この記事で分かること

  • 不動産取得モデルを「Assumptions→Rent Roll/Pro Forma→Debt Schedule→NCF→Cash Flow & Returns→Sensitivity」の順にタブ設計する考え方
  • 賃料前提からPGR(潜在総収入)→空室損・貸倒損→EGI→運営費用→NOIまでを式→代入→結果の順に積み上げる具体手順
  • LTVとDSCRの両方で借入可能額を試算し、どちらが効くか(バインドするか)を判定してからデットサイジングする方法
  • 直接還元法による出口評価額の算出と、アンレバード/レバードのIRRエクイティマルチプル・キャッシュオンキャッシュ・感応度分析の作り方

結論:取得モデルは6つのタブに分けて、NOI→デットサイジング→CFの順に組む

不動産取得モデルを1枚のシートに詰め込むと、前提を1つ変えるたびに数式を追いかけ直す羽目になります。実務で再現性高く組むコツは、役割の異なる計算を「Assumptions(前提)」「Rent Roll / Pro Forma(賃料からNOIまで)」「Debt Schedule(LTV・DSCRによる借入設計)」「NCF(NOIから純収益への調整)」「Cash Flow & Returns(アンレバード/レバードのリターン算出)」「Sensitivity(感応度分析)」の6タブに分けて、前提→収益→借入→リターンの順に一方向に計算を流すことです。この順序を守ると、取得価格や賃料成長率といった前提を1か所変えるだけで、NOI・DSCR・IRRまで自動的に再計算される「動くモデル」になります。以下では、延床1,000坪のオフィスビルを5年間保有する設例(説明用の仮設例であり、実在の物件・取引を示すものではありません)を使い、この6タブを実際に組み立てながら、すべての数値を式→代入→結果→意味の順で検算します。各指標の定義そのものは不動産のプロフォーマ入門不動産投資指標の早見辞典で確認できるため、本記事では「モデルとしてどう組むか」に絞って説明します。

モデルの全体設計:6タブでどう情報を流すか

不動産取得モデルの設計で最初に決めるべきは、シート構成そのものです。よくある失敗は、賃料計算・借入計算・リターン計算を1枚のシートに混在させてしまい、前提を1つ変えたときにどの数式まで波及するのか自分でも分からなくなることです。これを避けるには、下図のように「前提を集約するタブ」「収益を積み上げるタブ」「借入を設計するタブ」「純収益に調整するタブ」「リターンを算出するタブ」「感応度を振るタブ」を分離し、常に上流から下流へ一方向にリンクを張ります。逆方向の参照(下流の計算結果を上流のタブに戻す)は循環参照の原因になるため、基本的には作らない設計にします。

取得モデルのタブ構成と情報の流れ ①Assumptionsタブ 面積・賃料・稼働率・LTV・金利等の前提を一括管理 ②Rent Roll / Pro Formaタブ PGR→空室損・貸倒損→EGI→運営費用→NOI ③Debt Scheduleタブ LTV・DSCRの両建てでデットサイジング、返済表を作成 ④NCF(純収益)タブ NOIから資本的支出準備金を控除し敷金運用益を加算 ⑤Cash Flow & Returnsタブ Unlevered/Leveredを分離しIRR・エクイティマルチプルを算出 ⑥Sensitivityタブ 出口キャップレート・賃料成長率を振って感応度を検証
図:取得モデルのタブ構成(設計例)。前提から結果まで一方向にリンクを張ることで、前提を1か所変えるだけで再計算できるモデルになります。

Step1〜3:賃料前提からNOIを積み上げる

以下は説明用の仮設例です。東京都内のオフィスビル(延床の貸室面積1,000坪、1坪は約3.3058㎡なので延床約3,306㎡に相当)を想定します。取得時点の稼働率は95%(950坪が稼働、50坪が空室)で、保有期間中はこの稼働率が一定に維持されると仮定します。賃料は1坪あたり月額28,000円(Year1時点、共益費込みのグロス表示)とし、Year2以降は年1.0%の賃料成長を仮定します。この前提はすべてAssumptionsタブに集約し、他のタブからは数式でこの値を参照する形にします。


