この記事で分かること
結論:PFモデルは「7つのブロック」を一方向につなぐだけ
プロジェクトファイナンス(PF)モデルは、次の7ブロックを上流から下流へ一方向につなげば完成します。
PFモデルの骨格
① タイムライン・期間フラグ → ② 収益(数量×単価) → ③ OPEX・減価償却・税金 → ④ CFADS(Cash Flow Available for Debt Service) → ⑤ 借入額の決定(Debt Sizing)と返済スケジュール(Debt Sculpting) → ⑥ DSCR/LLCRの算出とカバナンツ判定 → ⑦ エクイティCFとIRR
最も重要な性質は、「④CFADSが決まらないと⑤借入額が決まらない」点です。コーポレートファイナンスでは借入額は資本構成の前提として与えられますが、PFでは事業が生むキャッシュフローから逆算して決まります。PFモデルは収益モデルではなく借入額を求める装置だと理解すると、組み立てを間違えません。背景はプロジェクトファイナンス入門|DSCR・LLCR・デットサイジングで整理しています。
本記事の範囲は、この7ブロックをExcelで1ファイルに統合する手順です。各指標の定義・目安・計算方法は兄弟記事に委譲します。
- DSCRの定義と水準の読み方 → DSCRとは?計算式・目安・1.0倍/1.2倍/1.5倍の意味
- CFADSの構成要素と控除項目 → CFADSとは?計算方法とPFモデルでの作り方
- 返済スケジュールの彫り方 → Debt Sculptingとは?CFADSから返済スケジュールを設計する方法
以下では説明用の仮設例(50MWの太陽光発電SPC)を通貫で使います。数値はすべて教育目的の仮定です。
前提となる案件ストラクチャー
モデルを組む前に契約関係を把握します。各行は必ず契約条項に対応しており、契約書にない収入や費用が現れたらそれは誤りです。
押さえるべきは3点です。第一にノンリコース性(ノンリコースローン):返済原資はSPCのキャッシュフローに限られます。第二にリスクの契約への割付:建設リスクはEPC契約・O&M契約で、需要・価格リスクはオフテイク契約で移転し、移転しきれない部分だけがスポンサーサポートで埋められます。第三にモデルはこの割付の写し:EPCが固定価格一括請負なら建設費行は固定値です。案件別の構造は再生可能エネルギーファイナンス入門、他アセットはインフラ投資・インフラファンド入門で扱っています。
シート構成:5枚に割る
PFモデルは長期・多期間・循環参照ありのため、シート分割がモデルの寿命を決めます。実務で安定するのは次の5枚です。
各シートには禁止事項も決めます。Inputsに計算式を書かない、Timingに金額を持たせない、Operationsから返済額を参照しない(税の利息控除を除く)、Financingに前提値を直打ちしない、Outputsで新しい計算ロジックを作らない。この5つで追跡可能性は大きく変わります。
狙いは循環を1か所に閉じ込めることです。3表連動モデルとの共通点は財務モデリング完全ガイド|3表連動モデルの作り方を7ステップで解説、シートを割る前に決める項目は財務モデルの設計図(モデリングプラン)を参照してください。
タイムラインと期間フラグ
最初に作るのはTimingシートです。ここが甘いと、運営開始前に売電収入が立つ、返済完了後も利息が発生するといった誤りが後段すべてに伝播します。
| 項目 | 設例の設定 | モデル上の扱い |
|---|---|---|
| 建設期間 | 18か月 | 月次(資金支出とIDCの精度確保) |
| COD(商業運転開始) | 建設開始から19か月目 | 運営フラグ・返済フラグの起点 |
| 運営期間 | 20年 | 半期(年2回) |
| 返済期間(テナー) | 17年(CODから) | 返済フラグ=1の期間のみ元利返済 |
運営20年と返済17年の差3年がテール期間(比率15%)です。返済が遅れても期限延長で吸収できる余地を意味し、運営と返済を別フラグで持てば自然に表現できます。
期間フラグの基本形
建設フラグ = =IF(AND(期首日>=建設開始日, 期末日<=COD),1,0)
運営フラグ = =IF(AND(期首日>=COD, 期首日<運営終了日),1,0)
返済フラグ = =IF(AND(期番号>=返済開始期, 期番号<=返済最終期),1,0)
※期首日・期末日は =EDATE(前期首日,6) と =EOMONTH(期首日,5) で機械生成する。
要点は3つ。フラグの合計を検算する(運営フラグ=40、返済フラグ=34。ズレれば期の切り方かフラグ式が誤り)。期間按分係数の行を持つ(=(期末日-期首日+1)/365。年額前提をこれで期額に落とせば不完全期があっても壊れません)。経過年数の行を持つ(=(期首日-COD)/365。劣化率やインフレの複利計算をこの1行から引きます)。
