この記事で分かること

  • ICメモの標準構成10ブロックと、各ブロックで「何が問われているか」
  • 通るメモと落ちるメモの違い——投資仮説・リスク・リターンの三角形
  • ジュニアがまず任される部分と、書く前に終わらせておくべき分析

ICメモは「社内向けの売り込み」ではない

投資委員会(IC)は、ファンドが案件にコミットするか否かの最終意思決定機関です。ICメモはその判断材料であり、良いメモの条件は説得力ではなく「委員が正しく怖がれること」——魅力とリスクが等しい解像度で書かれていることです。案件を通したい熱量でリスクを薄めたメモは、優れたICでは必ず見抜かれ、書き手の信用を削ります(投資仮説の作り方はこちら)。

標準構成10ブロック

表1:ICメモの標準構成と問われていること
ブロック問われていること
①エグゼクティブサマリー1ページで案件・仮説・条件・推奨が言えるか。委員はまずここしか読まない前提で書く
②案件概要・経緯なぜこの案件がうちに来たのか(独占か入札か、ソーシングの筋)
③会社・事業分析何で稼ぐ会社か。顧客集中・参入障壁・キーマン依存の実態
④市場・競争環境市場の構造と成長性。「市場が伸びるから」以外の勝ち筋
⑤投資仮説とバリューアップリターンの源泉はどこか。EBITDAブリッジ()と施策の実行主体
⑥財務分析・DDサマリーQoE調整後の実力値(財務DD)、正常運転資本、デットライク項目
⑦バリュエーションとストラクチャー入口価格の妥当性、S&U、レバレッジ設計(デットキャパシティ
⑧リターン分析ベース/アップサイド/ダウンサイドのIRR・MOICと、その分解(何で稼ぐ計画か)
⑨リスクと軽減策この投資が失敗するとしたら何故か。軽減策が「気合」でなく設計になっているか
⑩Exit想定・推奨条件誰に・いつ・いくらで売るのか。承認を求める条件(価格上限・前提条件)の明示

通るメモと落ちるメモの違い

  • 三角形が閉じている:投資仮説(なぜ儲かる)・リスク(なぜ失敗し得る)・リターン(数字はいくつ)が相互に整合していること。仮説はバラ色なのにダウンサイドケースが甘い、リスクは列挙してあるのにリターンに反映されていない——閉じていないメモは差し戻されます。
  • ダウンサイドが「本物」:売上を一律▲10%にしただけの機械的な悲観ケースではなく、③④で特定した具体的リスク(最大顧客の離脱等)を数字に落としたケースか。ダウンサイドでもエクイティが毀損しきらないか(リターンの構造)。
  • 反対意見が書いてある:DDで割れた論点、チーム内の少数意見を隠さず載せる。ICの時間を「情報の非対称の解消」でなく「判断」に使わせるメモが上質です。

ジュニアの持ち場と準備

  • まず任されるのは⑥⑦⑧:モデルとバリュエーション、リターン分析の数表です。数字の一貫性(モデル・メモ・別添資料で数値が一致)はジュニアの生命線——1か所の不一致がメモ全体の信頼を落とします(モデルQCを先に回す)。
  • 書く前に分析を終える:メモは分析の出力であって過程ではありません。感応度・シナリオ・Exit逆算が済んでいれば、メモは「埋めるだけ」になります。
  • 1ページ目に全力を注ぐ:サマリーで案件の生死が決まります。「本件は◯◯という仮説に基づく投資である。主要リスクは◯◯で、軽減策は◯◯。ベースでIRR◯%・MOIC◯x、ダウンサイドでも◯xを見込む」——この骨格を最初に書いてから本文を埋めるのが実務のコツです。

Q. 面接で「ICメモには何を書きますか?」と聞かれたら?

A. 「サマリー、案件経緯、事業・市場分析、投資仮説とバリューアップ、DDサマリー、バリュエーションとストラクチャー、リターン分析、リスクと軽減策、Exit想定——を、仮説・リスク・リターンが整合する形で書きます。特にダウンサイドケースの作り込みが判断の質を決めると考えています」。

Q. ICで一番聞かれる質問は何ですか?

A. 一般的傾向として「なぜ売り手は売るのか」「なぜうちが買えるのか(他社より高く払える理由)」「失敗するとしたら何か」の3つは高頻度です。いずれも情報の非対称性と規律を確かめる質問で、メモの段階で先回りして答えを書いておくべき論点です。

まとめ

  • ICメモの目的は説得ではなく判断材料。魅力とリスクを同じ解像度で書く。
  • 10ブロック構成で、仮説・リスク・リターンの三角形を閉じる。ダウンサイドは「本物」を作る。
  • ジュニアは数字の一貫性が生命線。書く前に分析を終え、1ページ目に全力を注ぐ。

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本記事について

本文中の数値例はすべて理解のための設例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。制度・実務慣行に触れる箇所は一般的傾向の整理です。個別案件への適用時は必ずその時点の一次情報・専門家にご確認ください。