この記事で分かること
- 同じ会社でも株価基準で倍率が変わる(設例:9.8x/9.6x/9.4x)——その意味
- 3つの基準それぞれの用途——時価評価・公表案件のプレミアム算定・ノイズ除去
- 実務・制度実務での使われ方と、資料に必ず書くべき「基準日の明記」
倍率は「いつの株価か」で変わる
EV/EBITDAの分子EVは時価総額を含むため、どの時点・どの期間の株価を使うかで倍率そのものが動きます。設例(架空設例・サンプル精密工業):前営業日終値ベース9.83x、直近1ヶ月平均9.63x、直近3ヶ月平均9.37x——株価が直近上昇してきた会社では、直近基準ほど倍率が高く出ます。この差は誤差ではなく「市場の温度の履歴」です。
3基準の性格と用途
| 基準 | 性格 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 前営業日終値 | いまの市場評価そのもの。ニュース・需給のノイズも全部乗る | 時価ベースのComps・日々のモニタリング・「今日の市場は何倍を付けているか」 |
| 直近1ヶ月平均 | 短期ノイズを均しつつ鮮度を保つ折衷 | 提案資料の基準としてバランスが良い。決算またぎの歪みには注意 |
| 直近3ヶ月平均 | イベントの影響を強く均す。トレンド変化には鈍い | 公開買付け等での市場株価法・プレミアム算定の参照レンジとして、1ヶ月・3ヶ月(〜6ヶ月)平均を併記する実務が広く見られる(適用の詳細は案件時点の実務・制度を一次確認) |
実務の判断基準
- 観測か、公正か:市場の「観測」をしたいなら前日。特定時点のノイズから「公正な水準」を守りたい(守られたい)場面——TOBプレミアムの説明(仕組み)や算定書——では平均が使われます。
- 情報漏えいの疑いがある局面:公表前に株価が既に上がっている(思惑買い)場合、直前終値は既にプレミアムを含みます。だからこそ「公表前◯営業日」「1・3ヶ月平均」への複数プレミアムを併記して歪みを可視化します(プレミアムの読み方)。
- 決算・増資などのイベントまたぎ:平均期間の途中に構造変化があるなら、平均は「別の会社の株価」を混ぜているのと同じ。イベント後だけで取り直します。
- 全社統一:Compsでは母集団全社を同じ基準・同じ基準日で揃えるのが絶対条件(基準日統一の作法)。
資料への書き方
- 脚注に「株価は2026年◯月◯日終値(または◯月◯日までの1ヶ月間の終値単純平均)」と基準・期間・出所を明記。書いていない資料は更新も検証もできません(落とし穴#20)。
- 迷ったら3基準を併記し、レンジで語る——ラボの3基準表示はそのための設計です。
Q. 面接で「株価はいつ時点を使いますか?」と聞かれたら?
A.「用途で使い分けます。時価のCompsは直近終値、TOBのプレミアム説明や算定の文脈では直前・1ヶ月・3ヶ月平均を併記して、直前の思惑や一時ノイズの影響を可視化します。いずれでも基準日と期間の明記、母集団での統一が前提です」。
Q. 平均は単純平均ですか、出来高加重ですか?
A. 実務では終値の単純平均とVWAP(出来高加重平均)の双方が使われます。流動性の薄い銘柄では薄商い日の価格の信頼性が低く、VWAPが好まれることがあります。どちらを使ったかも脚注に書くのが作法です。
まとめ
- 倍率は株価基準で動く(設例9.83/9.63/9.37x)。差は誤差でなく市場の温度の履歴。
- 観測なら前日、公正の説明なら平均併記。イベントまたぎの平均は取り直す。
- 基準・期間・出所の明記と母集団統一——これを欠いた倍率は検証不能。
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本記事について
本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。