収益ドライバー:数量×単価に分解する
PFの収益は必ず数量ドライバー × 単価ドライバーに分解し、「売上高が年◯%成長」とは書きません。数量はおおむね事業リスク、単価は契約リスクと担い手が違うため、分けないと感応度分析が意味を持たないからです。
| アセット | 数量ドライバー | 単価ドライバー |
|---|---|---|
| 太陽光・風力 | 設備容量 × 設備利用率 × (1−劣化率)^経過年数 | 固定価格買取制度/FIP制度/コーポレートPPAの契約単価 |
| 有料道路・空港 | 交通量・旅客数(需要予測) | 料金水準(規制・改定ルール) |
日本の再エネでは売電単価の根拠として固定価格買取制度(FIT)やFIP制度、コーポレートPPAが用いられます。本記事では制度名の言及にとどめ、調達価格や交付期間の数値は扱いません(制度は改正されるため、モデルには案件の契約書・認定通知の実数を入れてください)。事業性の物差しであるLCOE(均等化発電原価)は妥当性チェックに使えます。
年間発電量と売電収入(説明用の仮設例)
年間発電量 = 50,000 kW × 1,150 kWh/kW = 57,500 MWh
売電収入 = 57,500 MWh × 14,000 円/MWh = 805百万円/年
Excelでは =設備容量 × 発電量原単位 × (1-劣化率)^経過年数 × 運営フラグ × 期間按分係数 の1行に集約する。
劣化率やパネル出力保証は、EPC契約・技術デューデリジェンス(DD)報告書の値をそのまま入れます。「保守的に見て」とベースケースを下げると二重の保守性になります。ベースケースは契約・技術DDの値、保守性は感応度ケースで表現するのが原則です。
OPEX・減価償却・税金
OPEXは固定費・変動費・周期費用に分けます。周期費用(パワコン更新、大規模補修等)をならして年額に潜り込ませると、支出が発生する年のDSCRが急落する事実が見えなくなります。
| 項目 | 年額(百万円) | モデル上の扱い |
|---|---|---|
| O&M費用 | 130 | O&M契約の固定フィー+インフレ連動 |
| 土地賃借料 | 50 | 賃貸借契約の固定額・改定条項 |
| 保険料 | 25 | 財物・利益・賠償の各保険 |
| SPC管理・その他 | 20 | 会計・税務・エージェント費用等 |
| OPEX合計 | 225 | 売電収入805 − OPEX225 = EBITDA 580 |
税金は最も誤りが起きやすい箇所です。会計上ではなく税務上の減価償却を使い、支払利息を損金算入し、繰越欠損金の期限も管理します。会計上の償却で代用すると税金の発生時期が数年ずれ、DSCRの底が動きます。設例では運営初期は課税所得がマイナスで法人税等はゼロ、中盤以降に立ち上がります。この「税金が途中から発生する」形状こそ、Debt Sculptingで返済額を彫り込む理由の一つです。
CFADS(運営1年目・説明用の仮設例)
EBITDA 580 − 法人税等 0(税務上の欠損により発生せず) − 運転資本増加 10 − 維持Capex 0 = CFADS 570百万円
CFADSに何を含め何を除くか(DSRA積立は控除しない、維持Capexは控除する等)の判断基準はCFADSの解説記事に整理しています。定義がレンダーとスポンサーでズレると借入額そのものが動くため、タームシート段階で定義を固定してください。
建設期:Sources & Uses と建設中利息の循環
建設期は収益がゼロで、あるのは支出と資金調達だけです。中心はSources & Usesです。
| Uses(資金使途) | 百万円 | Sources(調達) | 百万円 |
|---|---|---|---|
| EPC請負金額 | 6,600 | シニアローン | 5,790 |
| 開発費・用地・系統連系・許認可 | 600 | スポンサーエクイティ | 1,800 |
| 融資関連手数料 | 100 | ||
| 建設中利息(IDC) | 80 | ||
| DSRA初期積立 | 210 | ||
| Uses 合計 | 7,590 | Sources 合計 | 7,590 |
ギアリングは 5,790 ÷ 7,590 = 76.3%。これは結果として出た数値であり、前提ではありません(決まり方は次章)。
ドローダウンの順序
建設費の支出にエクイティと借入をどの順で入れるかは融資契約で定めます。エクイティ先行は出資を先に全額払い込む形で、レンダーに最も安全、借入残高の立ち上がりが遅くIDCも小さくなります。プロラタは支出を両者の比率で按分し、資金拘束期間は短くなる代わりにIDCが増えます。エクイティ後行はIRRに最も有利ですが、親会社保証や信用状(L/C)を求められます。設例はエクイティ先行です。
IDCと循環参照
