この記事で分かること

  • DCF・マルチプル・ブリッジ・プロセスの4領域×計20個の定番ミスと防ぎ方
  • それぞれの落とし穴の「なぜ間違いなのか」を原理から短く説明
  • 提出前のセルフレビューにそのまま使えるチェックリスト形式

DCFの落とし穴(8個)

表1:DCF編(詳細はDCFガイド・WACC・TV)
#落とし穴なぜ間違いか
1FCFに支払利息を引いてからWACCで割る利息はWACCの中で考慮済み。二重控除でEVが過小になる(FCFF/FCFE)
2永久成長率が経済成長率を大きく超える永遠に経済より速く成長する会社は経済そのものより大きくなる。論理矛盾
3最終年度のCapex<減価償却のままTVへ資産が永久に縮む前提で成長させる矛盾。定常状態では両者は接近する
4TVの割引期間を間違える(n年でなくn+1年等)TVは最終予測年度末時点の価値。割引年数は予測最終年に揃える
5名目CFを実質割引率で割る(またはその逆)インフレの扱いが分子分母で不整合になる。どちらかに統一する
6事業計画の楽観をそのまま採用計画は交渉文書でもある。過去実績との接続・達成率の検証が先(Reverse DCFで市場期待とも比較)
7感応度を付けずに点推定で提出DCFはレンジの手法。WACC×成長率のマトリクスは必須装備
8ストレスケースでもBSが破綻しないか未確認評価モデルの裏で資金繰りが回らない前提は絵に描いた餅

マルチプルの落とし穴(6個)

表2:マルチプル編(詳細はComps・選び方)
#落とし穴なぜ間違いか
9EVに対して純利益、時価総額に対してEBITDA分子分母の帰属不整合。資本構成が違う瞬間に比較が壊れる
10実績と予想、暦年と年度がバラバラ期間の違う倍率は別の指標。全社で統一してから比較する
11一過性損益を調整せず倍率計算分母が実力値でない倍率は意味を持たない(正常化調整)
12「類似」の根拠が業種名だけ成長率・マージン・規模が違えば倍率は違って当然。何で似ているかを明示する
13サイクルの山の利益に山の倍率を掛ける二重の高値掴み(サイクル業種の評価)
14Compsと類似取引の倍率を無自覚に混ぜる少数持分ベースと支配権ベースの混同(プレミアムの整理)

EVブリッジの落とし穴(3個)

表3:ブリッジ編(詳細はEVブリッジ)
#落とし穴なぜ間違いか
15ネットデットに現金同等物以外の資産を混ぜる/デットライク項目を漏らす退職給付不足・係争引当等の負債性項目の見落としは対価の払い過ぎに直結(財務DD)
16少数株主持分・持分法投資の調整漏れEVとEBITDAの連結範囲が非対称になる
17希薄化(SO・転換社債)を無視した株式数1株価値が過大に出る。潜在株式は必ず確認

プロセスの落とし穴(3個)

表4:プロセス編
#落とし穴なぜ間違いか
18結論の数字を先に決めて前提を逆算する評価でなく作文。前提→結論の一方通行が崩れた資料は検証で必ず崩れる
19手法間の矛盾を放置(DCFだけ極端に高い等)ズレの理由を説明できないなら、どこかの前提が壊れているサイン(フットボールチャート)
20数字の出典・基準日を記録しない株価・為替・残高の基準日が曖昧な資料は更新も検証もできない

Q. 20個は多くて覚えられません。優先順位は?

A. 原理で束ねると3つに圧縮できます。「①分子と分母(CFと割引率、価値と指標)の整合」「②実力値ベース(一過性・サイクル・正常化)」「③ベースの区別(支配権・流動性・期間)」。個別の落とし穴はすべてこの3原則の違反例です。

Q. レビュアーはどうやってミスを見つけるのですか?

A. 逆算と突合です。インプライド倍率(DCFの結果をEBITDAで割る)が市場水準から飛んでいないか、TVがEVの何割か、Compsの中央値と対象の位置関係を確認します。出力側から検算する癖をつけると、自分のミスも同じ方法で先に見つけられます。

まとめ

  • 落とし穴20個の正体は3原則の違反:分子分母の整合・実力値ベース・価値ベースの区別。
  • DCFは二重控除とTV、マルチプルは期間統一と正常化、ブリッジはデットライク項目が定番の事故現場。
  • 提出前にこの表で自己レビューし、出力側からの逆算(インプライド倍率)で検算する。

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本記事について

本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。