この記事のゴール

  • 空のブックから、Cash Sweep・2トランシェ・安全性分析つきのLBOモデルを完成させ、MOIC 2.02x・IRR 15.1%(設例)を自力で導く
  • 「借金で買って、稼ぎで返して、売って回収する」の全工程を、S&U→買収直後BS→5年運転→Exit→リターン分解の順で数字にする
  • 全15 STEP。所要3〜4時間。仕組みの前提知識はLBOとは理論版6ステップ、40分の速習はクイック版

はじめに:PEファンドの「計算機」を自作する

LBO(レバレッジド・バイアウト)は「借金で会社を買い、その会社の稼ぎで借金を返し、売却時の差額を取る」投資手法です。PEファンドの投資判断は最終的にこのモデルの上で行われ、PE転職のモデルテストで問われるのも、まさに今日作るものです(モデルテスト対策)。

本記事はシリーズ「財務モデリング完全ロードマップ」の第2部。DCF編で作ったハルカワ工業のオペレーティングモデルを、そのまま買収の器に載せ替えます。DCFで「1株213.3円の価値がある」と評価した会社を、PEファンドは190円で買いに行く——という続き物です。

図1:LBOモデルの一本線(本記事の15 STEP) 入口価格と借金の設計 S&U資金の出所と使途 買収直後BSのれん・新資本構成 5年運転IS/CF/返済/Sweep 出口Exit EV−残債 リターンIRR・MOIC・分解 オペレーティングモデル(DCF編)が土台。違いは「資本構成が主役になる」こと

第1部 リターンの源泉を先に頭に入れる(STEP 1-2)

手を動かす前に、このモデルの答えがどこから来るかを知っておくと、以降の全STEPの意味が変わります。LBOのリターンは3つに分解できます——①デット返済(借金が減った分だけ株主の取り分が増える)、②EBITDA成長(会社の稼ぐ力が伸びる)、③マルチプル変化(買った倍率より高く売れる)。

図2:リターンの3源泉(本設例・単位:百万円) 入口の純資産分5,700 ①デット返済+3,585 ②EBITDA成長+3,118 ③倍率変化 0 Exitエクイティ12,402 保守設計の要:③に頼らない(Exit倍率=Entry倍率で組む)。棒の高さは簡略。

本設例では③をゼロに固定します(Exit倍率=Entry倍率)。「高く売れる前提」でしか成立しない案件は、モデル上は美しくても投資委員会を通らない——この規律を最初に置くと、感応度分析(第4部)の意味もクリアになります。

第2部 入口:取引を設計する(STEP 3-7)

3Entry Valuation——いくらで買うか

目的:買収価格を「株価×プレミアム→株式対価→EV→倍率」の順に固定します。DCF編と同じ会社なので、DCF理論値213.3円に対してオファー190円——内在価値より安く入る、というPEらしい入口です。

やること:Assumptionsシート2〜9行目に下表を作成。C4に=C2*(1+C3)、C7に=C5+C6、C9に=C7/C8の3本だけが式です。
XLBO_Model.xlsx – Excel(Assumptionsシート 2〜9行目)
BCD
2現在株価160円市場は割安に放置
3買付プレミアム18.8%PE案件の相場観で設定
4オファー価格=C2*(1+C3)190円
5株式取得対価(×60百万株)11,400
6(+)ネットデット引受3,000有利子負債3,600−現金600
7買収EV=C5+C614,400
8EBITDA(FY0実績)1,800
9EV/EBITDA(エントリー倍率)=C7/C88.0x
図3:Entry Valuationは「株価×プレミアム→株式対価→EV→倍率」の順で組む。倍率は結果として確認する(倍率から逆算する場合はオファー価格が結果になる)。単位:百万円。

つながり:買収EV 14,400が、次の資本構成の「調達すべき総額」の出発点になります。ミス注意:EV(事業の値段)と株式対価(株主に払う額)の混同——ネットデット3,000の分だけ違います。チェック:エントリー倍率8.0xが表示されること。

