考えると理解しやすくなります。

キャップレートの構成(説明用の仮設例) 0% 1% 2% 3% 4% 5% 1.5% リスクフリーレート 長期国債利回り +3.5% リスクプレミアム 空室・流動性・信用 -1.0% 期待成長率 賃料の上昇見込み = 4.0% キャップレート 還元利回り 価格に直結 価格=NOI÷4.0%
図:キャップレートは「リスクフリーレート+リスクプレミアム-期待成長率」に分解して読める。数値は説明用の仮設例。

この分解から3つのことが読み取れます。

第一に、リスクフリーレートが上がれば、他が一定ならキャップレートも上がります。不動産は債券に似た性質を持つ資産であり、安全資産の利回りが上がれば、それより高い利回りを要求されるのは当然です。

第二に、リスクプレミアムは物件ごとに違います。テナントの信用力、契約残存年数、テナント分散、立地の代替性、建物の築年数と用途転用のしやすさ、売却時の買い手の厚み(流動性)。これらがすべてプレミアムに反映されます。

第三に、期待成長率がキャップレートを押し下げます。賃料が今後伸びると期待される市場・物件では、目先の利回りが低くても買い手がつきます。逆に、賃料下落が見込まれる物件は高い利回りでなければ買われません。「利回りが高い物件=良い物件」ではないのは、この項が理由です。

イールドギャップ

実務でよく使われるのがイールドギャップです。定義には2通りあり、混同されやすいので区別しておきます。

呼び方定義見るもの
対長期金利キャップレート - 長期国債利回り不動産市場全体の割高・割安感
対借入金利キャップレート - 借入金利レバレッジが効くか(正のレバレッジ判定)
表:イールドギャップの2つの定義。会話ではどちらか明示しないと噛み合わない。

設例ではキャップレート4.0%、長期金利1.5%なので、対長期金利のイールドギャップは2.5%ポイントです。対借入金利では、借入金利が1.2%であればギャップは2.8%ポイントとなり、キャップレートが借入金利を上回っているため借入によって自己資本利回りが高まる「正のレバレッジ」の状態です。逆にキャップレートが借入金利を下回れば、借りるほど自己資本利回りは下がります。なお、レバレッジの安全余裕を見るにはデットイールドやDSCRも併せて確認する必要があります。

金利が上がるとなぜ価格が下がるのか:感応度で理解する

「金利上昇 → キャップレート上昇 → 価格下落」は不動産ファイナンスで最も重要な因果の連鎖です。仕組み自体は債券の価格と利回りの逆相関とまったく同じで、分母が上がれば分子一定でも価格は下がります。

設例で確かめます。NOIは120百万円で一定、キャップレートだけが動くとします。

キャップレート感応度:NOI一定でも価格はこれだけ動く NOI=年120百万円で一定(説明用の仮設例) 3,429 +14.3% 3.5% 3,000 基準 4.0% 2,667 -11.1% 4.5% 2,400 -20.0% 5.0% 横軸:キャップレート / 棒の数値:物件価格(百万円)
図:キャップレートが4.0%から4.5%へ0.5%ポイント上がるだけで、価格は約11%下落する(説明用の仮設例)。

キャップレートが4.0%から4.5%へ0.5%ポイント上昇すると、価格は3,000百万円から2,667百万円へ、約11.1%下落します。金額にして333百万円です。ここで押さえるべきは、価格の変化率が(4.0% ÷ 4.5%)-1 = -11.1% と、キャップレートの比で決まることです。0.5%ポイントという絶対値が同じでも、元の水準が低いほどダメージが大きくなります。キャップレート8.0%の物件が8.5%になっても価格下落は-5.9%にとどまりますが、3.0%の物件が3.5%になれば-14.3%です。低利回りで取引されている都心の優良物件ほど、金利上昇に対して価格が脆いという事実は、この式から直接出てきます。

もっとも、現実には金利上昇とキャップレート上昇は1対1では動きません。景気拡大に伴う金利上昇であれば賃料の期待成長率も上がり、前節の分解でいえばマイナス項も大きくなるため、キャップレートの上昇は金利上昇幅より小さくなり得ます。また、投資家が受け入れるリスクプレミアムが縮小すれば、金利が上がってもキャップレートは横ばいということも起こります。「金利+0.5%ポイント=キャップレート+0.5%ポイント」と機械的に置くのは乱暴な前提であり、モデルではキャップレートを独立の感応度変数として扱うのが実務的です。

