この記事で分かること

  • 白紙のExcelから、PL・BS・CFが連動する3表モデルを約60分で組み上げる全手順(セル番地・数式・正解値つき)
  • 「なぜCF計算書を作ると現金が決まり、BSがバランスするのか」——3表連動の仕組みそのもの
  • 完成後に前提を動かして遊ぶ実験3つ。バランスチェックが0のまま動く快感まで

STEP 0:なぜ3表モデルから始めるのか

DCFもLBOもM&Aモデルも、心臓部はすべて「PL・BS・CFの連動」です。売上の前提を1つ変えると、利益が変わり、現金が変わり、BSが動く——この連動を自分の手で組んだ経験があるかどうかで、その後のすべてのモデリングの理解速度が変わります。財務三表のつながりで理屈を学んだ方は、本章でそれを「動くもの」にしてください。

Excelの基本操作(数式の入れ方・フィルハンドル・青字ルール)が不安な方は、先にDCF構築チュートリアルのSTEP 0「Excel準備運動」を済ませてから戻ってくると迷いません。

X3STMT_Model.xlsx – Excel(完成形の全体像)
BCD〜F
4-13① 前提ブロック成長額・比率など10個の入力
16-26② PLFY0実績(入力)FY1〜FY3は数式(右へ展開)
29-32③ サポート計算売掛金・棚卸・買掛金・固定資産
36-47④ BS現金だけ最後に接続する
50-60⑤ CF計算書ここが3表をつなぐ結び目
図0:完成形の5ブロック。組む順番は①→②→③→④(現金以外)→⑤→現金接続。BSの現金を最初に埋めないのがこのモデル最大のコツで、理由はSTEP 5で分かります。

設例の会社:売上1,000(FY0実績)が毎年+100ずつ成長する製造業。原価率60%・販管費率20%、借入100は返済せず一定——という最小構成です。数字はすべて理解のための設例で、現実の会社の水準を示すものではありません。

1前提ブロックを作る(5分)

目的:モデル中の「決め」の数字を1か所に集めます。あとで遊ぶ(前提を変える)ときも、触るのはここだけです。

操作:B4〜B13に項目名、C4〜C13に数値を入力します。入力セルはすべて青字にしてください(ホーム→フォント色)。
X① 前提ブロック(すべて手入力・青字)
BC
4売上成長額(年)100
5売上原価率60%
6販管費率20%
7減価償却費(年)40
8設備投資 Capex(年)50
9売掛金比率(対売上)10%
10棚卸資産比率(対原価)10%
11買掛金比率(対原価)10%
12支払金利4%
13実効税率25%
図1:本格的なモデルでは売掛金等は「回転日数」で持ちますが(運転資本)、本章は連動の理解に集中するため比率方式で簡略化しています。

2PLを組む(15分)

目的:C列にFY0実績を入力し、D〜F列(FY1〜FY3)を「前提×前期」の数式で伸ばします。ここで作った当期純利益が、あとでBSとCFの両方に流れ込みます。

操作:C16〜C26にFY0実績(青字):売上1,000/原価600/粗利400/販管費200/EBITDA 200/減価償却40/EBIT 160/支払利息4/税引前156/法人税39/当期純利益117。続いてD列に下図の数式を入れ、D16:D26を選択してF列までフィルハンドルで右コピーします。
X② PL — D列(FY1)の数式
BC (FY0)D (FY1)E〜F
16売上高1,000=C16+$C$4右へコピー
17売上原価600=D16*$C$5
18売上総利益400=D16-D17
19販管費200=D16*$C$6
20EBITDA200=D18-D19
21減価償却費40=$C$7
22EBIT(営業利益)160=D20-D21
23支払利息4=$C$12*C43
24税引前利益156=D22-D23
25法人税39=D24*$C$13
26当期純利益117=D24-D25→ 各年へ
図2:支払利息 =$C$12*C43 は「金利×前期末の借入残高(BSの43行目)」。期末残高でなく前期末を参照するのは、循環参照(利息→利益→現金→残高→利息…の堂々巡り)を避ける入門定石です(発展形は循環参照と利息計算)。C43はまだ空なので、この時点でD23が0でも心配いりません。

