この記事で分かること

  • 不動産投資の損益計画(プロフォーマ)の標準構造——満室賃料からNOIまでの階段
  • キャップレートによる価格評価と、借入を入れたときのDSCR・キャッシュオンキャッシュの計算
  • コア・バリューアッド・開発型というリスク類型と、モデルの重心の違い

導入:企業ではなく「1棟」を評価する

ここまでの財務モデルは会社単位でした。不動産モデリングの単位は物件1つです。テナントが賃料を払い、管理コストがかかり、残りが投資家と銀行に分配される——構造は企業のミニチュアですが、収益の上限(貸せる面積×賃料相場)が物理的に決まっている点が独特です。この「1棟のPL」がプロフォーマです。

結論

  • プロフォーマの背骨は満室想定賃料→(空室控除)→実効総収入→(運営費用)→NOI。NOIが物件の稼ぐ力のすべての起点。
  • 価格はNOI÷キャップレートで決まる。キャップレートが0.5ポイント動くだけで価格は1〜2割動く——最重要の感応度。
  • 借入を入れたらDSCR(NOI÷元利返済額)で銀行の目線を、キャッシュオンキャッシュで投資家の目線をチェックする。

基礎:プロフォーマを1本通す

表1:オフィスビル1棟のプロフォーマ(単位:百万円・設例)
項目金額備考
満室想定賃料(GPR)120貸付面積×月坪賃料×12
空室・貸倒損失(6)空室率5%
実効総収入(EGI)114
運営費用(管理・修繕・公租公課・保険)(44)経費率約39%
NOI(純収益)70減価償却・金利は含めない

キャップレート3.5%で評価すれば、物件価格は70÷3.5%=2,000。ここで注意すべきは、NOIには減価償却も支払金利も含めないこと。NOIは「誰が・どんな資本構成で持っても変わらない、物件そのものの稼ぐ力」であり、企業評価におけるEBIT/EBITDAと同じ思想で設計されています。

借入を入れる:銀行目線と投資家目線

表2:レバレッジ後のキャッシュフロー(単位:百万円・設例)
項目金額計算
物件価格/借入(LTV60%)2,000/1,200エクイティ800
年間支払金利(元本据置・金利3%)361,200×3%
DSCR1.94倍NOI 70÷36
レバレッジ後CF/キャッシュオンキャッシュ34/4.25%(70−36)÷800

物件利回り3.5%に対し借入コスト3%——この差(ポジティブスプレッド)がある限り、借入を増やすほどエクイティ利回りは上がります。ただし空室が増えNOIが36を割れば即座に返済不能。DSCRは銀行が最初に見る数字で、1.2〜1.3倍を下限に置く融資実務が一般的な傾向です。元本返済(アモチ)を入れる場合は分母が元利合計になり、DSCRはさらに厳しくなります。

リスク類型:コア/バリューアッド/開発

  • コア:都心の稼働済み優良物件を低レバレッジで持つ。モデルの重心は賃料改定と金利。リターンは低いが安定。
  • バリューアッド:空室の多い・古い物件を買い、改装やリーシングでNOIを引き上げて売る。モデルの重心は改善後NOIと出口キャップレート
  • 開発型:更地から建てる。竣工までCFはマイナスで、リスクの主役は建築費と竣工後の賃料水準。IRRの大半が出口に依存する。

複数投資家で組むファンド形態では、成果報酬の分配を段階化したウォーターフォール(プロモートが組まれます。ハードルを超えた超過リターンをGPに厚く配る発想はPEのキャリーと同型です(分配設計の考え方はIRRとMOICの計算と使い分け)。

賃料明細(レントロール)と運営費用の科目

表1では満室想定賃料120→NOI70という数字を一行ずつ置きましたが、実務ではこの各行をレントロール(賃貸借条件の一覧表)と費用明細から積み上げます。プロフォーマの精度は、この「明細を読む力」でほぼ決まります。