Yeartの賃料単価 = Year1賃料単価 ×(1+賃料成長率)^(t−1)(Year1のみ成長前の基準額)
Year2 = 28,000円 × 1.01 = 28,280円/坪・月 Year3 = 28,280円 × 1.01 = 28,562.8円/坪・月

この式をYear5まで適用すると、坪単価はYear4で28,848.428円、Year5で29,136.912円になります。次に、NOIまでの積み上げは、100%稼働を仮定した潜在総収入(PGR)を起点に、空室損(稼働率95%=空室率5%分の未収賃料)と貸倒損(回収不能リスクを保守的に見込む想定0.5%)を控除し、駐車場等のその他収入を加算してEGI(実効総収入)を求めます。

式(Year1)
PGR = 1,000坪 × 28,000円/坪・月 × 12ヶ月 = 336,000,000円
空室損 = PGR × 空室率5% = 16,800,000円  貸倒損 =(PGR−空室損)× 0.5% = 319,200,000円 × 0.5% = 1,596,000円
その他収入(駐車場20台×25,000円/月×12ヶ月)= 6,000,000円
EGI = 336,000,000 − 16,800,000 − 1,596,000 + 6,000,000 = 323,604,000円

運営費用は、PM(プロパティマネジメント)フィーをEGIの3.0%、建物管理・共用部光熱費・保険料の合計(Year1時点1,800万円+1,500万円+300万円=3,600万円、Year2以降年1.0%で上昇)、固定資産税・都市計画税(保有期間中は評価替えを挟まないため一定額22,000,000円と仮定)の3区分で積み上げます。固定資産税・都市計画税は毎年1月1日時点の所有者に課される保有税で、3年ごとの評価替えまでは税額が大きく動かないため、本設例では5年間定額としています。

式(Year1)
PMフィー = EGI 323,604,000円 × 3.0% = 9,708,120円
運営費用合計 = 9,708,120円 + 36,000,000円 + 22,000,000円 = 67,708,120円
NOI = EGI 323,604,000円 − 運営費用 67,708,120円 = 255,895,880円

この積み上げをYear2〜5まで繰り返すと、下表のとおりNOIは賃料成長と運営費用の増加が相殺し合いながら緩やかに増加します(表中の金額は百万円単位で四捨五入して表示しているため、行内の合計が±0.1百万円程度ずれる場合があります。Excel上の精算では一致します)。

項目(百万円)Year1Year2Year3Year4Year5
PGR(潜在総収入)336.0339.4342.8346.2349.6
空室損(▲)▲16.8▲17.0▲17.1▲17.3▲17.5
貸倒損(▲)▲1.6▲1.6▲1.6▲1.6▲1.7
その他収入(+)6.06.06.06.06.0
EGI(実効総収入)323.6326.8330.0333.2336.5
PMフィー(▲)▲9.7▲9.8▲9.9▲10.0▲10.1
建物管理・光熱費・保険(▲)▲36.0▲36.4▲36.7▲37.1▲37.5
固定資産税・都市計画税(▲)▲22.0▲22.0▲22.0▲22.0▲22.0
NOI255.9258.6261.4264.1266.9
EGIの内訳とNOIの推移(単位:百万円) 0 100 200 300 323.6 Year1 326.8 Year2 330.0 Year3 333.2 Year4 336.5 Year5 NOI 運営費用
図:設例(仮設例)。EGI(NOI+運営費用)はYear1の323.6百万円からYear5の336.5百万円へ増加し、その大半(Year1で約79.1%)がNOIとして残ります。

取得価格とゴーイングインキャップレートの検証

NOIが積み上がったら、取得価格の妥当性をキャップレートで検証します。実務では価格交渉の結果として取得価格が先に決まり、その価格が初年度NOIに対してどの利回り水準になるかを事後的に確認する順序をたどることが多いため、本設例でも取得価格55.0億円(5,500,000,000円)を所与として、そこからゴーイングインキャップレート(取得時点の利回り)を逆算します。


