この記事で分かること

  • NOI(純営業収益)の定義と計算式、そしてNOIから「引かないもの」(減価償却費・支払利息・税金・資本的支出)の理由
  • 表面利回り・NOI利回り・NCF利回り・償却後NOI利回りの違いを、1棟のビルの仮設例で数値ごと比較する方法
  • 日本の不動産鑑定評価基準における「NCF=NOI+一時金の運用益-資本的支出」という整理と、市場慣行との差
  • J-REITの物件別NOI開示の読み方、Excelプロフォーマでの行の組み方、DSCR・LTVへの接続

結論:NOIは「賃料等収入-運営費用」。減価償却も金利も税金もCAPEXも引かない

NOI(Net Operating Income/純営業収益)とは、不動産が生み出す賃料等の収入から、その不動産を運営するために必要な費用だけを差し引いた利益のことです。日本の不動産投資・J-REITの実務では、次の式が出発点になります。

NOI = 有効総収入(満室想定賃料等収入 - 空室損失等 + その他収入) - 運営費用
運営費用には、建物管理費・水道光熱費・修繕費(収益的支出)・PMフィー・テナント募集費用・公租公課・損害保険料などが入ります。一方で減価償却費・支払利息・法人税等・資本的支出(CAPEX)は含めません

そして、その物件がいくらの利回りを生んでいるかを表すのがNOI利回りです。

NOI利回り(ネット利回り) = 年間NOI ÷ 取得価格(または不動産価格)
分母を取得価格にするか期末の鑑定評価額にするかで数値が変わるため、比較の際は分母の定義を必ず確認します。

NOIが「引かないもの」で構成されている理由は明快です。減価償却費は現金支出を伴わない会計上の費用であり、支払利息と法人税等はどう資金調達したか・誰が保有しているかという物件の外側の事情で決まります。つまりNOIは、資本構成や税務ポジションから切り離して、物件そのものの収益力だけを比較するための指標です。同じビルでも、全額自己資金で買う投資家と借入比率70%で買う投資家では税引後利益はまったく違いますが、NOIは同じになります。だからこそ、キャップレートを介した価格評価の分子として使えます。

ただし、NOIには「引いていないもの」が残っています。建物は年々確実に劣化し、いずれ空調更新や外壁改修といった資本的支出(CAPEX)が発生します。これを織り込むためにNOIから一歩進めた指標がNCF(Net Cash Flow/純収益)で、日本の鑑定評価実務ではこちらが価格算定の分子になります。

NCF = NOI + 一時金(敷金・保証金等)の運用益 - 資本的支出
不動産価格 = NCF ÷ 還元利回り(キャップレート)

本記事は、このNOINCFの中身を、収入・費用の項目レベル、1棟の仮設例、J-REITの開示、Excelでの実装、そしてDSCRとの接続まで一気通貫で解説します。不動産プロフォーマ全体の組み立て(NOI・キャップレート・DSCRの三点セット)については不動産のプロフォーマ入門を、指標の一覧的な確認には不動産投資指標の早見辞典を参照してください。分母側にあたるキャップレートそのものはキャップレートとは?で詳述します。

NOIの中身:何を入れて、何を入れないか

NOIの計算でつまずく人のほとんどは、式を知らないのではなく「この費用はどちら側か」の線引きで迷っています。まず収入側から整理します。

収入側(運営収益)の項目

起点は満室想定賃料収入です。これは現在の稼働状況ではなく、全区画が契約賃料(または市場賃料)で埋まっていると仮定した場合の年間賃料で、レントロール(賃貸借条件表)から区画別に積み上げます。ここから空室損失と貸倒損失を控除して有効総収入(EGI:Effective Gross Income)を求めます。空室率の想定は現在の稼働率・空室率そのままではなく、テナントの契約満了時期、エリアの市場空室率、テナント入替時のダウンタイム(原状回復から次の入居までの空室期間)を踏まえて設定します。満室稼働中の物件でも、一定の自然空室率を見込むのが保守的な実務です。

その他収入には、駐車場収入、看板・アンテナ基地局等の使用料、自動販売機収入、水道光熱費収入が入ります。水道光熱費は収入側と費用側の両方に計上する点に注意してください。テナントから預かって支払う構造なので、片側だけ計上するとNOIが歪みます。更新料・礼金・解約違約金は受領が不定期なので、年度によってNOIが跳ねないよう平準化して織り込むのが一般的です。

