この記事で分かること
- ROICの定義と計算(設例:NOPAT90÷投下資本1,000=9%)、ROEとの違い
- 価値創造の条件「ROIC>WACC」と、スプレッドから経済的利益を計算する方法
- ROICツリーによる分解(マージン×回転)と、現場のKPIへ落とす使い方
ROICとは——「事業に投じた資本」でどれだけ稼いだか
ROIC(投下資本利益率)は、事業に投じられた資本(投下資本)に対して、事業が税引後でどれだけ稼いだか(NOPAT)を測る指標です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| EBIT(営業利益) | 120 |
| −みなし法人税(税率25%) | (30) |
| =NOPAT | 90 |
| 投下資本=運転資本200+固定資産800 | 1,000 |
| ROIC=90÷1,000 | 9.0% |
- 分子は利息を引く前・税引後のNOPAT——債権者と株主の両方に帰属する利益です(FCFFと同じ思想)。
- 分母の投下資本は「事業に使っている資本」。余剰現金や事業に無関係な投資有価証券は除いて考えるのが原則です。
- ROEとの違い:ROEは株主資本ベースなので、借入を増やすだけで(事業が何も変わらなくても)上げられます。ROICは資本構成に中立で、事業そのものの稼ぐ力を測ります。
価値創造の条件:ROIC>WACC
資本には調達コストがあります(WACC)。設例の会社のWACCが7%なら、スプレッドは9%−7%=+2%。投下資本1,000に対して、年間の経済的利益=スプレッド2%×1,000=20——資本コストを払ってなお残る「本当の儲け」です。逆にROICがWACCを下回る事業は、会計上黒字でも経済的には価値を壊しています。成長はこのスプレッドが正のときだけ価値を生み、負のスプレッドのまま成長すると、価値破壊が加速する——これがROIC経営の中心命題です。
ROICツリー:分解して初めて使える
ROICは「NOPATマージン×投下資本回転率」に分解できます。設例:売上1,500なら、NOPATマージン6%(90÷1,500)×回転率1.5回(1,500÷1,000)=9%。
- マージン系のレバー:価格改定、製品ミックス、原価・販管費の効率(バリューアップの施策群と同じ体系です)。
- 回転系のレバー:運転資本の圧縮(回転日数)、設備稼働率の向上、遊休資産の売却。
- ツリーを現場の言葉(在庫日数・稼働率・値引率)まで下ろせば、全社のROIC目標が各部門のKPIに変換されます。経営指標が「経理の数字」から「現場が動かせる数字」に変わる瞬間です。
使うときの注意
- のれんを含めるか:買収の巧拙まで測るなら「のれん込み」、事業の素の効率を測るなら「のれん抜き」。両方計算し、目的で使い分けるのが実務です。
- 単年で判断しない:大型投資の直後はROICが構造的に下がります。投資の熟成期間を考慮し、トレンドで評価します。
- 事業別に見る:全社ROICは平均に過ぎません。高ROIC事業と低ROIC事業の資本配分こそが論点で、SOTP(分解評価)やアクティビストの議論(4類型)に直結します。
Q. 面接で「ROICとROEの違いは?」と聞かれたら?
A. 「分母と分子の帰属が違います。ROEは株主資本に対する純利益でレバレッジの影響を受ける。ROICは投下資本に対する税引後営業利益で資本構成に中立、事業の稼ぐ力そのものを測ります。だから価値創造の判定はROICとWACCの比較で行います」。
Q. ROICが高ければ高いほど良い会社ですか?
A. 水準だけでは判断できません。超高ROICは「投資すべき成長機会に投資していない」サインのこともあります。価値は「スプレッド×投下資本の成長」の積で決まるため、高ROICを維持したまま資本を積み増せる会社が最も価値を作ります。
まとめ
- ROIC=NOPAT÷投下資本(設例9%)。資本構成に中立な「事業の稼ぐ力」。
- 価値創造の条件はROIC>WACC。スプレッド×投下資本=経済的利益(設例+2%×1,000=20)。
- マージン×回転のツリーで現場KPIへ分解して初めて経営の道具になる。
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本記事について
本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。