この記事で分かること
- 純資産価額方式(相続税評価)の定義と計算式
- 「評価差額に対する法人税額等相当額(38%。2026年3月31日以前の取得は37%)」を控除する理由
- 整数設例による1株当たり純資産価額の検算
- M&Aの時価純資産法(コストアプローチ)との違い
30秒で分かる定義
純資産価額方式(Net Asset Value Method for Inheritance Tax Valuation、読み方:じゅんしさんかがくほうしき)とは、非上場株式の相続税評価において、会社の資産・負債を相続税評価額に洗い替えたうえで、含み益相当額に対する法人税額等相当額を控除して1株当たり純資産額を求める評価方式です。財産評価基本通達に基づき、主に会社規模区分で「小会社」に該当する場合に原則として適用されます。
なぜ実務で重要なのか
事業承継・相続対策では、資産保有型会社(不動産や有価証券を多く保有する会社)や小規模なオーナー企業の評価で中心的な役割を果たします。含み益の大きい資産(取得原価の低い自社ビルや有価証券)を保有する会社ほど、この方式による評価額が類似業種比準価額より高くなりやすく、税負担への影響が大きい論点です。
計算式
「評価差額」とは、資産を相続税評価額に洗い替えた金額と帳簿価額との差(含み益相当額)です。会社を清算すれば含み益部分には法人税等が課税されるはずだという考え方から、その相当額(38%)を控除してから株主に帰属する実質的な純資産を求めます。負債は原則として帳簿価額と相続税評価額が一致するものが多いため、資産側の洗い替えが計算の中心になります。38%は2026年(令和8年)4月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した財産の評価に使う割合で、それより前の取得には改正前の37%を使います。
整数設例で確認する
設例(架空数値、単位:百万円)。発行済株式数は200,000株、課税時期は2026年4月1日以後とします(38%を使用)。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 相続税評価額による総資産 | 2,000 |
| 帳簿価額による総資産 | 1,400 |
| 相続税評価額による負債 | 800 |
評価差額(含み益)= 2,000 - 1,400 = 600百万円。法人税額等相当額 = 600 × 38% = 228百万円。相続税評価による純資産額 = 2,000 - 800 = 1,200百万円。控除後の純資産価額 = 1,200 - 228 = 972百万円。1株当たり純資産価額 = 972百万円(972,000,000円)÷ 200,000株 = 4,860円/株と求まります(改正前の37%なら法人税額等相当額222百万円、4,890円/株)。
契約条項への影響(帳 簿価額との差の重要性)
評価差額(含み益)が大きい会社ほど38%控除の効果が大きく効くため、純資産価額方式による評価額は「時価総資産をそのまま株式数で割った金額」よりも低くなります。土地や有価証券の含み益が特に大きい資産保有型会社では、この控除の有無で評価額が数割単位で変わることもあり、事業承継対策の実務でしばしば論点になります。
財務モデル・Excelでの使い方
純資産価額方式の計算シートでは、貸借対照表の科目ごとに帳簿価額と相続税評価額(土地は路線価等、上場株式は課税時期の終値等)を並べます。
- 資産・負債の各科目に「帳簿価額」「相続税評価額」の2列を作り、差額の合計を評価差額として自動集計する
- 法人税額等相当額の割合(2026年4月1日以後の取得は38%、それより前は37%)は入力セルに置き、評価差額がプラスの場合のみ控除し、マイナス(含み損)の場合は控除しない(評価差額がマイナスなら割合を乗じない)設計にする
- 会社規模区分の判定シートとリンクさせ、併用方式(中会社)の場合は類似業種比準方式の結果とLの割合で加重する
この用語をExcelで
資産・負債の評価差額から法人税額等相当額を控除し、1株当たり純資産価額を計算するシートを組めるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「純資産価額方式は
誤解2:「帳簿価額のままの純資産を使えばよい」→ 正しくは、資産を相続税評価額(土地は路線価等)に洗い替える必要があります。特に取得から年数が経った不動産は、帳簿価額と相続税評価額の差が大きくなりがちです。
日本実務での扱い
(2026年10月24日時点)評価差額に対する法人税額等相当額の割合は財産評価基本通達186-2に定められた一律の割合です。令和8年3月25日付の通達改正(課評2-28ほか)により、防衛特別法人税の創設を織り込んで37%から38%に改められ、2026年(令和8年)4月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した財産の評価に適用されます。実際の法人実効税率の変動があっても、この通達上の割合が改正されない限りそのまま適用されます。米国の遺産税評価では、含み益に対する将来の税負担(built-in gains tax)を評価額から控除するかどうかについて、裁判例や鑑定実務での議論が分かれる領域であり、日本のように通達で一律の割合が定められている点は異なります。相続税評価上の純資産価額と、企業会計上の純資産の部の金額はまったく別の概念である点も、実務初学者が混同しやすいポイントです。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:純資産価額方式で評価差額に38%を掛けて控除するのはなぜですか。
「会社を清算して資産を含み益のまま換金した場合、その含み益部分には法人税等が課税されるという前提に立ち、株主に実質的に帰属する価値からその税負担相当額をあらかじめ控除しているためです。含み益が大きい会社ほど、この控除の影響で評価額が実際の時価総資産より圧縮されます。」
深掘りでは「含み損がある場合はどう扱うか」「M&Aの時価純資産法との計算目的の違い」が問われます。
よくある質問(F AQ)
Q. 含み損がある場合、38%の控除はどう扱いますか?
A. 評価差額がマイナス(含み損)の場合は法人税額等相当額を控除しません(評価差額がプラスの場合のみ控除するのが原則です)。
Q. 小会社以外でも純資産価額方式は使われますか?
A. 大会社・中会社でも、類似業種比準価額(または併用方式の結果)と純資産価額のいずれか低い方を選択できるため、計算自体は幅広い場面で必要になります。
出典・参考(2 026-07-25確認)
- 国税庁「財産評価基本通達」(純資産価額方式) https://www.nta.go.jp/
- 国税庁「財産評価基本通達」186-2(評価差額に対する法人税額等に相当する金額) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/04.htm(2026-10-24確認)
- 国税庁「財産評価基本通達の一部改正について(法令解釈通達)」令和8年3月25日付 課評2-28ほか https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka/kaisei/260300/01.htm(2026-10-24確認)
- e-Gov法令検索「相続税法」 https://elaws.e-gov.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。