この記事で分かること
- コーポレートファイナンスとプロジェクトファイナンス(PF)の構造的な違い——ノンリコースとSPC
- CFADS・DSCR・LLCRという専用指標の計算と、目標DSCRから借入可能額を逆算するデットサイジング
- 返済額をキャッシュフローの形に合わせるデットスカルプティングの考え方
導入:担保は「会社の信用」ではなく「事業のCF」
通常の融資は会社全体の信用に対して貸します。プロジェクトファイナンスは違います。発電所や道路など特定の事業だけを切り出したSPC(特別目的会社)に貸し、返済原資はその事業が生むキャッシュフローに限定される(ノンリコース/リミテッドリコース)。スポンサー企業が倒れても事業が回れば返済は続き、逆に事業が倒れてもスポンサーには原則遡及しない——この分離が制度の核心です。
結論
- PFの分析単位はCFADS(返済に充当可能なキャッシュフロー)。会計利益ではなく「その期に返済に回せる現金」を直接組む。
- 単年の安全度はDSCR=CFADS÷元利返済額、融資期間全体の安全度はLLCR=将来CFADSの現在価値÷借入残高で測る。
- 借入額はDSCRから逆算する(デットサイジング)。「いくら借りたいか」ではなく「CFがいくらの返済に耐えるか」が先。
基礎:DSCRとデットサイジング
あるインフラ事業のCFADSが年100(20年間ほぼ安定)とします。レンダーが目標DSCRを1.25倍と設定すれば、年間の元利返済額の上限は100÷1.25=80。返済期間と金利を置けば、この年80の返済で支えられる借入元本が逆算できます——これがデットサイジングです。事業のCFが先に決まり、負債額が従属変数になる。LBOのレバレッジ倍率設定と発想は同じですが、PFは契約でCFを固めてから借入額を決める点でより機械的です。
| 指標 | 値 | 計算・意味 |
|---|---|---|
| CFADS(年) | 100 | EBITDA−税−維持投資±運転資本 |
| 目標DSCR | 1.25倍 | レンダー要求(事業リスクで変わる) |
| 年間元利返済の上限 | 80 | 100÷1.25 |
| LLCR(残期間10年・割引率6%・残債600) | 約1.23倍 | PV(CFADS)736÷600 |
LLCRの736は「年100×10年を6%で割り引いた現在価値」。DSCRが単年のスナップショット、LLCRが完済までの通算体力という役割分担です。初期に返済が重く後半に軽い設計なら、単年DSCRが薄くてもLLCRは厚い、といった読み方ができます。
デットスカルプティング:返済をCFの形に彫る
均等返済(毎年同額)を、CFが季節や年度で波打つ事業に当てはめると、CFが薄い年だけDSCRが割れます。そこで各年の返済額を「その年のCFADS÷目標DSCR」になるよう個別に設計する——これがデットスカルプティング(彫刻)です。結果としてすべての年でDSCRが一定になり、同じCF総量からより多くの負債を支えられます。再エネ発電のように出力保証や固定価格買取でCFが契約で読める事業ほど、スカルプティングの効果が大きい。Excel上は循環参照が生じやすい箇所で、返済額→残高→金利→CFADSの循環を反復計算か代数で解きます(循環参照の扱いは財務モデルの循環参照)。
契約とリザーブ:モデル外の安全装置
- オフテイク契約:生産物の長期買取契約(電力のPPA等)。収入サイドの変動を契約で殺すのがPFの第一原理。
- DSRA(元利返済準備口座):6か月〜1年分の返済額を常時プール。CFが一時的に切れても返済が飛ばない仕組み。
- 配当ロックアップ:DSCRが一定水準(例:1.15倍)を割るとスポンサーへの配当を停止し、現金を溜める コベナンツ。
- これらの契約群が「CFの分散を絞る」ことで、事業単体でも高いレバレッジ(LTV70〜90%)が成立する。
面接での聞かれ方
「LBOとプロジェクトファイナンスは何が違いますか」——どちらも高レバレッジ・CF返済ですが、(1)LBOは既存企業の買収でCFは事業の競争力次第、PFは新設事業でCFは長期契約で固定される、(2)LBOのエクイティは売却(出口)で回収、PFは配当で長期回収、(3)だからLBOはIRRと出口倍率、PFはDSCR/LLCRが支配指標——この3点で答えれば十分です(LBOの構造はLBOモデルの作り方)。
よくある誤解
- 「DSCR1.0倍あれば返せる」——1.0は綱渡り。前提の僅かな下振れで即デフォルトなので、レンダーは事業リスクに応じ1.2〜1.5倍程度を要求するのが一般的傾向。
- 「ノンリコースだからスポンサーは無傷」——完工保証や出資コミットなど、建設期には実質的な支援義務が残る設計が多い。
- 「CFADS=EBITDA」——税・維持投資・運転資本を引く。EBITDAのままDSCRを計算すると過大評価になる。
まとめ
- PFは「事業に貸す」金融。SPC・ノンリコース・長期契約の3点セットで成立する。
- 設例の錨:CFADS100・目標DSCR1.25→返済上限80。LLCR=736÷600≒1.23倍。
- スカルプティングは返済をCFの形に合わせ、同じ事業からより多くの負債を引き出す技術。
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本記事について
本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。