この​記事で​分かる​こと

  • 評価額を動かす4つの市場変数(無リスク金利・株式リスクプレミアム・信用​スプレッド=デットコスト・適用倍率の水準)と、それぞれを日本のどの一次統計で確認できるか
  • 割引率が1pt動くと評価額はどれだけ動くか。回収期間の長さで感応度がどう変わるかを整数設例で検算した結果
  • 「割引率だけ引き上げて出口倍率を据え置く」シナリオ設計がなぜ整合しないか、数値でどれだけの誤差になるか
  • シナリオ方式・レンジ方式・感応度表方式という3つのモデル実装方法

結論:評価額を​動かすのは​事業計画ではなく、​割引率と​出口倍率と​いう​2つの​市場変数

同じ事業計画、同じ収益力の会社を評価しても、評価を行う時期が違えば算出される評価額は大きく変わります。原因は事業そのものが変わったからではありません。DCF法で使う割引率(無リスク金利と株式リスクプレミアムから求める株主資本​コスト、およびデットコストを加重したWACC)と、マルチプル法で使う出口・適用倍率の水準という、2つの「市場変数」が時期によって動くためです。

この2つを固定値のまま置き続ける限り、モデルは「この事業計画なら本源的にいくらか」までしか語れず、「今の市場環境を踏まえるといくらになるか」を語ることができません。本稿では、日本銀行・日本取引所​グループ・財務省が公表する一次統計で金利水準とマルチプル水準の実際の推移を確認したうえで、割引率が1pt動くとDCFの結論がどれだけ動くかを整数設例で検算し、割引率だけを動かして出口倍率を据え置くシナリオ設計がどれだけの誤差を生むかを数値で示します。なお、業種固有の需給サイクル(好況・不況による利益の振れ)を評価にどう反映するかはサイクル​業種の​バリュエーション|ピーク​利益の​罠と​正常化収益力で扱っており、本稿の対象はそれとは別の、市場全体の割引率とマルチプル水準の変動です。

評価額を​動かす​市場変数の​分解

DCF法とマルチプル法のいずれも、事業計画(将来キャッシュフローやEBITDAの見通し)とは別に、市場から与えられる前提を必要とします。市場変数は大きく4つに分解できます。

評価額を動かす市場変数の分解(概念図) 無リスク金利 (Rf) 株式リスクプレミアム (ERP) 出口・適用倍率の水準 (EV/EBITDA等) 株主資本コスト(Ke) =Rf+β×ERP デットコスト Kd×(1-税率) WACC(割引率) 評価額(EV) =将来FCFの現在価値+出口価値の現在価値 ×E/(D+E) ×D/(D+E)
図:評価額を​動かす​市場変数の​分解​(概念図)。​株主資本​コスト・​WACCの​具体的な​算出手順は​後述の​リンク先で​解説しています。

無リスク金利(リスクフリーレート)は、日本では長期国債の利回りを基準にするのが一般的で、財務省「国債金利情報」で年限別・日次に確認できます。株式リスクプレミアム(ERP)は株式市場全体への追加要求リターンで、ヒストリカル法・インプライド法などデータ提供機関の算出手法によって水準が変わるため、採用した出典を明示する必要があります。株主資本コストの求め方(CAPM)そのものはWACCの​計算方法|CAPM・​資本構成・βの​取り扱いを​設例で​理解するで、非上場企業向けのビルドアップ法とサイズプレミアム・企業固有リスクプレミアムの扱いは株主資本コストの実務計算|ビルドアップ法とサイズプレミアム・企業固有リスクプレミアムで解説しているため、本稿では繰り返しません。