4資本構成——2トランシェのデット設計

目的:買収資金のうち「いくらを借金で・どんな条件で」を決めます。返し方の違う2種類のローンを使うのが本記事の核心です(負債の種類はデットの分類)。

やること:Assumptionsシート11〜15行目。TLA=EBITDA 3.0x・金利2.5%・年8%約定返済/TLB=2.0x・金利5.5%・期限一括(Sweep対象)。
XLBO_Model.xlsx – Excel(Assumptionsシート 11〜15行目)
BCDEF
11トランシェ金額EBITDA倍率金利約定返済
12タームローンA(TLA)5,4003.0x2.5%年8%
13タームローンB(TLB)3,6002.0x5.5%期限一括
14負債合計9,0005.0x
15スポンサーエクイティ(逆算)6,132S&Uで確定
図4:日本のミドルキャップLBOを想定した2トランシェ構成。TLAは毎年返す約定返済つき、TLBは満期一括+Cash Sweepの対象。合計5.0xのレバレッジから出発する。

式の考え方:「EBITDAの何倍まで借りられるか」がレバレッジド・ファイナンスの共通言語です。合計5.0xは日本のミドルキャップ案件として攻めた水準——だからこそ後の安全性分析(STEP12)が効いてきます。つながり:エクイティはまだ決めません。S&Uの残差で決まります。チェック:デット合計5,400+3,600=9,000。

5手数料——3種類を区別する

目的:買収には取引コストがかかります。費用処理するもの(アドバイザリー)と、資産計上して償却するもの(Debt Financing Fee・OID)を最初から分けておくと、ISとCFが正しく組めます。

やること:Assumptionsシート17〜20行目。アドバイザリー等=EV×1.5%、Financing Fee=負債×2.0%(5年償却)、OID=TLB×1.0%。
XLBO_Model.xlsx – Excel(Assumptionsシート 17〜20行目)
BCD
17アドバイザリー・DD等(EV×1.5%)216.0費用の性質:取引費用
18Debt Financing Fee(負債×2.0%)180.0資産計上→5年で償却
19OID(TLB×1.0%)36.0発行時ディスカウント
20手数料等合計432.0Usesに計上
図5:手数料は3種類を区別する。Debt Financing FeeとOIDは一括費用ではなく期間償却(非資金費用としてCFで足し戻す)。単位:百万円。

つながり:3つの合計432はS&UのUsesに入り、償却分は毎年のISに現れます。ミス注意:Financing Feeを初年度に全額費用化(正しくは期間償却)。チェック:償却額=(180+36)÷5=43.2/年。

6Sources & Uses——資金の出所と使い途

目的:取引の全資金を1枚に集約します。Usesを固めてから、Sourcesの残差でエクイティが決まる——LBOで最も美しい逆算です。

やること:S&Uシートに下表を作成。Uses=株式対価+ネットデット借換+手数料+最低運転現金300。Sources=TLA+TLB+エクイティ(逆算)。
XLBO_Model.xlsx – Excel(S&Uシート)
BCDE
2Sources(調達)金額Uses(使途)金額
3タームローンA5,400株式取得対価11,400
4タームローンB3,600ネットデット借換3,000
5スポンサーエクイティ6,132手数料等432.0
6最低運転現金の積み増し300
7合計15,132合計15,132.0
図6:S&Uは「左右の合計が1円単位で一致する」ことが完成条件。エクイティは Uses合計−負債調達 の逆算で埋める。単位:百万円。

式の考え方:エクイティのセルは=Uses合計−TLA−TLB。将来「TLBを0.5x増やしたら?」と聞かれても、エクイティが自動で減ってモデル全体が追随します。つながり:このS&Uが次の買収直後BSの材料一覧になります。ミス注意:最低現金の積み忘れ(買収直後の会社に運転資金ゼロは危険)。チェック:左右一致6,132+9,000=Uses合計。1円でもズレたら先に進まないこと。

7のれんと買収直後BS——旧資本構成を入れ替える

目的:買収が完了した瞬間のBSを作ります。旧株主の純資産と旧借入を消し、新しいデットとスポンサーエクイティを載せ、差額をのれんとして認識します(会計の背景はのれんとPPA)。