用途・立地でなぜ水準が違うのか

キャップレートは物件ごとに大きく異なります。国内の期待利回りについては、一般財団法人日本不動産研究所が半期ごとに実施・公表する「不動産投資家調査」が、用途別・地区別の期待利回り等を継続的に集計しており、市場水準を確認する際の代表的な一次情報として広く参照されています。具体的な水準は時点によって変動するため、最新の公表値を直接確認してください。

水準の差を生む要因は、前節の分解に戻ると整理できます。

要因キャップレートを下げる方向上げる方向
立地大都市中心部・駅至近地方・郊外・単一需要地
収益の安定性テナント分散・長期契約・住宅単一テナント・変動賃料・ホテル等
建物築浅・耐震性能・汎用的な設計築古・大規模修繕が近い・特殊用途
流動性買い手が多い規模・用途超大型・特殊で買い手が限られる
賃料の成長期待需給逼迫・賃料改定余地あり供給過剰・賃料が市場より高い
表:キャップレート水準を左右する主な要因(一般的な方向感の整理)

注意したいのは、賃料が市場水準より高い状態(オーバーレント)の物件です。表面上のNOIが大きいため利回りが高く見えますが、契約更改時に賃料が下がる可能性が織り込まれ、市場ではより高いキャップレートが要求されます。逆に賃料が市場より低い(アンダーレント)物件は、将来のアップサイドが評価されて低いキャップレートで取引されることがあります。キャップレートは物件の質そのものではなく、「今のNOIがどれだけ持続・成長するか」への市場の評価だと理解すると、水準差の説明がつきます。

直接還元法とDCF法:還元利回り・割引率・最終還元利回りの違い

不動産の収益価格を求める手法は大きく2つあり、キャップレートはその両方に登場しますが、役割が異なります。

直接還元法:収益価格 = 単年度の安定純収益 ÷ 還元利回り(キャップレート)
DCF法:収益価格 = 保有期間中の各年純収益の現在価値合計 + 復帰価格の現在価値
    復帰価格 = 保有期間満了後の純収益 ÷ 最終還元利回り(ターミナルキャップレート)

ここで3つの利回りを整理します。還元利回りは単年度の純収益を価格に変換する率で、将来の変動見込みを内包しています。割引率は将来キャッシュフローを現在価値に割り引く率で、純収益の変動見込みを含みません。したがって理論的には「還元利回り ≒ 割引率 - 純収益の変動率」の関係にあり、純収益が伸びる前提なら還元利回りは割引率より低くなります。最終還元利回りは、保有期間終了時点で買い手が要求するであろう還元利回りで、建物が経年することと将来の不確実性から、取得時の還元利回りより高めに置くのが保守的な実務です。この考え方は企業価値評価のDCF法におけるWACCとターミナルバリューの関係とそのまま対応します。

設例で両者を突き合わせます。NCFが年112百万円で一定、割引率5.0%、5年後に売却し、最終還元利回りは4.5%とします(売却費用は捨象)。

項目計算金額(百万円)
1〜5年目NCFの現在価値112 × 年金現価係数4.3295(5%・5年)485
5年後の復帰価格112 ÷ 4.5%2,489
復帰価格の現在価値2,489 ÷ 1.0551,950
DCF法による収益価格485 + 1,9502,435
逆算した還元利回り112 ÷ 2,4354.60%
表:DCF法の結果から還元利回りを逆算すると4.60%(説明用の仮設例、単位未満は四捨五入)

この設例では、割引率5.0%に対して逆算された還元利回りは4.60%です。NCFが一定(成長ゼロ)でも還元利回りが割引率を下回るのは、最終還元利回り4.5%を割引率より低く置いたためです。逆に最終還元利回りを割引率と同じ5.0%に置けば、収益価格は112÷5.0%=2,240百万円となり、還元利回りは割引率と一致します。DCF法と直接還元法は別世界の手法ではなく、置いた前提が整合していれば互いに翻訳できます。これが両手法を併用してクロスチェックする理由です。両者の結果が大きく乖離したら、どちらかの前提が壊れていると考えてください。

取得キャップレートとインプライドキャップレート

Going-in と Exit

取得時点のNOIと取得価格から計算するのが取得キャップレート(Going-in Cap Rate)、売却時点の想定NOIと想定売却価格から計算するのがExitキャップレート(最終還元利回り)です。投資判断のモデルでは、Exitキャップレートを取得時より0.25〜0.50%ポイント程度高く置いて保守性を確保する運用がよく見られます。建物が5年分古くなる以上、同じ利回りで売れる前提は楽観だからです。逆に、Exitを取得時より低く置いてIRRを成立させているモデルは、キャップレート圧縮(市場評価の改善)に賭けているということであり、その前提を明示的に説明できなければ通りません。

