この記事で分かること
結論:60分のテストは「完成度」ではなく「筋の通った道筋」を見る
60分のLBOモデリングテストは、180分版のように精緻なモデルを作らせる試験ではありません。制限時間内に、買収資金の調達構成を決め、5年間のキャッシュフローを引き、借入がどう減るかを追い、最後にIRRとMOICを出すという一連の流れを、破綻なく通せるかどうかを見ています。採点者の側からすると、細部が粗くても最後まで数字がつながっているモデルは評価でき、前半が丁寧でも途中で止まっているモデルは評価できません。
そのため60分版で最優先すべきは、「取得時のレバレッジ」「毎期のフリーキャッシュフロー」「借入残高の推移」「Exit時の株式価値」の4点が一本の線でつながっていることです。感応度分析やフォーマットの整備は、この線が通ってからで構いません。
そこで、その線を通すための課題を1本用意しました。以下の設例は完全な仮設例で、実在の企業・案件とは関係ありません。解答に出てくる数値はすべて表計算で再現できるように設計してあり、記事中のどの表からも同じ答えにたどり着きます。まず自分で60分測って解き、そのあとで模範解答と採点基準に照らしてみてください。モデルの作り方そのものに不安がある場合は、先にExcelでつくるLBOモデル完全ガイドで構築手順を通してから戻ってくることをおすすめします。
この演習の位置づけと使い方
日本国内のPEファンドやM&Aアドバイザリーの中途採用では、選考の中盤以降にモデリング課題を課す例が一般に見られます(2026年8月時点の公開情報に基づく一般的な傾向であり、実施の有無・形式・時間はファームごとに大きく異なります)。テストの形態も、その場でExcelを渡される即席型、自宅で数日かけて提出するテイクホーム型、既存モデルの誤りを直させる修正型など幅があります。本記事が扱うのは、そのうち「制限時間内に白紙から組ませる即席型」の短時間版です。
短時間版と長時間版では、そもそも見ているものが違います。90分・180分の課題で問われる論点と時間の使い方は財務モデリングテスト90分・180分の攻略法で扱っているため、本記事は60分という制約下での取捨選択に絞ります。また、紙とペンで解く簡易版のLBOはペーパーLBOの解き方が対応しており、本記事はExcelでスケジュールを組むことを前提としています。
なお本演習では、実務では避けて通れない論点のうち、時間内に処理できないものを意図的に除外しています。具体的には、経営陣によるロールオーバー出資(Management RolloverとOption PoolのLBOモデル実装)、繰越欠損金や支払利子の損金算入制限を織り込んだタックススケジュール(LBOタックススケジュールの作り方)、期中クロージング、優先株やPIK金利の階層構造などです。これらを1つのモデルに統合する設計は上級LBO統合モデルの作り方で扱います。
課題文(制限時間60分)
ここからが課題本体です。読み始めた時点でタイマーを開始してください。使用可能なのはExcelのみ、テンプレートの持ち込みと外部検索は不可という想定です。
設定
あなたは国内独立系プライベート・エクイティ・ファンドのアソシエイト候補です。投資チームから、次の案件について5年間のLBOモデルを作成し、投資可否の見解を述べるよう指示されました。
対象会社は株式会社テクノプレシジョン(以下「TP社」。架空の企業です)。産業用機械向けの精密加工部品を製造・販売しており、国内に3工場を持ちます。創業家が全株式を保有していますが、後継者不在を理由に全株式の売却を決定しました。決算期は3月で、FY0は2026年3月期の実績、クロージングはFY0期末とします。
与えられた前提
| 項目 | 前提 |
|---|---|
| 買収価格 | FY0 EBITDAの8.0倍(キャッシュフリー・デットフリー、EVベース) |
| 取引関連費用 | 600百万円(FA・DD・法務。クロージング時に一括費用処理し、FY1以降のPLには影響させない) |
| ファイナンス関連費用 | 300百万円(5年定額償却・全額損金算入) |
| 手元現金 | クロージング時に運転資金として300百万円を投入。以後も最低手元現金は300百万円を維持 |
| タームローンA | 6,000百万円/金利年2.5%/5年均等返済(年1,200百万円) |