やること:Opening BSシートに「買収前→調整→買収直後」の3列で作成。のれん=株式取得対価11,400−純資産簿価6,000=5,400(本設例は簡略化のためステップアップなし。M&A編でフルPPAを扱います)。
XLBO_Model.xlsx – Excel(Opening BSシート)
BCDE
2科目買収前調整買収直後
3現金及び預金600▲600+300300
4運転資本・その他資産3,800.03,800.0
5固定資産5,2005,200
6のれん0+5,4005,400
7繰延資金調達費用(Fee+OID)0+216216
8旧借入金3,600▲3,6000
9新TLA/TLB0+9,0009,000
10純資産6,000入替5,916
図7:買収直後BSは「旧資本構成を消して、新しい資本構成に入れ替える」作業。のれん=株式取得対価−対象純資産簿価(簡略化のためステップアップなし)。買収直後の純資産はスポンサー投資額からアドバイザリー費(初日費用処理)を引いた額になり、この表は左右がバランスする。単位:百万円。

つながり:この買収直後BSが、5年間の3表連動のFY0になります。ミス注意:Financing Fee+OIDの資産計上漏れ/旧借入の消し忘れ。チェック:買収直後BSの貸借一致。純資産が「投資額−初日費用化のアドバイザリー費」になっている理由を人に説明できればこのSTEPは合格です。

第3部 5年間のエンジン:稼いで返す(STEP 8-11)

入口が固まったら、保有期間5年の運転です。オペレーティングモデル(DCF編 STEP3-10)と同じエンジンに、LBO専用の改造を3つ加えます——①利息をトランシェ別に、②CFの結論を「返済原資」に、③返済にCash Sweepを実装。

8LBO用IS——利息をトランシェ別の行に分ける

目的:ISの金利部分を組み替えます。TLAとTLBで金利も残高の動きも違うため、支払利息は1行にまとめず、トランシェごとに分けてDebt Scheduleから引きます。

やること:Modelシート4〜11行目。EBITDA・減価償却はDCF編と同じ(緑リンク)。支払利息TLA=期首残高×2.5%、TLB=期首残高×5.5%、資金調達費用償却43.2を追加。税率30%。
XLBO_Model.xlsx – Excel(Modelシート 4〜11行目)
BCDEFG
4EBITDA1,890.01,975.02,054.12,125.92,189.7
5(−)減価償却費▲504.0▲526.7▲547.7▲566.9▲583.9
6EBIT1,386.01,448.41,506.31,559.01,605.8
7(−)支払利息TLA=-C27*2.5%▲119.8▲103.2▲85.3▲66.0
8(−)支払利息TLB▲198.0▲198.0▲198.0▲198.0▲198.0
9(−)資金調達費用償却▲43.2▲43.2▲43.2▲43.2▲43.2
10税引前利益1,009.81,087.41,161.91,232.61,298.6
11当期純利益(×70%)706.9761.2813.3862.8909.0
図8:LBOのISは支払利息をトランシェ別の行に分けるのが最大の違い。利息は期首残高×金利(緑枠)。資金調達費用の償却も忘れずに。単位:百万円、列はFY1〜FY5。

つながり:純利益はCFの出発点へ。ミス注意:利息を「期末残高」基準にすると、Sweepと循環して不安定になります——期首基準で作り、循環参照スイッチ(解説)を必ず仕込む。チェック:FY1の当期純利益683.7。

9返済前FCF——デットの返済原資

目的:「今年いくら返せるか」を計算します。DCFのUFCFと似ていますが、利息と税は払った後(=デット返済の直前まで来た現金)である点が違います。

やること:Modelシート13〜19行目。純利益+減価償却+Fee償却(非資金)−ΔNWC−設備投資=返済前FCF。
XLBO_Model.xlsx – Excel(Modelシート 13〜19行目)
BCDEFG
13当期純利益706.9761.2813.3862.8909.0
14(+)減価償却費504.0526.7547.7566.9583.9
15(+)資金調達費用償却43.243.243.243.243.2
16(−)運転資本の増減▲79.3▲75.0▲69.6▲63.4▲56.2
17(−)設備投資▲567.0▲592.5▲616.2▲637.8▲656.9
18返済前FCF607.7663.6718.4771.8823.0
19(参考)EBITDA起点でも同値607.7663.6718.4771.8823.0
図9:デットの返済原資になる「返済前FCF」。純利益起点でもEBITDA起点でも同じ値に着地することを確認すると、モデルの信頼度が一段上がる。単位:百万円。

