この記事で分かること

  • FCFF(企業全体のFCF)とFCFE(株主のFCF)の定義と、数値でのブリッジ
  • 「FCFFはWACC、FCFEは株主資本コスト」:割引率との対応を外すと評価が壊れる理由
  • 実務でFCFF法が主流とされる背景と、FCFE/DDMが向く局面

2つのFCFは「誰に帰属するか」が違う

フリーキャッシュフローには2つの定義があります。FCFF(Free Cash Flow to Firm)は債権者と株主の両方に帰属する企業全体のCF、FCFE(Free Cash Flow to Equity)は債権者への支払い(利息・元本返済)を済ませた後、株主だけに帰属するCFです。DCF(計算手順はこちら)で通常使う「FCF」はFCFFを指します。

設例でブリッジする

表1:FCFF→FCFEのブリッジ(単位:百万円・設例)
項目金額
EBIT(営業利益)200
−みなし法人税(税率30%)(60)
=NOPAT140
+減価償却費50
−設備投資(Capex)(60)
−運転資本の増加(10)
=FCFF120
−支払利息×(1−税率) 20×0.7(14)
+純借入(新規借入−返済)10
=FCFE116

ポイントは2つ。①利息は税引後で引く(利息の節税効果は債権者でなく株主が享受しているため)。②借入の増減がFCFEを直接動かす。借入を増やせば当期のFCFEは膨らみますが、将来の返済負担で戻ってきます。FCFEは資本政策に敏感な指標です。

割引率との対応:ここを外すと全部壊れる

表2:CFと割引率・評価結果の対応
CF帰属割引率直接得られる価値
FCFF債権者+株主WACC(計算方法)事業価値(EV)→ブリッジで株式価値へ
FCFE株主のみ株主資本コスト株式価値(直接)

最悪の間違いはFCFEをWACCで割り引く(またはその逆)ことです。株主に帰属するCFを、債権者コストの混ざった低い率で割り引けば、株式価値は過大に出ます。「CFの帰属先と割引率の資本提供者は一致させる」。この一文だけ覚えれば防げます。

実務での使い分け

  • FCFF法が主流(一般的傾向):資本構成の予測(毎年の借入・返済)から独立して事業そのものを評価でき、M&Aのように資本構成が変わる前提でも使いやすいためです。
  • FCFEが向く局面:銀行・保険など、負債が事業の一部で「利息=原価」に近く、EVの概念が馴染まない金融機関の評価(DDMと並んで)。またレバレッジ一定を保つREIT的な資産にも馴染みます。
  • 両方やるなら:前提が整合していれば、FCFE法の株式価値とFCFF法(EV−ネットデット)の株式価値は理論上一致します。ズレたら前提(資本構成・割引率)の不整合を疑うのが正しい使い方です。

Q. 面接で「FCFFとFCFEの違いは?」と聞かれたら?

A. 「帰属先の違いです。FCFFは債権者+株主、FCFEは利息税引後と純借入を調整した株主帰属分。だからFCFFはWACCで割ってEV、FCFEは株主資本コストで割って直接Equity Valueになります」。定義・調整項目・割引率対応の3点セットで30秒です。

Q. なぜ利息は税引後で引くのですか?

A. FCFF段階のみなし税はEBITに対して計算しており、利息の損金算入による節税を織り込んでいません。株主に落ちるCFを出すには、実際の税負担(利息控除後)に合わせる必要があり、その差分が利息×税率。よって引くべきは利息×(1−税率)です。

まとめ

  • FCFF=企業全体、FCFE=FCFF−税引後利息+純借入。設例では120と116。
  • FCFF↔WACC↔EV、FCFE↔株主資本コスト↔株式価値。対応を交差させない。
  • 実務はFCFF主流、金融機関はFCFE/DDM。両方やって一致確認すれば前提の検算になる。

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本記事について

本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。