デットコストは、対象企業自身の借入金利や社債利回りが観測できればそれを、できなければ無リスク金利に信用スプレッド(クレジットカーブ​(信用スプレッド曲線))を上乗せして推定します。日本国内では、日本銀行が公表する銀行の貸出約定平均金利が、資金調達コストの推移を確認できる数少ない公表統計の一つです(次章で実際の数値を確認します)。出口・適用倍率の水準は、類似上場企業のマルチプル(EV/EBITDA・PERなど)の実際の分布として、日本取引所グループの統計から確認できます。マルチプルそのものの選び方はマルチプルの選び方完全ガイド|EV/EBITDA・PER・PBR・EV/Salesの使い分けを、DCFとマルチプルの答えがズレる理由はDCFと​マルチプルで​評価額が​ズレる​理由|どちらを​信じるかではなく、​ズレを​読むを参照してください。本稿は、この2つの手法それぞれに投入する市場変数そのものが、時期によってどう動くかに焦点を当てます。

データで​見る:日本の​一次​統計から​確認する​金利と​マルチプル​水準の​推移

ここからは、実際の一次統計を使って、無リスク金利と市場全体のマルチプル水準がどう推移してきたかを確認します。数値はすべて2026年9月10日にアクセスして取得したものです(出所・取得方法は末尾の出典欄に記載)。

無リスク​金利:10年国債利回りは​10年で​大きく​変わった

財務省「国債金利情報」が公表する10年国債の複利利回り(各年9月1日前後の値、2026年のみ直近の営業日である9月9日の値)を並べると、次のとおりです。

時点10年国債利回り
2016年9月1日-0.047%
2020年9月1日0.051%
2021年9月1日0.035%
2022年9月1日0.250%
2023年9月1日0.636%
2024年9月2日0.936%
2025年9月1日1.633%
2026年9月9日(最新)2.891%
10年国債利回りの推移(各年9月) 3% 2% 1% 0% -0.05% 0.04% 0.94% 2.89% 2016 2020 2021 2022 2023 2024 2025 2026 単位:%。各年9月1日前後の値(2026年のみ9月9日)。
出所:財務省​「国債金利情報」​(jgbcm.csv/jgbcm_all.csv)を​基に​大手町​プレップ​作成。

2016年時点でマイナス圏だった10年国債利回りは、2022年以降に上昇ペースが明確に速まり、2024年9月の0.936%から2025年9月の1.633%、2026年9月9日の2.891%へと、直近2年でさらに約2.0pt近く上昇しています。無リスク金利は株主資本コスト・デットコストの両方に直接効いてくるため、この変化幅がそのまま「割引率が動きうる現実的なレンジ」の目安になります。

デットコスト:国内銀行の​新規貸出金利も​上昇している

日本銀行「貸出約定平均金利(月次)」のうち、国内銀行が当月に実行した新規貸出全体(短期・長期を合算)の約定金利の平均値(新規/総合/国内銀行)を見ると、次のとおりです。個社の信用スプレッドそのものではありませんが、国内の資金調達コストの推移を確認できる公表統計です。

時点新規貸出約定平均金利(総合)
2020年7月0.748%
2024年7月0.794%
2025年7月1.280%
2026年7月(最新)1.706%

10年国債利回りと同様、国内銀行の新規貸出金利も2024年から2026年にかけて明確に上昇しています。ただし上昇幅は同一ではなく、両者の差(スプレッドに相当する部分)自体も動いています。この統計は短期・長期の貸出を合算した平均値であるため、個社の信用スプレッドを直接示すものではない点に注意してください。実務でデットコストを推定する際は、対象企業自身の借入条件、または類似格付の社債利回りを優先し、この統計はあくまで市場全体の資金調達コストの方向感を確認する参考値として使います。

適用倍率の​水準:​金利が​上がっても​市場全体の​倍率は​下がるとは​限らない

日本取引所グループ「規模別・業種別PER・PBR(連結)」のプライム市場・総合(金融業含む全業種の単純平均)を見ると、次のとおりです。

時点(月末)単純PER単純PBR加重PER加重PBR
2024年8月16.9倍1.2倍16.8倍1.4倍
2025年8月16.8倍1.3倍17.2倍1.5倍
2026年8月(最新)19.3倍1.6倍20.8倍1.8倍