| タームローンB | 8,400百万円/金利年3.5%/期限一括返済(6年) |
| キャッシュスイープ | 最低手元現金を超える余剰現金は100%をタームローンBの期限前弁済に充当 |
| エクイティ | 調達不足額の全額をスポンサーが普通株式で出資。経営陣ロールオーバーは考慮しない |
| 利息計算 | 各期の期首残高×金利。平均残高法・循環参照は使用しない |
| Exit | FY5末に売却。Exit EV/EBITDAは8.0倍(取得時と同じ)。売却費用は考慮しない |
| 減価償却費 | 各期の売上高の3.0% |
| 設備投資 | 各期の売上高の3.5% |
| 運転資本残高 | 各期の売上高の10.0%(FY0実績は2,400百万円) |
| 実効税率 | 30.0%。繰越欠損金はなく、支払利子の損金算入制限は考慮しない |
| 項目(百万円) | FY0実績 | FY1 | FY2 | FY3 | FY4 | FY5 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 24,000 | 25,200 | 26,400 | 27,600 | 28,800 | 30,000 |
| EBITDAマージン | 15.0% | 15.0% | 15.5% | 16.0% | 16.0% | 16.0% |
| 売上高成長率 | — | +5.0% | +4.8% | +4.5% | +4.3% | +4.2% |
提出物
制限時間内に、次の6点を示してください。
- Sources & Uses と取得時の有利子負債/EBITDA倍率
- FY1〜FY5の損益と、借入返済前のフリーキャッシュフロー
- トランシェ別のデットスケジュール(約定返済・スイープ・利息)
- Exit時の株式価値、スポンサーのIRRとMOIC
- 取得倍率×Exit倍率のIRR感応度表
- 投資可否の見解(3行以内)
時間配分:60分をどう割るか
60分は、迷った瞬間に消えます。着手前に配分を決めておき、各ブロックの終了時刻を紙にメモしてから始めてください。以下は本課題を想定した配分です。
この配分の要点は3つあります。第一に、着手前の5分を惜しまないことです。前提の読み落とし——たとえばキャッシュスイープが100%であること、最低手元現金が300百万円であること、利息が期首残高ベースであること——は、後半の全数値を狂わせます。第二に、③のPL・FCFは13分で切り上げることです。ここは前提が与えられているため、率を掛けるだけの作業になります。凝る余地はありません。第三に、⑦の5分は必ず残すことです。Sources と Uses が一致しているか、最終期のタームローンAがゼロになっているか、累計フリーキャッシュフローと累計返済額が一致しているかを確認するだけで、致命的な失点を防げます。
模範解答①:Sources & Uses と取得時レバレッジ
まず資金の出入りを固めます。Sources & Usesは、必要資金(Uses)を積み上げ、それを賄う調達(Sources)を並べて、両者の合計を一致させる表です。
買収EV = FY0 EBITDA × 取得倍率
3,600百万円 × 8.0倍 = 28,800百万円
キャッシュフリー・デットフリーの取引なので、この28,800百万円がそのまま株式の取得対価となります。Uses はここに費用と手元現金を足します。
| Uses(資金使途) | 百万円 | Sources(調達) | 百万円 |
|---|---|---|---|
| 株式取得対価(EV) | 28,800 | タームローンA | 6,000 |
| 取引関連費用 | 600 | タームローンB | 8,400 |
| ファイナンス関連費用 | 300 | スポンサー出資 | 15,600 |
| クロージング時手元現金 | 300 | ||
| 合計 | 30,000 | 合計 | 30,000 |
スポンサー出資額は逆算で求めます。
スポンサー出資 = Uses合計 − 借入合計
30,000百万円 − (6,000百万円 + 8,400百万円) = 15,600百万円
取得時のレバレッジ・レシオは次のとおりです。グロス(現金控除前)とネット(現金控除後)を両方書いておくと、採点者に前提の理解が伝わります。
グロス有利子負債 / EBITDA
