この記事で分かること

  • Excelのデータテーブル機能で「WACC×成長率」の2軸感応度表を作る全手順(正解値つき)
  • 初回で必ずつまずく3つの罠——コーナーセル・部分削除禁止・行と列の取り違え
  • 1変数テーブルへの応用と、提出資料に載せるときの書式の整え方

STEP 0:なぜ感応度テーブルなのか

DCFの結論は前提しだいで動きます。だから実務の資料では「答えは1,667です」ではなく「WACCと成長率がこの範囲なら、答えはこの範囲です」と面で示します(考え方は感応度分析の章)。その面を数秒で作るのがデータテーブル機能です。本章では最小のモデルで、手が覚えるまでの全手順を踏みます。

1ミニモデルを作る(3分)

目的:感応度の対象になる「出力1セル」を持つ最小モデルを用意します。永久成長モデル1本です。

操作:新規シートに次を入力します。C4に 100(来期FCF)、C5に 8%(WACC)、C6に 2%(永久成長率)——3つとも青字。C8に =C4/(C5-C6) と入力。
X① ミニモデル(永久成長法のEV)
BC
4来期FCF100
5WACC8%
6永久成長率 g2%
8EV(事業価値)=C4/(C5-C6)
図1:C8の正解値は1,667(100÷6%)。この1セルを、これから面に展開します。式の意味はターミナルバリューで解説しています。

2テーブルの骨組みを作る(5分)

目的:データテーブルは「左上角=出力への参照、上端の行=振る入力①、左端の列=振る入力②」という決まった形をしています。この骨組みを手で作ります。

操作:E4に =C8(出力への参照)。F4・G4・H4に 1%・2%・3%(gの振り幅)。E5・E6・E7に 7%・8%・9%(WACCの振り幅)。振り幅の数字は青字にします。
X② 骨組み——左上角がすべての起点
EFGH
4=C81%2%3%
57%
68%
79%
図2:罠①:左上角(E4)は飾りではありません。「この表はC8を計算せよ」という指定そのものです。ここを空白や手打ちの数字にすると、テーブル全体が意味のない値になります。見た目が気になる場合は、あとで文字色を白にして隠すのが実務の作法です。

3データテーブルを実行する(3分)

操作:E4:H7を範囲選択 →「データ」タブ →「What-If分析」→「データテーブル」。ダイアログで——行の代入セル:C6(上端の行に並べたのはgだから)、列の代入セル:C5(左端の列に並べたのはWACCだから)→ OK。
X③ 実行結果(単位:百万円・設例)
EF (g=1%)G (g=2%)H (g=3%)
41,6671%2%3%
5WACC 7%1,6672,0002,500
6WACC 8%1,4291,6672,000
7WACC 9%1,2501,4291,667
図3:正解値。中央(8%×2%)が1,667=元のモデルと一致していれば成功です。対角線上に同じ値(1,667)が並ぶのは、この式では「WACC−g」の差だけで値が決まるから——読み方まで含めて確認できる検算ポイントです。

罠②:行と列の取り違え。「行の代入セル」は上端の行に並べた値を流し込む先です。逆にすると、もっともらしい嘘の表が完成します。中央セルが元の答えと一致するか、必ず1点検算してください。罠③:テーブルの一部だけ消せない。結果範囲は配列として一体なので、部分削除はエラーになります。消すときは結果範囲全体(F5:H7)を選択して削除します。

41変数テーブルと仕上げ(5分)

  • 1変数版:WACCだけ振る場合は、縦1列に振り幅(E5:E7)→右隣の上端(F4)に=C8 →範囲E4? ではなくF4を含む2列を選択し、「列の代入セル」だけにC5を指定します(行側は空欄)。
  • 書式:中央の行・列に薄い塗り(現状ケースの位置)、桁区切り、左上角の参照セルは白文字化。数字の洪水を「読める面」に変えるひと手間です。
  • 再計算:大きなモデルではデータテーブルが再計算を重くします。計算オプションが「データテーブル以外自動」になっている環境ではF9で更新——提出直前の値の固まり直しを忘れずに(モデルQCチェックリスト#8)。
  • ゴールシークとシナリオ機能との使い分けはWhat-If分析の章で扱います。

Q. テーブルが全部同じ値になってしまいました。

A. 典型原因は2つ。①左上角が=C8になっていない(出力への参照忘れ)、②代入セルの指定が振り幅と対応していない。図2の形に戻って、角→行→列の順に確認してください。

Q. 感応度の振り幅はどう決めるのですか?

A. 「ありそうな範囲を中心に、両側へ対称に」が原則です。WACCなら±0.5〜1.0%刻み、成長率なら±0.25〜0.5%刻みが実務でよく見られる傾向ですが、案件の不確実性に合わせて調整します。範囲が広すぎる表は「何も主張していない」のと同じです。

まとめ

  • データテーブルの形は固定:左上角=出力参照、上端行=入力①、左端列=入力②。
  • 罠は3つ:角の参照忘れ・行列の取り違え・部分削除不可。中央セルの1点検算を習慣に。
  • 正解値:8%×2%で1,667、7%×3%で2,500、9%×1%で1,250。対角線の同値も検算に使える。

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本記事について

本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。