この記事で分かること
- 一律▲10%の「機械的悲観」がICで通用しない理由と、事業固有のダウンサイドの作り方
- 設例:ダウンサイドでMOIC 0.8x——エクイティ毀損とデット完済可否を同時に読む
- ダウンサイドから逆算する意思決定——入口価格・レバレッジ・契約への反映
なぜダウンサイドが投資判断の質を決めるのか
ベースケースは誰が作っても似たものになります。差が出るのはダウンサイド——「この投資が失敗するとしたら、何が起き、いくら失うのか」を具体的に描けるか。投資委員会(ICメモ)で最も時間が割かれるのはここであり、貸し手(レンダー)との交渉もダウンサイドの共有から始まります。
機械的悲観と本物の悲観
- 機械的悲観(NG):売上一律▲10%・マージン▲2pt。作った本人が信じておらず、質問1つで崩れます——「その▲10%は何が起きた世界ですか?」
- 本物の悲観(OK):DDで特定した固有リスクを事象として置く。「最大顧客(売上の18%)が契約更改で離脱」「主要原材料が2割高騰し価格転嫁が半年遅れる」「キーマン営業部長の退職で新規受注が3割減」——事象→数字の翻訳になっているか。
- コツは、事業分析(ドライバー)のツリーに沿って「どのドライバーが、どの事象で、どれだけ壊れるか」を1対1で紐づけることです。
設例:ダウンサイドの読み方
| 項目 | ベース | ダウンサイド |
|---|---|---|
| 入口:EV 800(EBITDA100×8.0x)、デット480/エクイティ320 | — | — |
| 5年後EBITDA | 130 | 85(主要顧客離脱+転嫁遅れ) |
| 出口倍率 | 8.0x | 7.0x |
| 出口EV | 1,040 | 595 |
| 残債(返済がベース比で遅れる想定) | 180 | 330 |
| 出口エクイティ | 860 | 265 |
| MOIC | 2.7x | 約0.8x |
読みどころは2つ。①エクイティは約17%毀損(320→265)だが全損ではない、②出口EV595>残債330でデットは守られている——つまりこの設計なら、悲観シナリオでも貸し手は傷まず、ファンドの損失も限定的。「負けても退場しない」構造かを確認するのがダウンサイドの目的です。
ダウンサイドから逆算する意思決定
- 入口価格:ダウンサイドでMOICが許容水準(例:元本の大半を守る)を割るなら、価格を下げるか案件を見送る。ダウンサイドは価格規律の道具です。
- レバレッジ:ダウンサイドのCFでもコベナンツのヘッドルーム(計算方法)が残る水準に借入を抑える。
- 契約:特定リスクが重いなら、表明保証・アーンアウト・価格調整(SPAの設計)でリスクを分担する。
- 100日プラン:ダウンサイドの引き金(顧客集中・キーマン)は、買収直後のリテンション・分散施策の優先課題そのものです(バリューアップ)。
Q. 面接で「ダウンサイドケースはどう作りますか?」と聞かれたら?
A.「一律の減額でなく、DDで特定した固有リスクを事象として置き、ドライバー経由で数字に翻訳します。そして出口エクイティの毀損幅と、デットが守られるか(出口EVと残債の比較・コベナンツ余地)を確認し、入口価格とレバレッジに逆算して反映します」。
Q. ダウンサイドはどのくらいの確率の悲観を想定すべきですか?
A. 一律の決まりはありませんが、「10年に1度程度は起こり得る、具体的に説明可能な悪化」を目安に置く実務が多い印象です。全損級の破局(テールリスク)は別途「何が起きたら全損か」を定性で言語化しておくと、ICでの議論が締まります。
まとめ
- ダウンサイドは事象→ドライバー→数字の翻訳。一律▲10%は質問1つで崩れる。
- 設例:EBITDA85×7.0xでエクイティ0.8x・デットは完済圏——「負けても退場しない」かを読む。
- 結論は逆算に使う:入口価格・レバレッジ・契約・100日プランへ反映して初めて意味を持つ。
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本記事について
本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。