この記事で分かること

  • ビルドアップ法の定義と、CAPMとの違い(ベータを使わない理由)
  • 無リスク金利・ERP・サイズプレミアム・企業固有リスクの積み上げ方
  • 整数設例による株主資本コストの算定
  • 企業固有リスクプレミアムの設定で恣意性をどう抑えるか

30秒で分かる定義

ビルドアップ法(Build-up Method for Private Company Cost of Capital、読み方:びるどあっぷほう)とは、個社のベータが取得できない非公開会社の株主資本コストを、無リスク金利にエクイティリスクプレミアム(ERP)・サイズプレミアム・企業固有リスクプレミアムなどの各種リスクプレミアムを積み上げて(合算して)推計する手法です。「積み上げ法」とも呼ばれ、CAPMのようにベータで市場感応度を調整せず、リスク要素をそのまま加算していく点が最大の特徴です。

なぜ実務で重要なのか

FAS・税理士法人の中小企業M&A・事業承継案件では、対象会社の株価データが存在せず、業種別ベータ法で参照できる十分な比較会社群も見つからないケースが多く、ビルドアップ法が資本コスト推計の実務的な選択肢になります。PE(中堅・中小企業向けファンド)でも、非上場の投資先の割引率設定で使われます。

計算式

株主資本コスト = 無リスク金利 + エクイティリスクプレミアム(ERP)+ サイズプレミアム + 企業固有リスクプレミアム

無リスク金利は長期国債利回り等を使い、ERPは株式市場全体が国債に対して要求する超過リターンです。サイズプレミアムは、小規模企業ほど大企業より高いリターンを要求されるという実証研究に基づく上乗せで、時価総額の規模区分ごとの統計値が公表されています。企業固有リスクプレミアムは、対象企業特有の要因(顧客集中度、経営者への依存度、事業の分散度合い等)を評価者が定性的に判断して設定する、最も恣意性が入りやすい要素です。

整数設例で確認する

設例(架空数値)。非公開の中堅製造業を評価する前提とします。

  • 無リスク金利:1.5%
  • エクイティリスクプレミアム(ERP):6.0%
  • サイズプレミアム:4.0%(小規模企業の統計データから)
  • 企業固有リスクプレミアム:3.0%(主要顧客への売上依存度が高いことを踏まえて設定)

株主資本コスト = 1.5% + 6.0% + 4.0% + 3.0% = 14.5%と求まります。上場大企業のCAPMベースの株主資本コストが8%前後だとすると、この非公開企業は規模とリスクの分だけ約6.5ポイント高い資本コストが要求されていることになります。

投資判断への影響

ビルドアップ法で算定した割引率は、企業固有リスクプレミアムの設定次第で結果が大きく変わるため、DCF評価額の妥当性を左右する重要な前提になります。企業固有リスクプレミアムを高く設定しすぎると評価額が不当に圧縮され、低く設定しすぎるとリスクを過小評価した高すぎる評価額になります。実務では、複数の評価者・複数の類似案件と比較して、設定したプレミアムの水準に説明力があるかを検証します。

財務モデル・Excelでの使い方

ビルドアップ法の計算シートでは、無リスク金利・ERP・サイズプレミアムを外部データ(国債利回り、公表されているERP・サイズプレミアムの統計値)から参照する行を作ります。

  • サイズプレミアムは時価総額(非公開企業の場合はDCF算定額等で代替した推定時価総額)の規模区分に応じて自動的に参照されるようテーブル参照(XLOOKUP等)を組む
  • 企業固有リスクプレミアムは、判断根拠となる定性的な要因(顧客集中度・経営者依存度・事業の分散度)をコメント欄に明記し、恣意的な数値操作でないことを説明できるようにする
  • WACCの計算方法と同様に、負債コスト・資本構成と組み合わせてWACCまで算出する

この用語をExcelで「組める」状態にする

無リスク金利・ERP・サイズプレミアム・企業固有リスクを積み上げ、非公開企業の株主資本コストを算定できるようになる。

DCF教材で資本コスト算定の手順を見る →

実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「ビルドアップ法はベータを使わないので簡単」→ 正しくは、企業固有リスクプレミアムの設定に高度な判断が必要で、CAPMより恣意性の管理が難しい面があります。

誤解2:「業種別ベータ法とビルドアップ法はどちらでも同じ結果になる」→ 正しくは、前提とする要素が異なるため一致するとは限りません。両方を試算して結果のレンジを確認するのが実務的なアプローチです。

実務家はさらに、サイズプレミアムのデータソース(どの規模区分の統計値を使うか)が対象企業の実態に合っているかを確認します。

日本実務での扱い

(2026年7月時点)日本のFAS・税理士法人の中小企業評価実務でも、業種別ベータ法で十分な比較会社が見つからない非上場の中小企業案件でビルドアップ法が使われます。無リスク金利は日本国債の利回り、ERPは日本株式市場のデータを使うのが標準ですが、サイズプレミアムの統計データは米国市場のものが充実している一方、日本市場に特化した公表データは相対的に限られており、実務では海外のデータを参考にしつつ日本市場の実情で調整する運用が一般的です。米国では中小企業評価(Business Valuation)の専門資格制度と統計データベースが確立しており、ビルドアップ法の各プレミアムの設定に一定の標準的な参照データが存在します。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:非上場の中小企業のWACCをどう算定しますか。
「個社のベータが取得できないため、業種別ベータ法かビルドアップ法を使います。ビルドアップ法では無リスク金利にERP・サイズプレミアム・企業固有リスクプレミアムを積み上げます。企業固有リスクプレミアムは顧客集中度や経営者依存度など定性的な要因を反映するため、設定根拠を明確に説明できるようにしておくことが重要です。」

深掘りでは「サイズプレミアムはなぜ小規模企業ほど高いのか」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. ビルドアップ法とCAPMを併用することはありますか?
A. あります。業種別ベータ法(CAPMベース)とビルドアップ法の両方で算定し、結果のレンジを比較することで前提の頑健性を確認する実務があります。

Q. 企業固有リスクプレミアムはゼロにできますか?
A. 理論上は可能ですが、非上場の中小企業は経営の属人性や事業の集中度など上場企業にはないリスクを抱えることが多く、実務では何らかのプレミアムを設定するのが一般的です。

出典・参考(2026-07-25確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。