ゴーイングインキャップレート = Year1のNOI ÷ 取得価格 = 255,895,880円 ÷ 5,500,000,000円 = 4.65%

取得諸費用(仲介手数料・登録免許税・不動産取得税・DD費用等)は取得価格の2.0%と仮定し、110,000,000円(1.10億円)とします。取得価格と取得諸費用を合算した初期投資総額は5,610,000,000円(56.10億円)です。この初期投資総額が、後述するアンレバードキャッシュフローのYear0時点の投資額になります。

デットサイジング:LTVとDSCRのどちらが効くかを判定する

取得資金の一部を借入で調達する場合、借入可能額はLTV(担保評価額に対する借入比率)とDSCR(元利金返済カバー率)の2つの基準で試算し、より保守的な(借入可能額が小さい)方が実際の融資条件になります。この「両建てで試算して小さい方を採用する」考え方自体がデットサイジングの基本です。本設例では、LTV上限を取得価格の55%、DSCRの下限を1.25倍(Year1のNOIを基準)と仮定し、返済方法は借入期間20年の元本均等返済(毎年同額の元本を返済する方式)とします。

式(LTV基準)
LTV基準の借入可能額 = 取得価格 5,500,000,000円 × 55% = 3,025,000,000円(30.25億円)
式(DSCR基準)
許容元利金返済額 = Year1のNOI 255,895,880円 ÷ 目標DSCR 1.25倍 = 204,716,704円
元本均等返済(20年)+金利1.5%の場合、Year1の元利金返済額は「借入額 ×(金利1.5%+1/20年)」=「借入額 × 6.5%」と表せるため、
DSCR基準の借入可能額 = 204,716,704円 ÷ 6.5% = 3,149,487,754円(31.49億円)

LTV基準(30.25億円)とDSCR基準(31.49億円)を比較すると、LTV基準の方が小さいため、本設例ではLTVが効く(バインドする)制約になります。したがって実際の借入額はLTV基準の3,025,000,000円(30.25億円)を採用し、初期投資総額5,610,000,000円(56.10億円)からこの借入額を差し引いた2,585,000,000円(25.85億円)がエクイティ(自己資金)になります。借入時点のNOI利回りに対する借入額の関係を示すデットイールド(NOI÷借入額)も確認しておくと、担保価値の変動に左右されにくい追加のチェック指標になります。


デットイールド(Year1)= NOI 255,895,880円 ÷ 借入額 3,025,000,000円 = 8.46%

借入額が確定したら、元本均等返済(借入額÷20年=年151,250,000円を毎年返済)と、期首残高に金利1.5%を乗じた利息を組み合わせて返済表を作成します。日本の商業用不動産のノンリコースローンにおける融資審査の一般的な考え方は日本の不動産デット市場で扱っています。

年度期首残高支払利息元本返済期末残高元利金返済額DSCR
Year13,025,000,00045,375,000151,250,0002,873,750,000196,625,0001.30倍
Year22,873,750,00043,106,250151,250,0002,722,500,000194,356,2501.33倍
Year32,722,500,00040,837,500151,250,0002,571,250,000192,087,5001.36倍
Year42,571,250,00038,568,750151,250,0002,420,000,000189,818,7501.39倍
Year52,420,000,00036,300,000151,250,0002,268,750,000187,550,0001.42倍

DSCR(=NOI÷元利金返済額)はYear1の1.30倍からYear5の1.42倍まで上昇します。これは、NOIが賃料成長で緩やかに増える一方、元本均等返済によって借入残高と支払利息が毎年一定額ずつ減っていくため、元利金返済額そのものが年々小さくなることの帰結です。融資契約で「DSCR1.20倍を下回らないこと」といった財務制限条項が付されるケースを想定すると、本設例は保有期間を通じて一貫して基準を上回っており、追加の資金拠出(キュアー)が必要になる局面は生じません。

