この記事で分かること
- REITでPERや純利益を使わない理由と、FFO(Funds From Operations)への修正手順
- NAV(純資産価値)法の計算を設例で通し、「NAV倍率」で割高・割安を読む型
- 市場価格から逆算するインプライドキャップレートの使い方と、J-REIT実務で見る指標セット
導入:会計上の利益が実態を映さない業種
不動産投資法人(REIT)の損益計算書には、巨額の減価償却費が計上されます。しかし適切に維持管理された賃貸不動産の価値は、簿価のように毎年一直線に減っていくわけではありません。つまり会計上の純利益は、REITの「稼ぐ力」を系統的に過小表示します。ここを修正するところからREIT分析は始まります。
結論
- 収益力は純利益ではなくFFO=純利益+減価償却費−不動産売却損益で測る。倍率もP/FFOを使う。
- 資産価値はNAV=不動産の時価評価額−負債。市場価格÷NAV(NAV倍率)が1を挟んでどちらにいるかが割高・割安の第一判定。
- 市場価格からインプライドキャップレート(市場が織り込む利回り)を逆算すれば、鑑定評価や取引事例との比較で「市場の見立て」を数値化できる。
基礎①:FFOを設例で
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 当期純利益 | 50 | 会計上の利益 |
| +減価償却費 | 40 | キャッシュアウトなし |
| −不動産売却益 | (10) | 一過性を除く |
| FFO | 80 | 投資口100百万口→FFO/口 0.8 |
投資口価格が9.6ならP/FFO=12倍。さらに実務では、FFOから資本的支出(修繕・更新投資)を差し引いたAFFOで「分配余力」を見ます。減価償却は現金流出ではないものの、建物は実際に傷む——その維持コストを戻し入れっぱなしにしない、という補正がAFFOの思想です。
基礎②:NAVとNAV倍率
| 項目 | 金額 | 計算 |
|---|---|---|
| 保有不動産の評価額 | 2,500 | NOI 100÷キャップレート4.0% |
| −有利子負債等 | (1,000) | — |
| NAV | 1,500 | 100百万口→NAV/口 15 |
投資口価格が14ならNAV倍率0.93倍——市場は保有不動産の評価額を約7%割り引いて値付けしていることになります。1倍割れが続く局面では「市場価格で不動産を買うより、REITの投資口を買う方が安く不動産を持てる」という裁定の議論や、スポンサーによる物件売却・自己投資口取得の議論が出てきます。逆に1倍超は増資による外部成長がNAVを希薄化させずに効く局面です。
応用:インプライドキャップレート
市場の時価総額1,400+負債1,000=2,400が「市場がポートフォリオ全体につけている値段」。これに対し実際のNOIが100なら、インプライドキャップレート=100÷2,400≒4.17%。鑑定キャップレートの4.0%より高い(=市場の方が厳しい値付け)ことが読み取れます。この差分の解釈——金利上昇の織り込みか、鑑定の遅行性か、個別物件への懸念か——が、REITアナリストの腕の見せどころです。
J-REIT実務で見る指標セット
- 分配金利回り:J-REITは利益のほぼ全額分配が前提(導管性要件)。個人投資家目線の一義的な物差し。
- LTV(負債比率):総資産に対する有利子負債。40〜50%程度のレンジ管理が一般的で、上限余地が外部成長(物件取得)の弾薬になる。
- NOI利回り・稼働率:ポートフォリオの質。用途(オフィス・住宅・物流・ホテル)でボラティリティが大きく異なる。
- スポンサーとパイプライン:物件供給元としてのスポンサーの力が成長力を左右する——J-REIT固有の論点。
面接での聞かれ方
「なぜREITはPERではなくP/FFOで評価するのですか」——減価償却が利益を系統的に歪めるから、では半分です。もう半分は「REITの競合的な投資対象は株ではなく実物不動産であり、不動産の世界の物差し(キャップレート・NAV)と接続できる指標体系が必要だから」。収益倍率(P/FFO)と資産倍率(NAV倍率)の両輪で見る、と答えられれば設計思想まで理解していることが伝わります(一般事業会社の倍率体系はマルチプルの選び方完全ガイド)。
よくある誤解
- 「分配金利回りが高いREITほどお得」——価格下落(分母の毀損)で利回りが上がっているだけの場合がある。NAV倍率・LTV・用途と合わせて見る。
- 「NAVは客観的な価値」——鑑定評価はキャップレート次第で大きく動く見積り。インプライドキャップレートとの突合で市場との温度差を測るのが実務。
- 「FFOはキャッシュフローそのもの」——維持CAPEXを引く前の数字。分配余力はAFFOで確認する。
まとめ
- REITは「利益を直さないと使えない」業種。FFO80(純利益50+償却40−売却益10)が収益の物差し。
- NAV1,500・NAV/口15。価格との比(NAV倍率)とインプライドキャップ4.17%で市場の見立てを読む。
- J-REITでは分配金利回り・LTV・スポンサーまで含めて1セット。
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本記事について
本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。