14,400百万円 ÷ 3,600百万円 = 4.00倍
ネット有利子負債 / EBITDA
(14,400百万円 − 300百万円)÷ 3,600百万円 = 3.92倍
調達構成は借入48.0%、エクイティ52.0%です。エクイティ比率が半分を超えるのは、日本のミドルマーケット案件では珍しくない水準です。ここまでを7分で終えられていれば予定どおりです。
模範解答②:5年間の損益とフリーキャッシュフロー
次に、返済原資となるキャッシュフローを作ります。60分版では三表を完全に連動させる余裕はないため、損益からフリーキャッシュフローまでを1本のブロックで縦に落とすのが実戦的です。
順序は、EBITDA → 減価償却費 → EBIT → 支払利息 → ファイナンス費用償却 → 税引前利益 → 法人税 → 当期純利益、と進み、そこから非資金項目を戻して設備投資と運転資本増加を引きます。支払利息はデットスケジュール側で計算するため、実際の作業では③と④を行き来しますが、レイアウト上は損益ブロックに置きます。
| 項目(百万円) | FY1 | FY2 | FY3 | FY4 | FY5 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 25,200 | 26,400 | 27,600 | 28,800 | 30,000 |
| EBITDA | 3,780 | 4,092 | 4,416 | 4,608 | 4,800 |
| 減価償却費 | △756 | △792 | △828 | △864 | △900 |
| EBIT | 3,024 | 3,300 | 3,588 | 3,744 | 3,900 |
| 支払利息 | △444 | △401 | △350 | △291 | △227 |
| ファイナンス費用償却 | △60 | △60 | △60 | △60 | △60 |
| 税引前利益 | 2,520 | 2,839 | 3,178 | 3,393 | 3,613 |
| 法人税(30.0%) | △756 | △852 | △953 | △1,018 | △1,084 |
| 当期純利益 | 1,764 | 1,987 | 2,225 | 2,375 | 2,529 |
| + 減価償却費 | 756 | 792 | 828 | 864 | 900 |
| + ファイナンス費用償却 | 60 | 60 | 60 | 60 | 60 |
| − 設備投資 | △882 | △924 | △966 | △1,008 | △1,050 |
| − 運転資本増加 | △120 | △120 | △120 | △120 | △120 |
| 返済前フリーキャッシュフロー | 1,578 | 1,795 | 2,027 | 2,171 | 2,319 |
FY1を例に、式と代入を追っておきます。EBITDAは25,200百万円×15.0%=3,780百万円、減価償却費は25,200百万円×3.0%=756百万円なので、EBITは3,024百万円です。支払利息444百万円(内訳は次節)とファイナンス費用償却60百万円を引くと税引前利益2,520百万円、法人税は2,520百万円×30.0%=756百万円、当期純利益は1,764百万円となります。ここに非資金の756百万円と60百万円を戻し、設備投資882百万円(25,200百万円×3.5%)と運転資本増加120百万円(2,520百万円−2,400百万円)を引いて、返済前フリーキャッシュフローは1,578百万円です。
運転資本増加は、残高の差分であって残高そのものではありません。売上高10.0%という前提から残高2,520百万円を出したうえで、前期残高2,400百万円との差120百万円をキャッシュアウトとして扱います。ここを残高のまま引いてしまう誤りは頻出です。
模範解答③:デットスケジュール
ここが本課題の中心です。タームローンAは約定弁済型で年1,200百万円ずつ確実に減り、タームローンBは期限一括ですが、余剰キャッシュフローによる期限前弁済(キャッシュスイープ)で前倒しに減っていきます。返済順位の前提として、本課題ではスイープの充当先をタームローンBに限定しています。
各期の処理順序
① 期首残高 × 金利 = 支払利息
② 返済前フリーキャッシュフロー − タームローンAの約定弁済 = 余剰現金