元利金返済額とDSCRの推移 0 100 200 1.0倍 1.5倍 2.0倍 Year1 Year2 Year3 Year4 Year5 1.30倍 1.33倍 1.36倍 1.39倍 1.42倍 元利金返済額(左軸・百万円) DSCR(右軸・倍)
図:設例(仮設例)。元本均等返済により元利金返済額(棒・左軸)は年々減少し、NOIの緩やかな増加と相まってDSCR(線・右軸)は保有期間を通じて上昇します。

Excelでの再現に迷ったら

ここまでのPGRからNOIへの積み上げと、LTV・DSCRの両建てサイジングは、実際に自分でExcelに数式を組んで初めて感覚が身につきます。タブ間の参照方法や循環参照の避け方などExcel実装の基本を体系的に確認したい場合は、教材ページも参考にしてください。

→ Excel実装の教材を見る

NOIからキャッシュフローへ:NCFとアンレバード/レバードの分離

NOIは減価償却・金利前の不動産固有の収益力を示す指標ですが、実際に投資家の手元に残るキャッシュフローを算出するには、NOIから資本的支出(大規模修繕や設備更新に備える準備金)を控除し、預かっている敷金の運用益を加算したNCF(純収益)まで調整する必要があります。本設例では資本的支出準備金を延床1,000坪×3,000円/坪=3,000,000円で固定額とし、敷金(テナントからの預かり金、collected rentのおおむね3ヶ月分と仮定)の運用益を年0.1%と仮定します。

式(Year1)
敷金残高 = 収受賃料 319,200,000円 × 3ヶ月/12ヶ月 = 79,800,000円
敷金運用益 = 79,800,000円 × 0.1% = 79,800円
NCF = NOI 255,895,880円 − 資本的支出準備金 3,000,000円 + 敷金運用益 79,800円 = 252,975,680円

このNCFがプロパティレベル(アンレバード)のキャッシュフローです。ここから借入の元利金返済額を差し引くと、エクイティ投資家に残るレバードキャッシュフローになります。両者を分けて管理する理由は、レバレッジの効果(借入コストより高い利回りで運用できているかどうか)を切り分けて確認するためです。本設例のYear1では、ゴーイングインキャップレート4.65%が借入金利1.5%を上回っているため、レバレッジはプラスに効きます(借入をした方がエクイティのリターンが高くなる、いわゆるポジティブレバレッジの状態です)。

項目(百万円)Year1Year2Year3Year4Year5
NOI255.9258.6261.4264.1266.9
資本的支出準備金(▲)▲3.0▲3.0▲3.0▲3.0▲3.0
敷金運用益(+)0.10.10.10.10.1
NCF(アンレバード)253.0255.7258.4261.2264.0
元利金返済額(▲)▲196.6▲194.4▲192.1▲189.8▲187.6
レバードキャッシュフロー56.461.366.471.476.5

出口評価とリターン算出:直接還元法・IRR・エクイティマルチプル

5年後の売却価格(リバージョンバリュー)は、直接還元法(Year6の予想NOIを出口キャップレートで割り戻す方法)で算出します。直接還元法とDCF法の違いや割引率の考え方そのものは直接還元法の解説記事に譲り、本記事ではこの算出結果をモデルにどう組み込むかに集中します。出口キャップレートは、保有期間中の市況変動リスクを保守的に織り込むため、ゴーイングインキャップレート4.65%に0.25ポイントを上乗せした4.90%と仮定します。


Year6の予想NOI = Year5のNOI 266,943,252円 ×(1+賃料成長率1.0%)= 269,612,684円
売却価格(総額)= 269,612,684円 ÷ 出口キャップレート4.90% = 5,502,299,679円(55.02億円)
売却費用(総額の1.5%)= 82,534,495円
売却純収入(アンレバード)= 5,502,299,679円 − 82,534,495円 = 5,419,765,184円
借入返済(Year5期末残高)= 2,268,750,000円
売却純収入(レバード・エクイティ帰属分)= 5,419,765,184円 − 2,268,750,000円 = 3,151,015,184円