ここで注目すべきは、10年国債利回りが2024年8月末の0.922%から2026年8月末の2.943%へ約2.0pt上昇した同じ期間に、プライム市場全体の平均PER・PBRはむしろ上昇している(単純PERは16.9倍→19.3倍、単純PBRは1.2倍→1.6倍)という事実です。理論上は「割引率が上がれば、他の条件が同じなら倍率は下がりやすい」という関係が成り立ちますが、実際の市場では企業の増益見通し、株主還元・資本効率改善への評価、需給など他の要因が同時に働くため、金利と倍率が機械的に逆相関するとは限りません。これは市況の先行きを示唆するものではなく、あくまで「割引率と倍率は別々に動く別の変数であり、一方から他方を単純に推測できない」ことを示す実例として押さえておいてください。マルチプル水準の時系列比較の考え方はヒストリカル・​マルチプルレンジも参照してください。

感応度の​実感:割引率が​1pt動くと​評価額は​どれだけ​動くか

ここからは、割引率が1pt動いた時に評価額がどれだけ動くかを、実際に計算して確認します。以下はすべて理解のための整数設例であり、自分で検算した数値です。まず直感をつかむために、単一のキャッシュフロー100(百万円、以下同じ単位を仮定した設例値)を、1年後に受け取る場合と10年後に受け取る場合とで比較します。WACCを8%から9%へ1pt引き上げたときの現在価値の変化は次のとおりです。

1年後のキャッシュフロー100の現在価値
WACC8%:100÷1.08=92.59 → WACC9%:100÷1.09=91.74 変化率:-0.92%

10年後のキャッシュフロー100の現在価値
WACC8%:100÷1.08¹⁰=46.32 → WACC9%:100÷1.09¹⁰=42.24 変化率:-8.80%

同じ1ptの割引率変化でも、10年後のキャッシュフローは1年後のキャッシュフローよりおよそ9.6倍も大きく動きます。回収が遠い将来であるほど、割引の複利効果が長くかかるためです。これを、事業の性質が異なる2つの単純なケースに当てはめて確認します。ケースAは3年で資金回収が完了する事業(毎年100の年金型キャッシュフロー)、ケースBは半永久的に継続する事業(毎年100が永久に続くパーペチュイティ)です。参考として、10年間の年金型キャッシュフローも並べます。

キャッシュフローの継続期間WACC8%のPVWACC9%のPV変化率
3年(年金型・毎年100)257.71253.13-1.78%
10年(年金型・毎年100)671.01641.77-4.36%
永続(パーペチュイティ・毎年100)1,250.001,111.11-11.11%
WACC1pt上昇時のPV変化率(設例) 0% -5% -10% -1.78% -4.36% -11.11% 3年(年金型) 10年(年金型) 永続(TVそのもの)
図:設例に​基づく​WACC​感応度の​比較。​継続期間が​長い​キャッシュフローほど、​同じ​1ptの​割引率変化が​評価額に​与える​影響が​大きくなる。

この関係は、DCFのターミナルバリュー(TVの計算方法はターミナル​バリューの​計算|永久成長法と​Exit​マルチプル​法の​クロスチェックを参照)が事実上の「永続キャッシュフロー」であるため、TVの比重が大きい評価ほど割引率の感応度が高いことを意味します。実際、前章で確認したとおり10年国債利回りは2024年8月末から2026年8月末の2年間で約2.0pt上昇しており、この変化のうちどの程度がWACCに反映されるべきかは個別の資本構成・βの前提次第ですが、少なくとも「1pt程度の割引率変化は、この2年間で現実に起こりうる規模だった」ことは、本章の設例が架空の極端な前提ではないことを裏付けています。

