この記事で分かること

  • 取引相場のない株式の評価(相続税・贈与税評価)の全体像
  • 会社規模区分(大会社・中会社・小会社)と株主区分による方式選択の仕組み(図解)
  • 併用方式の整数設例による検算
  • M&Aの時価評価との目的の違い

30秒で分かる定義

取引相場のない株式の評価(Non-listed Share Valuation for Inheritance/Gift Tax、読み方:とりひきそうばのないかぶしきのひょうか)とは、市場価格が存在しない非上場株式について、財産評価基本通達に基づき相続税・贈与税の課税価格を算定するための評価の枠組みです。会社の規模区分と、株式を取得する株主の性質(経営支配権を持つ株主か少数株主か)に応じて、適用する評価方式が変わる点が最大の特徴です。

なぜ実務で重要なのか

事業承継・相続対策では、オーナー経営者が自社株式を後継者に承継する際の相続税・贈与税額を左右する評価額の算定根拠になります。FAS・税理士法人では、事業承継案件やM&A前の株主整理において、この評価額を試算した上で株式移転のスキームを設計します。PE・M&Aにおいても、非上場企業のオーナーが売却を検討する際、相続税評価額と実際の売却想定価格の水準差を理解しておくことが交渉の前提知識になります。

仕組み:会社規模区分と株主区分による方式選択

評価方式は「①株主区分」と「②会社規模区分」の組み合わせで決まります。経営支配力を持つ同族株主等が取得する株式には原則的評価方式、支配力のない少数株主が取得する株式には特例的評価方式(配当還元方式)が適用されます。

評価方式の選択フロー 株主区分の判定 同族株主等(原則的評価方式) 少数株主等(特例的評価方式) 大会社 類似業種比準方式 (原則) 中会社 併用方式 (Lの割合で加重) 小会社 純資産価額方式 (原則) 配当還元方式
図:株主区分・会社規模区分による評価方式選択の全体像(簡略化。詳細な判定基準は各方式の記事を参照)

大会社は原則類似業種比準方式、小会社は原則純資産価額方式、中会社はその中間として、両方式をL(会社規模に応じ0.90〜0.60)の割合で加重する併用方式が適用されます。少数株主が取得する株式には配当還元方式という簡便な方式が使われます。

整数設例で確認する(併用方式)

設例(架空数値)。中会社(Lの割合0.75)に区分される会社で、類似業種比準価額が1株当たり3,000円、純資産価額が1株当たり5,000円と算定されたとします。

併用方式による評価額 = 類似業種比準価額 × L + 純資産価額 ×(1-L)

評価額 = 3,000円 × 0.75 + 5,000円 ×(1-0.75)= 2,250円 + 1,250円 = 3,500円/株となります。Lの割合が高い(会社規模が大きい)ほど類似業種比準価額の比重が増し、Lが低い(会社規模が小さい)ほど純資産価額の比重が増える設計です。

契約条項への影響(課税価格としての位置付け)

この評価額は相続税・贈与税の申告における課税価格であり、法的拘束力を持つ「取引価格」ではありません。株式を実際に売買する場合の価格は当事者間の合意で自由に決められますが、著しく低い価格での譲渡は「みなし贈与」として課税されるリスクがあるため、実務上はこの通達評価額が譲渡価格の目安として参照されることが多くあります。

財務モデル・Excelでの使い方

事業承継の税務シミュレーションシートでは、会社規模区分の判定(従業員数・総資産価額・取引金額)を別シートで行い、判定結果に応じて評価方式を自動選択する構造にします。

  • 会社規模区分の判定基準(業種別の従業員数・総資産・取引金額の閾値)はIF関数のネストで実装し、判定根拠を別セルに残す
  • 類似業種比準方式・純資産価額方式それぞれの計算シートを作り、併用方式の場合はL値を入力するだけで加重平均が自動計算されるようにする
  • 配当還元方式との比較(少数株主評価との差)も同じシート上に並べ、株主構成が変わった場合の影響を確認できるようにする

この用語をExcelで「組める」状態にする

会社規模区分の判定から併用方式の加重計算まで、非上場株式の相続税評価シートの骨格を組めるようになる。

バリュエーション教材で非上場企業評価の考え方を見る →

実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「相続税評価額=M&Aで売却できる価格」→ 正しくは、目的も計算ルールも異なる別物です。相続税評価は課税価格の算定という行政目的、M&A評価は事業価値をベースにした取引目的であり、後者では将来キャッシュフローやシナジーが反映される一方、前者は通達に定めるルールベースの機械的な算定です(非上場企業の評価参照)。

誤解2:「大会社・中会社・小会社の区分は資本金だけで決まる」→ 正しくは、従業員数・総資産価額・年間取引金額を業種別の基準で組み合わせて判定します。

日本実務での扱い

(2026年7月時点)本評価の根拠は国税庁の財産評価基本通達であり、相続税法上の「時価」の算定方法として実務上広く使われています。米国では遺産税(Estate Tax)の評価にIRS(内国歳入庁)のガイドラインが用いられますが、日本のような通達ベースの機械的な業種比準方式は米国にはなく、鑑定人による独立評価(Independent Appraisal)に依拠する度合いが高い点が対照的です。日本の非上場株式評価は通達に沿えば誰が計算してもほぼ同じ結果になる再現性の高さが特徴で、これが事業承継税制の設計とも密接に結びついています。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:相続税評価額とM&Aでの売却価格が大きく異なることがあるのはなぜですか。
「相続税評価は財産評価基本通達に基づく機械的な算定で、会社規模と株主区分に応じて類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式を使い分けます。一方M&Aの売却価格は将来キャッシュフローやシナジーを織り込んだ事業価値がベースになるため、両者は計算目的も前提も異なり、一致する必然性がありません。」

深掘りでは「会社規模区分がどう判定されるか」「少数株主評価が同族株主評価よりなぜ低くなるか」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. 同族株主かどうかはどう判定しますか?
A. 株主とその同族関係者の議決権割合の合計が一定割合(原則30%以上、筆頭株主グループが50%超の会社では50%超基準)を占めるかどうかで判定されます。

Q. 大会社でも純資産価額方式を使えますか?
A. はい。類似業種比準価額と純資産価額のいずれか低い方を選択できるため、純資産価額の方が低い場合はそちらを選ぶことができます。

出典・参考(2026-07-25確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。