この記事で分かること

  • CAPM(資本資産評価モデル)の定義と計算式(リスクフリーレート・β・市場リスクプレミアム)
  • 整数設例で株主資本コストを実際に計算する手順と検算
  • 日本実務での各パラメータの置き方(10年国債・MRPの水準・サイズプレミアム)
  • 面接で「株主資本コストの求め方」を30秒で答える型

30秒で分かる定義

CAPM(Capital Asset Pricing Model、資本資産評価モデル、読み方:キャップエム)とは、株式投資家が要求するリターン(=株主資本コスト)を「リスクフリーレート+β×市場リスクプレミアム」で推計するモデルです。

分散投資では消せない「市場全体との連動リスク(システマティックリスク)」だけが超過リターンとして報われる、という理論に立ちます。個別銘柄固有のリスクは分散で消せるため、価格には織り込まれないと考えるのがポイントです。DCF法で使う割引率(WACC)のうち、株主資本コストの部分は実務ではほぼ例外なくCAPMで推計します。

なぜ実務で重要なのか

CAPMは「株式のリターンをいくら要求すべきか」を数式に落とす、実務上ほぼ唯一の共通言語です。

  • 投資銀行・FASDCF法の割引率算定や株価算定書の作成で毎回使います。第三者委員会やレビューで前提の根拠を問われる箇所でもあります。
  • PEファンド:投資検討時のハードルレートや、バリュエーションの目線合わせの参照点になります。
  • 経営企画:東証が要請する「資本コストや株価を意識した経営」への対応で、自社の株主資本コストを推計する場面が増えています。
  • 監査・会計:のれん・固定資産の減損テストで使う割引率の基礎にもなります。

計算式(または仕組み)

株主資本コスト Re = Rf + β × MRP
(MRP:市場リスクプレミアム = 市場全体の期待リターン E(Rm) − Rf)
  • Rf(リスクフリーレート):ほぼ無リスクとみなせる利回り。日本円のキャッシュフローなら長期国債(10年国債が代表的)の利回りを使います。
  • β(ベータ):市場全体が1%動いたときに、その株式が何%動くかの感応度。詳細はベータ(β)を参照してください。
  • MRP(市場リスクプレミアム):株式市場全体に投資する見返りとして、国債利回りに上乗せで要求されるリターンの幅です。

直感的には「安全資産の利回りを土台に、その銘柄の市場連動リスクの大きさ(β)に応じて、株式のリスク対価(MRP)を上乗せする」構造です。

整数設例で確認する

設例(架空数値):Rf=1.5%、β=1.2、MRP=6.0%とします。

Re = 1.5% + 1.2 × 6.0% = 1.5% + 7.2% = 8.7%

この会社の株主は、年率8.7%のリターンを期待できなければ投資に見合わない、という意味になります。βだけを0.8(市場より値動きが小さいディフェンシブ銘柄)に変えると、Re=1.5%+0.8×6.0%=1.5%+4.8%=6.3%まで下がります。βの置き方ひとつで割引率が2.4ポイント動き、DCFの評価額は大きく変わります。だからこそ実務ではβとMRPの根拠が厳しく問われます。

PL・BS・CFへの影響

CAPMの計算結果そのものが財務三表に載ることはありません。使われるのは「三表の外側」です。具体的には、(1)DCF法でフリーキャッシュフローを割り引くWACCの構成要素、(2)減損テストの割引率の基礎、(3)投資採算基準(ハードルレート)の設定、の3か所が代表です。つまりCAPMは三表を作る道具ではなく、三表から出てくるキャッシュフローを「価値」に変換する道具です。

財務モデル・Excelでの使い方

前提シートに次の3セルを独立して置き、計算式で参照するのが定石です。

  • Rf=1.5%(セルに出典と取得日をコメントで残す)
  • MRP=6.0%(推計方法・出典を明記)
  • β=1.2(類似会社からの推計プロセスを別表で示す)
  • 株主資本コスト= =Rf + Beta * MRP → そのままWACCモジュールへ接続

数値のハードコード(式の中に1.5%を直書き)は禁物です。また、βとMRPを2軸にした感応度分析のデータテーブルを添えて、評価額のレンジを示すのが実務の作法です。

この用語をExcelで「組める」状態にする

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

  • 誤解:「CAPMの結果は将来の実績リターンの予測」→正しくは「要求リターンの期待値」。単年の実際の株価リターンと一致しないのは当然で、モデルの欠陥ではありません。
  • 誤解:「Rfは足元の短期金利でよい」→正しくは評価対象キャッシュフローの通貨・期間に整合させる。長期のキャッシュフローを割り引くなら長期国債(10年など)の利回りを使います。
  • 誤解:「MRPには唯一の正解がある」→正しくは推計方法(ヒストリカル/インプライド)で差が出る。出典を明示したうえで、感応度でレンジを確認するのが実務対応です。
  • 確認ポイント:Rf・MRP・βの「時点」と「市場」が揃っているか。日本株のβにRfだけ米国債を使う、といった不整合は算定書レビューで真っ先に指摘されます。

日本実務での扱い(日本基準・IFRS・開示)

日本の評価実務(2026年7月時点)では、次のような運用が一般的です。

  • Rf:財務省が公表する10年国債利回りを使う例が多数派です。金利のある世界に戻って以降、Rfの取得日を明記する重要性が増しています。
  • MRP:概ね5〜7%程度のレンジで設定する例が多いとされます(実務慣行に基づく推定)。ヒストリカル推計とインプライド推計の併用が見られます。
  • サイズプレミアム:小型株や非上場会社の評価では、CAPMの結果に小規模リスクプレミアムを上乗せする実務が広く行われています。
  • ガイドライン:日本公認会計士協会の「企業価値評価ガイドライン」(経営研究調査会研究報告第32号)が、CAPMを株主資本コスト推計の標準的手法として整理しています。東証の資本コスト経営の要請についてはPBR1倍割れ問題も参照してください。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:株主資本コストはどうやって求めますか?
「CAPMを使います。リスクフリーレートに、βと市場リスクプレミアムの積を上乗せします。日本企業なら10年国債利回りをRfに置き、MRPは6%前後、βは類似上場会社から推計します。例えばRf1.5%・β1.2・MRP6%なら、1.5+7.2で8.7%です。」(30秒回答例)

深掘りでは「なぜ株主資本コストは負債コストより高いのか(残余請求権でリスクが高いため)」「βはどう推計するか(回帰・アンレバー/リレバー)」「非上場会社にどう適用するか」まで問われます。数式の暗記ではなく、各項の意味を自分の言葉で言えるかが見られています。

よくある質問(FAQ)

Q. CAPMで求まるのはWACCですか?
A. いいえ、株主資本コスト(エクイティのコスト)です。WACCはこれと税引後負債コストを、資本構成ウェイトで加重平均したもので、もう一段階の計算が必要です。

Q. βが1より大きい銘柄と小さい銘柄では何が違いますか?
A. β>1は市場より値動きが大きい銘柄(景気敏感株など)で、株主資本コストは高くなります。β<1は市場より値動きが小さいディフェンシブ銘柄で、コストは低くなります。

出典・参考(2026-07-20確認)

  • W. F. Sharpe, “Capital Asset Prices: A Theory of Market Equilibrium under Conditions of Risk,” Journal of Finance, 1964
  • 財務省「国債金利情報」(https://www.mof.go.jp/)
  • 日本公認会計士協会 経営研究調査会研究報告第32号「企業価値評価ガイドライン」(https://jicpa.or.jp/)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。