式の考え方:教材によってはEBITDA起点(EBITDA−利息−税−ΔNWC−Capex)で書きます。どちらの起点でも同じ値に着地する——2起点で作って一致を確認すると、それ自体が強力な検算になります。つながり:このFCFが次のDebt Scheduleの燃料です。チェック:FY1=609.9。

10Debt Schedule——約定返済とCash Sweep

目的:LBOモデルの心臓部。各トランシェを期首→約定返済→Cash Sweep→期末のBASE型で回します(型の基礎はDebt Schedule、Sweepの理屈はCash Sweep)。

やること:Debtシート3〜12行目。TLA約定返済==-MIN(432, 期首残高)。Sweep==-MAX(0, MIN(余剰現金, 約定後残高))——余剰現金=期首現金+FCF−約定返済−最低現金300。TLAが完済するまでTLBは温存。
XLBO_Model.xlsx – Excel(Debtシート 3〜12行目)
BCDEFG
3【TLA】期首残高5,400.04,792.34,128.73,410.32,638.5
4(−)約定返済(8%)=-MIN(432,C3)▲432.0▲432.0▲432.0▲432.0
5(−)Cash Sweep▲175.7▲231.6▲286.4▲339.8▲391.0
6期末残高=SUM(C3:C5)4,128.73,410.32,638.51,815.4
7【TLB】期首残高3,600.03,600.03,600.03,600.03,600.0
8(−)返済0.00.00.00.00.0
9期末残高3,600.03,600.03,600.03,600.03,600.0
10支払利息TLA(期首×2.5%)135.0119.8103.285.366.0
11支払利息TLB(期首×5.5%)198.0198.0198.0198.0198.0
12グロス負債(期末)8,392.37,728.77,010.36,238.55,415.4
図10:Debt Scheduleの心臓部。期首→約定返済→Cash Sweep→期末のBASE型。TLAの期末残高がFY5に1,815まで落ちる一方、TLBは満期一括のため動かない。単位:百万円。
図11:Cash Sweepの水路図(FY1・単位:百万円) 期首現金 300+FCF 609.9 ① 約定返済 ▲432 ② 最低現金 300を確保 ③ 余剰 177.9 → 全額Sweep TLA繰上返済(期末残高 4,790.1) 現金は毎期末ちょうど300で着地

式の考え方:Sweepは「使い道のない現金は1円残らず繰上返済に回す」という契約の写像です。MAXとMINの入れ子は、(あ)余剰がマイナスなら返さない、(い)残高より多くは返さない、の2つの安全装置。つながり:期末残高が翌年の期首利息を決める——ここが循環の入口なので、DCF編と同じスイッチを必ず通します。ミス注意:最低現金の確保を忘れ、現金がマイナスの年が生まれること。チェック:毎期末の現金がちょうど300で並ぶこと(Sweepが正しく動いている証拠)。

11安全性分析——銀行の目で自分のモデルを見る

目的:レバレッジ(ネットデット/EBITDA)とカバレッジ(EBITDA/支払利息)の推移を並べ、この借金は無事に返るのかを確認します。コベナンツ(財務制限条項)の実務はコベナンツとはへ。

やること:Creditシートに2指標×5年を計算。目安ライン(レバレッジ6.0x以下・カバレッジ3.0x以上)を並記。
XLBO_Model.xlsx – Excel(Creditシート)
BCDEFG
2ネットデット/EBITDA4.28x3.76x3.27x2.79x2.34x
3EBITDA/支払利息(カバレッジ)5.7x6.2x6.8x7.5x8.3x
4コベナンツ目安:レバレッジ6.0x以下
5同:カバレッジ3.0x以上
図12:銀行はこの2指標を毎期監視する(コベナンツ)。当初4.28x→FY5に2.34xまで低下し、カバレッジは5.7x→8.3xへ改善。初年度に違反しない設計かを必ず確認する。

