この記事で分かること

  • 運転資本の定義・計算式と、回転日数(DSO・DIO・DPO)への分解
  • 「成長するほど現金が減る」メカニズムの数値実感
  • モデル予測・M&A・LBOの各実務で運転資本がどう扱われるか

定義と計算式

運転資本(Working Capital/NWC)は、事業を回すために立て替えている資金です。売った代金はすぐ入らず(売掛金)、在庫は先に仕入れ(棚卸資産)、仕入代金の支払いは少し待ってもらえる(買掛金)——この立替の純額が運転資本です。

運転資本 = 売掛金 + 棚卸資産 − 買掛金 ※実務ではその他流動資産・負債(前払費用・未払金等)も事業関連なら含めます。現金と有利子負債は含めません。

設例:売掛金600、棚卸資産480、買掛金320なら、運転資本は760です。

回転日数への分解:CCC

金額のままでは他社比較も予測もしにくいため、実務では「何日分か」に分解します。

表1:回転日数の計算(設例・年商3,650、売上原価2,920)
指標計算式設例値
売上債権回転日数(DSO)売掛金 ÷(売上高÷365)= 600÷1060日
棚卸資産回転日数(DIO)棚卸資産 ÷(売上原価÷365)= 480÷860日
仕入債務回転日数(DPO)買掛金 ÷(売上原価÷365)= 320÷840日
CCC(現金循環化日数)DSO + DIO − DPO80日

CCC 80日は「現金を投じてから回収するまで80日かかる」という意味です。この日数が長い事業ほど、成長時に多くの立替資金を必要とします。

なぜ「成長すると現金が減る」のか

回転日数が一定なら、運転資本は売上に比例して膨らみます。設例の会社が売上+10%で成長すると、運転資本は760→836へ76増加し、その分の現金が事業に吸い込まれます。

PLでは増収増益でも、CFでは「運転資本の増加」がマイナスとして現れる——三表のつながりの記事で見た在庫+10問題の一般形です。黒字倒産の多くはこのメカニズムで起きます。

運転資本の増加額 ≒ 売上増加額 ×(CCCベースの運転資本比率) ※モデル実務では「回転日数を予測し、日商・日原価に掛けて残高を出す」方式が標準です(下記④)。

3つの実務での使われ方

  • 財務モデル:DSO・DIO・DPOを予測ドライバーに置き、残高→増減→CFへ接続します(モデリング完全ガイドの④)。
  • DCF:FCFの控除項目「運転資本の増加」として企業価値を直接下げます(DCF記事の表1)。
  • M&A/LBO:クロージング時の価格調整(NWC調整)とレンダーの所要運転資金の査定で中心論点になります。季節性のある事業では「正常水準」の定義が交渉になります。

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よくある誤り

  • 現金を運転資本に含める:評価・モデル文脈のNWCは非現金です。現金はネットデット側で扱います。
  • 増減の符号ミス:運転資本の「増加」はCFのマイナス。残高と増減を混同しない。
  • DIO・DPOの分母に売上を使う:在庫・買掛は原価ベースが原則。分母の不一致は比較を歪めます。
  • 期末残高だけで判断:季節性の強い事業は期中平均や月次推移で見ます。

面接での問われ方

Q. 運転資本が増えるとFCFはどうなりますか?

A. 減ります。回転日数一定でも売上成長だけで運転資本は増え、現金を吸収します——成長企業ほどFCFが細い理由まで言えると良い回答です。

Q. CCCを短くする打ち手を挙げてください。

A. DSO短縮(回収条件・与信管理)、DIO短縮(在庫最適化)、DPO延長(支払条件)。ただしDPO延長は取引先関係とのトレードオフまで添えます。

まとめ

  • 運転資本=売掛+在庫−買掛。事業の立替資金であり、設例では760・CCC80日。
  • 成長は運転資本を膨らませ、現金を吸う。増収と資金繰りは別物。
  • モデルでは回転日数で予測し、M&AではNWC調整として価格に直結する。

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設例・出典について

本文の計算例は理解のための設例です(計算検証済み)。業種別の回転日数水準に言及する際は、有価証券報告書等の一次情報を本欄に記載します。