アンレバードのキャッシュフロー系列は、Year0に初期投資総額56.10億円の支出、Year1〜4にNCF、Year5にNCFと売却純収入(アンレバード)を合算した5,683,791,476円を計上します。レバードの系列は、Year0にエクイティ25.85億円の支出、Year1〜4にレバードキャッシュフロー、Year5にレバードキャッシュフローと売却純収入(レバード)を合算した3,227,491,476円を計上します。この2系列にExcelのIRR関数(各期が等間隔でない場合はXIRR関数)を適用すると、次の結果になります。

指標アンレバードレバード
初期投資額56.10億円25.85億円
5年間の受取総額67.12億円34.83億円
エクイティマルチプル1.20倍1.35倍
IRR3.98%6.40%

レバードIRR(6.40%)がアンレバードIRR(3.98%)を上回っているのは、前述のとおり借入金利(1.5%)がゴーイングインキャップレート(4.65%)を下回るポジティブレバレッジの状態にあるためです。なお、IRRはNPV(正味現在価値)がゼロになる割引率として定義され、NPVの計算式を反復的に解くことで求められます。あわせて、Year1〜5のレバードキャッシュフローをエクイティで割ったキャッシュオンキャッシュ利回りは、2.18%(Year1)から2.96%(Year5)まで緩やかに上昇します。これは元本返済が進むほど自己資金1円あたりの当期キャッシュ配当が増えていくことを意味しますが、値そのものはIRRやエクイティマルチプルより小さく、売却益を含めない期中の配当利回りに過ぎない点に注意が必要です。

感応度分析:Sensitivityタブの作り方

Cash Flow & Returnsタブでレバードキャッシュフローの計算式が完成したら、Sensitivityタブでは出口キャップレートや賃料成長率といった不確実性の高い前提を横軸に振り、Excelのデータテーブル機能(What-If分析)でレバードIRRの変化を一覧表示します。Assumptionsタブの数値を直接書き換えるのではなく、データテーブルの行入力・列入力セルにAssumptionsタブのセルを指定することで、手作業での打ち替えなしに複数シナリオを一括計算できます。

出口キャップレート売却価格(総額)レバードIRR
4.40%61.28億円10.02%
4.65%57.98億円8.17%
4.90%(基準)55.02億円6.40%
5.15%52.35億円4.68%
5.40%49.93億円3.02%

出口キャップレートが0.25ポイント動くごとに、レバードIRRはおよそ1.7〜1.9ポイント動きます。売却価格がIRR全体に与える影響が大きい(保有期間5年では、リターンの過半が売却時点のキャピタルゲインに依存する)ことがこの表から読み取れます。同様に、賃料成長率を0.0%から2.0%まで振ると、レバードIRRは4.18%から8.53%まで変化し、賃料成長率1.0%の基準ケースが6.40%となって前節の計算と一致します(内部整合性の検算になります)。この2つの感応度表を作ることで、「取得を正当化するために市況の前提をどこまで楽観的に置いているか」を定量的に確認できます。

モデルの整合性チェックリスト

取得モデルが完成したら、公開前に次の点を確認します。第一に、Assumptionsタブの値を1つ変更したときに、Rent Roll/Pro Forma・Debt Schedule・NCF・Cash Flow & Returnsの各タブが連動して再計算されるか(ハードコードされた数値が紛れ込んでいないか)を確認します。第二に、Debt ScheduleタブのYear5期末残高と、Cash Flow & Returnsタブで売却時に控除する借入返済額が一致しているかを確認します。本設例では両方とも2,268,750,000円で一致しています。第三に、LTV基準とDSCR基準の両方で借入可能額を試算し、小さい方を採用しているかを確認します。第四に、アンレバードのキャッシュフロー合計から借入元本相当額を差し引くと、おおむねレバードのキャッシュフロー合計に一致するか(本設例ではエクイティ25.85億円に対しレバード受取総額34.83億円、差額はレバレッジ効果とタイミングの差に相当)という桁感の検算を行います。これらのチェックを通過して初めて、モデルは前提を差し替えて使える「動く」状態になります。