つながり:初年度4.28x→FY5 2.34xへの低下カーブが「LBOは時間とともに安全になる」構造そのもの。ミス注意:リターンばかり見て安全性を出さないモデルは、実務では未完成扱いです。チェック:全期間で目安ラインの内側にいること。

第4部 出口とリターン(STEP 12-15)

12Exit——5年後に売る

目的:保有5年でのExit価値を計算します。Exit EV=FY5 EBITDA×Exit倍率、Exitエクイティ=Exit EV−Exit時ネットデット

やること:Returnsシート2〜7行目。Exit倍率は保守的にエントリーと同じ8.0x(青字——ここを動かして遊ぶ)。
XLBO_Model.xlsx – Excel(Returnsシート 2〜7行目)
BCD
2Exit年EBITDA(FY5)2,189.7
3Exit倍率(保守的にエントリーと同じ)8.0x
4Exit EV=C2*C317,517.8
5(−)Exit時ネットデット▲5,115.4グロス5,415.4−現金300.0
6Exit時エクイティ価値=C4+C512,402.3
7(参考)投資時エクイティ6,132
図13:Exitはマルチプル据え置き(8.0x)が規律。「高く売れる前提」に頼らなくてもリターンが出るかを見る。単位:百万円。

つながり:Exitエクイティ12,402.3と投資額6,132の比較が次のSTEP。ミス注意:Exit時ネットデットに現金300の控除を忘れる。チェック:Exit EV 17,517.8−ネットデット5,115.4=12,402.3。

13IRRとMOIC——2つの物差しで測る

目的:リターンを倍率(MOIC)と年率(IRR)の両方で出します。MOICは「何倍になったか」、IRRは「年に何%で回ったか」——期間の長短で印象が変わるため、必ずセットで見ます(罠はIRRの落とし穴)。

やること:Returnsシート9〜12行目。MOIC=Exitエクイティ÷投資額。IRR=(MOIC)^(1/5)−1。CF列(▲6,132, 0,0,0,0, +12,402.3)に=IRR()を当てて検算。
XLBO_Model.xlsx – Excel(Returnsシート 9〜12行目)
BCD
9MOIC=回収額÷投資額=C6/C72.02x
10IRR(5年・中間CFなし)=(C6/C7)^(1/5)-115.1%
11(検算)=IRR(範囲)=IRR(B12:G12)15.1%
12CF列:▲6,132, 0, 0, 0, 0, +12,402
図14:中間配当のない単純ケースではIRR=(MOIC)^(1/5)−1で手計算でき、IRR関数の検算になる。MOIC 2.02x・IRR 15.1%。

つながり:中間配当(Dividend Recap)を入れると2つの式は一致しなくなる——その時こそIRR関数の出番です。チェック:手計算IRRと=IRR()が一致(15.1%)。

14リターン源泉分解——「なぜ儲かったか」を言語化する

目的:図2で予告した3源泉に、実際の数字を割り付けます。投資委員会・面接で「このリターンのドライバーは?」に即答するための表です。

XLBO_Model.xlsx – Excel(Returnsシート 14〜19行目)
BCD
14スタート:エントリー時エクイティ(EV−ND)5,700
15(+)EBITDA成長(ΔEBITDA×8.0x)+3,117.8価値の伸び
16(+)マルチプル変化0.0据え置きのため
17(+)デット返済(ネットデット減少)+3,584.6借金が株主価値に置換
18=Exit時エクイティ12,402.3
19(参考)投資額側:手数料等+最低現金+732MOICの分母を増やす
図15:リターンの分解。本設例の利益6,270.3のうち、EBITDA成長が3,117.8、デット返済が3,584.6。マルチプル拡大に頼らない構成が健全なLBO。単位:百万円。

式の考え方:Exitエクイティ=入口の純資産分+ΔEBITDA×倍率+倍率変化分+ネットデット減少分、という恒等式で分解します。本設例は②EBITDA成長3,117.8と①デット返済3,584.6がほぼ拮抗——倍率拡大ゼロでもMOIC 2.02x。健全な絵です。チェック:分解の合計がExitエクイティと一致すること。

