この記事で分かること

  • 非支配株主持分(NCI)が連結決算でどう測定され、貸借対照表損益計算書のどこに表示されるか
  • 「全面時価評価法」と「購入のれん方式」の関係、日本基準とIFRSでのれん・NCIの計算がどう分かれるか
  • 80%取得の設例を式→代入→結果の順で検算しながら、連結の仕訳イメージまで確認する方法
  • M&Aモデル・LBOモデルやEVブリッジで非支配株主持分をどう扱うべきか

結論:NCIは「連結上は100%を取り込み、持分だけ切り分ける」ための勘定

非支配株主持分(Non-Controlling Interest、以下NCI)とは、子会社の純資産のうち親会社に帰属しない部分を指し、連結貸借対照表上は純資産の部に、親会社株主に帰属する株主資本とは区分して計上します。日本基準では、支配獲得時に子会社の資産・負債を非支配株主持分に対応する部分も含めて全面的に時価評価する「全面時価評価法」を採用したうえで、のれんは親会社の持分に対応する部分だけを計上する「購入のれん方式」を用います。これに対しIFRSでは、NCIを公正価値で測定する方法(全部のれん方式)と、識別可能純資産に対する比例持分で測定する方法(購入のれん方式相当)のどちらかを、企業結合ごとに選択できます。この違いにより、同じ買収でも計上されるのれんとNCIの金額が変わります。バリュエーションの実務では、連結EBITDAが子会社の100%分を含んでいるのに対し、時価総額は親会社株主の持分しか反映していないというズレを埋めるため、EVブリッジでNCIを加算します。以下、80%取得の設例を使って、これらの計算を最初から最後まで検算しながら確認します。

非支配株主持分とは何か:定義と貸借対照表上の位置づけ

NCIは、かつて「少数株主持分」と呼ばれていましたが、企業会計基準委員会(ASBJ)が2013年に公表した企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」により「非支配株主持分」へと呼称が改められました。議決権の過半数を保有していなくても実質的に他社を支配し親会社となるケースがあるため、「少数株主」という表現が実態と一致しない場合があることが理由です。同基準では、連結貸借対照表上、非支配株主持分は純資産の部に区分して記載することが定められています。1997年の連結原則の下では負債の部と資本の部の中間に独立の項目として表示されていましたが、2005年公表の純資産会計基準以降、純資産の部への表示に変更されています。ある子会社が完全子会社ではなく、外部株主が一部を保有している場合、その外部株主の持分がNCIに当たります。連結と持分法の適用範囲の基本的な考え方は連結と持分法|どこからが「グループの数字」になるのかで解説していますので、「そもそもどこから連結するのか」を確認したい場合はあわせてご覧ください。ここから先は、連結の範囲に入った子会社にNCIがある場合の測定方法とモデルへの反映に絞って掘り下げます。

支配獲得時の測定:全面時価評価法とのれん算定(設例①)

日本基準では、子会社に対する支配を獲得した時点で、子会社の資産・負債の全てを支配獲得日の時価で評価替えします。これを「全面時価評価法」といい、企業会計基準委員会の実務指針(連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針)第17項は、評価差額のうち非支配株主持分に対応する額を非支配株主持分に含めることを求めています。かつては親会社の持分に対応する部分のみを時価評価する「部分時価評価法」も認められていましたが、現行の連結会計基準では全面時価評価法のみが採用されています。一方でのれんは、親会社の取得原価と、親会社持分に対応する識別可能純資産の時価との差額としてのみ算定され、非支配株主持分に対応するのれんは計上しません。この考え方を「購入のれん方式」と呼びます。つまり日本基準では、「資産・負債の時価評価は100%分行うが、のれんは親会社の持分だけ」という組み合わせになっている点が最初のポイントです。

以下は説明用の仮設例です。P社が、識別可能純資産の時価が8,000百万円と算定されたS社の株式80%を、現金対価8,400百万円で取得したとします。


親会社持分の識別可能純資産=識別可能純資産の時価×取得比率
のれん(購入のれん方式)=取得対価-親会社持分の識別可能純資産
非支配株主持分=識別可能純資産の時価×(1-取得比率)

項目計算金額
識別可能純資産の時価(100%)8,000百万円
親会社持分の識別可能純資産(80%)8,000×80%6,400百万円
取得対価(現金)8,400百万円
のれん(購入のれん方式)8,400-6,4002,000百万円
非支配株主持分(20%)8,000×20%1,600百万円

