この記事で分かること
- PERの平均が高く出る理由と、PERを益利回り(1÷PER)に直して平均を取る調和平均の考え方
- 学習用の架空5社で、単純算術平均34.4倍・単純調和平均18.1倍・中央値20.0倍・合計時価総額÷合計純利益15.9倍を並べて検算する手順
- 「典型的な1社の水準」と「バスケット全体のPER」のどちらを知りたいかで平均を選ぶ判断表と、赤字銘柄・外れ値の扱い
想定読者:Comps表(類似会社の倍率一覧)や、指数・ポートフォリオのPERを集計するバリュエーション担当の若手、個人投資家
前提知識:PER=時価総額÷純利益の計算と、平均と中央値の違い。
結論:PERの「平 均」は、知りたい問いに合わせて取り方を変える
Comps表の最下行に「PER平均34.4倍」と書いたものの、各社の数字を見ると10〜30倍が並び、平均だけが突出している。このとき疑うべきは、データではなく平均の取り方です。本記事の結論は4点です。
1点目。PER
算術平均が「間違い」なのではなく、問いに合っていないのです。以下、学習用の架空事例で電卓どおりに確かめます。
PERの平均が高く出る理由:益利回りに直すと見える
PERは「時価総額÷利益」なので、利益が小さいほど値が急に大きくなります。分かりやすいのは、PERの逆数である益利回り(利益÷時価総額。投資額に対する利益の割合)に直して見る方法です。PER20倍は益利回り5.0%、PER100倍は1.0%です。益利回りの差は4.0ポイントにすぎませんが、PERでは20倍と100倍で、差が80倍分に広がります。
算術平均は、この「広がった側」の値をそのまま足し込みます。一方、調和平均は、まず益利回り(各社の逆数)の単純平均を取り、その逆数に戻して求めます。
単純調和平均
単純調和平均 = n ÷ Σ(1 ÷ PER) (n は社数。すべて正の値のとき)
調和平均は、算術平均・幾何平均とあわせた3つの平均のうち最も小さくなります。値がすべて正であれば、調和平均≦幾何平均≦算術平均が成り立ちます。CFIの解説は、PERのような倍率を算術平均すると大きい値に偏るので調和平均を使う、という一般論を述べています1。ただし、この一般論は「どんな倍率でも調和平均が正しい」という意味ではありません。次の設例で、どの問いに調和平均が合うのかを確認します。
設例:5社のPERと4種類の平均を並べる
以下は学習用の架空事例です。上場5社(A〜E社。実在の企業とは関係ありません)の時価総額と、親会社株主に帰属する当期純利益(単位:億円)を置きます。株価の基準日と決算期は5社で同じ、純利益は同じ定義でそろっている前提です(そろえ方は株価基準日の解説と決算期調整の解説に委ねます)。
| 項目 | 時価総額 | 純利益 | PER(倍) | 益利回り(%) |
|---|---|---|---|---|
| A社 | 600 | 60 | 10.0 | 10.00 |
| B社 | 1,200 | 100 | 12.0 | 8.33 |
| C社 | 900 | 45 | 20.0 | 5.00 |
| D社 | 300 | 10 | 30.0 | 3.33 |
| E社 | 500 | 5 | 100.0 | 1.00 |
| 単純算術平均(172.0÷5) | 34.4 | 2.91(1÷34.4) | ||
| 単純調和平均(5÷0.2767) | 18.1 | 5.53(益利回りの単純平均) | ||
| 中央値(小さい順の3番目) | 20.0 | 5.00 | ||
| 合計時価総額÷合計純利益(3,500÷220) | 15.9 | 6.29(220÷3,500) | ||
図表1のとおり、5社のうち4社は10〜30倍に収まりますが、E社だけが100.0倍です。単純算術平均は34.4倍で、4社のどの値よりも高く出ます。算術平均の逆数(1÷34.4=2.91%)は、益利回りの単純平均5.53%の半分ほどで、5社の利益の割合とは大きくずれています。
4種類の計算式と、「合 計÷合計」になる理由
電卓で追える形に、4つの計算を書き出します。
4種類の平均(図表1の数値)
単純算術平均:(10.0+12.0+20.0+30.0+100.0)÷5=172.0÷5=34.4
単純調和平均:益利回りは 0.1000+0.0833+0.0500+0.0333+0.0100=0.2767 なので 5÷0.2767=18.07(約18.1)
中央値:10.0、12.0、20.0、30.0、100.0 の3番目=20.0
