この記事で分かること
- 複数の評価手法の結果を1枚のレンジ図(フットボールチャート)に束ねる方法
- 「重なり」を読む——レンジ図から着地点の議論を組み立てる読み方
- Excelでの作成手順(積み上げ横棒の下段を透明にするテクニック)
なぜ「点」ではなく「レンジ」で見せるのか
企業価値評価の結論は一つの数字では出ません。DCF・Comps・類似取引はそれぞれ前提が異なり、それぞれに感応度の幅があります。実務の提案書やフェアネスオピニオンの根拠資料では、手法ごとの評価レンジを横棒で並べた1枚の図——通称フットボールチャート(フットボールフィールド)——に束ねて提示するのが標準です。見た目がアメフトのフィールドに似ていることからこう呼ばれます。
読み方:「重なり」が結論をつくる
- 重なりの帯を探す:図1では900〜1,000で3手法(DCF・Comps・類似取引)が重なります。手法が違っても支持されるこの帯が、価格議論の中心になります。
- 外れた手法の意味を読む:類似取引が高めに出るのはコントロールプレミアム(支配権の対価)を含むため、LBOが低めに出るのはファンドの要求リターンから逆算した「買える上限」だから——ズレ自体が情報です。
- 提案価格の位置:提示したい価格が各レンジのどこに立つかで、交渉のストーリー(「Compsの上限だが類似取引の中央値以下」等)が決まります。
作り方:レンジの根拠を仕込む
- DCF:WACC±0.5%、永久成長率±0.25%の感応度からレンジの上下限を取ります(DCF・感応度分析)。
- Comps:類似会社群のマルチプル四分位(25〜75パーセンタイル)を対象指標に乗じます(Compsの作り方)。
- 類似取引:過去の同業M&Aの支払倍率レンジ。件数が少ない場合は範囲が広がりすぎないよう、案件の近さで絞ります。
- LBO:ファンドの目標IRRを満たす買収価格上限を上端、保守的ケースを下端に(参考値の扱いが一般的傾向です)。
Excelでの作成手順
- STEP 1:手法名/下限値/(上限−下限)の幅、の3列を作ります。
- STEP 2:積み上げ横棒グラフを挿入し、1段目(下限値)の系列を「塗りつぶしなし」に設定——見えない下駄で棒を持ち上げる仕掛けです。
- STEP 3:2段目(幅)だけが浮かんで見えるので、色をネイビー系に統一し、データラベルで下限・上限を表示します。
- STEP 4:提案価格・現在株価は縦の誤差線または細い縦線系列で重ねます。軸は範囲を手動固定し、目盛を丸い数字に揃えます。
Q. 手法ごとの結果が大きくズレたら失敗ですか?
A. いいえ。ズレの理由(プレミアムの有無・前提の違い)を説明できれば、それ自体が評価の深さを示します。危ないのはむしろ、全手法が不自然に一点へ揃っている資料です——前提を後決めした痕跡と受け取られかねません。
Q. どの手法を太字・中心に置くべきですか?
A. 案件の性質によります。支配権移転の売買なら類似取引とDCF、少数持分の投資ならComps中心が一般的傾向です。LBOレンジは「ファンドが払える上限」という別種の情報として参考掲載が通例です。
まとめ
- 評価の結論は点でなくレンジ。手法別レンジを1枚に束ねるのがフットボールチャート。
- 読み方の核心は「重なりの帯」と「外れた手法の理由」。ズレは情報である。
- Excelは積み上げ横棒+下段透明が定石。軸固定とラベルで提出品質に仕上げる。
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本記事について
本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。