この記事で分かること

  • 案件のリターン(グロス)とLPの手取り(ネット)の差がどこで生まれるか(設例つき)
  • ファンド前半にリターンが沈む「Jカーブ」の正体と、LP・GPそれぞれの見方
  • ファンド成績の評価指標(IRR・TVPI・DPI)の読み方と、IRR化粧への注意

案件の成績とLPの手取りは違う

「投資先が2.2倍で売れた」と「LPのお金が2.2倍になった」は別の話です。間には管理報酬・ファンド経費・キャリー(ファンド構造)が挟まります。この差——グロスとネット——を数字で掴むのが本記事の第一目標です。

設例:グロス2.2x→ネット約1.7x

表1:グロスとネットの橋渡し(単位:億円・設例)
項目金額
LPの拠出総額(コミットメント100を全額コール)100
(内訳)投資に回った資本85
(内訳)管理報酬・ファンド経費(期間累計)15
投資回収総額(グロス2.2x:85×2.2)187
ファンド利益(187−拠出100)87
−キャリー(利益の20%、優先リターン充足の前提)(17.4)
LPへの分配合計=187−17.4169.6
ネットMOIC=169.6÷100約1.7x

案件は2.2倍でも、LPの手取りは約1.7倍。グロスとネットの差(この設例で0.5x分)は、報酬体系と経費の構造から必然的に生まれます。ファンド選定でLPがネット指標に固執するのはこのためです(優先リターンの充足状況やキャッチアップの設計で数値は変わります。あくまで構造理解のための設例です)。

Jカーブ:前半に沈むのは異常ではない

  • 仕組み:ファンド初期は投資(キャッシュアウト)と管理報酬だけが先行し、回収はまだない——だから累積キャッシュフローもネットIRRも最初はマイナス圏に沈み、Exitが始まる中盤以降に浮上して「J」の字を描きます。
  • 未実現評価の要因も:投資直後の案件は取得原価近辺で評価される一方、報酬・経費は即時に発生するため、評価ベースのリターンも初期は沈みがちです。
  • LPにとっての含意:設立2〜3年のファンドのネットIRRがマイナスでも、それ自体は異常ではありません。Jカーブの位置を考慮せずに途中経過のIRRで優劣を語るのは誤読です。
  • GPにとっての含意:Jカーブを浅くする工夫(早期の部分Exit・リキャップ等)は見栄えを良くしますが、次節の「IRR化粧」との境界に注意が必要です。

成績の読み方:IRR・TVPI・DPI

表2:ファンド評価の主要指標
指標定義読みの注意
ネットIRRLPキャッシュフローの年率リターン時間に敏感。クレジットライン(コール前のつなぎ融資)でコールを遅らせると、経済実態が同じでも数値は上がる
TVPI(分配済み+残存価値)÷拠出額未実現部分は評価次第。倍率の「総額」感を掴む指標
DPI分配済み÷拠出額現金で返った分だけを数える最も硬い指標。「DPIは嘘をつかない」と言われる所以

実務の読み方は「IRR×TVPI×DPIを常に3点セットで」。IRRが高くDPIが薄いファンドは、化粧の可能性を疑って中身(Exit実績)を確認します(IRR単独の危うさはIRRの落とし穴)。

面接・実務での使いどころ

Q. 面接で「Jカーブとは?」と聞かれたら?

A.「ファンド初期は投資と報酬が先行し回収がないため、累積CFとネットIRRが一度マイナスに沈み、Exit期に浮上する形をJカーブと呼びます。だから途中経過のIRRはビンテージ(設立年)を揃えて比較する必要があります」。

Q. グロスとネットの差を面接で問われる意図は?

A. ファンドビジネスの構造理解の確認です。管理報酬・経費・キャリーの3経路を挙げ、設例のように「グロス2.2x→ネット約1.7x」と桁感まで言えると、LP・GP双方の視点を持っている証明になります。

まとめ

  • グロスとネットの差は構造(報酬・経費・キャリー)から必然。設例:2.2x→約1.7x。
  • Jカーブは異常ではなく時間構造。途中IRRはビンテージを揃えて読む。
  • 評価はIRR・TVPI・DPIの3点セット。DPIは嘘をつかない。

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本記事について

本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。