この記事で分かること
- 同じ仕入・同じ販売でも、在庫の評価方法(先入先出法・平均法)で売上原価と利益が変わる仕組み
- 1つの設例で3方式を並走させた比較表——COGS・粗利・期末在庫の恒等関係
- 後入先出法(LIFO)が日本基準・IFRSで認められない理由と、面接での標準回答
導入:どの在庫を「売ったことにするか」問題
倉庫に単価10円で仕入れた在庫と、値上がり後に12円で仕入れた在庫が混在しています。1個売れたとき、原価は10円でしょうか、12円でしょうか。物理的にどちらの個体を渡したかは問題ではありません——会計は「どの原価から売ったとみなすか」の仮定(原価配分の仮定)を選ぶのです。この選択が売上原価(COGS)、粗利、期末在庫、そして税金まで動かします。
結論
- 先入先出法(FIFO)は古い原価から払い出す仮定——仕入価格上昇局面ではCOGSが小さく、利益が大きく出る。期末在庫は新しい単価で残り、BSが時価に近づく。
- 平均法は仕入のたび(または期間で)平均単価を計算——結果は常にFIFOとLIFOの中間に落ちる。日本の実務で広く使われる。
- 後入先出法(LIFO)は新しい原価から払い出す仮定——PLは時価に近いがBSに古い原価が滞留するため、日本基準(2010年前後に廃止)でもIFRSでも認められていない。米国基準では税務上の恩恵から現存する。
基礎:1つの設例で3方式を並走させる
期首在庫10個(単価10円=100円)、当期仕入10個(単価12円=120円)、当期販売12個、売価は計240円とします。払い出せる原価の総額は100+120=220円で固定——各方式はこの220円を「COGSと期末在庫にどう配分するか」だけが違います。
| 項目 | 先入先出法 | 平均法 | 後入先出法(参考) |
|---|---|---|---|
| 売上原価(COGS) | 124 | 132 | 140 |
| (内訳) | 10個×10+2個×12 | 12個×11円 | 10個×12+2個×10 |
| 売上総利益(売上240) | 116 | 108 | 100 |
| 期末在庫(8個) | 96 | 88 | 80 |
| COGS+期末在庫 | 220 | 220 | 220 |
平均単価は220円÷20個=11円。仕入価格が上がっている局面では、FIFOの粗利116 > 平均法108 > LIFO100と、同じ商売なのに利益が16円(粗利率にして6ポイント超)ずれます。最終行の恒等式「COGS+期末在庫=払出可能総額220」は、どの方式でも成立する検算の錨です——方式の違いは利益の総額を変えるのではなく、計上時期(今期か、在庫が売れる将来期か)を変えるだけ、という理解が核心です。
なぜLIFOは禁止されたのか
LIFOはPL目線では合理的です——最新の仕入単価がCOGSに入るので、売価と原価の対応が時価ベースで揃う。しかし致命的な副作用があります。BSの在庫が何年も前の古い単価のまま滞留すること、そして在庫水準を意図的に減らすと古い低単価原価がCOGSに流れ込み利益を人為的に作り出せる(LIFO清算)こと。BSの情報価値と利益操作耐性を重視する国際的な会計の潮流の中で、IFRSは禁止し、日本基準も採用を廃止しました。米国基準で残っているのは、インフレ局面でCOGSが大きく=課税所得が小さくなる税務メリットと会計を連動させる米国固有の制度(LIFOコンフォーミティ)による——と整理しておけば、制度差の質問に一通り答えられます。
実務・分析への接続
- 企業比較:評価方法が異なる会社の粗利率を比較するときは、注記(重要な会計方針)で方式を確認する。方式差は業種内比較のノイズになる。
- 評価減(収益性低下の簿価切下げ):期末在庫は「正味売却価額が簿価を下回れば切り下げ」。滞留在庫の多い会社では評価減の履歴が利益の質のシグナルになる。
- 運転資本モデリング:在庫は回転日数でモデル化するのが基本(在庫÷COGS×365)。方式変更があった期は日数が不連続になるので前提を分ける(運転資本の組み方は運転資本(ワーキングキャピタル)とは)。
面接での聞かれ方
「仕入価格が上昇している局面で、FIFOと平均法では利益はどちらが大きいですか」——FIFOです。古い(安い)原価から売上原価に入るため。設例の数字(116対108)を添えて答えれば十分です。上級では「では在庫回転日数はどちらが長く見えますか」——FIFOは期末在庫が新しい高単価で残るため在庫金額が大きく、回転日数も長めに出る——とBS側への波及まで答えられると差がつきます。
よくある誤解
- 「物の流れと原価の流れは一致すべき」——原価配分の仮定は物流と独立。実際に古い個体から出荷していても平均法で構わない。
- 「方式で利益の総額が変わる」——変わるのはタイミング。在庫を売り切れば累計利益はどの方式でも一致する(税の時間価値だけが実質差)。
- 「日本でもLIFOが選べる」——現行の日本基準では認められていない。過去の教科書の記載と混同しない。
まとめ
- 在庫会計は「220円をCOGSと期末在庫にどう配るか」の仮定選び。設例の錨:FIFO124/平均132/(参考)LIFO140。
- 価格上昇局面ではFIFOが最も利益が大きい。方式差は利益のタイミング差にすぎない。
- LIFOはBSの劣化と利益操作余地ゆえ日本基準・IFRSで不採用。米国基準の存置は税務連動の制度事情。
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本記事について
本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。