この記事で分かること

  • 資源(石油・ガス・鉱山)の評価で通常のDCF(永続成長)が使えない理由
  • 埋蔵量ベースのNAV型評価の最小設例と、生産減衰(タイプカーブ)という独特の前提
  • コモディティ価格前提の置き方と、日本の読者が出会う文脈(総合商社・LNG)

導入:掘り尽くしたら終わる事業

通常のDCFは「事業は永続する」前提でターミナルバリューを置きます。しかし油田や鉱山には埋蔵量という物理的な上限があり、掘るほど資産そのものが減っていく。永続成長率の議論が根本から成立しません。だから資源の評価は「今ある埋蔵量を、掘り切るまでのCFに引き直して合計する」——有限のDCF、すなわちNAV型評価が標準になります。

結論

  • 資源評価の軸はNAV=埋蔵量を生産計画に落とし、価格前提を掛け、コストを引いた将来CFの現在価値−ネットデット。ターミナルバリューは置かない。
  • 生産量は一定ではなく減衰する。個別の井戸・鉱区の生産カーブ(タイプカーブ)を積み上げて全体の生産計画を作る。
  • 評価の支配変数はコモディティ価格前提。自社の予想単価ではなく、先物カーブや長期均衡価格からの感応度で示すのが実務の作法。

基礎:NAV型評価の最小設例

ある鉱区が今後10年、年間15のフリーキャッシュフロー(価格・生産・コスト織り込み後)を生み、その後は枯渇するとします。割引率10%なら将来CFの現在価値は15×年金現価係数6.14=約92。ネットデット30を引いてNAV≒62——これがエクイティの値段です。実際には鉱区ごとに(1)確認埋蔵量だけで組むケース、(2)推定・予想埋蔵量を確率で刻んで加えるケースを分け、「どこまで確からしい資源を、いくらで買っているか」を層別に示します。埋蔵量の確からしさ(確認/推定/予想)はそのまま評価の信頼区間になります。

タイプカーブ:生産は右肩下がりが前提

特にシェール系の井戸は、生産開始直後がピークで、1〜2年で急減し、その後長い裾を引く——この減衰パターンを型にしたのがタイプカーブです。含意は重要で、会社全体の生産量を維持するだけでも、新しい井戸を掘り続ける投資が要るということ。減価償却ではなく「掘削投資を止めた瞬間に売上が減り始める」構造なので、フリーキャッシュフローの見かけの良さに騙されず、維持投資込みのCFで見る必要があります。設備型産業の維持CAPEXの議論の極端形と捉えると理解が早いはずです。

価格前提と感応度:予想せず、幅で示す

  • 短期は先物カーブ(市場が織り込む価格)、長期は長期均衡価格(新規開発の採算ライン)に収束させる置き方が一般的な傾向。
  • アナリストの成果物は「当社の予想価格での一点評価」ではなく、価格×割引率のNAV感応度表。価格±20%でNAVが何倍変わるかを示す。
  • 高コスト鉱区ほど価格感応度が高い(オプション性が強い)——営業レバレッジの議論がそのまま当てはまる。

日本の文脈:どこで出会うか

日本の読者がこの領域に触れるのは、資源専業よりも総合商社の資源セグメント(鉄鉱石・原料炭・銅・LNGの持分投資)や、電力・ガス会社の上流権益、政府系機関の出資案件が典型です。商社の決算では資源価格の前提変更が持分損益とセグメント資産の減損に直結し、「資源市況→商社の純利益」の連動を読むのに本記事の枠組み(埋蔵量・価格前提・減衰)がそのまま使えます。評価対象が上場株なら、NAV型と並べてPER・配当利回りの相対比較も併用します(倍率評価の基礎はマルチプルの選び方完全ガイド)。

よくある誤解

  • 「資源会社も永続前提のDCFで良い」——埋蔵量の裏づけなく永続CFを置くと、存在しない資源を評価に織り込むことになる。
  • 「今年のFCFが大きい=優良」——掘削投資を絞れば短期のFCFは膨らむが、翌年以降の生産が減る。維持投資込みで見る。
  • 「価格は自社予想で置けば良い」——一点予想は検証不能。先物・長期均衡・感応度の三点セットが説明責任を果たす形。

まとめ

  • 資源は「掘り尽くしたら終わる」からNAV型。設例の錨:年15×10年@10%=92、ND30を引いてNAV62。
  • 生産は減衰する(タイプカーブ)。維持には投資が要り、FCFの見かけに注意。
  • 評価は価格前提の感応度で語る。日本では商社・LNGの文脈で頻出。

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本記事について

本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。