費用側(運営費用)の項目と、含めないもの

項目NOIに含める実務上の留意点
貸室賃料・共益費収入に計上レントロールから区画別に積み上げる
駐車場・看板・自販機収入収入に計上稼働に連動するか固定かを区別する
水道光熱費収入収入に計上対応する支払も必ず費用側に計上する
建物管理費(BM委託費)費用に計上清掃・設備管理・警備。ほぼ固定費
修繕費(収益的支出)費用に計上原状回復・小修繕。CAPEXとの区分が要
PMフィー・テナント募集費用費用に計上仲介手数料・ADは入替想定と連動させる
公租公課(固定資産税・都市計画税)費用に計上取得年度は売主との日割精算の扱いに注意
損害保険料・信託報酬等費用に計上信託受益権化されている物件では信託報酬も
減価償却費含めない非現金費用。控除すると「償却後NOI」になる
支払利息・融資関連費用含めない資本構成の話。NOIは調達方法に中立
法人税等含めない保有主体の税務ポジションに依存する
資本的支出(CAPEX)含めないNCFの段階で控除する
資産運用報酬(AMフィー)・一般管理費含めないファンド/保有主体レベルの費用
表1:NOIに含める項目・含めない項目(賃貸用不動産を前提とした市場慣行ベース)

実務で最も争いになるのが修繕費とCAPEXの区分です。原状回復工事や部分的な設備補修は収益的支出としてNOIの費用に入りますが、空調機の全面更新、外壁の大規模改修、エレベーターのリニューアルのように資産価値や使用可能期間を延長させる支出は資本的支出であり、NOIからは外してNCFの段階で控除します。この線引きは資本的支出と収益的支出の考え方そのもので、税務上の判断とも整合させる必要があります。デューデリジェンスエンジニアリングレポート(ER)を取得し、そこに示された今後12年程度の長期修繕費用の年平均額をCAPEX想定に使うのが、日本の取引実務では一般的な手順です。

表面利回り・NOI利回り・NCF利回りはどう違うのか

不動産の広告や仲介資料で目にする「利回り」は、多くの場合表面利回り(グロス利回り)です。

表面利回り = 年間の満室想定賃料収入 ÷ 取得価格
空室損失も運営費用も引いていないため、実際に手元に残る収益とは大きく乖離します。

表面利回りはスクリーニングには使えるが投資判断には使えない数値です。運営費用の水準は物件の用途・築年・規模・管理体制によって大きく変わり、有効総収入に対する運営費用の比率(OPEXレシオ)はオフィスや商業施設では30〜40%程度になることも珍しくありません。同じ表面利回り7%の2物件でも、OPEXレシオが25%か40%かでNOI利回りは1ポイント前後変わります。

一方、NOI利回りは運営費用を控除した後のネットの利回りであり、物件同士の収益力を横並びで比較できる指標です。さらにCAPEXまで織り込んだNCF利回りは、鑑定評価で用いられるキャップレートと同じ土俵の数値になります。ここで極めて重要なのは、分子と分母の定義を揃えることです。NOIベースの利回りとNCFベースの利回りは、同じ物件でも通常0.2〜0.5ポイント程度の差が出ます。取引の現場で「キャップ4%で」と言われたとき、それがNOIベースなのかNCFベースなのかを確認しないと、価格が数億円単位でずれます。

日本の不動産鑑定評価基準における「NOI」と「NCF」

日本では、収益不動産の価格を求める手法として収益還元法があり、これには一期間の純収益を還元利回りで割り戻す直接還元法と、複数期間のキャッシュフローと復帰価格を割り引くDCF法があります。いずれも分子は「純収益」ですが、この純収益の中身を、証券化対象不動産の評価では明確な項目建てで定義しています。

国土交通省の不動産鑑定評価基準(各論第3章=証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価)では、DCF法の適用にあたって収益・費用項目の統一的な取扱いが定められており、おおむね次の構造になっています。

運営収益 - 運営費用 = 運営純収益(NOI)
運営純収益 + 一時金の運用益 - 資本的支出 = 純収益(NCF)
DCF法・直接還元法で還元される「純収益」は、原則としてこのNCFを指します。