③ 余剰現金(正の場合)を全額タームローンBに充当
④ 期首残高 − 返済額 = 期末残高(翌期の期首残高になる)
| 項目(百万円) | FY1 | FY2 | FY3 | FY4 | FY5 |
|---|---|---|---|---|---|
| TLA 期首残高 | 6,000 | 4,800 | 3,600 | 2,400 | 1,200 |
| TLA 約定弁済 | △1,200 | △1,200 | △1,200 | △1,200 | △1,200 |
| TLA 期末残高 | 4,800 | 3,600 | 2,400 | 1,200 | 0 |
| TLA 支払利息(2.5%) | 150 | 120 | 90 | 60 | 30 |
| TLB 期首残高 | 8,400 | 8,022 | 7,427 | 6,600 | 5,629 |
| TLB スイープ弁済 | △378 | △595 | △827 | △971 | △1,119 |
| TLB 期末残高 | 8,022 | 7,427 | 6,600 | 5,629 | 4,510 |
| TLB 支払利息(3.5%) | 294 | 281 | 260 | 231 | 197 |
| 支払利息 合計 | 444 | 401 | 350 | 291 | 227 |
| 有利子負債 合計(期末) | 12,822 | 11,027 | 9,000 | 6,829 | 4,510 |
| ネット有利子負債/EBITDA | 3.31倍 | 2.62倍 | 1.97倍 | 1.42倍 | 0.88倍 |
| EBITDA/支払利息 | 8.5倍 | 10.2倍 | 12.6倍 | 15.8倍 | 21.1倍 |
FY1で追ってみます。支払利息は6,000百万円×2.5%=150百万円と8,400百万円×3.5%=294百万円で、合計444百万円。返済前フリーキャッシュフロー1,578百万円から約定弁済1,200百万円を引いた378百万円が余剰現金となり、これを全額タームローンBに充当します。タームローンBの期末残高は8,400百万円−378百万円=8,022百万円、翌期の利息はこの8,022百万円に3.5%を掛けて281百万円となります。手元現金は300百万円のまま動きません。
FY2以降も同じ処理の繰り返しです。利息が減る→税引前利益が増える→フリーキャッシュフローが増える→スイープ額が増える、という自己強化のループが働き、スイープ額は378百万円から1,119百万円まで年々増えていきます。インタレスト・カバレッジ・レシオも8.5倍から21.1倍へ改善し、コベナンツ抵触の懸念は本ケースでは生じません。
ここで1つ検算を入れておきます。5年間の返済前フリーキャッシュフローの合計は1,578+1,795+2,027+2,171+2,319=9,890百万円で、これは有利子負債の減少額14,400百万円−4,510百万円=9,890百万円と一致します。手元現金が300百万円で固定されている以上、両者は必ず一致するはずで、ずれた場合はどこかにキャッシュの漏れがあります。30秒で終わる確認なので、必ず入れてください。
スイープの実装で手が止まるなら、先に反復練習を
デットスケジュールは、理屈を読んで理解した状態と、白紙から10分で組める状態の間に大きな差があります。モデリングラボでは、返済順位や余剰現金の定義を変えながらスケジュールを繰り返し組む練習ができます。
模範解答④:ExitとIRR・MOIC
FY5末に8.0倍で売却する前提なので、Exit時の企業価値と株式価値は次のように求まります。
Exit EV = FY5 EBITDA × Exit倍率
4,800百万円 × 8.0倍 = 38,400百万円
Exit株式価値 = Exit EV − ネット有利子負債
38,400百万円 − (4,510百万円 − 300百万円) = 34,190百万円
手元現金300百万円を忘れずに戻すのが、細かいながら差がつく点です。ここからMOICとIRRを計算します。本課題では出資も回収も1回ずつなので、IRRは年率換算のみで求められます。
MOIC = Exit株式価値 ÷ スポンサー出資額
34,190百万円 ÷ 15,600百万円 = 2.19倍
IRR = MOIC の1/5乗 − 1
2.1917 の0.2乗 − 1 = 1.1699 − 1 = 17.0%
