この記事で分かること
- IRRとMOICの定義・計算式と、両者の対応関係(早見マトリクス付き)
- 「同じMOICでも保有期間でIRRが大きく変わる」ことの意味
- IRRだけ・MOICだけで判断すると誤る典型ケースと、面接での問われ方
結論:2つはセットで見る指標
MOIC(Multiple on Invested Capital)は「投資額の何倍になったか」という倍率、IRR(Internal Rate of Return)は「時間を考慮した年率リターン」です。MOICは時間を無視し、IRRは時間に敏感——性質が正反対なので、PEの投資判断・実績評価では必ず両方をセットで確認します。
| 観点 | MOIC | IRR |
|---|---|---|
| 定義 | 回収総額 ÷ 投資額(倍率) | 投資キャッシュフローのNPVをゼロにする割引率(年率) |
| 時間の考慮 | しない | する(早い回収ほど高くなる) |
| 直感的な意味 | 「いくら儲かったか」 | 「どれだけ効率よく儲かったか」 |
| 弱点 | 5年の2.0xも10年の2.0xも同じ値 | 早期の小さな回収で見かけが良くなる/再投資の仮定 |
| 主な使いどころ | ファンドの絶対的な稼ぎ・LP報告 | 案件間の効率比較・ハードルレートとの比較 |
計算式と最小設例
投資100が5年後に250で回収された場合、MOICは2.5x、IRRは 2.51/5 − 1 = 20.1% です。この「一括回収なら両者は機械的に変換できる」関係を押さえると、次のマトリクスが暗算の武器になります。
| MOIC\保有年数 | 3年 | 4年 | 5年 | 7年 |
|---|---|---|---|---|
| 1.5x | 14.5 | 10.7 | 8.4 | 6.0 |
| 2.0x | 26.0 | 18.9 | 14.9 | 10.4 |
| 2.5x | 35.7 | 25.7 | 20.1 | 14.0 |
| 3.0x | 44.2 | 31.6 | 24.6 | 17.0 |
面接のペーパーLBOで最後に問われる「IRRはおよそ何%か?」は、この表の感覚(例:5年2.0xなら約15%、5年3.0xなら約25%)を覚えておくと即答できます。
時間がIRRに与える影響
同じMOIC 2.5xでも、保有期間が延びるとIRRは大きく低下します。
どちらか一方だけで判断すると誤る
次の2案件を比べます(いずれも投資100・一括回収の設例)。
| 案件 | 保有期間 | 回収額 | MOIC | IRR |
|---|---|---|---|---|
| 案件A(早期売却) | 3年 | 200 | 2.0x | 26.0% |
| 案件B(長期保有) | 5年 | 280 | 2.8x | 22.9% |
IRRでは案件Aが勝ち、MOIC(=実際に増えたお金)では案件Bが勝ちます。ファンドには資金を寝かさず回転させる価値(IRR視点)と、限られた案件数で大きく稼ぐ価値(MOIC視点)の両方があり、どちらを優先するかは残存投資期間・再投資機会・ファンド全体の状況に依存します。ICでも「IRRは立つがMOICが薄い」案件はしばしば議論になります。
実務での注意点
- 中間分配とIRR:配当リキャップ等の早期回収はIRRを押し上げますが、MOICへの寄与は限定的です。IRRの改善が「価値創造」なのか「回収タイミングの操作」なのかを分けて評価します。
- グロスとネット:ファンド報告では運用報酬・成功報酬控除後(ネット)と控除前(グロス)で数値が異なります。どちらの数字かを常に確認します。
- ファンドレベル指標との関係:LP向けにはTVPI・DPI等も併用されます(本記事はディールレベルの整理です)。
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保有年数・回収額を変えるとMOICとIRRが連動して動くミニモデル。そのままダウンロードできます。
面接での問われ方
Q. 投資100が5年で3倍になりました。IRRはおよそ何%ですか?(暗算頻出)
A. 表2の感覚で「約25%」と即答し、根拠として 3.0^(1/5)−1 ≒ 24.6% に触れられれば十分です。
Q. IRRの限界を挙げてください。
A. ①早期回収で見かけが良くなる(金額の大きさを反映しない)②中間キャッシュフローの再投資を暗黙に仮定する③マイナス・複数解のケースがある——のうち2つ言えれば合格水準です。MOIC併用が実務の答えになります。
まとめ
- MOICは「倍率」、IRRは「時間を考慮した年率」。必ずセットで見る。
- 一括回収なら IRR=MOIC^(1/n)−1。早見表の感覚は面接の武器になる。
- IRRとMOICの逆転は普通に起きる。どちらを取るかはファンドの文脈次第で、ICの典型論点。
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Debt Schedule・3ケース・リターン要因分解まで。IRR/MOICが「どこから生まれるか」を分解できるようになります。
設例・出典について
本文の計算例はすべて理解のための設例です(数値は事前に計算検証済み)。ファンド実績・個別案件の数値には言及していません。制度・実務慣行に関する記述を拡張する際は一次情報を本欄に記載します。