ここでいう一時金の運用益とは、テナントから預かっている敷金・保証金(預り金的性格を有する一時金)を運用したと仮定した場合の収益です。低金利環境では運用利回りの想定自体が低くなるため、金額としては極めて小さくなるのが通常で、NOIの1%にも満たないケースが多くなります。それでも項目として明示されるのは、預り金の水準がテナント構成や契約条件によって物件ごとに異なり、比較可能性を確保する必要があるからです。

注意すべきは、市場慣行のNOIと鑑定上の運営純収益は完全に同一とは限らない点です。J-REITが開示する物件別NOIは会計上の賃貸事業損益(賃貸事業収入-賃貸事業費用+減価償却費)から導かれる数値であり、鑑定評価上の運営純収益は将来の標準的な収益・費用を査定した数値です。前者は実績ベース、後者は査定ベースなので、同じ物件でも一致しないことがあります。資料を読むときは「誰が、どの定義で、いつの期間について算出した数値か」を必ず確認してください。

1棟のオフィスビルで、NOI・NCF・物件価格を通しで計算する

以下は説明用の仮設例です。実在の物件・取引を示すものではありません。都市部の中規模オフィスビル1棟(信託受益権稼働率95%想定)を想定し、単位は百万円/年で統一します。

項目金額(百万円)備考
① 満室想定賃料収入(貸室賃料+共益費)240.0レントロールから区画別に積み上げ
② その他収入(駐車場・看板・水道光熱費収入等)10.0水道光熱費は費用側にも同額系列を計上
③ 潜在総収入(①+②)250.0表面利回りの分子
④ 空室損失・貸倒損失(稼働率95%想定)△12.5③×5.0%
⑤ 有効総収入 EGI(③+④)237.5
⑥ 建物管理費(BM委託費)△24.0清掃・設備管理・警備
⑦ 水道光熱費△18.0共用部+テナント負担分の支払
⑧ 修繕費(収益的支出)△8.0原状回復・小修繕
⑨ プロパティマネジメントフィー△7.0EGI連動の料率契約が多い
⑩ テナント募集費用(仲介手数料・AD等)△3.0入替想定と連動
⑪ 公租公課(固定資産税・都市計画税)△25.0評価替えの影響を織り込む
⑫ 損害保険料△1.5地震保険の付保方針で変動
⑬ その他費用(信託報酬・環境対策費等)△2.0
⑭ 運営費用計(⑥〜⑬)△88.5OPEXレシオ = 88.5 ÷ 237.5 = 37.3%
⑮ NOI(⑤+⑭)149.0減価償却・利息・税金は控除していない
⑯ 一時金(敷金・保証金)の運用益+1.0預り金残高200.0×運用利回り0.5%想定
⑰ 資本的支出(CAPEX)△14.0ERの長期修繕費用の年平均額
⑱ NCF(⑮+⑯+⑰)136.0還元利回りを当てる分子
表2:NOI・NCFの算出(説明用の仮設例、単位:百万円/年)

ここで還元利回り(キャップレート)を4.0%と査定すると、直接還元法による価格は次のとおりです。

物件価格 = NCF 136.0百万円 ÷ 4.0% = 3,400.0百万円(34.0億円)
この34.0億円という価格が、以下すべての利回り計算の分母になります。

満室想定賃料 → NOI → NCF → 物件価格 単位:百万円/年(説明用の仮設例。還元利回り4.0%) 250.0 △12.5 237.5 △88.5 149.0 △13.0 136.0 満室想定 賃料等収入 △空室損失 ・貸倒損失 有効総収入 (EGI) △運営費用 (OPEX) NOI +運用益 △CAPEX NCF NCF 136.0 ÷ 還元利回り 4.0% = 物件価格 3,400.0 ※ 6本目は一時金運用益+1.0と資本的支出△14.0の差引(△13.0)。数値はすべて説明用の仮設例です。
図:満室想定賃料からNOI・NCFを経て物件価格に至る計算の流れ(単位:百万円/年)

この1棟から、4種類の利回りがすべて計算できます。減価償却費は年40.0百万円と仮定します。

利回りの種類分子分子の額利回り
表面利回り(グロス)満室想定の潜在総収入250.07.35%
NOI利回り(ネット)NOI149.04.38%
NCF利回り(還元利回り)NCF136.04.00%
償却後NOI利回りNOI - 減価償却費40.0109.03.21%
表3:同一物件・同一価格(3,400.0百万円)における4種類の利回り