J-REITのインプライドキャップレート

上場J-REITでは、株式市場が付けている価格から逆算した利回りを見ることができます。

インプライドキャップレート = 保有物件のNOI合計 ÷(時価総額 + 有利子負債 - 現預金)
分母は、市場が付けた投資口の価値に負債を足し、現預金を差し引いた「市場が暗黙に評価している不動産の価値」です。

説明用の仮設例で計算します。ある投資法人の保有物件NOI合計が年200億円、時価総額2,500億円、有利子負債2,000億円、現預金100億円とします。分母は2,500+2,000-100=4,400億円なので、インプライドキャップレートは200÷4,400=4.55%です。一方、鑑定評価ベースの物件価値が5,000億円(NOI利回り4.0%)であれば、市場は鑑定評価より約600億円低く不動産を評価していることになります。

このとき、NAV(鑑定評価ベース純資産)は5,000-2,000+100=3,100億円、時価総額2,500億円なのでNAV倍率は約0.81倍です。「インプライドキャップレートが鑑定キャップレートより高い」ことと「NAV倍率が1倍を割れている」ことは同じ現象を分子・分母から見ているだけだと分かります。この関係はNAV・NAV倍率とREITの評価入門で詳しく扱っています。

実務的な含意も明確です。インプライドキャップレートが物件取得時の期待キャップレートより高い(=投資口価格が割安)状況では、投資口を発行して物件を買う増資は既存投資主の1口当たり価値を毀損しやすく、逆に自己投資口取得が合理的になる場面があります。J-REITの増資判断を読むときは、この水準比較が出発点です。

Excelモデルでの感応度表の作り方

キャップレートは、モデル上では必ず入力セルとして独立させ、価格は数式で導く形にします。価格をベタ打ちしてキャップレートを逆算表示するだけのモデルでは、感応度分析ができません。

最小構成は次の通りです。入力欄にNOI(百万円)とキャップレート(%)を置き、計算欄に =NOI ÷ キャップレート を入れる。これだけで二次元のデータテーブル(What-If分析)が作れます。行にNOI、列にキャップレートを取った例が下表です。

NOI\キャップレート3.75%4.00%4.25%4.50%
114(-5%)3,0402,8502,6822,533
120(基準)3,2003,0002,8242,667
126(+5%)3,3603,1502,9652,800
表:価格(百万円)の二次元感応度。NOI ±5%よりキャップレート ±0.25%ポイントの方が価格へのインパクトが大きい(説明用の仮設例)

この表から読み取れるのは、NOIを5%改善するより、キャップレートが0.25%ポイント動くことの方が価格に効くという事実です。基準3,000に対し、NOI+5%は+150(+5.0%)、キャップレート-0.25%ポイントは+200(+6.7%)です。運営改善の努力は重要ですが、出口価格の大半は市場環境が決めます。この非対称性をレンダー・投資委員会に説明できるかどうかが、実務での分かれ目になります。

作り込みの注意点を挙げておきます。

  • キャップレートは 0.04(比率)で保持し、表示のみパーセント書式にする。4.0 と入力して100で割り忘れる事故が最も多いミスです
  • NOIの単位(円/千円/百万円)をシート全体で統一し、単位をセルラベルに明記する
  • データテーブルは再計算が重いため、大きなモデルでは計算方法を「データテーブル以外自動」に設定する
  • Going-inとExitのキャップレートは別セルにし、「Exit=Going-in+スプレッド」の形にすると、前提の保守性が一目で分かる
  • 感応度の中心(基準ケース)に条件付き書式で枠を付け、レビュー時にどこが基準か即座に分かるようにする

よくある間違い

1. 表面利回りとキャップレートの混同。最頻出の誤りです。満室想定賃料ベースの表面利回りと、運営費用控除後のNOIベースの利回りは、設例では6.00%と4.00%で2.0%ポイント違いました。売買図面の「利回り」を無条件にキャップレートとして扱うと、価格を2〜3割見誤ります。

2. NOIの定義違いを見過ごす。資本的支出(CAPEX)を控除しているか、敷金等の運用益を含めるか、原状回復費や仲介手数料をどこに入れるか、固定資産税の初年度精算をどう扱うか。これらの差でNOIは簡単に数%動きます。比較対象のキャップレートと同じ定義で分子を作れているか、必ず確認してください。日本の鑑定実務ではNCFベースが標準である点も押さえておく必要があります。