倍率側の​効き​方:入口=出口と​いう​前提が​持つ意味

DCFだけでなく、マルチプル法・LBOのExit想定でも同じ問題が起きます。多くのモデルは実務上の簡便化として「出口倍率=入口倍率」と置きますが、この前提は「入口で払った時と同じ市場環境が、出口の時点でも続いている」という、それ自体が強い仮定です。景気循環による業種固有の利益変動に対する倍率の逆説(好況期ほど低倍率に見える現象)はサイクル​業種の​バリュエーションで扱っているため、ここでは市場全体の割引率水準と倍率水準の整合性に絞って確認します。

倍率の水準は、単純化すると永久成長モデルの分母(WACC-g)に反比例する関係にあります。成長率gを一切変えずにWACCだけを1pt引き上げた場合、理論上の倍率はどう動くべきかを計算します。

倍率と割引率の整合性チェック(設例)
g=2%で据え置いたまま、WACCを8%→9%へ1pt引き上げると、
WACC8%:分母8%-2%=6%→倍率の指数 1÷0.06=16.67
WACC9%:分母9%-2%=7%→倍率の指数 1÷0.07=14.29
14.29÷16.67≒0.857(約14.3%の低下)。入口倍率が9.0xで市場水準に合わせて設定されていたとすると、WACC上昇と整合する出口倍率はおよそ9.0×0.857≒7.7xとなり、9.0xのまま据え置くのは前提が矛盾します。
※これは倍率と割引率の関係を理解するための単純化した目安であり、実際の倍率は成長率・マージン・需給等の複数要因で決まるため、この式だけで倍率の水準を決定してよいという意味ではありません。

次章のシナリオ設計では、この「WACCを動かしたら倍率も動かす」という整合性を、具体的なEV計算で確認します。なお、本稿で計算するEVはすべて企業価値(Enterprise Value)であり、株主価値(Equity Value)ではありません。両者の違いとブリッジ計算は企業価値と​エクイティ​バリューの​違いと​ブリッジ計算を参照してください。

モデルへの​落と​し込み3通り

ここからは、以下の共通の設例を使って、割引率と出口倍率という2つの市場変数をモデルにどう落とし込むかを3通り確認します。事業計画(各年のFCFおよび5年後のEBITDA水準)はすべてのシナリオで完全に同一とし、変化させるのは市場変数(WACCと出口倍率)だけです。5年間の予測FCFは1年目80、2年目85、3年目90、4年目95、5年目100(百万円)、5年後のEBITDAは1,400(百万円)とします。

シナリオ​方式:強気・​基準・​弱気で​割引率と​出口倍率を​組で​動かす

強気・基準・弱気の3シナリオで、WACCと出口倍率をペアで動かします。あわせて、「WACCだけ弱気に、出口倍率は基準のまま据え置く」という誤った組み合わせも計算し、どれだけの誤差が生じるかを確認します。

シナリオWACC出口倍率EV(百万円)
強気7%10.0x10,348
基準8%9.0x8,932
弱気9%8.0x7,626
誤った組み合わせ(WACCのみ弱気)9%9.0x(据え置き)8,536

正しく組んだ弱気シナリオではEVが基準の8,932から7,626まで約14.6%下がります。しかし「WACCだけ弱気にして出口倍率は基準のまま据え置く」という誤った組み合わせでは、EVは8,536までしか下がりません(基準比で約4.4%の低下)。同じ「弱気シナリオのつもり」でも、本来より約910百万円、率にして約11.9%も評価額を過大に見積もっていることになります。割引率だけを動かして倍率を据え置くことは、暗黙のうちに「出口の市場は今より良い状態のまま」と仮定していることと同じであり、弱気シナリオの本来の意味(市場全体が悪化する)を正しく表現できていません。

