この記事で分かること
- ゴーイングインキャップレートとエグジット(ターミナル)キャップレートの違い
- 両者の差(キャップレートの圧縮・拡大)がIRRを左右する仕組み
- 整数設例で見る、保守的なExit想定の作り方
- 財務モデルでの実装と、投資委員会(IC)で確認されるポイント
30秒で分かる定義
ゴーイングインキャップレート(Going-in Cap Rate)とは取得時点のNOIを取得価格で割った値のことで、エグジット(ターミナル)キャップレート(Exit / Terminal Cap Rate)とは保有期間終了時点の想定NOIを売却想定価格で割った値のことです。いずれも計算式自体はキャップレートと同じですが、「いつの時点のNOIと価格を使うか」が異なります。単に「キャップレート」とだけ呼ぶと取得時か売却時かで混乱するため、実務では必ず使い分けます。
なぜ実務で重要なのか
不動産PE・REPEにとって、Exitキャップレートの想定はIRRを決定づける最大の変数の一つです。将来のキャップレートを予測することは事実上不可能なため、実務では保守的な仮定(Exitキャップレートをゴーイングインより高めに設定する)を置くのが標準的な作法です。投資委員会(IC)では、この前提がゴーイングインと同水準以下になっていないか必ずチェックされます。
仕組み(キ ャップレートの圧縮・拡大がIRRに効く理由)
保有期間中にNOIが成長しても、Exitキャップレートがゴーイングインより高くなる(キャップレートの拡大)と、売却価格の伸びはNOIの伸びより小さくなります。逆にExitキャップレートが低くなる(キャップレートの圧縮)と、売却価格はNOIの伸び以上に押し上げられます。保有期間中に金利が上昇すれば拡大方向に動くため、投資評価では圧縮を前提にしないのが規律です。
整数設例で確認する
設例(架空数値・単位:百万円)。オフィスビルを5年間保有します。
- 取得価格:10,000/取得時NOI:500 → ゴーイングイン=500÷10,000=5.0%
- 5年後(売却年)の想定NOI:600
シナリオA(横ばい):Exitキャップレート5.0%(ゴーイングインと同水準)とすると、売却価格=600÷5.0%=12,000。
シナリオB(拡大・保守的想定):Exitキャップレートを0.5ポイント高い5.5%に設定すると、売却価格=600÷5.5%=10,909(円未満四捨五入)。
検算:シナリオAとBの売却価格差=12,000−10,909=1,091。NOIは同じ600なのに、Exitキャップレートを0.5ポイント保守的に見るだけで売却価格の想定は約9%(1,091÷12,000)低くなります。NOI成長の見誤りより、Exitキャップレートの見誤りの方が売却価格への影響が大きいことも珍しくありません。実務でExitキャップレートを高めに置く(0.25〜0.50ポイント程度の上乗せが多い)のは、この非対称性への保守化です。
投資判断への影響
Exitキャップレートの前提がIRRに与える感応度は非常に大きいため、投資委員会向けのIC資料では、複数シナリオ(ゴーイングインと同水準・0.25ポイント拡大・0.50ポイント拡大等)でIRR・MOICを試算するのが標準です。ゴーイングインキャップレートが低い(=取得価格が割高な)案件は、Exitキャップレートがわずかに拡大するだけでリターンが大きく毀損するため、取得規律としても重要な指標です。
財務モデル・Excelでの使い方
- ゴーイングインとExitを別セルで管理する:Exitキャップレートを「ゴーイングイン+スプレッド」の形で入力すると感応度分析がしやすくなります。
- 売却価格の算定行を独立させる:
=Exit年のNOI÷Exitキャップレートで売却総額を計算し、売却費用控除後の純売却収入をエクイティのキャッシュフローに接続します。 - 2変数の感応度表を作る:横軸にExitキャップレート、縦軸に保有年数を取り、IRR・MOICを出力する表は投資委員会資料の定番です。
この用語をExcelで
Exitキャップレートをスプレッドで管理し、保有年数×キャップレートの2変数感応度表でIRRを試算できるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解「Exitキャップレートはゴーイングインと同じにしておけば無難」→ それ自体が強気な前提になり得ます。保有期間が長期化するほど金利サイクルが一巡する可能性が高まり、キャップレートが横ばいのままである保証はありません。
確認ポイント:NOI成長率とキャップレート前提の整合性。強気なNOI成長率と強気な(低い)Exitキャップレートを同時に採用すると、リターンが二重に水増しされます。
日本実務での扱い
日本の不動産投資実務でも、取得時と売却想定時のキャップレートを区別する考え方は定着しており、J-REITの物件取得時の適時開示資料では取得時キャップレート(ゴーイングイン相当)が記載されます(2026年7月時点)。私募ファンド・REPEの投資委員会資料でも、Exit前提をゴーイングインより保守的に置くのが一般的な実務慣行です。一般財団法人日本不動産研究所が公表する不動産投資家調査は、この前提を検討する際の参考情報として実務で参照されます。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:Exitキャップレートをゴーイングインより高く設定するのはなぜですか。
「将来のキャップレートを正確に予測することはできないため、保有期間中に市況が悪化する可能性を織り込んだ保守的な前提を置くのが実務の規律です。NOIが成長していても、Exitキャップレートが拡大すれば売却価格の伸びはNOIの伸びを下回ります。逆にゴーイングインと同水準やそれより低い前提は、市況の追い風に依存したリターンとして投資委員会では警戒されます。実務ではゴーイングインに一定のベーシスポイントを上乗せしてExitキャップレートを設定し、複数シナリオでIRRの感応度を確認します。」(30秒回答例)
深掘りでは「取得価格が割高な案件はなぜExit拡大の影響を受けやすいか」が問われます。分母が小さいほど同じベーシスポイントの変化が相対的に大きな価格変動を生む点を説明できると良い回答です。
よくある質問(F AQ)
Q. キャップレートの「圧縮」「拡大」とはどういう意味ですか?
A. 圧縮(compression)はキャップレートが低下すること、拡大(expansion)は上昇することを指します。キャップレートは還元利回りであるため、圧縮は価格上昇、拡大は価格下落に対応します。
Q. インカムゲインとキャピタルゲインのどちらを重視すべきですか?
A. コア型投資はインカム重視でExit前提への依存度が低く、バリューアッド・オポチュニスティック型はNOI成長とExit時の売却益への依存度が高いため、Exit前提がリターンに大きく影響します。
出典・参考(2 026-07-21確認)
- 一般財団法人日本不動産研究所「不動産投資家調査」 https://www.reinet.or.jp/
- 国土交通省「不動産鑑定評価基準」 https://www.mlit.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。