この記事で分かること
- 配当還元方式の定義と、適用される株主の要件(少数株主)
- 年配当金額を10%で還元するという計算式の考え方
- 整数設例による配当還元価額の検算
- 他の方式(類似業種比準方式・純資産価額方式)との評価水準の違い
30秒で分かる定義
配当還元方式(Dividend Capitalization Method、読み方:はいとうかんげんほうしき)とは、経営支配権を持たない少数株主が取得する非上場株式について、直近の配当実績を一定の利率(10%)で還元することで評価額を算定する簡便な方式です。財産評価基本通達に定める「特例的評価方式」で、会社の資産・利益水準にかかわらず、受け取る配当の大きさだけを基準に評価額が決まる点が最大の特徴です。
なぜ実務で重要なのか
事業承継・相続対策では、従業員持株会や親族の少数株主が保有する株式の評価に使われ、多くの場合類似業種比準方式や純資産価額方式より低い評価額になります。FAS・税理士法人では、少数株主が取得する株式の税負担を抑える株主構成の設計(種類株式や属人的株式の活用を含む)を検討する際の前提知識になります。
計算式
年配当金額は、直前期末以前2年間の平均配当金額を、1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の株式数ベースに引き直して計算します。年配当金額が2円50銭未満の場合は2円50銭とみなす下限が設けられています。最後に、実際の1株当たり資本金等の額(50円でない場合)に応じて金額を調整します。この方式は配当割引モデル(DDM)と発想は近い(配当を資本還元して価値を求める)一方、割引率を個別に推計せず一律10%を使う簡便法である点が異なります。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。評価会社の1株当たり資本金等の額は500円(50円額面の10倍)とします。
- 直前期の配当金額(50円額面換算後):3円
- 直前々期の配当金額(同上):4円
- 2年平均の年配当金額:(3円+4円)÷2=3.5円(2円50銭以上のためそのまま使用)
配当還元価額 =(3.5円 ÷ 10%)×(500円 ÷ 50円)= 35円 × 10 = 350円/株と求まります。仮にこの会社の類似業種比準価額が2,000円/株、純資産価額が3,000円/株だったとすると、配当還元価額350円/株はそれらを大きく下回り、少数株主が取得する株式の評価水準がいかに低く設定されているかが分かります。
契約条項への影響(適用対象の判定)
配当還元方式が使えるのは、株式を取得する株主が「同族株主以外の株主」または「同族株主のうち議決権割合が少なく、かつ役員でない株主」など、会社の経営支配権に実質的に関与しない立場にある場合に限られます。同じ会社の株式でも、取得する株主が誰かによって適用方式が変わる点が、この方式を理解するうえで最も間違えやすいポイントです。
財務モデル・Excelでの使い方
配当還元方式の計算シートでは、直前期・直前々期の配当実績を50円額面ベースに換算する行を作ります。
- 年配当金額の下限(2円50銭)をIF関数で判定し、実績がそれを下回る場合は自動的に2円50銭を使う
- 株主ごとの適用方式判定(原則的評価方式か配当還元方式か)を議決権割合・役員就任状況の入力からIF関数で自動判定する
- 原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式)との評価額比較を同じシート上に並べ、株主区分ごとの評価額差を可視化する
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「配当還元方式はどの株主にも使える有利な方式」→ 正しくは、経営支配権を持たない少数株主に限定された特例的な方式です。同族株主やその関係者が取得する株式には原則として使えません。
誤解2:「無配の会社は評価額がゼロになる」→ 正しくは、無配または低配当の場合でも2円50銭の下限が適用されるため、評価額はゼロにはなりません。
実務家はさらに、株主の議決権割合・役員就任状況が申告時点で正確に把握されているか、名義株や実質的な支配関係が別途存在しないかを確認します。
日本実務での扱い
(2026年7月時点)配当還元方式は財産評価基本通達に基づく日本独自の簡便法であり、少数株主の税負担を過度に重くしないという政策的な配慮が背景にあります。米国の遺産税評価では、少数株主が保有する株式について、支配権プレミアムの欠如や非流動性を理由にディスカウント(Minority Discount・Marketability Discount)を鑑定人が個別に算定する実務が一般的で、日本のような一律10%還元の機械的な計算式は存在しません。両者とも「少数株主の株式は支配株主の株式より低く評価されるべき」という考え方は共通していますが、算定方法へのアプローチが対照的です。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:配当還元方式が原則的評価方式より低い評価額になりやすいのはなぜですか。
「原則的評価方式は会社の資産・利益水準を反映して評価するのに対し、配当還元方式は少数株主が実際に受け取る配当だけを基準にするためです。内部留保が厚く利益水準が高い一方、配当性向を抑えている会社ほど、この2つの評価額の差が大きくなります。」
深掘りでは「同族株主か少数株主かをどう判定するか」「配当政策が評価額に与える影響」が問われます。
よくある質問(FAQ)
Q. 配当還元方式は誰でも選択できますか?
A. いいえ。取得する株主の議決権割合・役員就任状況などの要件を満たした場合にのみ適用される特例的な方式で、任意に選択できるものではありません。
Q. 配当還元価額が原則的評価方式による評価額を上回ることはありますか?
A. その場合は原則的評価方式による評価額を使います。配当還元方式はあくまで少数株主保護のための下限的な簡便法という位置付けです。
出典・参考(2026-07-25確認)
- 国税庁「財産評価基本通達」(配当還元方式) https://www.nta.go.jp/
- e-Gov法令検索「相続税法」 https://elaws.e-gov.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。