正解値(FY1→FY3):売上 1,100→1,200→1,300、EBITDA 220→240→260、EBIT 180→200→220、当期純利益 132→147→162。BSを組んだあとに利息4が入ってこの値になります。

つまずき:$の付け忘れが最多です。前提参照($C$4など)は絶対参照、前期参照(C16など)は相対参照。F4キーで$を付けてから右コピーしてください。

3サポート計算:運転資本と固定資産(10分)

目的:BSに入れる「売掛金・棚卸・買掛金・固定資産」を先に別枠で計算します。BSの中で計算せず外に出すのは、あとで見直すときに数式が追いやすいからです。

操作:29〜32行に下図を作成。C列(FY0)は売掛金100・棚卸60・買掛金60・固定資産400を青字入力、D列は数式を入れて右へコピーします。
X③ サポート計算 — D列の数式
BC (FY0)D (FY1)正解値 D→F
29売掛金(売上×10%)100=D16*$C$9110・120・130
30棚卸資産(原価×10%)60=D17*$C$1066・72・78
31買掛金(原価×10%)60=D17*$C$1166・72・78
32固定資産(前期+Capex−償却)400=C32+$C$8-$C$7410・420・430
図3:固定資産は「期首+投資−償却=期末」のロールフォワード。この「前期末+増減=期末」の型は、利益剰余金・借入・のれん——モデル中のあらゆる残高項目で使い回す万能の型です。

進捗チェック(3割):D32が410になっていればここまで正しく組めています。

4BSを組む——ただし現金は空けておく(10分)

目的:BSの各行をサポート計算から引っ張ります。現金(36行目)だけは空欄のままにします——現金は「決める」ものではなく、CF計算書から「決まる」ものだからです。

操作:36〜47行に下図を作成。C列(FY0)は現金100・借入金100・資本金300・利益剰余金200を青字入力。D列以降、現金以外を数式でつなぎます。
X④ BS — D列の数式(現金はまだ空欄)
BC (FY0)D (FY1)メモ
36現金100(あとで接続)STEP 6
37売掛金100=D29
38棚卸資産60=D30
39固定資産400=D32
40資産合計660=SUM(D36:D39)
42買掛金60=D31
43借入金100=C43返済なし=横引き
44資本金300=C44
45利益剰余金200=C45+D26前期+当期純利益
46負債・純資産合計660=SUM(D42:D45)
47チェック(40行−46行)0=D40-D46全期間0が目標
図4:利益剰余金 =C45+D26 でPLの純利益がBSに流れ込みました(連動その1)。借入金を横引きにした瞬間、PLの支払利息も4に変わったはずです(=$C$12*C43が生きた)。この時点ではチェック行はまだ0になりません——現金が空だからです。

5CF計算書を組む——3表の結び目(15分)

目的:「利益」と「現金」のズレを埋めるのがCF計算書です。純利益から出発し、現金の動かない費用(減価償却)を足し戻し、運転資本の増減とCapexを反映して、期末現金を計算します。

操作:50〜60行に下図を作成。FY0列は空でかまいません(実績CFは省略)。D列に数式を入れ、右へコピーします。
X⑤ CF計算書 — D列の数式
BD (FY1)正解値 D→F
50当期純利益=D26132・147・162
51+減価償却費=D2140・40・40
52−売掛金の増加=-(D29-C29)(10)・(10)・(10)
53−棚卸資産の増加=-(D30-C30)(6)・(6)・(6)
54+買掛金の増加=D31-C316・6・6
55営業CF=SUM(D50:D54)162・177・192
56投資CF(Capex)=-$C$8(50)・(50)・(50)
57財務CF0借入返済なし
58現金の純増減=D55+D56+D57112・127・142
59期首現金=C36E59は =D60
60期末現金=D59+D58212・339・481
図5:売掛金・棚卸の「増加」はマイナス(現金が売掛金や在庫の形で寝てしまう)、買掛金の「増加」はプラス(支払いを待ってもらえている)。符号の理屈は運転資本で確認できます。D59だけ =C36(FY0のBS現金)、E59以降は =D60(前年の期末現金)と1本ずらして右コピーします。