3. Going-inとExitの混同。「キャップレート4.0%の物件」と言うとき、それが取得時の利回りなのか、出口で想定している利回りなのかで議論が噛み合わなくなります。モデル上も必ず別セルにします。

4. 分母に何を入れるかの不統一。取得諸費用(仲介手数料、不動産取得税、登録免許税、デューデリジェンス費用等)を分母に含めるかどうかで利回りは変わります。取得価格ベースの「NOI利回り」と、取得原価ベースの「償却後利回り」等が混在していないか確認します。J-REITの開示でも定義が併記されているのが通例です。

5. 単年度のブレをそのまま使う。キャップレートの分子は「安定稼働時の純収益」です。大口テナントの一時的な退去、フリーレント期間、大規模修繕が集中した年のNOIをそのまま使えば、実力から乖離した利回りになります。単年度実績ではなく、正常化した水準に直してから割るのが原則です。

6. 「利回りが高い=有利」と考える。キャップレートは市場が要求するリスク対価です。高い利回りは、賃料下落・空室・流動性の低さといったリスクの裏返しであることがほとんどです。分解の視点(プレミアムが高いのか、成長期待がマイナスなのか)で理由を説明できないうちは、高利回りに飛びつくべきではありません。

よくある質問(FAQ)

キャップレートの目安は何%ですか。

用途・立地・時期によって大きく変わるため、一律の目安を示すことはできません。国内の水準を確認するには、一般財団法人日本不動産研究所の「不動産投資家調査」など、用途別・地区別に期待利回りを継続集計している一次情報の最新版を参照してください。重要なのは絶対水準そのものより、同種・同エリアの類似物件と比べて何%ポイント高い(低い)のか、その差を説明できるかです。

キャップレートとNOI利回りは同じものですか。

分子にNOIを使う限り、実質的に同じ計算です。ただし、日本の不動産鑑定評価で用いる還元利回りは分子にNCF(資本的支出控除後)を使うのが一般的で、NOIベースの利回りより低く出ます。会話の相手がどちらの定義で話しているかを最初に確認してください。

金利が1%ポイント上がったら、価格は何%下がりますか。

金利上昇分がそのままキャップレートに転嫁されると仮定した場合、価格の変化率は「元のキャップレート ÷ 新しいキャップレート -1」で計算できます。元が4.0%で5.0%になれば-20.0%です。ただし実際には、賃料成長期待やリスクプレミアムの変化が同時に起きるため、転嫁率は1対1になりません。モデルではキャップレートを独立の変数として複数ケース置くのが実務的です。

割引率とキャップレートはどちらが高くなりますか。

純収益が将来伸びると見込むなら、割引率の方が高くなります(キャップレート ≒ 割引率 - 成長率)。純収益が減少していく前提なら逆転し、キャップレートが割引率を上回ることもあります。両者を並べて置いたときに整合が取れているかは、モデルレビューの定番チェック項目です。

インプライドキャップレートはどこで確認できますか。

各投資法人の決算説明資料や資産運用報告に、鑑定評価額・NOI・有利子負債・現預金といった算出に必要な数値が開示されています。投資法人自身がインプライドキャップレートやNAV倍率を開示しているケースもあります。定義(NOIベースかNCFベースか、償却前か償却後か)が投資法人ごとに異なるため、横比較の際は定義を揃える必要があります。

まとめ

キャップレートは「NOI ÷ 物件価格」というごく単純な式ですが、実務では「価格 = NOI ÷ キャップレート」として価格を決める入力値になります。この式を「リスクフリーレート+リスクプレミアム-期待成長率」に分解すれば、金利・物件リスク・賃料見通しのどれが動いてキャップレートが変わったのかを説明できます。

価格の変化率はキャップレートの比で決まるため、4.0%から4.5%への0.5%ポイントの上昇はNOIが一定でも約11%の価格下落を意味します。低利回りの物件ほど金利上昇に脆いという性質は、この式から直接導かれます。

そして、直接還元法とDCF法は前提が整合していれば互いに翻訳可能であり、J-REITのインプライドキャップレートとNAV倍率も同じ現象の裏表です。キャップレートを1つの数字としてではなく、分子の定義・分母の範囲・時点(Going-in/Exit)の3点セットで扱うこと。それが、この指標を実務で正しく使うための出発点になります。

出典・参考(2026年8月21日確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。