この記事で分かること
結論:接続点は3つだけ
財務三表は複雑に見えますが、相互の接続点は3つに集約できます。①PLの純利益はCF(間接法)の出発点になる。②純利益は配当を除きBSの利益剰余金に積み上がる。③CFの最終行(現金の増減)はBSの現金残高につながる。
この3本の線さえ押さえれば、どんな取引が起きても「三表がどう動くか」を機械的に追跡できます。まず全体像を図で確認します。
三表の役割:問いが違う
つながりを見る前に、各表が答える「問い」を整理します。同じ会社を、期間の成績・時点の残高・現金の実際という3つの角度から写しているだけです。
| 財務諸表 | 答える問い | 性質 |
|---|---|---|
| PL | この期間にいくら儲かったか | 期間のフロー(発生主義) |
| BS | 期末時点で何を持ち、どう調達したか | 時点のストック |
| CF計算書 | 現金は実際にいくら動いたか | 期間のフロー(現金主義) |
「利益は意見、現金は事実」と言われるのは、PLが発生主義(売れた時点で収益計上)で、CFが現金主義だからです。両者のズレを翻訳する装置が間接法のCF計算書であり、その残高を受け止めるのがBSです。
設例:減価償却費が10増えたら?
三表連動の理解度を測る最も有名な問いで、テクニカル面接の定番です。税率30%として、順番に追いかけます(数値は設例)。
手順は必ずPL→CF→BSの順です。
最後にバランスを確認します。資産は現金+3と固定資産−10で合計−7。負債は不変、純資産は利益剰余金−7。左右が−7で一致し、BSは崩れません。
直感に反するのは「費用が増えたのに現金が増える」点です。減価償却費は現金の出ていかない費用なので、税金を3減らす分だけ現金はむしろ増えます。これが「非資金費用の節税効果」です。
もう1問:在庫が10増えたら?
運転資本系の定番です。商品を現金で仕入れて、まだ売れていないケースを考えます。
- PL:動きません。売れるまで費用(売上原価)になりません。
- CF:運転資本の増加として営業CFが−10。現金も−10です。
- BS:在庫+10、現金−10。資産の中で入れ替わるだけで、合計は不変です。
「利益ゼロでも現金は減る」。成長期の会社が黒字なのに資金繰りに苦しむ理由が、この1問に凝縮されています。運転資本の詳細は関連記事で扱います。
財務モデリングへの接続
3表連動モデルは、この記事の3つの接続点をExcelの数式でそのまま再現したものです。純利益をCFの起点に参照し、CFの最終行をBSの現金に参照し、利益剰余金を「前期残高+純利益−配当」で回す。この3本の参照が正しければ、BSは自動的にバランスします。
逆に言えば、モデルのBSが合わないときは、この3本の線のどこかが切れています。デバッグの探索範囲を最初から3箇所に絞れることが、この原理を学ぶ実務上の最大の価値です。
数値ドリル4連:1行動かして、3表を追う
三表連動の面接質問はすべて同じ型です。「◯◯が10増えたら3表はどうなりますか」。PLから話し始め、CFで現金を確定し、BSで両側を閉じる。この順序を4つのドリルで体に入れます(税率30%)。
| 操作 | PL | CF(現金への最終効果) | BS |
|---|---|---|---|
| 減価償却費が10増える | 税前−10→純利益−7 | −7+10=+3 | 固定資産−10/現金+3/利益剰余金−7 |
| 在庫が10増える(現金仕入) | 変化なし(売るまで費用化されない) | 運転資本−10=−10 | 在庫+10/現金−10 |
| 前受金が10増える | 変化なし(まだ収益ではない) | 運転資本+10=+10 | 現金+10/前受金(負債)+10 |
| 減損10(税務上損金不算入) | 純利益−10(税は動かない) | −10+10=0 | 固定資産−10/利益剰余金−10 |
- 面接官が見ているポイント:答えの数字そのものより、(1)PL→CF→BSの順序が乱れないか、(2)税効果を機械的に入れられるか、(3)「非現金費用は足し戻す」を理由つきで言えるか。
- よくある誤答:「利益が減るから現金も減る」。減価償却のドリルで現金は増える(節税分+3)。利益と現金が逆方向に動く例を1つ暗誦しておくと、この罠を踏まない。
- 深掘りへの備え:「では減損が税務上も損金になる場合は?」であれば、純利益−7・CF+3側に寄る。制度差で答えが変わる問いは、前提を自分から明示して答えるのが実務者の作法。
無料テンプレート:簡易3表連動モデル(Excel)
本記事の接続点3つを、実際のExcel数式で確認できるテンプレート。そのままダウンロードできます。
よくある誤り
- 順番を無視して解く:三表問題は必ずPL→CF→BSの順で。いきなりBSから答えると税効果を落とします。
- 税効果の忘れ:費用が10増えても純利益は−10ではなく−7(税率30%の場合)。面接で最も多い失点です。
- CFの符号ミス:資産の増加はCFのマイナス、負債の増加はプラス。「現金の気持ち」で考えると間違えません。
- 配当の見落とし:利益剰余金は「+純利益」だけでなく「−配当」も通ります。
面接での問われ方
Q. 減価償却費が10増えると三表はどうなりますか?(最頻出)
A. 表2の順序どおり、PL(営業利益−10、純利益−7)→CF(+10足し戻しで現金+3)→BS(現金+3、固定資産−10、利益剰余金−7)と口頭で再現し、最後に「資産−7=純資産−7でバランス」と締めます。
Q. 3つの財務諸表のうち1つしか見られないなら、どれを選びますか?
A. 模範解の一つはCF計算書です。現金創出力が最も偽りにくいこと、PL・BSの主要な動きがCFの調整項目から逆算できることが理由として挙げられます(結論より理由の構造が評価されます)。
まとめ
- 三表の接続点は3つ:純利益→CF起点、純利益→利益剰余金、現金増減→BS現金。
- 取引インパクトは必ずPL→CF→BSの順で追い、最後にBSのバランスを検算する。
- この原理はそのまま3表連動モデルの設計図になる。次は財務モデリング完全ガイドへ。
有料教材:3表連動モデル 完全版(EX-3ST)
本記事の原理を、チェック機構つきの完成Excelモデルと練習問題で実装レベルまで習得します。
設例・出典について
本文の計算例はすべて理解のための設例です(数値は事前に計算検証済み)。会計基準の個別規定に踏み込む記述を追加する際は、企業会計基準委員会(ASBJ)等の一次情報を本欄に記載します。