合計時価総額÷合計純利益:3,500÷220=15.909(約15.9)
最後の「合計÷合計」は、時価総額を重みにした加重調和平均と同じ値になります。加重調和平均は「重みの合計÷(重み÷各社PERの合計)」で、重みを時価総額にすると、時価総額÷PERは各社の純利益なので、分母は純利益の合計になります。結果は3,500÷220です。純利益を重みにした算術平均でも一致します。
純利益加重の算術平均(検算)
(60×10.0+100×12.0+45×20.0+10×30.0+5×100.0)÷220=(600+1,200+900+300+500)÷220=3,500÷220=15.9
この一致は恒等式で、時価総額と純利益が各社で同じ定義でそろっているときに成り立ちます。現実のデータでは、自己株式や種類株式の扱いの差で完全には一致しません(編集部の注意)。重みの付け方にも落とし穴があり、時価総額を重みにして「算術平均」を取ると(600×10.0+…+500×100.0)÷3,500=97,400÷3,500=27.8倍となり、E社に引かれます。時価総額を重みにするなら調和平均(=合計÷合計)の側で取ります。
Excelでは、単純調和平均は HARMEAN 関数で求められます。Microsoftの説明では、引数に0以下の数値が含まれると #NUM! エラーが返ります2。数式 1/AVERAGE(1/範囲) も数学的には同じ値ですが、配列としての評価が必要な環境があります。加重調和平均は、時価総額の範囲を w、PERの範囲を p とすると SUM(w)/SUMPRODUCT(w/p) で求められ(SUMPRODUCT関数の使い方は財務モデリングでの解説を参照)、合計時価総額÷合計純利益の単純な割り算と一致するか検算に使えます。
外れ値を足し引きすると、各平均はどう動くか
E社を外した4社(A〜D社。合計時価総額3,000億円、合計純利益215億円)でも同じ計算をします。算術平均は72.0÷4=18.0、単純調和平均は4÷(0.1000+0.0833+0.0500+0.0333=0.2667)=15.00、中央値は12.0と20.0の平均16.0、合計÷合計は3,000÷215=13.95です。図表2は、E社を含む場合から除く場合への動きを平均ごとに示します。
図表2のとおり、E社1社の有無で単純算術平均は34.40倍から18.00倍へ、16.40倍(47.7%)動きます。単純調和平均の動きは3.07倍(17.0%)、合計÷合計は1.96倍(12.3%)です。中央値が4.00倍(20.0%)動くのは、5社から4社になって中央が「12.0と20.0の平均」に変わるためで、社数が少ないほど中央値も1社の入れ替えで動きます。
逆の側も確かめます。A社に一過性の利益が入り、純利益が60億円から120億円に増えてPERが5.0倍になったとします(時価総額600億円は同じ。合計純利益は280億円)。図表3に両方の場合をまとめます。
| 平均の種類 | 基準(5社) | E社を除く(4社) | A社が5.0倍に(5社) |
|---|---|---|---|
| 単純算術平均 | 34.40 | 18.00(−16.40、−47.7%) | 33.40(−1.00、−2.9%) |
| 単純調和平均 | 18.07 | 15.00(−3.07、−17.0%) | 13.27(−4.80、−26.5%) |
| 中央値 | 20.00 | 16.00(−4.00、−20.0%) | 20.00(0.00、0.0%) |
| 合計時価総額÷合計純利益 | 15.91 | 13.95(−1.96、−12.3%) | 12.50(−3.41、−21.4%) |
図表3のとおり、A社のPERが10.0倍から5.0倍に下がると、単純算術平均は1.00倍(2.9%)しか動かず、単純調和平均は4.80倍(26.5%)、合計÷合計は3.41倍(21.4%)動きます。つまり調和平均は、高い側の外れ値に強い一方で、一過性の利益などで低く見える銘柄には強く反応します。「外れ値に強い」と一括りにはできません。低い側が疑わしいときは、一過性損益の除去や希薄化後の1株当たり利益の確認を先に行います。
赤字銘柄は平均に入れられるか
赤字の企業は純利益がマイナスで、PERもマイナスになります。マイナスのPERは「利益の何年分の値段か」と読めないため、JPXの規模別・業種別PER・PBR統計も、PER・PBRがマイナスの場合は数値を載せず「-」と表示する注記を置いています3。
