この記事で分かること
- IRRという指標が構造的に持つ3つの弱点と、それが実務で問題になる場面
- 「IRR100%の小型案件」と「IRR30%の大型案件」どちらを選ぶべきかの設例
- 実務での防衛策——MOIC併記・NPV併用・修正指標の考え方
IRRは便利すぎて、雑に使われる
IRR(内部収益率)は「投資のNPVがゼロになる割引率」であり、ファンドの成績も案件の良し悪しも一言で語れる便利な指標です(基礎はIRRとMOIC、Excelでの計算は関数実践)。しかし便利さの裏に構造的な弱点が3つあり、知らずに使うと投資判断そのものを誤ります。
弱点①:複数解・解なしがあり得る
- IRRは多項式の解です。キャッシュフローの符号が2回以上転換する(例:投資→回収→追加投資→回収)と、数学的にIRRが2つ以上存在し得ます。Excelは推定値引数に近い1つを返すだけで、警告は出ません。
- 符号転換が複数ある案件(大規模修繕を挟むインフラ、環境負債の除去費用が最後に来る案件など)では、IRR単独の判断は危険です。NPVプロファイル(横軸に割引率、縦軸にNPVを描いた曲線)で全体像を見るのが定石です。
弱点②:再投資仮定が楽観的
- IRRの計算は暗黙に「途中で回収したCFを、そのIRRと同率で再投資できる」と仮定しています。IRR40%の案件の中間配当を、また40%で運用できるでしょうか——普通はできません。
- 結果として、中間回収が大きい案件ほどIRRは実力より立派に見えます。早期の資本回収(リキャップ等)でIRRが跳ね上がるのはこの性質の応用です——MOICを併記すれば「率は高いが倍率は薄い」案件を見抜けます。
- 再投資率を現実的な率に置き直したMIRR(修正内部収益率)という処方箋もあります。実務での使用頻度は高くないものの、概念として知っておくと議論が締まります。
弱点③:規模を無視する
| 案件 | 投資額 | 1年後回収 | IRR | NPV |
|---|---|---|---|---|
| A(小型・高率) | 10 | 20 | 100% | 8.2 |
| B(大型・中率) | 1,000 | 1,300 | 30% | 181.8 |
IRRならAの圧勝ですが、富の増加(NPV)はBが20倍以上です。IRRは「効率」の指標であって「創出額」の指標ではありません。排他的な選択や資本配分の議論では、NPV(またはNPV÷投下資本)を並べるのが正しい姿勢です(NPVルール)。
実務での防衛策
- MOICと保有年数を必ず併記:PEの実務標準。「IRR25%・MOIC1.4x・2年」と「IRR20%・MOIC2.5x・5年」では意味がまったく違います。
- 符号転換が複数ならNPVプロファイル:IRRの複数解を目視で検出できます。
- 比較の場面ではNPV併用:規模の異なる案件・排他的な選択では、効率(IRR)と創出額(NPV)の両輪で。
- IRRの「作られ方」を見る:早期回収で化粧されたIRRか、事業価値の成長によるIRRか——リターンの分解(3源泉)まで遡って評価します。
Q. 面接で「IRRの弱点を教えてください」と聞かれたら?
A.「3つあります。①符号転換が複数だと複数解があり得る、②中間CFを同率で再投資できるという楽観的な仮定を含む、③規模を無視するので小型高率案件が過大評価される。だから実務ではMOIC・保有年数を併記し、比較にはNPVを併用します」。
Q. ファンドのIRRが高ければ良いLPリターンと言えますか?
A. 単独では判断できません。キャピタルコールのタイミング操作(クレジットライン活用)でIRRは押し上げられるため、ネットMOIC・DPI(分配済み倍率)との併読が必要です。この論点はファンドリターンの章(Jカーブ)で扱います。
まとめ
- IRRの3欠陥:複数解・楽観的な再投資仮定・規模の無視。
- 設例:IRR100%のNPV8.2 vs IRR30%のNPV181.8——効率と創出額は別の物差し。
- 防衛策はMOIC・年数の併記、NPVプロファイル、リターン源泉への遡り。IRRは便利、単独使用は危険。
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本記事について
本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。