ベースケースの答えはIRR 17.0%、MOIC 2.19倍です。多くのファンドが投資委員会で用いる20%前後の目線には届きません。この「届いていない」という結果自体が悪いわけではなく、そこから何を読み取るかが問われます。
リターンの源泉を分解すると、次のようになります。株式価値の増加分18,590百万円(34,190百万円−15,600百万円)の内訳です。
| リターンの源泉 | 計算 | 百万円 | 構成比 |
|---|---|---|---|
| EBITDA成長 | (4,800 − 3,600)× 8.0倍 | 9,600 | 51.6% |
| マルチプル変化 | (8.0倍 − 8.0倍)× 4,800 | 0 | 0.0% |
| デレバレッジ | 14,400 − 4,510 | 9,890 | 53.2% |
| 取引・ファイナンス費用 | −(600 + 300) | △900 | △4.8% |
| 合計 | 18,590 | 100.0% |
EBITDAは5年で3,600百万円から4,800百万円へ、年率5.9%で成長しています。それでもIRRが17.0%にとどまるのは、マルチプルの上昇を一切見込んでいないうえ、EBITDA成長とデレバレッジがほぼ半々の寄与に留まっているためです。「デレバレッジが5割を占める案件は、事業計画が下振れした瞬間にリターンが崩れる」という一言を添えられると、単なる計算屋ではないことが伝わります。
模範解答⑤:感応度分析と投資可否の見解
時間が残っていれば、取得倍率とExit倍率の2軸で感応度グリッドを作ります。作り方の一般論は感応度分析・シナリオ分析の作り方に譲り、ここでは結果だけを示します。借入額は14,400百万円で固定なので、取得倍率を変えるとスポンサー出資額が変わり、デットスケジュールとExit時のネット有利子負債は変わりません。
| 取得倍率\Exit倍率 | 7.0倍 | 7.5倍 | 8.0倍 | 8.5倍 | 9.0倍 |
|---|---|---|---|---|---|
| 7.5倍(出資13,800) | 16.3% | 18.2% | 19.9% | 21.5% | 23.1% |
| 8.0倍(出資15,600) | 13.5% | 15.3% | 17.0% | 18.6% | 20.1% |
| 8.5倍(出資17,400) | 11.1% | 12.8% | 14.5% | 16.0% | 17.5% |
グリッドを見ると、取得倍率を0.5倍下げる効果(8.0倍→7.5倍でIRR+2.9ポイント)が、Exit倍率を0.5倍上げる効果(8.0倍→8.5倍で+1.6ポイント)より大きいことが分かります。エクイティの分母が直接動くためです。この非対称性を口頭で説明できると、感応度表を作っただけの解答から一段上がります。
参考までに、保有期間を3年に短縮した場合も計算しておきます。FY3末のネット有利子負債は8,700百万円、Exit EVは4,416百万円×8.0倍=35,328百万円なので、株式価値は26,628百万円、MOICは1.71倍、IRRは19.5%です。MOICは下がりますが、IRRは17.0%から19.5%へ改善します。デレバレッジの効きが早い年ほど大きいためで、保有期間とIRR・MOICのトレードオフを示す良い材料になります。
最後に、3行の見解をまとめます。解答例は次のとおりです。
ベースケース(取得8.0倍・Exit8.0倍)のIRRは17.0%、MOICは2.19倍で、投資目線の20%には届かない。リターンの53.2%を5年間のデレバレッジ9,890百万円が担っており、EBITDAが年率5.9%で伸びる計画が下振れした場合の耐性は高くない。取得倍率を7.5倍以下に引き下げる交渉余地、またはExit倍率9.0倍を正当化する事業上の根拠が確認できれば前進可能で、3年での早期Exit(IRR 19.5%)も選択肢として検証したい。
採点基準(100点満点)
ここからは採点者側の視点です。以下は本演習のために設計した配点で、実際の採点表は企業ごとに異なりますが、重視される領域の相対的な重みは大きく変わりません。
| 領域 | 満点をとる条件 | 配点 |
|---|---|---|
| ① S&U・調達構成 | SourcesとUsesの合計が30,000百万円で一致。費用と手元現金がUsesに入っている。出資額15,600百万円を逆算で求めている。グロス4.00倍とネット3.92倍を区別している | 15 |