よくある質問(FAQ)

Q. このモデルは開発案件(更地からの新築)にもそのまま使えますか。
A. 本記事は既存物件の取得・保有を前提にした収益モデルです。開発案件では、これに加えて建設コストの資金化スケジュール、リースアップ期間中はNOIがほぼゼロになる点、竣工リスクなどを織り込む必要があり、収益部分の組み方(PGR→EGI→NOI)は共通でも、キャッシュフローの起点となる支出タイミングが大きく異なります。

Q. LTVとDSCRのどちらを優先してデットサイジングすべきですか。
A. どちらか一方を優先するのではなく、両方の基準で借入可能額を試算し、小さい方(より保守的な方)を採用するのが基本です。本設例ではLTV基準(30.25億円)がDSCR基準(31.49億円)より小さく、LTVが効く制約になりました。物件の稼働率や賃料水準によっては、逆にDSCRが効く制約になるケースもあります。

Q. 出口キャップレートはどのように決めればよいですか。
A. 唯一の正解はありませんが、保有期間中に市況が悪化するリスクを織り込むため、取得時のキャップレートに一定のポイントを上乗せする(本設例では0.25ポイント)保守的な設定が実務でよく用いられます。感応度分析でこの前提を振り、リターンがどこまで市況変動に敏感かを確認しておくことが重要です。

Q. NOIとNCFの違いは実務上どのくらい重要ですか。
A. 本設例のように資本的支出準備金や敷金運用益の金額が小さい物件では、NOIとNCFの差はわずかです。ただし、築年数が古く大規模修繕が近い物件や、預かり敷金の金額が大きい物件では差が無視できない水準になることがあるため、キャッシュフロー全体の精度を高めたい場合はNOIで止めずにNCFまで調整することを推奨します。

Q. Excelのデータテーブル機能を使わずに感応度分析はできますか。
A. 前提を手作業で打ち替えて都度IRRを記録する方法でも可能ですが、シナリオ数が増えると再現性が落ち、入力ミスにも気づきにくくなります。Excelのデータテーブル機能(What-If分析)を使うと、行入力・列入力セルを指定するだけで複数シナリオを自動計算できるため、感応度分析のような反復計算には適しています。

まとめ

不動産取得モデルは、Assumptions→Rent Roll/Pro Forma→Debt Schedule→NCF→Cash Flow & Returns→Sensitivityの6タブに分け、前提から結果まで一方向に計算を流す設計にすることで、前提を差し替えるだけで再計算できる「動くモデル」になります。本記事の設例では、賃料前提からNOI(Year1で255.9百万円)を積み上げ、LTVとDSCRの両建てでデットサイジング(借入30.25億円がLTV基準で確定)を行い、直接還元法による出口評価(売却価格55.02億円)からレバードIRR6.40%・エクイティマルチプル1.35倍という結果を検算しました。実際の案件では、これらの前提を物件のレントロールや融資条件に置き換えながら、同じタブ構成・同じ検算の順序で組み立てることになります。

自分の設例でモデルを組んでみる

本記事で示したのはオフィスビル1棟・5年保有という単純化した設例です。実務ではテナント別のロールオーバー、複数物件のポートフォリオ集計、リファイナンスの前提替えなど、扱う変数はさらに増えます。まずは本記事の6タブ構成をそのまま自分のExcelファイルに再現し、数値を入れ替えながら感応度を動かす練習から始めるとよいでしょう。段階的な演習に取り組みたい場合はモデリングラボも活用できます。

→ モデリングラボで演習する

出典・参考(2026年8月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。