設例に赤字のF社(時価総額400億円、純利益−20億円、PER−20.0倍)を1社足して、扱い方を比べます。HARMEAN関数は0以下を含むと #NUM! を返すので、そのままでは単純調和平均を出せません。マイナス値を機械的に入れると数字は出ますが、意味は崩れます。算術平均は(172.0−20.0)÷6=25.3倍、益利回り(F社は−5.00%)の単純平均は(0.2767−0.0500)÷6=3.78%で逆数は26.5倍です。いずれも何を表すのか説明できません。合計時価総額÷合計純利益にF社を含めると(3,500+400)÷(220−20)=19.5倍となり、計算としては成り立ちますが、赤字の損失が他社の利益と相殺された値になります。
実務の基本は、Comps表では赤字銘柄のPERを「算出不能」として平均や中央値から外し、除外した社数と理由を表の脚注に書くことです。図表1の数値は「5社を集計、赤字1社を除外」の結果になります。バスケット全体の利益を問う場合に赤字を含めるかは目的次第で、含めるなら含めたと書き、含めない場合と並べて示します。
目的別の選び方と、公表統計・指数・ファンドの見方
図表4に、問いごとに使う平均を整理します。
| 知りたい問い | 使う平均 | 注意点 |
|---|---|---|
| 典型的な1社の水準(Compsの代表値) | 中央値とレンジ | 社数が少ないと1社の入れ替えで動く(図表3) |
| 選んだ数社全体のPER(利益1円当たりの値段) | 合計時価総額÷合計純利益(時価総額加重の調和平均) | 基準日・決算期・純利益の定義をそろえる |
| 指数・ファンドのPER | 構成比(重み)で重みづけした調和平均 | 指数提供者・運用会社の算出方法を確認する |
| 赤字銘柄を含む | 除外して社数を明記。バスケット全体では含めた値も併記 | HARMEAN関数は0以下でエラー |
| 外れ値が疑われる | まず原因を調べ、複数の平均を並べて確認 | 低い側の外れ値は調和平均を強く下げる |
指数やファンドのPERは、構成銘柄の重み w(時価総額や投資金額)で束ねるので、PER=Σw÷Σ(w÷各銘柄のPER)で求めます。これは調和平均の重み付き版で、CFIの解説も、複数銘柄から成る指数やポートフォリオのPERはこの加重調和平均で求めるという一般論を示しています4。指数の値そのものの算出方法はTOPIXの解説に委ねます。個別の指数や運用商品のPERがどの集計法で出ているかは、提供者の算出方法の資料で確認してください。本記事では、特定の指数の集計法を断定しません。
公表統計でも、同じ論点が見えます。日本取引所グループ(JPX)の規模別・業種別PER・PBRの統計は、「平均(Average)」と「加重平均(Weighted Average)」の2つのPERを載せています。算出式は、平均側が「全銘柄の株価の合計÷全銘柄の1株当たり利益の合計」、加重平均側が「全銘柄の時価総額の合計÷全銘柄の利益の合計」です(訳は編集部)5。平均側は、各社のPERの単純平均ではない点に注意が必要です。2026年9月分のプライム市場・合計(連結。対象1,534社)では、平均が18.9倍、加重平均が20.6倍と、2つの数字は別の値でした6。設例とは逆に加重平均のほうが大きく、どちらが大きいかは母集団で変わります。引用するときは、どの式の値かを確認してください。
限界:EV/EBITDAなどへの広げ方と、成立条件
同じ考え方は、分母が共通の規模量で、合計に意味がある倍率に広げられます。たとえばEV/EBITDA(企業価値をEBITDAで割った倍率。EV/EBITDA倍率)なら、合計EV÷合計EBITDAがバスケット全体の倍率になります。ただし、EVの定義(ネットデットの調整)や分子のそろえ方が論点になるため、詳しくは倍率の選び方に委ねます。
注意点は2つです。第1に、調和平均の前提は「すべて正の値」で、赤字銘柄を混ぜられません。第2に、平均を変えても、決算期の違いや一過性損益、株価基準日のずれは直りません。平均の取り方より前に、データの前提をそろえる作業が必要です(編集部の見解)。
実務チェックリスト
- まず問いを書く:「典型的な1社」か「束ねた全体の利益1円当たりの値段」か。
- PERが負・算出不能の銘柄は、平均から外した社数と理由を表に明記したか。
- 合計時価総額÷合計純利益と、加重調和平均が一致するか検算したか。