同じ1棟のビルが、定義次第で7.35%にも3.21%にも見えるという事実がこの表の要点です。表面利回りとNCF利回りの差は3.35ポイント、比率にすると2倍近い開きがあります。物件資料や投資家との会話で「利回り」という言葉が出てきたら、必ず分子の定義を確認する習慣をつけてください。

J-REITの開示でNOIをどう読むか

日本でNOIの実データに最も体系的にアクセスできるのは、J-REITの開示資料です。各投資法人は決算短信・有価証券報告書・資産運用報告に加え、決算説明資料(プレゼンテーション資料)を公表しており、そこには物件別の情報が並びます。読み方のポイントは次のとおりです。

物件別NOIとNOI利回りの分母を確認する

物件別のNOI利回りは、多くの場合取得価格を分母として算出されます。取得価格は取得時点の金額なので、長く保有している物件では現在の期末算定価額(鑑定評価額)と乖離します。同じポートフォリオ内でも、10年前に取得した物件のNOI利回りが高く見えるのは、収益力が高いからではなく分母が古いからかもしれません。鑑定評価額を分母にした「含み損益考慮後」の利回りを併記している投資法人もあるため、どちらのベースかを確認します。

年換算の処理に注意する

期中に取得した物件は、その決算期の実績NOIが数か月分しかありません。これを単純に年換算すると、季節性のある費用(夏冬の水道光熱費、年1回の公租公課、定期点検費用)が正しく反映されず、NOIが過大または過小になります。「稼働日数ベースで年換算」と注記されていても、費用の期ずれまでは補正されないのが通常です。取得後1期目のNOI利回りは参考値として扱うのが安全です。

NOIと償却後NOIの両方を見る

J-REITの分配金の原資は、会計上の利益(減価償却費控除後)です。したがってNOIが高くても減価償却費が重い物件は、分配金への貢献度がその分小さくなります。多くの投資法人が償却後NOI利回りを併記しているのはこのためで、NOI利回り=キャッシュの利回り、償却後NOI利回り=会計利益の利回りと整理して両方を見ます。この構造は、減価償却費を利益に足し戻して評価するFFOの考え方に直結しています。

鑑定評価額の内訳から還元利回りを読む

有価証券報告書や資産運用報告には、物件ごとの鑑定評価額とその内訳として直接還元法の還元利回り、DCF法の割引率・最終還元利回りが記載されます。同一エリア・同一用途の物件でこれらの数値を並べると、市場が各物件のリスクをどう見ているかが読み取れます。取得時と売却時で異なるキャップレートを想定する考え方(ゴーイングイン/エグジットキャップレート)も、この開示から実感をもって理解できます。

ExcelプロフォーマでNOI行をどう組むか

NOIは概念としては単純ですが、Excel上で組むときは行の順序と符号規約を最初に決めておかないと、後から検算できないモデルになります。推奨する行構成は次のとおりです。

内容実装のポイント
1満室想定賃料収入レントロールシートから区画別に集計。契約賃料と市場賃料を別ドライバで持つ
2空室損失・貸倒損失稼働率で一括か、区画別の空室月数か。月次で持ち年次に集計する
3その他収入稼働連動か固定かを科目ごとに明示
4有効総収入(EGI)必ず数式。手入力の小計を作らない
5〜12運営費用(科目別)固定費と変動費を列で区分。PMフィーはEGI連動、公租公課は固定
13運営費用計費用は負値で入力しSUMで合算、と符号規約を統一する
14NOI直接入力は禁止。OPEXレシオのチェック行を隣に置く
15一時金の運用益預り敷金残高×運用利回り。敷金残高はテナント入退去に連動させる
16資本的支出(CAPEX)長期修繕計画シートから年次で参照。必ずNOI行より下に置く
17NCF価格算定・DCFの分子はこの行から参照する
18元利返済額(ADS)デットシートから参照。DSCR行をすぐ下に置く
表4:不動産プロフォーマにおけるNOI周辺の行構成

設計上の要点は3つです。第一に、CAPEX行は必ずNOI行より下に置くこと。上に置くと、誰かがSUM範囲を広げたときにCAPEXがNOIに混入します。第二に、減価償却費の行はNOIブロックに置かないこと。会計上のP&Lを併記する場合は、NCFブロックの下に別セクションとして設けます。第三に、単位をシート冒頭に明記すること。千円と百万円が混在したモデルは必ず事故を起こします。加えて、OPEXレシオ・稼働率・㎡(坪)当たり賃料といったチェック行を置いておくと、入力ミスが桁レベルで即座に見つかります。

