この記事で分かること
- ソーシズ・アンド・ユーシズ(S&U)表の役割と「調達=使途」の貸借一致の原則
- LBOのS&U表を構成する典型項目(ローン・エクイティ・手数料・リファイナンス)
- 整数設例で両側1,040が一致するS&U表を実際に作る手順
- LBOモデルでスポンサー出資を「プラグ(差額)」として組む実装方法
30秒で分かる定義
ソーシズ・アンド・ユーシズ(Sources and Uses、S&U、読み方:そーしず・あんど・ゆーしず)とは、M&AやLBOの取引において「資金をどこから調達し(Sources)、何に使うか(Uses)」を一覧にした表のことで、両側の合計は必ず一致します。日本語では「資金調達源泉と使途」と訳されます。LBOモデルの出発点であり、買収スキームと資本構成を1枚で表現する、案件の設計図に当たる表です。
なぜ実務で重要なのか
- PE・IB:LBOモデルは必ずS&Uから組み始めます。レバレッジ水準・出資額・手数料の前提がすべてここに集約され、以後のデットスケジュールとリターン計算の土台になります(LBOモデルの作り方参照)
- レンダー(銀行・クレジットファンド):融資提案書やタームシートにはS&Uが必ず添付され、自行のローンが資本構成のどこに入るかを確認します
- FAS・経営企画:買収スキーム検討時に、リファイナンスの要否・手数料負担・必要出資額を整理する共通フォーマットとして使います
- 面接・モデルテスト:「S&Uを作ってください」はLBOモデルテストの最初の設問であり、貸借を一致させられるかが最初の関門です
仕組み:何がSourcesで何がUsesか
Usesは「この取引で支払う金額の合計」、Sourcesは「その支払いを賄う資金の内訳」です。典型項目は次の通りです。
- Uses:株式取得対価(エクイティ価値ベースの買収代金)、既存借入のリファイナンス(チェンジ・オブ・コントロール条項で返済を迫られることが多い)、アドバイザリー・ファイナンス手数料、最低必要現金など
- Sources:シニアローン、メザニン等の劣後性資金、売主・経営陣のロールオーバーエクイティ、スポンサー(PEファンド)出資、対象会社の余剰現金の充当など
整数設例で確認する
設例(架空数値、単位:百万円)。EBITDA 120の会社を株式価値900で買収し、既存借入100をリファイナンス、手数料等40が発生するケースです。
| Sources(調達) | 金額 | Uses(使途) | 金額 |
|---|---|---|---|
| シニアローン | 500 | 株式取得対価 | 900 |
| メザニン | 100 | 既存借入の返済 | 100 |
| ロールオーバーエクイティ | 40 | 手数料等 | 40 |
| スポンサー出資 | 400 | ||
| 合計 | 1,040 | 合計 | 1,040 |
検算します。Uses合計は900 + 100 + 40 = 1,040。Sourcesは負債600(500+100)とエクイティ440(40+400)で合計1,040となり、両側が一致します。この時点でレバレッジは負債600 ÷ EBITDA 120 = 5.0倍(シニアのみなら約4.2倍)、資本構成に占めるエクイティ比率は440 ÷ 1,040 ≒ 約42%と読み取れます。S&Uが1枚あれば、案件のリスク水準まで概観できるわけです。
PL・BS・CFへの影響
S&Uは取引実行日(クロージング)時点の資金の動きを表す表で、そのまま買収後のオープニングBSに接続します。Sourcesの負債はBSの有利子負債に、エクイティは純資産に計上され、株式取得対価と純資産の差額からのれん等が生じます(PPA(取得原価配分)の領域)。ファイナンス手数料は多くの場合資産計上され償却されるため、PLには償却費・支払利息として、CFには調達・返済として以後反映されていきます。
財務モデル・Excelでの使い方
LBOモデルでのS&Uは「前提入力とモデル本体をつなぐハブ」です。実装の定石は次の通りです。
- Usesを先に確定させる:取得対価 = EBITDA × エントリーマルチプル −ネットデット等から計算し、リファイナンス額・手数料率(負債額の2〜3%等)を前提セルで持つ
- 負債はレバレッジ倍率から逆算:
シニアローン = EBITDA × 目標レバレッジの形にして、倍率を感応度の軸にできるようにする - スポンサー出資をプラグ(差額)にする:
スポンサー出資 = Uses合計 − その他Sources合計とすれば、両側は構造的に必ず一致します - チェック行
=Sources合計 − Uses合計(常にゼロ)を置き、条件付き書式で異常を赤く光らせる - S&Uの負債残高はそのままデットスケジュールの期首残高に接続します
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「Usesは買収代金だけ」→ 正しくは「取引に伴う支払い全部」。リファイナンス・手数料・場合によっては運転資金の当初手当てまで含めます。手数料を忘れると出資額が過小になり、後工程のリターンが過大に出ます。
誤解2:「株式取得対価=EV」→ 対価はエクイティ価値ベース。EVで合意しても決済は株式価値で行われ、既存負債は別途リファイナンスとしてUsesに立てるのが通常です。この価格構造はキャッシュフリー・デットフリーの考え方そのものです。
確認ポイント:現金の扱い。対象会社の余剰現金をSourcesに充当するか、最低必要現金をUsesに立てるかは案件により異なります。レンダー提出資料では定義の脚注まで確認されます。
日本実務での扱い
日本のLBO・MBO実務でもS&Uは英語のまま「S&U表」として通用し、銀行のLBOローン稟議書やメザニンファンドの投資委員会資料に必ず添付されます。国内では買収SPC(特別目的会社)を設立してローンとエクイティをSPCに集め、対象会社株式を取得後に合併する構造が典型で、S&UはこのSPCの開業BSに対応します。買収に伴うのれん・PPAの会計処理は企業結合会計基準(企業会計基準第21号)に、公開会社の非公開化を伴う場合の開示はTOB規制等の金融商品取引法制によります(2026年7月時点)。
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:S&U表で、スポンサーのエクイティ出資額はどう決まりますか?
「Usesの合計から、ローンやロールオーバーなどエクイティ以外のSourcesを差し引いた差額として決まります。Usesは取得対価・リファイナンス・手数料の合計、ローンはEBITDA×レバレッジ倍率で決まるため、エクイティが調整弁(プラグ)になります。」
深掘りでは「手数料が増えるとIRRはどうなるか(出資増→低下)」「レバレッジを上げるとS&Uとリターンはどう変わるか」「既存借入をなぜ返すのか(チェンジ・オブ・コントロール条項)」が定番です。
よくある質問(FAQ)
Q. S&Uの両側が合わないときは何を疑えばよいですか?
A. 頻出原因は、手数料の入れ忘れ、リファイナンス対象負債の範囲ズレ、現金充当の二重計上(Sourcesに入れつつネットデットにも反映)の3つです。エクイティをプラグにする構造なら、そもそも不一致は起きません。
Q. S&UはLBO以外でも使いますか?
A. 使います。通常のM&A、資本再構成(リキャップ)、リファイナンス、大型設備投資の資金計画でも「調達と使途の一覧」として同じフォーマットが使われます。
出典・参考(2026-07-20確認)
- 企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準委員会) https://www.asb.or.jp/
- 金融庁(公開買付制度・金融商品取引法制の概要) https://www.fsa.go.jp/
- 日本銀行「金融システムレポート」(国内LBOローン市場に関する分析を含む) https://www.boj.or.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。