検算は連結上の仕訳で行うのが確実です。借方は「識別可能純資産8,000百万円+のれん2,000百万円=10,000百万円」、貸方は「支払った現金8,400百万円+非支配株主持分1,600百万円=10,000百万円」となり、貸借は一致します。非支配株主持分は現金の動きを伴わずに連結純資産として計上される点、のれんは親会社が支払った対価のうち識別可能純資産の親会社持分を超える部分(買収プレミアムや期待シナジーの対価)に相当する点を押さえておくと、後段のIFRS比較やEVブリッジの理解がスムーズになります。のれんそのものの性質やPPA(取得原価の配分)の詳しい考え方はのれんとPPA入門|買収価格と純資産の差はどこへ行くのかに譲り、本記事ではのれんの償却期間などの論点には立ち入りません(のれんの償却期間を参照)。なお、取得原価が識別可能純資産の時価を下回るまれなケースでは負ののれん(バーゲンパーチェス)が生じますが、これも本記事の範囲外です。

図:支配獲得時の連結仕訳イメージ(設例①・80%取得) 借方(取り込む資産) 識別可能純資産(100%・全面時価評価) 8,000百万円 のれん(親会社持分のみ) 2,000百万円 借方合計 10,000百万円 貸方(財源・持分) 取得対価(現金支払) 8,400百万円 非支配株主持分(20%) 1,600百万円 貸方合計 10,000百万円 10,000百万円=10,000百万円(貸借一致)
図:全面時価評価法・購入のれん方式による支配獲得時の連結仕訳イメージ(設例、大手町プレップ作成)。

IFRSとの比較:のれん・NCIの測定方法の選択制

IFRS 3「企業結合」第19項は、NCIのうち清算時に純資産の比例配分を受ける権利を持つ部分について、取得日時点で(a)公正価値、または(b)識別可能純資産に対する比例持分のいずれかで測定することを、企業結合ごとに選択できると定めています。(a)を選ぶ方法は「全部のれん方式」と呼ばれ、NCIに対応するのれんも含めて100%分ののれんを計上します。(b)を選ぶ方法は日本基準の購入のれん方式と同じ考え方で、NCIに対応するのれんは計上しません。日本基準にはこのような選択の余地がなく、常に(b)の考え方(全面時価評価法+購入のれん方式)で統一されている点が、日本基準とIFRSの実務上の違いです。

先ほどの設例①で、もし全部のれん方式を採用し、NCI(S社株式の20%)の公正価値を1,750百万円と算定できたと仮定すると、計算は次のように変わります。

式(全部のれん方式)
のれん=(取得対価+NCIの公正価値)-識別可能純資産の時価(100%)

項目購入のれん方式(日本基準)全部のれん方式(IFRSの選択肢)
非支配株主持分1,600百万円1,750百万円
のれん2,000百万円2,150百万円
資産・NCI合計への影響10,000百万円10,150百万円

検算:全部のれん方式ののれん2,150百万円から購入のれん方式ののれん2,000百万円を差し引くと150百万円の差が生じますが、これはちょうどNCIの差額(1,750-1,600=150百万円)と一致します。NCIを公正価値で測定すると、その分だけ「NCIに帰属するのれん」が追加で認識される、という関係になっているためです。したがって、日本基準からIFRSに組み替える、あるいはその逆を行う際は、NCIとのれんの両方が連動して動くことを忘れないようにする必要があります。

図:購入のれん方式と全部のれん方式の比較(設例①のIFRS試算) 購入のれん方式(日本基準) のれん 2,000 NCI 1,600 全部のれん方式(IFRSの選択肢) のれん 2,150 NCI 1,750 のれんの差150百万円=NCIの差150百万円(連動して増減) 単位:百万円
図:NCIを公正価値で測定すると、その分だけのれんも同額増加する(設例、大手町プレップ作成)。

連結損益計算書での按分と、子会社が欠損になった場合の下限ルール

連結損益計算書では、税金等調整前当期純利益から法人税等を差し引いて当期純利益を算出したあと、そのうち非支配株主に帰属する部分を「非支配株主に帰属する当期純利益」として区分し、残りを「親会社株主に帰属する当期純利益」として表示します。設例①の続きとして、取得初年度にS社単体の当期純利益が1,000百万円、グループ全体(P社単体分を含む連結ベース)の当期純利益が3,500百万円だったとします。


