この記事で分かること
- LBOモデルを組む6ステップの正しい順序(3表モデルとの違い)
- S&U→Debt Schedule→リターンが1本の線でつながる構造
- Cash Sweepの意味と、モデルテストで時間切れしないための優先順位
手を動かして学ぶ:Excelでゼロから作るLBOモデル
本記事と同じ設例を、画面図つきで一緒に組み上げる実践チュートリアルがあります。
全体像:3表モデルの前後に2ブロック足す
LBOモデルは、3表連動モデルの前に「取引の入口(S&U・Entry BS)」、後ろに「取引の出口(Exit・リターン)」を接続したものです。設例はLBOとはと同じ数字(EBITDA 500→600、10.0x、デット3,000→1,800)を使います。
ステップ②:Sources & Uses
S&Uは取引の資金構成表です。Usesを先に確定し、デット調達額を引いた残りがエクイティ(逆算)になります。
| Sources | 金額 | Uses | 金額 |
|---|---|---|---|
| タームローン | 3,000 | 株式取得対価(EV 500×10.0x) | 5,000 |
| スポンサーエクイティ(逆算) | 2,000 | — | — |
| 合計 | 5,000 | 合計 | 5,000 |
実務では手数料・既存借入のリファイナンス・手元現金の持込みがUses/Sourcesに加わります。まず両側の合計一致をチェック行にするのが作法です。
ステップ③④:FCFと返済の接続
3表からFCF(返済可能キャッシュ)を出し、Debt Scheduleへ渡します。設例では5年間の累計返済1,200(年平均240)で、残高は3,000→1,800になります。基本構造はDebt Scheduleの作り方のとおりです。
ステップ⑤⑥:Exitとリターン
| 項目 | 計算 | 値 |
|---|---|---|
| Exit EV | EBITDA 600 × 10.0x | 6,000 |
| Exit時ネットデット | 3,000 − 累計返済1,200 | 1,800 |
| Exitエクイティ | 6,000 − 1,800 | 4,200 |
| MOIC / IRR(5年) | 4,200 ÷ 2,000 / 2.1^(1/5)−1 | 2.1x / 16.0% |
仕上げに、Entry/Exitマルチプル×レバレッジ等の感応度表と、リターンの3源泉分解(LBOとはの図2)を付ければ、ICで議論できる最小構成が完成します。
モデルテストでの優先順位
- 最優先:S&Uの両側一致 → FCF→返済の接続 → リターン計算。この1本線が通れば骨格は成立します。
- 次点:Cash Sweep、複数トランシェ、感応度表。
- 後回し可:PPAの精緻化、ミニマムケースの作り込み、書式の美化。
- やってはいけない:三表が閉じないまま感応度に進むこと。チェック行が全期間0で通っていることが常に前提です。
実務モデルへの拡張——4つの追加論点
- ①ファイナンシングフィー——借入500に対し組成手数料2%なら10。Uses側に計上(その分エクイティ需要が増える)し、費用は一括でなく借入期間で償却します(5年なら年2、税率25%で税後▲1.5/年)。現金は初日に出るのにPLは分割——3表連動(この型)がそのまま活きる論点です。
- ②PIK金利——現金利払いの代わりに元本へ組み入れる設計。100を10%のPIKで5年抱えると残高は161.05へ膨張。保有中の資金繰りを守る代わりに、出口の返済総額を確実に増やします。メザニンではPIKに加えワラント等のエクイティキッカーでリターンを補う設計も(資本スタックの中2階)。
- ③配当リキャップ——保有中に借り換えで配当を抜く手法。設例:エクイティ300・5年後回収550(IRR12.9%)に対し、3年目に150のリキャップ配当+出口400ならMOICは1.83xのまま、IRRは14.8%へ上がります。回収額でなく回収タイミングがIRRを作る——IRRとMOICの関係の教科書的な実例です(レバレッジ再上昇のリスクと引き換えである点まで言えると実務的)。
- ④Cash-on-Cash(CoC)という物差し——累計回収÷投資額で、タイミングを無視する素朴な倍率。リキャップ設例ではIRRが上がってもCoC=MOICは不変なので、IRRとCoCを並べると「時間の化粧」を検出できます。LPがDPIを重視するのと同じ思想です(グロス・ネットとDPI)。
これらを載せた完成形では、感応度(入口×出口・レバレッジ×金利)とともに出口倍率別リターン一覧表を1枚に添えるのが実務の定番です——「出口が1x下がっても最低ラインを守れるか」を意思決定の言葉にします(ダウンサイド設計)。
倍率圧縮に勝つ条件:出口が悪くても成立するLBO
LBO面接の最終盤で問われるのは「出口倍率が下がっても成立しますか」という耐性の議論です。数字で持っておきましょう。
設例:EBITDA100の会社を10倍・EV1,000で買収(負債600・エクイティ400)。5年でEBITDAを150に育て、出口は8倍に圧縮されたとする。出口EV=1,200。キャッシュフローで負債を600→250まで返済していれば、エクイティ=1,200−250=950。MOIC=950÷400=2.38倍、IRR約19%——倍率が2ターン下がっても、利益成長と返済で十分打ち返せています。逆に、返済が進まず負債600のままなら、エクイティ600でMOIC1.5倍。同じ出口でもデット・ペイダウンの有無がリターンの半分を決めることが分かります。
- 深掘り「では、どんな会社ならLBOに向くのか」——この設例から逆算すればよい。(1)キャッシュフローが安定して返済が読める、(2)維持投資が重すぎない、(3)EBITDAの改善余地がある、(4)出口の買い手候補が想定できる、(5)過大な既存負債・偶発債務がない。5条件を設例の構造(返済・成長・出口)に紐づけて答える。
- 深掘り「S&Uで見落としやすい項目は?」——最低手元現金(全額を買収に使えない)、運転資本の平常水準、そして取引・資金調達手数料。前提はキャッシュフリー・デットフリー基準で整理される——詳細はCFDF基準の解説へ。
- よくある誤答——「出口倍率を購入時より高く置いてIRRを出す」。マルチプル・エクスパンションは自分で制御できない市況要因であり、審査では同倍率か圧縮側を基本ケースに置くのが規律。上振れはシナリオとして分離する。
無料テンプレート:簡易LBOリターン計算(Excel)
本記事の設例と同じ構造のミニモデル。前提を変えるとブリッジとIRR/MOICが連動します。
面接での問われ方
Q. LBOモデルの組み方を順番に説明してください。
A. 図1の6ステップを順に。「S&Uのエクイティは逆算」「FCFがDebt Scheduleの返済原資」という接続の2点に触れると構造理解が伝わります。
Q. Cash Sweepとは何ですか?
A. 余剰FCFを任意繰上返済に回すクロージング後のルールで、利息減→FCF増の好循環でデレバレッジを加速する仕組み——と定義から効果まで一息で答えます。
まとめ
- LBOモデル=3表モデルの前後に「入口(S&U)」と「出口(Exit・リターン)」を接続したもの。
- 心臓部は③⇄④:FCFが返済を駆動し、返済が利息を減らし、翌期のFCFを厚くする。
- テストでは1本線(S&U→FCF→返済→リターン)の成立が最優先。装飾は最後。
有料教材:LBOフルモデル(EX-LBO)
マルチトランシェ・Cash Sweep・3ケース・感応度・リターン分解まで、本記事の完全実装版です。
設例・出典について
本文の計算例は理解のための設例です(計算検証済み・PE-001と同一設例で整合)。