この記事で分かること

  • 業種別ベータ法(ボトムアップベータ法)の定義と、なぜ個社のベータをそのまま使わないのか
  • アンレバー・平均・リレバーという3ステップの計算手順
  • 整数設例による検算と、非上場企業・相続税評価への応用
  • 面接で問われる「回帰ベータとどちらを使うべきか」への答え方

30秒で分かる定義

業種別ベータ法(ボトムアップベータ法、Industry Beta Approach/Bottom-up Beta、読み方:ぎょうしゅべつべーたほう)とは、対象企業と類似する上場企業群の株価ベータを財務レバレッジの影響を取り除いた「アンレバードベータ」に変換して平均し、対象企業自身の資本構成でリレバー(再度負債の影響を乗せる)ことで株主資本コストの推計に使うベータを求める手法です。個社の回帰ベータはノイズが大きく、非上場企業には回帰ベータ自体が存在しないため、実務ではこの業種平均をベースにした推計が標準になっています。

なぜ実務で重要なのか

IB・FASのバリュエーション実務では、DCF法の割引率(WACC)を求める際、対象企業の株主資本コストをCAPMで計算しますが、個社の回帰ベータは推計期間・指数の選び方で大きく振れ、非上場企業には存在しません。PEでは買収対象の多くが非上場企業であるため、業種別ベータ法が資本コスト推計の事実上の標準です。

計算式(3ステップ)

ステップは「①各比較会社のベータをアンレバーする」「②アンレバードベータを平均する」「③対象企業の資本構成でリレバーする」の3段階です。

アンレバードベータ = レバードベータ ÷[1 +(1-実効税率)× D/E]
対象企業のリレバードベータ = 平均アンレバードベータ ×[1 +(1-実効税率)× 対象企業のD/E]

D/Eは有利子負債を自己資本(時価)で割った比率です。負債を多く抱える会社ほどレバードベータは高く出るため、比較会社ごとの資本構成の差を取り除いてから平均し、最後に評価対象の資本構成に合わせて戻す、という考え方です。

整数設例で確認する

設例(架空数値)。実効税率は3社・対象企業とも30%で統一します。

比較会社レバードβD/Eアンレバードβ
A社1.2040%0.938
B社1.0020%0.877
C社1.4060%0.986

A社:1.20 ÷[1 + 0.7 × 0.40]= 1.20 ÷ 1.28 = 0.938。B社:1.00 ÷[1 + 0.7 × 0.20]= 1.00 ÷ 1.14 = 0.877。C社:1.40 ÷[1 + 0.7 × 0.60]= 1.40 ÷ 1.42 = 0.986。平均アンレバードベータ =(0.938+0.877+0.986)÷ 3 = 0.934です。対象企業のD/Eが50%だとすると、リレバードベータ = 0.934 ×[1 + 0.7 × 0.50]= 0.934 × 1.35 = 1.26となり、これをCAPMの株主資本コスト計算に投入します。

投資判断への影響

ベータはWACCの分子側(株主資本コスト)を決める変数であり、WACCが1%動くとDCFの企業価値は大きくずれます。比較会社の選定を誤って資本構成やビジネスリスクの異なる会社を混ぜると、アンレバードベータの平均値そのものが歪み、割引率の推計が不当に高く(低く)なります。類似会社比較法で使う比較会社群と、業種別ベータ法で使う比較会社群は必ずしも一致させる必要はありませんが、事業内容の近さという選定基準は共通です。

財務モデル・Excelでの使い方

WACC計算シートに比較会社を並べ、各社のレバードベータ・有利子負債・時価総額・実効税率を入力する行を作ります。

  • アンレバードベータは各社ごとに関数化し、平均値は=AVERAGE()で機械的に計算する(外れ値を手で除外する場合はその理由をコメントで残す)
  • 対象企業の目標資本構成(D/E)は、直近の実績値ではなく「持続可能な目標水準」を使うのが原則。買収後の資本構成が変わるLBO評価では特に重要
  • 実効税率は各比較会社の税率をそのまま使うか、対象企業の限界税率に統一するかでポリシーを決め、シート上に前提として明記する

この用語をExcelで「組める」状態にする

比較会社群のベータをアンレバー・平均・リレバーする計算シートを組み、非上場企業のWACCを算定できるようになる。

DCF教材で資本コスト算定の手順を見る →

実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「非上場企業だからベータは推計不能」→ 正しくは、業種別ベータ法があるからこそ非上場企業のWACCも推計できます。これが実務での最大の存在意義です。

誤解2:「比較会社は多いほどよい」→ 正しくは、事業内容が離れた会社を無理に含めると平均値が歪みます。3〜8社程度に事業内容で絞り込む方が精度が上がることが多いです。

実務家はさらに、負債の時価と簿価の乖離や、非経常的な有利子負債の増減が比較会社のD/Eを歪めていないかを確認します。

日本実務での扱い

(2026年7月時点)日本株の個社ベータは、東証プライム市場の主要銘柄でも業種内の値動きが特定の大型株1〜2銘柄に引っ張られやすく、米国株以上に業種別ベータ法への依存度が高いとされます。非上場企業の相続税評価では類似業種比準方式のような別枠の通達ベースの評価方法が使われ、CAPM由来の割引率とは計算目的・法的位置付けが異なる点に注意が必要です(詳しくは取引相場のない株式の評価で扱います)。有価証券報告書や適時開示にベータそのものが記載されることはなく、実務では日経・Bloomberg等のデータベンダーの回帰値か、自前で算定した値を使います。米国でも業種別アンレバードベータの公表データが広く参照されており、手法自体は日米で共通です。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:なぜ回帰分析で求めた個社のベータをそのまま使わないのですか。
「回帰ベータは推計期間・比較指数の選び方でノイズが大きく、また非上場企業には存在しません。業種別ベータ法なら、複数の類似上場企業のベータをアンレバーして事業リスクだけを取り出し、対象企業の資本構成でリレバーすることで、より安定した推計値が得られます。」

深掘りでは「比較会社の選び方」「税率の扱い(限界税率か実効税率か)」「目標資本構成をどう置くか」が定番の追加質問です。

よくある質問(FAQ)

Q. アンレバードベータとアセットベータは同じ意味ですか?
A. 実務ではほぼ同義で使われます。負債による財務リスクを取り除いた、事業そのもののリスクだけを表すベータという意味です。

Q. D/Eは時価と簿価のどちらを使いますか?
A. 理論上は自己資本の時価(時価総額)を使うのが原則です。比較会社は上場しているため時価総額が入手でき、対象企業側も目標資本構成を時価ベースで置くのが標準的な実務です。

出典・参考(2026-07-25確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。