この記事で分かること

  • 複数事業を束ねた会社を「事業ごとに評価して合算する」SOTPの手順と設例
  • コングロマリットディスカウントの計測方法(設例:25%)
  • 本社費用・セグメント間取引など、SOTPで実務者が悩む論点の処理

SOTPはいつ必要になるか

性格の異なる複数事業を抱える会社を単一のマルチプルで評価すると、必ずどこかの事業を誤って値付けします。高成長のソフトウェア事業と成熟した製造事業を、同じEV/EBITDA 7倍で括ってよい理由はありません。SOTP(Sum of the Parts)はセグメントごとに適切な手法・マルチプルで評価し、合算して全体価値を出すアプローチです。コングロマリット・持株会社・事業ポートフォリオの入替え議論(分離・売却)で標準的に使われます。

設例:3事業の会社を分解する

表1:SOTPの設例(単位:百万円・設例)
セグメントEBITDA適用倍率事業価値倍率の根拠
A事業(成熟・安定)1008.0x800同業上場のComps中央値
B事業(低成長・装置型)605.0x300装置産業の類似取引水準
C事業(高成長)4010.0x400成長セクターのComps
事業価値合計(EV)2001,500ブレンド7.5x相当
−ネットデット(300)EVブリッジ
理論株式価値1,200
(参考)現在の時価総額900

理論株式価値1,200に対して時価総額が900——市場は分解価値より25%低くこの会社を評価しています((1,200−900)÷1,200=25%)。この差がコングロマリットディスカウントです。

ディスカウントはなぜ生じるか

  • 資本配分への不信:好調事業の稼ぎが不振事業の延命に回る懸念。
  • 分かりにくさ:セグメント開示の粒度が粗く、投資家が個別事業を評価しづらい。
  • 投資家層の分断:成長株投資家にも割安株投資家にも「純粋な投資対象」にならない。
  • 本社コスト:どのセグメントにも属さない管理コストが価値を目減りさせる。

実務論点:ここで精度が決まる

  • 本社費用の扱い:未配賦の本社費用は「本社コストの資本化」として負の価値項目に計上するのが丁寧です(例:年20の本社費用×該当倍率をマイナス計上)。無視すると合算価値が過大になります。
  • セグメント間取引:内部売上・内部利益は相殺し、外部ベースのEBITDAに引き直してから倍率を当てます。
  • 倍率の出典を分ける:各セグメントの倍率は、そのセグメントの純粋競合(ピュアプレイ)から取ります。全社Compsの使い回しではSOTPをやる意味がありません(Compsの作法)。
  • 分離コストの現実:分離すれば理論値が実現するとは限りません。スタンドアロンコスト・税負担・移行コストを差し引いた「実現可能価値」で語るのが実務です。

誰がSOTPを使うか

SOTPは分析手法であると同時に、変化を要求する側の武器でもあります。アクティビスト投資家は「分解価値>時価総額」を根拠に事業売却・スピンオフを提案し、経営側は同じ計算で防衛線(このままの方が価値が高い理由)を張ります。この攻防の構図はアクティビストの4類型で詳しく扱います。

Q. 面接で「SOTPはどんな時に使う?」と聞かれたら?

A. 「事業ごとにリスク・成長性が異なり単一マルチプルが正当化できない時です。セグメント別に適切な手法で評価して合算し、ネットデットと本社費用を調整します。時価総額との差からコングロマリットディスカウントも計測できます」。

Q. ディスカウントは常に「解消すべき非効率」ですか?

A. 必ずしもそうではありません。事業間のシナジー・内部資本市場・リスク分散に価値がある場合、分解はむしろ価値を壊します。ディスカウントの原因が構造的な非効率か、開示不足による誤解かの見極めが本質です。

まとめ

  • SOTPはセグメント別評価の合算。設例ではEV1,500−ND300=理論値1,200、時価900で25%のディスカウント。
  • 精度は「ピュアプレイ倍率」「本社費用の資本化」「内部取引の相殺」で決まる。
  • 理論値と実現可能価値は別物。分離コストまで見て初めて実務の議論になる。

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本記事について

本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。