この記事で分かること

  • WACCの計算式と、設例による一気通貫の計算手順
  • CAPMの各パラメータ(リスクフリーレート・β・ERP)の置き方と論点
  • βのアンレバー/リレバーが必要になる理由と計算式

30秒で分かる定義

WACC(加重平均資本コスト)とは、株主資本コストと負債コスト(税引後)を資本構成で加重平均した、会社全体の資金調達コストです。DCF法でFCFを割り引く割引率として使われ、株主資本コストはCAPMで推定するのが実務の標準です。

WACCの計算式

WACC(加重平均資本コスト)は、株主と債権者がそれぞれ要求するリターンを、資本構成で加重平均したものです。DCFで事業のFCF(アンレバードFCF)を割り引く際の割引率として使います。

WACC = E/(D+E) × 株主資本コスト(Ke) + D/(D+E) × 負債コスト(Kd)×(1 − 税率) ※E・Dは原則として時価。負債コストに(1−税率)を掛けるのは、支払利息の節税効果を反映するためです。
WACCの構成(設例) 株主資本(E)= 7,000 ウエイト 70% Ke = 8.7%(CAPM) 有利子負債(D)= 3,000 ウエイト 30% / 税引後Kd = 1.4% 0.70 × 8.7% + 0.30 × 1.4% WACC ≒ 6.5%
図1:WACCの構成(設例)。時価ベースの資本構成E:D=70:30で加重します。

設例:パラメータを置いて計算する

表1:WACC計算のパラメータ(設例)
パラメータ設例値実務上の置き方
リスクフリーレート1.5%長期国債利回り(評価通貨と整合させる)
β(レバード)1.2類似上場企業から推計(次章)
株式リスクプレミアム(ERP)6.0%データ提供機関・調査に基づき出典を明示
負債コスト(税引前)2.0%実際の調達レート・格付対応スプレッド
実効税率30%限界税率ベース
資本構成(E:D・時価)70:30目標資本構成 or 類似会社水準

計算は2段階です。まずCAPMで株主資本コストを求めます。

Ke = リスクフリーレート + β × ERP = 1.5% + 1.2 × 6.0% = 8.7%

次に加重平均します。負債コストは税引後で1.4%(=2.0%×0.7)です。

WACC = 0.70 × 8.7% + 0.30 × 1.4% = 6.09% + 0.42% ≒ 6.5%

βのアンレバー/リレバー

非上場会社や事業の評価では、対象自身の株価がないため、類似上場企業のβを借りてきます。ただし各社のβには各社の資本構成(財務リスク)が織り込まれているため、いったん資本構成の影響を外し(アンレバー)、評価対象の資本構成で戻す(リレバー)必要があります。

βL = βU × ( 1 + (1 − 税率) × D/E ) ※設例:類似会社群のアンレバードβが0.9、対象のD/E=3,000/7,000≒0.43、税率30%の場合、βL=0.9×(1+0.7×0.43)≒1.17→約1.2。表1のβはこうして得た値です。

この手続きを飛ばして類似会社のβをそのまま使うと、資本構成の違いの分だけ割引率が歪みます。モデルレビューで最初に確認されるポイントの一つです。

WACCの感応度:±0.4ptで結果は大きく動く

βとERPの置き方でWACCがどう動くかを見ます。DCFの結果(特にターミナルバリュー)は割引率に敏感なため、WACC自体もレンジで扱うのが実務です。

表2:WACCの感応度(設例・%)
β\ERP5.5%6.0%6.5%
1.15.716.096.47
1.26.096.516.93
1.36.476.937.39

WACC6.0%と7.0%では、関連記事のDCF設例で株式価値が1割以上変わります。「WACCを何%にするか」の議論は、実質的に「価値をいくらにするか」の議論なのです。

実務の注意点

  • 分子との整合:名目FCFには名目WACC、円建てFCFには円建てパラメータ。通貨・インフレの前提を分子分母で揃えます。
  • 時価ベースの資本構成:Eは時価総額、Dは有利子負債。簿価の自己資本を使うのは典型的な誤りです。
  • サイズプレミアム等の追加調整:小規模企業への上乗せ等は、採用の有無・水準の出典を明示して一貫して適用します(出典なき「気持ちの上乗せ」は説明不能になります)。
  • WACCは万能ではない:事業ごとにリスクが異なる多角化企業では、事業別の割引率を検討します。

深掘りの木:βとリレバーの説明責任

WACCの構成要素を言えるだけでは、面接では足りません。各前提に「なぜその数字か」の説明責任の連鎖があります。頻出の深掘り順序で整理します。

  • 「βはどこから取りますか」——類似上場会社の実測β。ただし各社の資本構成が違うままでは比較できないので、一度アンレバー(事業βに戻す)して中央値を取り、対象会社の目標資本構成でリレバーする。
  • 「式は?」——βL=βU×(1+(1−t)×D/E)。本記事の設例ではβU0.9を目標D/E=30/70でリレバーして約1.17。ドリル:D/Eを1.0まで上げたら?——0.9×(1+0.7×1.0)=1.53。負債が増えるほど株主のリスク(β)が増える、という直感と式が一致していることを確認。
  • 「負債を増やすとWACCは下がりますか」——一方向ではない。負債コストは節税効果で安い(下げ圧力)が、D/Eの上昇はβと負債スプレッド自体を押し上げる(上げ圧力)。綱引きの結果、WACCはある資本構成の近傍で最小になる——「安いから増やすほど良い」は誤答。
  • 「サイズプレミアムは載せますか」——非上場・小型の評価実務では加算する慣行が広くある一方、理論的な支持は論争的。「実務の幅」として、載せる場合は根拠資料と水準を明示する、が正解の型。

3分で答えるなら:「WACCは資金提供者の要求リターンの加重平均。株主資本コストはCAPMで、βは類似会社をアンレバー→対象の資本構成でリレバー。負債コストは税引後。ウェイトは時価。前提を1つ動かすと評価がどれだけ動くかを感応度で併記します」。

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面接での問われ方

Q. WACCの計算式を説明してください。パラメータはどう置きますか?

A. 式→表1の順に、各パラメータを「何で・どこから」置くかまで言えると実務水準です。βのアンレバー/リレバーに自分から触れられると強い回答になります。

Q. 借入を増やすとWACCはどうなりますか?

A. 当初は低コストの負債と節税効果でWACCは低下し得ますが、レバレッジ上昇とともにKe・Kdの両方が上がるため、どこかで反転します。「単調に下がる」と答えるのは誤りです。

まとめ

  • WACC=時価ウエイトでKeと税引後Kdを加重平均。設例では6.5%。
  • KeはCAPMで推計し、βは類似会社からアンレバー→リレバーで持ち込む。
  • WACCはレンジで扱い、感応度とセットで提示するのが実務の作法。

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設例・出典について

本文の計算例はすべて理解のための設例です(数値は事前に計算検証済み)。ERP・サイズプレミアム等の市場パラメータを実案件で使用する際は、データ提供機関等の出典を本欄に明示します。