- 時価総額で重みづけしたとき、算術平均ではなく調和平均になっているか。
- 低いPERの銘柄が一過性の利益で下がっていないか、純利益の定義と決算期をそろえたか。
- 指数・公表統計のPERを引用するとき、算出式(平均か加重平均か)と時点を確認したか。
よくある質問(F AQ)
単純調和平均と、合計時価総額÷合計純利益のどちらを使えばよいですか。
束ねたバスケット全体の利益1円当たりの値段を知りたいなら、後者です。単純調和平均は、各社を同じ重みで扱う補助的な確認値です。時価総額の差が大きい5社では、図表1のとおり18.1倍と15.9倍で値が異なります。
中央値があれば、調和平均は不要ですか。
問いが違います。中央値は典型的な1社の水準、合計÷合計はバスケット全体の値です。並べて見て差が大きければ、外れ値か重みの偏りを疑います。
まとめ
PERは利益が小さいほど値が膨らむ倍率なので、単純算術平均は高いPERの1社に引きずられます。設例では、5社の算術平均34.4倍に対し、調和平均18.1倍、中央値20.0倍、合計時価総額÷合計純利益15.9倍でした。典型的な1社の水準は中央値、バスケット全体は合計÷合計(時価総額加重の調和平均)という使い分けが基本です。赤字銘柄は除外して社数を明記し、調和平均が低いPERに敏感な点も忘れないでください。
脚注
- Corporate Finance Institute「Harmonic Mean」。調和平均を、データの個数を各値の逆数の合計で割ったものと定義し、算術平均・幾何平均とあわせた3つの平均のうち最小になると説明している。PERなどの倍率を算術平均すると大きい値に偏る、とも述べる(一般的な概念の参考。参考文献 R1)。↩
- Microsoft「HARMEAN 関数」。書式は HARMEAN(数値 1, [数値 2], …)。引数に0以下の数値が含まれると #NUM! を返す(参考文献 R2)。↩
- 日本取引所グループ「規模別・業種別 PER・PBR(連結)」のExcelファイル(2026年9月分)の注記に、「-」は該当数値なし、またはPER・PBRがマイナスの場合を表すとある(参考文献 R3)。↩
- Corporate Finance Institute「Harmonic Mean」。加重調和平均を「重みの合計÷(重み÷値の合計)」と定義し、指数やポートフォリオのPERを加重調和平均で求める例を示している。設例の数値や構成比は本記事とは別のもの(参考文献 R1)。↩
- 日本取引所グループ「PER・PBRの算出方法(Calculation method of PER/PBR)」。平均はPER=全銘柄の株価の合計÷全銘柄の1株当たり利益の合計、加重平均はPER=全銘柄の時価総額の合計÷全銘柄の利益の合計と定義している。英文の訳は編集部(参考文献 R4)。↩
- 日本取引所グループ「規模別・業種別 PER・PBR(連結)」2026年9月分、プライム市場・合計の行。対象会社数1,534、平均PER 18.9倍、加重平均PER 20.6倍(参考文献 R3)。↩
参考文献(2 026年10月確認)
- R1 Corporate Finance Institute「Harmonic Mean」 corporatefinanceinstitute.com (調和平均・加重調和平均の一般的な定義の参考。脚注1・4 の根拠。閲覧日:2026年10月20日)
- R2 Microsoft
「H ARMEAN 関数」 support.microsoft.com (参照箇所:書式・説明・注意点。脚注2 の根拠。閲覧日:2026年10月20日) - R3 日本取引所グループ「規模別・業種別 PER・PBR(連結)2026年9月分」Excelファイル jpx.co.jp (参照箇所:先頭シートの注記とプライム市場・合計の行。脚注3・6 の根拠。閲覧日:2026年10月20日)
- R4 日本取引所グループ「Calculation method of PER/PBR」 jpx.co.jp (参照箇所:5. Calculation Formulas の [Average]・[Weighted Average]。脚注5 の根拠。閲覧日:2026年10月20日)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための学習用の架空事例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。