非支配株主に帰属する当期純利益=S社の当期純利益×非支配株主持分比率
親会社株主に帰属する当期純利益=連結の当期純利益-非支配株主に帰属する当期純利益

項目計算金額
当期純利益(連結)3,500百万円
非支配株主に帰属する当期純利益1,000×20%200百万円
親会社株主に帰属する当期純利益3,500-2003,300百万円
非支配株主持分(期末残高)1,600+2001,800百万円

検算:3,300百万円+200百万円=3,500百万円で当期純利益と一致します。あわせて確認しておきたいのが、非支配株主持分は取得時点の金額で固定されるわけではなく、その後も毎期の帰属損益や配当の支払いによって残高が動く点です。ここでは配当がなかったと仮定しているため、期首残高1,600百万円に当期の帰属利益200百万円を加えた1,800百万円が期末残高になります。財務モデルでNCIを扱う際は、取得時の初期計上額だけでなく、この期末残高のロールフォワードまで組み込む必要があります。

もう一つ実務で問われやすいのが、子会社が欠損(純損失)を計上した場合の下限ルールです。日本基準では、非支配株主は出資額を限度とする有限責任という考え方に基づき、子会社の欠損のうち非支配株主持分に配分される額が非支配株主の負担すべき額を超える場合、その超過額は親会社の持分に負担させ、非支配株主持分がマイナスになることを認めていません(連結財務諸表に関する会計基準第27項)。小さな例で確認すると、あるNCI比率20%の子会社が当期に純損失2,000百万円を計上し、非支配株主持分の期首残高が300百万円だったとします。比例計算では非支配株主の負担額は2,000×20%=400百万円ですが、期首残高300百万円を超える100百万円は親会社が肩代わりします。その後この子会社が黒字化した場合、親会社が肩代わりした100百万円を回収し終えるまで、回収分は親会社の持分に加算されます。海外子会社を含むグループで異なる会計基準を併用している場合は、この下限ルールの考え方が必ずしも同一でないことがあるため、連結パッケージ作成時にグループ全体の会計方針を確認しておくことが重要です。

NCIを含む連結モデルは、手を動かして初めて感覚がつかめる

取得時の按分計算とその後のロールフォワードを別々のタブで管理するのか、1つの資本連結シートにまとめるのか。設計方針によって更新の手間が大きく変わります。

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バリュエーション・EVブリッジへの反映(設例④)

エンタープライズバリュー(EV)は、株主と債権者を含む資金の出し手全員に帰属する事業全体の価値であり、実務上は「時価総額+ネットデット+非支配株主持分」という式で時価総額(Equity Value)からブリッジして算出します。この式にNCIが含まれる理由は、EV/EBITDA倍率などで使う連結EBITDAが子会社の持分比率にかかわらず100%分を合算しているのに対し、時価総額は親会社株主の経済的な持分(設例では80%)しか反映していないためです。NCIを足し戻すことで、分子(EV)と分母(連結ベースのEBITDA等)の対象範囲を一致させることができます。EVブリッジの基本的な組み方や他の調整項目(優先株式・非事業用資産など)はEVからEquity Valueへ|ネットデットとブリッジ計算を設例で完全理解で詳しく扱っていますので、ここではNCIに絞って確認します。

設例①・②の続きとして、取得から1年後の期末時点でP社の時価総額が50,000百万円、連結有利子負債が15,000百万円、連結の現金及び現金同等物が5,000百万円だったとします。非支配株主持分は前段で算定した期末残高1,800百万円をそのまま使います。


ネットデット=有利子負債-現金及び現金同等物
EV=時価総額+ネットデット+非支配株主持分

図:EVブリッジにおける非支配株主持分の反映(設例④) 時価総額 50,000 ネットデット 10,000 非支配株主持分 1,800 エンタープライズバリュー(EV) 61,800 50,000+(15,000-5,000)+1,800=61,800(単位:百万円)
図:時価総額に連結ベースのネットデットと非支配株主持分を加算してEVを算出する(設例、大手町プレップ作成)。

検算:ネットデットは15,000-5,000=10,000百万円、EVは50,000+10,000+1,800=61,800百万円です。実務上の注意点として、S社の株式が非上場である場合、非支配株主持分の公正価値を直接観測できないことが多く、EVブリッジでは連結貸借対照表上の帳簿価額(本設例の1,800百万円)を代用するのが一般的です。取得直後で識別可能純資産の時価評価がまだ帳簿価額に強く反映されている局面と、取得から年数が経ち利益剰余金が積み上がった局面とでは、帳簿価額と実際の価値のかい離の大きさが異なる点には留意が必要です。