NOIの定義を理解したら、次はExcelで1棟を組む

レントロールから満室想定賃料を積み上げ、稼働率とCAPEXを動かしてNOI・NCF・DSCRが連動するモデルを作る工程は、定義の理解とは別のスキルです。不動産ファイナンスモデリング講座では、1棟のプロフォーマからレバレッジ後リターンまでを手を動かして構築します。

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NOIはどこでファイナンスにつながるか:DSCR・LTV・デットイールド

NOIとNCFは、価格算定だけでなく借入の与信判断の中心でもあります。先ほどの仮設例に借入を入れてみます。価格34.0億円に対してLTV50%、借入額17.0億円、金利1.2%、25年元金均等返済(年間元金返済68.0百万円)を想定します。

年間元利返済額(ADS) = 利息 1,700.0×1.2% = 20.4 + 元金 68.0 = 88.4百万円
DSCR(NCFベース) = 136.0 ÷ 88.4 = 1.54倍DSCR(NOIベース) = 149.0 ÷ 88.4 = 1.69倍

ここでも定義の差がそのまま結論の差になります。同じ物件・同じ借入条件でも、DSCRはNCFベースなら1.54倍、NOIベースなら1.69倍です。融資契約(ローン・アグリーメント)でDSCRの財務制限条項(コベナンツ)が1.20倍と定められているとき、分子がNOIかNCFかで抵触までの余裕が大きく変わります。契約書上の定義を確認することが実務の第一歩です。DSCRの水準感と考え方そのものは信用分析・融資審査の基礎で整理しています。

もう一つ、レンダーが重視するのがデットイールドです。

デットイールド = NOI ÷ 借入残高 = 149.0 ÷ 1,700.0 = 8.76%
金利水準にもキャップレート水準にも依存しないため、市況が変わっても比較可能な与信指標として使われます。

LTVは分母が価格=キャップレート次第で動くため、キャップレートが低下(=価格が上昇)している局面ではLTVが良く見えてしまいます。デットイールドはこの弱点を補い、物件のキャッシュ創出力だけで借入の重さを測る指標です。エクイティ側の分配については、優先出資者とスポンサーの間で成果をどう配分するかという別の論点があり、不動産の分配ウォーターフォールで扱っています。

NOIでよくある間違い

1. 減価償却費を控除してしまう

会計のP&Lから機械的に「営業利益」を持ってくると、減価償却費が引かれた数値になります。仮設例では減価償却費40.0百万円を引くとNOIが149.0→109.0百万円になり、同じキャップレート4.0%を当てた価格は27.25億円。本来の34.0億円に対して6.75億円(約20%)の過小評価です。「NOIは償却前」は最初に固定すべきルールです。

2. CAPEXと修繕費を混同する

大規模修繕費用をNOIの修繕費に入れてしまうとNOIが年によって激しくぶれ、逆に日常の原状回復費用をCAPEXに入れるとNOIが実力以上に良く見えます。どちらも物件間の比較可能性を壊すため、収益的支出と資本的支出の区分基準を決め、モデル全体で一貫適用します。

3. 表面利回りとNOI利回りを混同する

仮設例では表面利回り7.35%に対しNOI利回り4.38%でした。「利回り7%の物件」という表現を見たとき、それが表面ならネットは4%台という前提で読む必要があります。運営費用の水準が不明な物件では、まずOPEXレシオを推定してからでないと比較になりません。

4. NOIとNCFに同じキャップレートを当てる

仮設例で、NCF136.0ではなくNOI149.0に4.0%を当てると価格は37.25億円。本来の34.0億円に対して3.25億円(約9.6%)の過大評価になります。市場で観測されるキャップレートがどちらのベースかを確認せずに分子だけ差し替えるのは、最も損失の大きい誤りの一つです。

5. 満室想定のまま空室損失を引かない/年換算を誤る

レントロールの合計をそのまま収入にすると、退去予定やダウンタイムが無視されます。また期中取得物件の実績を単純に12か月換算すると、公租公課や季節性費用が正しく乗りません。

6. ファンドレベルの費用を物件NOIに混ぜる

AMフィー、投資法人の一般管理費、監査費用、投資口関連費用は物件の運営費用ではありません。これらを混ぜると、他の物件やマーケットデータとの比較ができなくなります。物件レベル・ファンドレベルの線引きは常に意識してください。