レンジ方式:​1つの​答えではなく​幅で​示す

上表の強気10,348から弱気7,626までの幅(約▲26%〜+16%、基準比)をそのまま評価レンジとして提示する方法です。単一の点推定を出すよりも、「どの前提の組み合わせでこの範囲になるか」を明示できるため、投資委員会(IC)向けの説明や、前提の妥当性そのものを議論したい局面で有効です。ExcelでのレンジやDCFとマルチプルの評価幅を並べて示す実装は感応度分析・​シナリオ​分析の​作り​方|データテーブル​実装と​ケース設計を参照してください。

感応度表方式:WACC×成長率、​WACC×出口倍率の​2軸で​見る

シナリオを3つに絞らず、WACCと出口倍率(またはWACCと永久成長率g)を格子状に振って感応度表を作る方法です。同じ設例で、WACC(7%・8%・9%)と出口倍率(8.0x・9.0x・10.0x)を組み合わせたEVは次のとおりです(単位:百万円)。

出口倍率\WACC7%8%9%
8.0x8,3527,9797,626
9.0x9,3508,9328,536
10.0x10,3489,8849,446

表内の対角線(左上7%・10.0xから右下9%・8.0xへ向かう組み合わせ)が、WACCと出口倍率を整合的に動かした場合の値です。太字にした9%・9.0xのセルは、前節の「誤った組み合わせ」に相当し、対角線上の本来の弱気セル(9%・8.0x=7,626)より高く出ていることが、表全体を見渡すことで一目で確認できます。感応度表をExcelのデータテーブル機能で組む具体的な手順は感応度分析・​シナリオ​分析の​作り​方|データテーブル​実装と​ケース設計で解説しています。永久成長率gを使う場合も同様に、WACC×gの格子表を作り、TVの計算方法(ターミナル​バリューの​計算)に沿って各セルを計算します。

やりがちな​誤り

市場変数を扱う際に実務で繰り返し見られる誤りを3つ挙げます。

  • 市況が良い時期の倍率をそのまま出口に使う。入口時点で観測された高い倍率を、5年後・10年後の出口でも同じ水準が続く前提として使ってしまうと、前節で確認した「9.0xを据え置く誤り」と同じ構造の過大評価になります。
  • 株式リスクプレミアムを過去の平均値のまま固定し続ける。ERPの算出方法自体(ヒストリカル法・インプライド法)や採用期間によって水準は変わり得ます。出典と算出方法を明示しないまま「昔から使っている数字」を使い続けることは、前提の説明責任を放棄することになります。
  • 金利上昇局面で割引率だけ引き上げ、成長率・倍率は据え置く。本稿の核心である誤りです。無リスク金利が上がれば、株主資本コスト・デットコストの両方に波及するのが自然ですが、同じ市場環境の変化は出口倍率にも影響しうるという発想が抜け落ちやすい点に注意してください。

レビュー時の​チェックポイント

モデルレビューでは、個々の前提の妥当性だけでなく、前提の「組み合わせ」が1つの世界観として整合しているかを確認します。

  • 割引率(WACC)を動かしたシナリオで、出口倍率・永久成長率も連動して動いているか。据え置かれたままになっていないか。
  • 無リスク金利の前提が、評価基準日時点で実際に観測できる国債利回りと大きく乖離していないか、乖離がある場合にその理由を説明できるか。
  • 株式リスクプレミアム・サイズプレミアム等の出典と算出時点が明示されているか。
  • 強気・弱気シナリオが、単に数値を大きく・小さく振っただけでなく、「その市場環境なら他の前提もどう動くはずか」を踏まえて設計されているか。

実務での​使いどころ

市場変数の感応度とシナリオ整合性は、次のような場面で特に重要になります。第一に、投資委員会(IC)向けの説明では、単一の評価額よりも「どの市場前提でこの範囲になるか」を示すレンジ方式・感応度表方式のほうが、意思決定者の納得感を得やすくなります。第二に、デューデリジェンスでは、対象案件の評価モデルに使われている割引率と倍率の組み合わせが整合しているかどうかが、前提の妥当性検証における重要な着眼点になります。第三に、ファンドのExit想定では、投資期間中に市場全体の金利・倍率環境が変わりうることを前提にレンジを持たせておくことで、IRR・MOICの想定にも幅を持たせられます。リターン指標の計算そのものはIRRと​MOICの​計算と​使い​分け|PEの​リターン​指標を​正しく​読むを参照してください。