M&A・LBOモデルへの組み込み方

財務モデルでNCIを扱う際に押さえておきたい実務上のポイントは3つです。第一に、取得時の資本連結(識別可能純資産の時価評価・のれん・NCIの初期計上)は、取得直後の1回限りの計算として独立したブロックにまとめ、その後の毎期のロールフォワードと分けて設計すると検証がしやすくなります。第二に、連結PLの非支配株主帰属損益は、子会社ごとの単体利益にNCI比率を掛けるだけでなく、子会社間の内部取引消去やのれんの償却負担を反映した後の金額に対して計算する必要があります。セグメント別の単体モデルから連結PL・BS・CFを組み上げる際の内部消去やタブ設計はセグメント別モデルから連結PL・BS・CFを作る方法|タブ設計・内部消去・本社費配賦の実務で扱っていますので、複数子会社を持つグループのモデルを組む場合はあわせて参照してください。第三に、PPA(取得原価配分)の各項目をモデルに落とし込む際、NCIの初期計上額もPPAスケジュールの一部として管理すると、取得年度以降の資本異動計算表と整合を取りやすくなります。PPAをM&Aモデル・財務三表へ反映する具体的な方法はPurchase Accounting(PPA)をM&Aモデル・財務三表へ反映する方法で解説しています。

PE・LBOの文脈では、買収後にマネジメントや一部株主が持分を残すマイノリティ出資のスキームでもNCIが発生します。買収後の持分構成によって会計処理の呼び方は変わりませんが、支配権をどちらが握るかという論点はマジョリティバイアウトとマイノリティバイアウトの整理が出発点になります。連結対象になる(支配権を握る)買収であればここで解説した枠組みがそのまま当てはまり、連結対象にならない場合は持分法や公正価値評価など別の会計処理になる点を混同しないよう注意してください。

よくある質問(FAQ)

Q. 非支配株主持分は負債ですか、それとも資本ですか。
A. 資本(純資産)です。連結貸借対照表上、非支配株主持分は純資産の部に、親会社株主に帰属する株主資本とは区分して表示します(企業会計基準第22号)。1997年の連結原則の下では負債と資本の中間区分に表示されていましたが、現在は純資産の部への表示に統一されています。

Q. 日本基準でものれんとNCIを公正価値で計上する方法を選べますか。
A. いいえ。日本基準は全面時価評価法(資産・負債は非支配株主持分に対応する部分も時価評価)と購入のれん方式(のれんは親会社持分のみ)の組み合わせで統一されており、IFRS 3第19項のような企業結合ごとの選択肢はありません。

Q. NCIの金額は取得時のまま変わらないのですか。
A. 変わります。取得時に算定した金額を起点として、その後は子会社の非支配株主に帰属する当期純利益(または純損失)の積み上げと、非支配株主への配当の支払いによって、期末残高が毎期変動します。

Q. 子会社が大きな損失を出してNCIがマイナスになることはありますか。
A. 日本基準では、非支配株主は出資額を限度とする有限責任という考え方から、非支配株主持分がマイナスになることは認められておらず、負担しきれない超過額は親会社の持分が負担します(連結財務諸表に関する会計基準第27項)。

Q. EVブリッジでNCIを足すのを忘れるとどうなりますか。
A. 連結EBITDAなど100%ベースの指標を分母にしたEV/EBITDA倍率を計算する際、分子のEVが実態より過小評価され、倍率が本来より低く(割安に)算出されてしまいます。特に非支配株主持分の比率が大きい子会社を持つ企業を比較する場合は影響が無視できません。

まとめ

非支配株主持分は、連結決算において「子会社の資産・負債は100%取り込みつつ、その中の外部株主の持分を純資産の部で切り分ける」ための勘定です。日本基準は全面時価評価法と購入のれん方式の組み合わせで統一されている一方、IFRSは企業結合ごとにNCIの測定方法を選択でき、選び方によってのれんの金額も連動して変わります。連結PLでは非支配株主に帰属する当期純利益を区分表示し、子会社が欠損になった場合は日本基準特有の下限ルールが働きます。バリュエーションの実務では、連結EBITDAとの整合性を保つためにEVブリッジでNCIを加算する点も、あわせて押さえておく必要があります。取得時の按分計算からその後のロールフォワード、EVブリッジまでを一気通貫で検算できるようになれば、NCIを含む連結モデルの精度は大きく上がります。

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出典・参考(2026年8月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。