よくある質問(FAQ)

Q. NOIと事業会社のEBITDAは同じものですか。
A. 「減価償却前・支払利息前・税前」という発想は共通ですが、同一ではありません。EBITDAは企業全体の指標で本社費や販管費を含みます。一方NOIは物件単位の指標で、AMフィーや保有主体の一般管理費は含みません。また不動産では、EBITDAには通常含まれない資本的支出を、NCFの段階で明示的に控除する点も異なります。

Q. NOI利回りは何%あればよいのでしょうか。
A. 適正水準は用途・立地・築年・時期によって大きく異なり、単一の目安はありません。一般に都心のプライムオフィスや大規模物流施設は低く、地方物件や築古物件、ホテル等のオペレーショナルアセットは高くなります。日本の期待利回りの定点観測としては、日本不動産研究所の「不動産投資家調査」が実務でよく参照されます。数値そのものは調査時点で変動するため、必ず最新版を直接確認してください。

Q. 価格を出すときはNOIとNCFのどちらを使うべきですか。
A. 日本の鑑定評価実務ではNCFを用います。ただし、市場で取引指標として語られるキャップレートがNOIベースであることもあるため、分子と分母のベースを揃えることが絶対条件です。NOIベースのキャップレートしか手元にない場合は、NOI÷そのキャップレートで価格を求め、NCFベースに換算する場合は分子と分母の両方を調整します。

Q. 空室損失は何%見込むべきですか。
A. 現在の稼働率をそのまま使うのではなく、テナントの契約満了時期、賃貸借契約の解約条項、エリアの市場空室率、入替時のダウンタイムを踏まえて設定します。満室稼働の物件でも、将来の入替を見込んで一定の自然空室率を織り込むのが保守的です。単一テナントビルの場合は、稼働率の想定ではなく退去シナリオとして個別に検討するほうが実態に合います。

Q. 減価償却前のNOIで返済を評価してよいのですか。
A. NOIは実際に建物が劣化していく事実を反映していないため、返済能力の評価にNOIだけを使うと楽観的になります。だからこそCAPEXを控除したNCFを作り、DSCRの分子に使う実務が定着しています。融資契約上どちらを分子とするかは契約ごとに定義されるため、条項の確認が必要です。

まとめ

NOIは「賃料等収入-運営費用」で求める物件レベルの収益指標であり、減価償却費・支払利息・法人税等・資本的支出を含まないことで、資本構成や税務ポジションから独立した比較を可能にします。ここにCAPEXと一時金の運用益を織り込んだNCFが、日本の鑑定評価実務における還元の分子です。同じ1棟でも、表面利回り7.35%・NOI利回り4.38%・NCF利回り4.00%・償却後NOI利回り3.21%と見え方が変わるため、分子と分母の定義確認が実務の出発点になります。J-REITの開示を読むときは、NOI利回りの分母(取得価格か鑑定評価額か)、年換算の処理、償却後利回りの併記の3点を押さえてください。そして最終的にNOIとNCFは、キャップレートを介した価格算定と、DSCR・LTV・デットイールドという与信判断の両方に接続します。

1棟のプロフォーマを、自分の手で組めるようにする

NOI・NCFの定義が分かっても、レントロールの正規化、稼働率とCAPEXの感応度、借入とDSCRの連動までをExcel上で一体化するには型が必要です。不動産ファイナンスモデリング講座では、取得から売却までのモデルを段階的に構築します。

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出典・参考(2026年8月21日確認)

  • 国土交通省「不動産鑑定評価基準」(総論第7章 収益還元法、各論第3章 証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価)——運営収益・運営費用・運営純収益・一時金の運用益・資本的支出・純収益の項目建て
  • 国土交通省「証券化対象不動産の継続評価に関する実務指針」等、鑑定評価に関する各種通知・実務指針
  • 公益社団法人 日本不動産鑑定士協会連合会 公表の実務指針・研究報告
  • 一般社団法人 不動産証券化協会(ARES)公表の不動産投資インデックス・実務解説資料
  • 一般財団法人 日本不動産研究所「不動産投資家調査」——用途別・エリア別の期待利回りの定点調査
  • 各J-REIT投資法人の有価証券報告書・資産運用報告・決算短信・決算説明資料(物件別NOI、NOI利回り、償却後NOI利回り、鑑定評価額の還元利回り・割引率の開示)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。