| ② 事業計画とFCF | EBITDAからFCFまでの並びが正しい。運転資本を残高ではなく増減で処理している。ファイナンス費用償却を税前で控除し、キャッシュフローで戻している。FY5のFCF 2,319百万円に到達している | 20 |
| ③ デットスケジュール | 期首残高ベースで利息を計算。約定弁済とスイープを区別。スイープがTLB残高を上限として機能する。FY5末残高4,510百万円に到達。TLAがFY5でゼロになる | 25 |
| ④ ExitとIRR・MOIC | Exit EV 38,400百万円。手元現金300百万円を戻したうえで株式価値34,190百万円。MOIC 2.19倍、IRR 17.0%。両指標の違いを説明できる | 20 |
| ⑤ 感応度分析 | 2軸グリッドが正しく動く。数値が手計算と整合。取得倍率とExit倍率の効きの非対称性に言及できる | 10 |
| ⑥ 構造と検算 | 前提が1か所に集約され、ハードコードが本体にない。累計FCFと累計返済額の一致など検算行がある。単位・符号が統一されている | 10 |
配点から分かるとおり、③のデットスケジュールが単独で25点を占めます。ここが崩れると④のExit計算も連鎖して失点するため、実質的な影響は45点に及びます。逆に⑤の感応度分析を落としても10点で済みます。時間が足りないときにどこを捨てるかは、この配点構造から自動的に決まります。
60分で起きやすい失点と、その場での立て直し方
採点する側から見て頻度が高いのは、次の5つです。個別のミスの網羅的な一覧はLBOモデルテストで落ちる典型的なミス30選にまとめているため、ここでは60分という制約下で特に起きやすいものに絞ります。
1. 運転資本を残高のまま引く。FY1で2,520百万円を丸ごとキャッシュアウトにすると、返済前フリーキャッシュフローが1,578百万円ではなく大幅なマイナスになり、以降のスケジュールが全滅します。金額の桁が明らかにおかしいと感じたら、まずここを疑ってください。
2. 利息を期末残高や当期返済後の残高で計算する。課題文が期首残高ベースと明示している以上、これは指示違反として減点されます。仮に指示がない場合でも、どちらの前提を採ったかをセルのコメントかメモ欄に一言書いておけば、採点者は前提の違いとして処理してくれます。
3. Exit株式価値で手元現金を戻し忘れる。本課題では300百万円と小さいため答えの大勢に影響しませんが、IRRは17.0%から16.8%へずれます。EVから引くのはネット有利子負債であって、グロスの借入残高ではありません。
4. スイープに上限を置かない。TLBの残高を超えてスイープする式を書くと、後半で残高がマイナスになります。本課題では残高が尽きないため表面化しませんが、Exit倍率や計画を動かした瞬間に破綻します。MIN関数で残高を上限とするひと手間を惜しまないでください。
5. 時間切れで感応度表だけが空欄になる、のではなく、Exitまで到達できない。これが最も重い失点です。40分の時点でデットスケジュールが終わっていなければ、残りの期を粗く埋めてでもExitとIRRまで到達させてください。前提を単純化した旨を1行書き添えれば、途中で止まったモデルより確実に高く評価されます。
180分版・上級版へ広げるときの追加論点
60分版で扱いを省いた論点は、長時間版になると正面から問われます。代表的なものを挙げておきます。
まず三表の完全連動です。60分版では損益からキャッシュフローへ直接落としましたが、長時間版では貸借対照表を作り、資産と負債・純資産の一致を検証させます。次にリボルビング・クレジット・ファシリティで、キャッシュ不足時に自動でドローする仕組みを組むと、利息計算に循環参照が生じます。反復計算を使うか、前期末残高で近似するかの判断が必要です。
さらに経営陣ロールオーバーとオプションプール、優先株やPIK金利を含む資本構成、繰越欠損金や支払利子の損金算入制限を反映したタックススケジュール、期中クロージングに伴う部分年度の処理が加わります。これらを個別に理解するだけでなく、1つのモデルに矛盾なく統合する順序については上級LBO統合モデルの作り方で扱っています。
よくある質問(FAQ)