進捗チェック(7割):D60=212になっていれば、CF計算書は完成です。

6現金を接続する——バランスする瞬間(5分)

目的:空けておいたBSの現金に、CF計算書の期末現金をつなぎます。これが3表連動の最後のピースです。

操作:D36に =D60 と入力し、F列まで右コピー。そしてチェック行(47行目)を見てください。
X完成 — 全期間の主要数値とチェック行
BC (FY0)D (FY1)E (FY2)F (FY3)
16売上高1,0001,1001,2001,300
26当期純利益117132147162
36現金100212339481
40資産合計6607989511,119
46負債・純資産合計6607989511,119
47チェック0000
図6:チェック行が全期間0——これが「3表がつながった」証明です。純利益はBS(利益剰余金)とCF(出発点)の両方へ、減価償却はPL・CF・固定資産ロールの3か所へ、現金はCFからBSへ。どこか1本でも切れていればチェックは0になりません。

つまずき:チェックが0にならない場合、①D59の参照ズレ(=C36とすべき所を=C60等にしていないか)、②CFの符号(52〜54行)、③利益剰余金の足し忘れ——の順に見てください(体系的な直し方はモデルQC)。

7遊んでみる:前提を動かす実験3つ(10分)

完成したモデルは「動かして」初めて身につきます。前提(青字)だけを変え、チェック行が0のまま数字が連動する様子を観察してください。

  • 実験①:成長が止まったら? C4を100→0に。売上は1,000のまま、FY3の期末現金は481→421に減ります。成長ゼロでも現金が積み上がるのは、この会社の利益がCapexを上回っているから——「成長と現金創出は別物」を体感できます。
  • 実験②:金利が上がったら? C12を4%→8%に。FY1の純利益は132→129。利息は税引前で効くので、影響は「増えた利息4×(1−税率25%)=3」の減益で済みます。税金がクッションになる構造が見えます。
  • 実験③:投資を倍にしたら? C8を50→100に。FY1の期末現金は212→162、固定資産は410→460。PLは1円も変わらないのに現金だけ50減る——「利益と現金は別物」の最短の証明です。

進捗チェック(完成):3つの実験すべてでチェック行が0のままなら、あなたの3表モデルは本物です。

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  • 売掛金等を回転日数方式に置き換え、月次に展開すれば実務の予算モデルに近づきます(運転資本)。
  • このモデルのFCFを取り出して割り引けばDCF(構築チュートリアル)、借入を厚くして返済スケジュールを付ければLBO(構築チュートリアル)です。3表はすべての土台になります。
  • 設計の作法(シート分割・色規約・チェックの束ね方)はモデル設計の原則へ。

Q. なぜBSの現金を最初に入力してはいけないのですか?

A. 現金はすべての活動の「結果」だからです。手で入力した瞬間、PLやCFと無関係な数字になり、チェックが永遠に合わなくなります。現金=期首+CF純増減、と機械的に決まる構造にするのが3表モデルの本質です。

Q. 支払利息を期首残高基準にすると精度が落ちませんか?

A. 期中平均残高基準より粗くはなりますが、借入残高が安定している限り差は小さく、循環参照を避けられる利点が勝ります。精度が必要な段階になったら、平均残高×金利+反復計算オンに切り替えます(循環参照の章)。

まとめ

  • 組む順番:前提→PL→サポート計算→BS(現金以外)→CF→現金接続。現金は最後。
  • 連動の3本線:純利益→利益剰余金/純利益→CFの出発点/期末現金→BS。チェック0が完成の証明。
  • 完成後は前提で遊ぶ。「利益と現金は別物」を数字で体感したら、DCF・LBOへ進む準備完了。

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本記事について

本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。