レントロールはテナント(契約)ごとに1行で条件を並べた資料で、読むときの着眼点は次のとおりです。

レントロールの主な項目見るポイント
テナント名・業種大口テナントへの集中度。1社で賃料の大半を占めるなら退去が最大リスク
区画・契約面積坪単価(月額賃料÷面積)を出す基礎。単位(坪/㎡)の混在に注意
月額賃料・共益費契約賃料とマーケット賃料の乖離。相場より安ければ改定余地、高ければ更新時の減額リスク
契約開始・満了日満了時期の分布。特定年度に満了が集中していれば入替空室のリスクが偏る
敷金・保証金退去時に返還が必要な預り金。キャッシュフロー計画に影響
フリーレント・段階賃料表面の契約賃料と実効賃料の差。取得直後の収入を過大評価しないための確認項目

満室想定賃料(GPR)との接続はこうなります——稼働中区画の契約賃料+空室区画のマーケット想定賃料=GPR。そこから空室・貸倒損失を控除してEGIに至るのが表1の構造で、空室控除は「現に空いている区画」と「契約満了に伴う将来の入替空室」の両方を映す想定値です。

運営費用も同様に科目へ分解します。表1の44を分解した設例が次の表です(単位:百万円・設例)。

費用科目金額(設例)備考
PM・BM費(運営・建物管理の委託)14賃料連動+固定の組み合わせが多い
水道光熱費(共用部)10稼働率に応じて変動。テナント負担分と区別する
修繕費(経常)6日常修繕のみ。大規模修繕はCapExとして別掲
公租公課(固定資産税・都市計画税)12評価替えの年度に変動し得る固定的コスト
損害保険料2火災・地震保険等
合計(表1の運営費用)4414+10+6+12+2=44

注意したいのは境界線の引き方です。大規模修繕やテナント入替時の工事負担、リーシング費用(仲介手数料等)は発生が不規則なため、経常の運営費用に混ぜずNOIの下(CapEx等)で別掲する設計が広く使われます。本文で述べた「NOIは資本構成中立」という思想と同じで、どこまでをNOIの上に置くかを最初に決め、物件間で揃えることが比較可能性の生命線です。

Excelでの持ち方は、①レントロールは「1契約=1行」のシートにする、②費用は科目マスタを固定して物件間で並び順を揃える、③契約満了月を列で持ち、更新/退去のシナリオをフラグで切り替えられるようにする、④月次で組んで年次に集計する、が基本形です。この明細を借入・売却まで含む1本のモデルに組み上げる手順は不動産取得モデルの作り方で、実データのレントロールの正規化(表記ゆれ・面積単位の統一)は不動産投資分析でAIを使うで扱っています。借入サイドの実務は日本の不動産デット市場、戦略類型ごとにモデルの重心がどう変わるかは不動産投資戦略の4分類が続きの読み物です。

出典: 本節の数値はすべて本文表1と整合する理解のための設例です。科目区分は日本の賃貸不動産運営における一般的な実務慣行の整理です(2026年8月時点)。

面接での聞かれ方

「キャップレートが3.5%から4.0%に上がると価格はいくら変わりますか」——70÷4.0%=1,750、つまり△250(△12.5%)。分母が0.5ポイント動くだけで1割超動く、と即答できるかが試されます。続く「では金利が上がるとキャップレートはどうなりますか」には、国債利回り+リスクプレミアムという構造で「連動して上がる圧力がかかるが、賃料成長期待が相殺することもある」と両面で答えるのが安全です。

よくある誤解

  • 「NOIから金利を引いてしまう」——NOIは資本構成中立。金利はその下のレバレッジ後CFで扱う。
  • 「表面利回りとNOI利回りの混同」——満室賃料÷価格(表面)は空室も経費も無視した営業用の数字。投資判断はNOIベースで。
  • 「DSCRが高ければ安全」——単年の指標にすぎない。大口テナント退去や金利更改を織り込んだ複数年ストレスが実務。

まとめ

  • プロフォーマの錨:GPR120→EGI114→NOI70。価格=70÷3.5%=2,000。
  • レバレッジ後はDSCR1.94倍・キャッシュオンキャッシュ4.25%。銀行目線と投資家目線を別々に持つ。
  • キャップレート感応度が最大のリスク。0.5ポイントで価格1割強。

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本記事について

本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。