この記事で分かること
- 企業価値評価の3アプローチ(市場・取引・インカム)の長所と限界
- 結果を1枚に束ねるフットボールフィールドの読み方
- 「どの手法をいつ使うか」の実務的な選択基準
結論:手法は3系統、答えは「幅」
企業価値評価の手法は無数にあるように見えて、系統は3つだけです。①類似会社比較(市場が同業をどう値付けしているか)、②取引事例比較(実際のM&Aでいくら払われたか)、③DCF(事業が生むキャッシュの現在価値はいくらか)。
そして実務の答えは1つの数字ではなく、複数手法のレンジを重ねた「幅」です。手法ごとに見ている景色が違うため、重なるゾーンにこそ説得力が生まれます。
| 手法 | 強み | 限界 |
|---|---|---|
| 類似会社比較(Comps) | 市場の「今」を反映。客観的で速い | 真の類似会社は少ない。市場全体の過熱・悲観も映す |
| 取引事例比較 | 支配権プレミアム込みの実勢 | 件数が少なく情報開示も限定的。市況の時点ズレ |
| DCF | 事業の中身から積み上げる唯一の手法 | 前提に敏感(TV依存)。「作れてしまう」危うさ |
設例:3手法を同じ会社に当てる
EBITDA 1,000・ネットデット2,000の会社(設例)に3手法を適用し、株式価値のレンジを比べます。
- 類似会社比較:類似5社のEV/EBITDAが7.0〜9.0x → EV 7,000〜9,000 → 株式価値 5,000〜7,000
- 取引事例比較:過去案件が8.0〜10.0x(支配権プレミアム込み)→ 株式価値 6,000〜8,000
- DCF:WACC・永久成長率のレンジで 株式価値 5,500〜7,500
使い分けの実務基準
- 上場企業の少数株主価値・IPO:類似会社比較が主軸。市場との整合が問われます。
- M&A(支配権の移転):取引事例+DCFが主軸。支配権プレミアムとシナジーの議論が乗ります。
- 安定キャッシュフロー事業・インフラ:DCFの信頼度が相対的に高い領域です。
- 赤字・急成長企業:EBITDA系が使えず、売上マルチプルや将来正常化後の指標で代替します。
どの場面でも共通する作法は、主軸1手法+クロスチェック1〜2手法の組み合わせで提示することです。1手法単独の「一点見積り」は実務では通りません。
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面接での問われ方
Q. 主要なバリュエーション手法を挙げ、長所と限界を説明してください。
A. 表1を骨子に3系統を挙げ、「答えはレンジで、フットボールフィールドに束ねる」まで言えると実務感が伝わります。
Q. 3手法の結果が大きく食い違ったら、どう考えますか?
A. 差の「原因」を分解します——類似会社の選定、取引事例の時点・プレミアム、DCFの前提(特にTV)。食い違い自体が対象理解を深める材料です。
まとめ
- 手法は3系統。それぞれ見ている景色(市場・実勢・事業の中身)が違う。
- 答えは幅。フットボールフィールドの重複ゾーンが議論の土台になる。
- 主軸+クロスチェックの組み合わせで提示するのが実務の作法。各手法の詳細は個別記事へ。
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設例・出典について
本文の計算例・マルチプル水準は理解のための設例です。日本のM&A実務における算定書等の制度に言及する際は一次情報を本欄に記載します。