この記事で分かること

  • 非上場企業の評価が上場企業と違う3つの理由(市場価格・情報・流動性)
  • Comps・DCFを非上場に適用するときの調整ポイント(設例:8.0x→6.8x→EV340)
  • オーナー企業特有の論点——役員報酬・私的経費・キーマン依存の正常化

何が違うのか:3つの欠落

非上場企業には、上場企業の評価で当然に使える3つのものがありません。①市場価格(日々の株価という「市場の答え」がない)、②整った情報(監査済み開示・アナリスト予想がなく、管理会計も粗いことが多い)、③流動性(売りたいときに売れる市場がない)。評価の手法自体は同じ(3つのアプローチ)ですが、この欠落を埋める調整が加わります。

Compsの適用:倍率をそのまま使わない

表1:非上場企業へのComps適用の設例(単位:百万円・設例)
項目
上場類似会社のEV/EBITDA(中央値)8.0x
規模・流動性等を考慮した調整(本設例では−15%と仮置き)−1.2x
適用倍率6.8x
対象会社の正常化EBITDA(調整の作法50
EV=50×6.8x340
−ネットデット(役員借入金の整理後)(40)
株式価値300
  • 調整の根拠を言語化する:上場類似会社は対象より規模が大きく、調達力・顧客分散・経営体制で優位なことが多い——だから倍率を下げる、という理屈です。−15%は説明のための設例値で、相場ではありません。調整幅は評価目的(税務・取引・裁判)ごとの実務・判例の一次確認が必要な領域です(流動性ディスカウントの整理)。
  • 分母の正常化が先:オーナー役員の報酬水準・私的経費・関連当事者取引を市場水準に引き直してからでないと、倍率を掛ける意味がありません。

DCFの適用:情報の粗さと計画の質

  • 事業計画がない・粗いことが多く、過去実績の分解(数量×単価、顧客別)から評価者側が予測の骨格を作る場面が増えます。計画の出所と検証プロセスを評価書に残すのが誠実な作法です。
  • 割引率:βは上場類似会社から借りてアンレバー→リレバーの手順(WACCの章)。小規模性のリスクをどう織り込むかは前提の明示が必須の論点です。
  • キーマンリスク:オーナー社長の個人的関係が売上を支えている場合、その持続性はCFの前提そのものに関わります。数字でなくまず構造(承継後も残る売上か)で吟味します。

評価の「目的」で答えが変わることを知る

非上場株式の評価は、M&Aの値決め・税務(相続・贈与)・裁判(株式買取請求)などで枠組みが異なり、同じ会社でも目的により適正値が変わり得ます。M&A文脈では本記事の市場アプローチ・インカムアプローチが中心ですが、税務評価には固有のルール体系があるため、必ずその時点の制度を税務専門家に一次確認してください。

Q. 面接で「非上場企業の評価はどうしますか?」と聞かれたら?

A. 「手法は上場と同じくDCFとCompsですが、3つの調整を意識します。①分母の正常化(役員報酬・私的経費)、②類似会社との規模・流動性差の倍率調整、③βの借用とリレバー。評価目的によって枠組みが変わる点にも触れます」。

Q. ネットデットで「役員借入金の整理後」とあるのはなぜ?

A. オーナー企業では会社と個人の資金が混ざりがちで、役員からの借入が実質資本だったり、逆に会社資産に私的資産が混ざっていたりします。何が事業用の負債・資産かを仕分けてからブリッジ(EV→株式価値)を組むのが実務です。

まとめ

  • 非上場の評価=同じ手法+3つの欠落(価格・情報・流動性)を埋める調整。
  • 設例:8.0x→調整6.8x×正常化EBITDA50=EV340→株式価値300。調整幅は設例であり相場ではない。
  • 分母の正常化が先、調整の根拠は言語化、評価目的による枠組み差は一次確認。

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本記事について

本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。