この記事で分かること
- NPV・IRR・XIRR関数の正しい構文と、それぞれが何を計算しているか
- 実務で最も多い事故「NPV関数に初期投資を含めてしまう」の仕組みと防ぎ方
- 不定期キャッシュフローでXIRRを使うべき理由と、検算をモデルに組み込む習慣
3つの関数は「何を」計算しているか
NPV・IRR・XIRRは投資判断の基本関数ですが、Excelの仕様が直感とずれている箇所があり、事故が多い領域です。まず対応関係を整理します。
| 関数 | 構文 | 前提 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| NPV | =NPV(割引率, CF範囲) | CFは期末・等間隔 | 範囲の1つ目を「1期末」として割り引く(=期首の投資額は範囲に入れない) |
| IRR | =IRR(CF範囲) | 等間隔・符号転換が1回 | 初期投資(マイナス)を範囲に含める。NPVと流儀が逆 |
| XIRR | =XIRR(CF範囲, 日付範囲) | 日付を明示・不定期OK | 実務のファンドリターン計算はほぼこちら(IRRとMOIC) |
設例:投資1,000、5年間300の回収
期首に1,000を投資し、1〜5年目の各期末に300を回収する設例で確認します(割引率10%)。
| 年度 | Y0 | Y1 | Y2 | Y3 | Y4 | Y5 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| CF | (1,000) | 300 | 300 | 300 | 300 | 300 |
- 正しいNPV:
=NPV(10%, C5:G5) + B5→ 回収5年分の現在価値 約1,137 − 投資1,000 = 約+137 - 間違いNPV:
=NPV(10%, B5:G5)→ 全体が1期ずつ余計に割り引かれ、約+125と過小に出ます - IRR:
=IRR(B5:G5)→ 約15.2%。こちらはY0を範囲に含めるのが正解です
「NPVは初期投資を外に足す、IRRは中に含める」——この非対称が罠の正体です。関数名から受ける印象と挙動が違うため、新人のモデルレビューで最初に確認されるポイントの一つです。
罠①:NPV関数は「範囲の1つ目」を1期末とみなす
=NPV(r, 範囲) は、範囲の先頭セルを「1期末に発生するCF」として1/(1+r)で割り引きます。期首(今日)に出ていく投資額を範囲に入れると、投資額まで1期分割り引かれてしまう——これが上の「約125」のズレの正体です。防ぎ方はシンプルで、期首CFは必ず関数の外で足すと決め打ちすることです。
罠②:IRRの再投資仮定と複数解
- 再投資仮定:IRRは「途中回収したCFをIRRと同率で再投資できる」という暗黙の前提を持ちます。IRRが高い案件ほど、この仮定は楽観的になります。
- 複数解:CFの符号が2回以上転換する(例:追加投資が途中で入る)と、数学的にIRRが複数存在し得ます。Excelは推定値引数に依存した1つを返すだけなので、符号転換が複数ある案件ではNPVプロファイル(割引率を横軸にNPVを描く)で確認します。
罠③:不定期CFにIRRを使う
IRR関数は「等間隔」を仮定します。実際のファンド投資や案件回収は日付がバラバラなので、日付列を持たせてXIRRを使うのが実務標準です。=XIRR(CF範囲, 日付範囲)で、日数/365ベースの年率が返ります。中間回収が早いほどXIRRは上がる——タイミングがリターンを作る感覚はIRRとMOICの記事で詳しく扱っています。
検算をモデルに埋め込む
- NPVの検算:各期CFに
=CF/(1+$r$)^nの割引係数行を作り、SUMが関数値と一致するかを確認(差分行を作り0チェック)。 - IRRの検算:
=NPV(IRR値, 範囲)+期首CFが0になることを確認します。 - この「手組みで再現できるか」の確認は、モデルQCの基本動作です。
Q. NPV関数とIRR関数で初期投資の扱いが違うのはなぜ?
A. NPV関数は「将来CFの現在価値合計」を返す設計で、今日のCFは割引不要だから範囲外。IRRは「NPV=0になる率」を全CF系列から解くため、投資額も系列に含める必要があります。仕様の設計思想が違うだけで、どちらかが間違いではありません。
Q. 面接で「IRRの弱点は?」と聞かれたら?
A. ①再投資仮定が楽観的、②符号転換が複数だと複数解、③規模を無視する(IRR30%の小型案件とIRR20%の大型案件の比較はNPV併用が必要)——の3点をセットで答えると十分です。
まとめ
- NPVは期首投資を関数の外に、IRRは中に。非対称を暗記でなく仕様として理解する。
- 不定期CFはXIRR一択。等間隔IRRで代用しない。
- 関数値は必ず手組み割引で検算し、0チェック行をモデルに残す。
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本記事について
本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。