Q. 60分でここまで終わりませんでした。落ちますか。
A. 本演習の到達目標である70点は、感応度分析を空欄にしても①〜④で満点近くを取れば届く水準です。ただし、初回で時間内に完走できないのは一般的です。同じ課題を3回解き直すと、2回目で作業の型が固まり、3回目で時間が余るようになります。まずは時間を気にせず最後まで到達させ、そのうえで測ってください。
Q. IRRの計算にIRR関数やXIRR関数を使ってもよいですか。
A. 使って構いません。本課題は出資と回収が1回ずつなので年率換算でも同じ答えになりますが、実際のテストでは中間配当やアドオン投資でキャッシュフローが複数回発生することがあり、その場合はXIRR関数が確実です。関数を使う場合も、答えが妥当な水準か(2.19倍で5年ならIRRは15〜20%程度)を暗算で確かめる習慣をつけてください。
Q. Excelのフォーマットは採点に影響しますか。
A. 本演習では「構造の明快さと検算」で10点を配分しています。色分けの厳密さより、前提が1か所にまとまっていること、本体の式にハードコードされた数値がないこと、検算行があることが評価されます。見た目を整える時間があるなら、検算行を1本足すほうが得点効率は高くなります。
Q. 与えられていない前提を自分で置いてもよいですか。
A. 置いて構いませんが、必ずどこかに明記してください。前提を置いたこと自体は減点になりませんが、無断で置いた前提が答えを動かすと、採点者は「間違い」として扱わざるを得ません。「◯◯は与件にないため△△と仮定」と1行書くだけで、判断力の証明に変わります。
Q. 紙とペンだけで解く形式にも同じ準備が通用しますか。
A. 考え方の骨格は同じですが、暗算しやすいよう数値を丸める技術が別途必要です。口頭・紙ベースの簡易版についてはペーパーLBOの解き方で、10分で解き切る手順を扱っています。
まとめ
60分のLBOモデリングテストは、S&U、フリーキャッシュフロー、デットスケジュール、Exitの4ブロックを一本の線でつなぎ切れるかを見る試験です。本記事の設例では、取得EV 28,800百万円・借入14,400百万円・出資15,600百万円で入り、5年間で有利子負債を4,510百万円まで減らし、Exit株式価値34,190百万円、MOIC 2.19倍、IRR 17.0%という答えになりました。
配点の中心はデットスケジュールにあり、ここが崩れるとExit計算まで連鎖して失点します。時間が足りないときは感応度分析を捨て、前提を単純化してでもIRRまで到達させるのが正解です。そして、累計フリーキャッシュフロー9,890百万円と累計返済額9,890百万円の一致のような検算を1本入れておけば、致命的なずれは事前に検知できます。
解き終えたら、数値の正誤だけでなく「リターンの53.2%がデレバレッジ由来である」という構造まで言語化してみてください。モデルテストの本当の関門は、計算のあとに続く3行のコメントにあります。
同じ課題を、前提を変えて何度も解けるようにする
本記事の設例は1本ですが、実際の選考では業種・資本構成・保有期間が毎回異なります。LBOマスター講座では、取得倍率やトランシェ構成を差し替えながらモデルを組み直す演習と、投資委員会向けの見解の書き方まで扱っています。
出典・参考(2026年8月確認)
- 国税庁「No.5759 法人税の税率」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm (設例の税率前提の参考)
- 財務省「法人課税に関する基本的な資料」 https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/c01.htm (法人実効税率の推移。設例で30.0%と置いた根拠の参考)
- 日本銀行「貸出約定平均金利」 https://www.boj.or.jp/statistics/dl/loan/yaku/index.htm (設例の借入金利水準を考えるうえでの参考統計)
※設例の企業・数値・課題文・採点基準はすべて本記事のために独自に作成した仮設例であり、特定の企業・ファンド・選考プロセスに基づくものではありません。
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。年収・市場情報は執筆時点の公開情報に基づく参考値です。