感応度表を自分の手で作って確認する

本稿のWACC×出口倍率の3×3表は、手元のExcelでも同じ数字が再現できます。データテーブル機能を使った具体的な組み方は、モデリングラボの練習課題で手を動かしながら確認できます。

→ モデリングラボを​見る

よく​ある​質問​(FAQ)

なぜ​同じ​事業計画でも​評価額が​時期に​よって​変わるのですか?

事業計画​その​ものではなく、​割引率​(無​リスク​金利・​株式​リスクプレミアム・​デットコストから​構成される)と​出口・​適用倍率の​水準と​いう​2つの​市場変数が、​評価を​行う​時期に​よって​変動する​ためです。​この​2つを​固定値の​まま​扱うと、​モデルは​市況の​変化を​反映できません。

割引率と​出口倍率、​どちらが​評価額への​影響が​大きいですか?

一律には​言えませんが、​本稿の​設例では​WACCが​1pt​動くだけで、​永続的な​キャッシュフロー​(ターミナル​バリューに​相当)は​約11%動きました。​倍率側も、​入口・出口の​水準設定次第で​これと​同程度か​それ以上に​効く​ため、​どちらか​一方だけを​気に​するのではなく、​両者を​同じ​市場観のもとで​組み合わせて​動かすことが​重要です。

株式​リスクプレミアムは​何を​見て​決めればよいですか?

ヒストリカル​法・​インプライド​法など​データ​提供機関の​算出手法に​よって​水準が​変わる​ため、​本稿では​特定の​数値を​示していません。​採用した​算出方法と​出典を​明示する​ことが​実務上の​要諦です。​詳しい​考え方は​株主資本​コストの​実務計算を​参照してください。

出口倍率は​入口倍率と​同じに​すべきですか?

一律の​ルールは​ありません。​同じに​する​場合は​「入口と同じ市場環境が出口でも続く」と​いう​前提を​置いている​ことを​自覚し、​割引率を​動かす​シナリオでは​出口倍率も​連動させて​動かすことが​必要です。​据え置く​場合は、​その​理由を​説明できる​状態に​しておく​必要が​あります。

感応度分析は​どうやって​Excelで​作れば​よいですか?

WACCと​出口倍率​(または永久成長率)を​軸に​した​データテーブル​機能で​組むのが​一般的です。​具体的な​実装手順は​感応度分析・​シナリオ​分析の​作り方で​解説しています。

まとめ

同じ事業計画でも評価額が変わる原因は、割引率と出口倍率という2つの市場変数の変動にあります。無リスク金利は財務省「国債金利情報」、デットコストの参考値は日本銀行「貸出約定平均金利」、マルチプル水準は日本取引所グループの統計で実際に確認でき、直近2年間で無リスク金利は約2.0pt上昇した一方、市場全体のPER・PBRはむしろ上昇するなど、単純な逆相関にはなっていません。割引率が1pt動いた時の評価額への影響は、キャッシュフローの継続期間が長いほど大きくなり、設例では3年の年金型で約1.8%、永続キャッシュフローで約11.1%動きました。そして、割引率だけを動かして出口倍率を据え置くと、本来より約12%評価額を過大に見積もる誤りにつながります。シナリオ方式・レンジ方式・感応度表方式のいずれを使う場合も、割引率と倍率を同じ市場観のもとで組にして動かすことが、評価モデルの整合性を保つ鍵になります。

出典・参考​(2026年9月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。本文中の金利・PER・PBR等の市場データはすべて公表統計の実測値ですが、将来の金利水準・市場水準を予測または示唆するものではなく、投資判断の根拠として用いないでください。