この記事で分かること

  • 類似会社比較(Comps)シートを白紙から組む全手順——母集団選定からEVブリッジまで
  • 3社の設例データで倍率表を作り、中央値9.0xを対象会社に適用して株式価値440を導く
  • 実務で差がつく作法:データの基準日統一・外れ値の扱い・四分位の使い方

STEP 0:Compsシートの完成形

理論はCompsの完全ガイドで扱いました。本章はそれをExcelの形にします。完成形は「①母集団リスト→②各社データ→③EV計算→④倍率表→⑤統計→⑥対象への適用」の6ブロックが1枚に並ぶシートです。

XComps.xlsx – Excel(完成形の全体像)
BC〜H
4-8① 前提・基準日株価基準日・対象会社のEBITDA等(青字)
11-15②③ 類似会社データ→EV1行1社:株価・株式数・ネットデット→時価総額→EV
17-19④⑤ 倍率と統計EV/EBITDA、中央値・平均・四分位
21-24⑥ 対象への適用中央値×対象EBITDA→EV→株式価値
図0:横1行=1社で揃えるのが鉄則。列方向に「株価→時価総額→EV→倍率」と加工が進む構造にすると、レビューする側が左から右へ読むだけで検算できます。

1母集団を決めてから、データに触る(10分)

  • 操作:B列に候補企業を書き出し、「事業の類似性/規模/成長・マージンの近さ」の3観点で残す会社を決めます。選定理由をメモ列に必ず残す——「なぜこの会社が類似か」は面接でもレビューでも最初に問われます。
  • 本章の設例は3社(A社・B社・C社)に絞ります。実務では5〜10社程度が扱いやすい規模です(一般的傾向)。
  • つまずき:先にデータを集めると「集めやすい会社」で母集団が歪みます。選定→収集の順番を守ってください。

2各社データを入力しEVを組む(15分)

操作:11〜13行に3社分を入力(青字)。D列=株価、E列=発行済株式数、F列=ネットデット。G列に時価総額 =D11*E11、H列にEV =G11+F11 を入れて下へコピー。
X②③ 各社データ→EV(単位:百万円・設例)
BD 株価E 株式数F NDG 時価総額H EVI EBITDA
11A社100102001,0001,200150
12B社601012060072080
13C社130102401,3001,540140
図1:ネットデットは直近開示のBSから(EVブリッジの簡便形)。実務では少数株主持分・デットライク項目まで拾いますが、まず骨格を固めます。株価の基準日を1つに統一し、前提ブロックに明記するのが作法です。

3倍率と統計を計算する(10分)

操作:J列に =H11/I11(EV/EBITDA)を各社分。統計行に =MEDIAN(J11:J13)=AVERAGE(J11:J13)=QUARTILE.INC(J11:J13,1)(25%点)と QUARTILE.INC(…,3)(75%点)。

正解値:A社8.0x、B社9.0x、C社11.0x → 中央値9.0x・平均9.3x。C社が高いのは成長期待の差かもしれません——外れ値は機械的に消さず、理由を調べて採否を決め、脚注に残すのが実務です。平均でなく中央値を主に使うのは、まさに外れ値に引きずられないためです。

4対象会社に適用する(10分)

X⑥ 適用ブロック(単位:百万円・設例)
B数式
21対象会社EBITDA(正常化後)(前提より)60
22適用倍率(中央値)=中央値セル9.0x
23インプライドEV=C21*C22540
24−ネットデット → 株式価値=C23-100440
図2:レンジ提示なら25%点〜75%点の倍率で上下限を作り、フットボールチャート(作り方)の1本にします。対象のEBITDAは必ず正常化後(調整の作法)を使うこと。

実務の仕上げチェック

  • 期間の統一:全社LTMか予想か(分母を磨く)。混在は倍率表を無意味にします。
  • 希薄化:株式数は潜在株込みか。注記の確認をメモ列に。
  • 検算:中央値×対象EBITDAを電卓で1回。シートの数式事故はこれで捕まえられます(QCの習慣)。

Q. 類似会社が3社しか見つかりません。

A. 少数でも「なぜこの3社か」を説明できれば機能します。無理に非類似の会社を足して統計を厚く見せる方が有害です。母集団が薄い場合は類似取引・DCFの比重を上げ、レンジで語ってください。

Q. 平均と中央値、どちらを使うべきですか?

A. 主は中央値です。外れ値に頑健だからです。平均は参考併記とし、両者が大きく乖離する場合は分布の歪み(=母集団の再考サイン)として扱います。

まとめ

  • 構造は6ブロック:母集団→データ→EV→倍率→統計→適用。1行1社・左から右へ。
  • 設例:8.0/9.0/11.0x→中央値9.0x×EBITDA60=EV540→株式価値440。
  • 作法:選定理由のメモ・基準日統一・正常化EBITDA・外れ値は理由つきで採否。

実務Excel教材(投資銀行フォーマット)

読んで分かったら、次は手を動かす番です。本記事の内容を実務形式のExcelで組み上げるための教材を用意しています。

教材を見る

本記事について

本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。