15感応度分析——価格規律を数字にする

目的:Entry×Exit倍率のマトリクスでIRRの散らばりを見ます。データテーブルの作り方そのままです。

表1:IRR感応度(縦:エントリー倍率、横:Exit倍率)|対角より左上が「安く買って高く売る」ゾーン
Entry\Exit7.0x7.5x8.0x8.5x9.0x
7.0x18.9%21.3%23.6%25.7%27.7%
7.5x14.4%16.7%18.9%20.9%22.8%
8.0x10.7%13.0%15.1%17.1%18.9%
8.5x7.7%9.9%12.0%13.9%15.7%
9.0x5.1%7.3%9.3%11.1%12.9%

対角線(Entry=Exit)上でもIRR 2桁が確保できるか、が案件の地力。左下(高く買って安く売る)でどこまで耐えるかがダウンサイドの会話になります。

ペーパーLBOで検算する——面接の暗算と同じ手順

完成したモデルは、紙と電卓の概算(ペーパーLBO)で検算できます。桁が合わなければどこかが壊れています。

表2:本モデルの「ペーパーLBO」検算(面接の暗算手順と同じ)
手順計算
1. 投資額EV 14,400+費用432+最低現金300−負債9,0006,132
2. Exit EVEBITDA 2,190×8.0x約17,518
3. 残債9,000−累計返済(約3,585)約5,415
4. Exit現金最低現金相当300
5. Exitエクイティ17,518−5,415+300約12,402
6. MOIC12,402÷6,132約2.0x
7. IRR2.02^(1/5)−1約15%

提出前QCチェックリスト

表3:LBOモデルQCチェックリスト
区分チェック項目合格基準
入口S&Uの左右一致完全一致(差額0)
入口エクイティが逆算になっているUses合計−負債=エクイティ
入口のれんが正の値対価>純資産簿価を確認
IS利息がトランシェ別の行に分かれているTLA/TLBを別行で管理
IS資金調達費用の償却を計上5年定額・非資金費用
CF返済前FCFが2起点で一致純利益起点=EBITDA起点
Debt約定返済がMINで残高超過を防止=MIN(約定額, 期首残高)
DebtSweepは余剰現金の範囲内最低現金を下回らない
DebtTLB返済がTLA完済後優先順位ロジック確認
安全性レバレッジ・カバレッジの推移コベナンツ目安内で推移
出口Exit倍率が保守的エントリー以下で検証
出口IRRの手計算検算(MOIC)^(1/5)−1と一致
全体循環参照スイッチが機能0で切断→復帰できる

つまずきやすいポイントQ&A

Q. レバレッジ5.0xは日本で現実的ですか?

案件・時期・業種によります。安定CFの業種なら5x超も付きますが、シクリカルでは3〜4xが精一杯のことも。本設例は「攻めた資本構成が安全性分析でどう見えるか」を学ぶための設定で、水準そのものは市況で変わる、が正しい答えです。

Q. Sweepを入れたら現金が全然貯まりません。それでいいのですか?

それが契約どおりの姿です。LBO後の会社は「余剰現金=即返済」で運転され、だからこそ最低現金の設定が重要になります。成長投資の余地を残す設計(Sweep率50%等)は教材版で扱う発展形です。

Q. のれんは償却しなくていいのですか?

本設例は連結(IFRS想定)でのれん非償却・減損テスト方式としています。日本基準の個別論点(最長20年償却)はM&A編のEPS分析で正面から扱います——LBOのリターン計算はキャッシュベースなので、償却方針の影響は限定的です。

Q. IRR 15.1%は良い数字ですか?

PEファンドの一般的な目標水準(ネットで15〜20%程度と言われます)に対して合格圏ですが、これは設例の前提の産物です。大事なのは水準の暗記ではなく、「どの前提が1%動くとIRRが何%動くか」を感応度で語れることです。

次のステップ

答え合わせ・さらに実務水準へ

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本記事について

設例(ハルカワ工業・架空)はシリーズ共通で、DCF編・M&A編と数値が接続しています。全数値はPythonで再計算済み(S&U一致・買収直後BS一致・Sweep後現金の下限維持・IRR恒等式ほか)。金利・倍率・レバレッジ水準は2026年時点の学習用設定であり、実際の案件条件は市況により異なります。手順・図表・文章は当サイトの独自制作です。