建設期の利息は収益がないため支払えず、通常は資本化して借入で賄い元本に組み入れます。ここに循環が生まれます。
建設期の循環(PFモデル最大の罠)
借入残高 → 利息(IDC) → Uses合計の増加 → 必要調達額の増加 → 借入額の増加 → 借入残高…
設例では、平均借入残高2,150百万円 × 金利2.5% × 1.5年 = IDC 約80百万円 に収束させています。
対処は3通りです。①Excelの反復計算をONにする(ファイル>オプション>数式)。直接的ですが、一度エラーが出るとモデル全体に0やエラー値が拡散します。②コピー&値貼付マクロでIDCを外部変数化し数回反復させて収束させる。循環を完全に断てる標準解です。③利息を期首残高ベースで計算して循環を構造的に断つ。精度はわずかに落ちますが月次なら誤差は小さく、初めてなら推奨します。いずれの場合もSources合計とUses合計の一致をチェック行で監視してください。
CFADS → Debt Sizing → Sculpting → DSCR / LLCR
ここが心臓部です。順序は次の通りで、逆流させてはいけません。
ステップ1:借入額を決める(Debt Sizing)
デットサイジングは、通常2つの上限のうち小さいほうで決まります。
Debt Sizing の2つの上限
① DSCR基準 = 各期の「CFADS ÷ 目標DSCR」を借入金利で割り引いた現在価値の合計
② ギアリング基準 = 総事業費 × 最大借入比率
借入額 = MIN(①, ②)
設例の借入額(運営期CFADSを570で一定と単純化・目標DSCR 1.35・金利2.5%・返済17年)
① DSCR基準 = (570 ÷ 1.35) × 年金現価係数(2.5%, 17年 = 13.712) = 422.2 × 13.712 = 5,790百万円
② ギアリング基準 = 7,590 × 80% = 6,072百万円
→ MIN(5,790, 6,072) = 5,790百万円(DSCR基準がバインド)
CFADSが期ごとに変動する一般形は =SUMPRODUCT(CFADS範囲 / 目標DSCR × 割引係数範囲 × 返済フラグ範囲) で書きます。年金現価係数を使えるのはCFADS一定という単純化のときだけです。
ステップ2:返済スケジュールを彫る(Debt Sculpting)
元利均等でも元本均等でもなく、CFADSの形に合わせて返済額を彫り込むのがDebt Sculptingです。設例の運営1年目を検算します。
Sculptingの基本式
各期の元利返済額 = その期のCFADS ÷ 目標DSCR
各期の元本返済額 = 元利返済額 − その期の支払利息
これによりDSCRは全期間を通じて目標値ちょうどで一定になる。
| 運営1年目の項目 | 計算 | 百万円 |
|---|---|---|
| CFADS | EBITDA 580 − 税0 − 運転資本10 | 570 |
| 元利返済額(Debt Service) | 570 ÷ 1.35 | 422 |
| うち支払利息 | 5,790 × 2.5% | 145 |
| うち元本返済 | 422 − 145 | 277 |
| 期末債務残高 | 5,790 − 277 | 5,513 |
| DSCR | 570 ÷ 422 | 1.35倍 |
実装(利息と元本の循環処理、税金が途中から発生するケースの扱い)はDebt Sculptingの解説記事で詳述しています。
ステップ3:DSCRとLLCRを出す
2つのカバレッジ指標
DSCR = 各期のCFADS ÷ 各期の元利返済額(その期の返済能力/フロー指標)
LLCR = 残存返済期間のCFADSの現在価値 ÷ 期末債務残高(返済期間全体の返済能力/ストック指標)
DSCRは単年の凹みに敏感、LLCRは全体の余裕度を見ます。各期DSCRを1.35倍に揃えてもLLCRは1.35倍にはなりません(分子にDSRA残高を含める定義もあるため契約上の定義を確認します)。両者を並べてグラフ化しどの期でどちらが厳しくなるかを可視化するのがOutputsの仕事です。水準の読み方はDSCRの解説記事を参照してください。
DSRAと配当ロックアップ
CFADSから元利返済を差し引いた残りが、そのまま配当されるわけではありません。関門が2つあります。
DSRA(債務返済準備金勘定)は、将来の元利返済に備えた拘束預金です。目標水準は「次の6か月分」または「12か月分」の元利返済額が一般的で、設例では6か月分=422 ÷ 2 ≈ 210百万円です。要点は2つ。積立をCFADSから控除しないこと(DSRAは返済「後」の資金移動で、控除するとDSCRが過小に出ます)。そして返済完了時に解放されること(設例では運営17年目に210百万円が拘束解除されスポンサーへ還流します。IRR計算で忘れないでください)。
もう一つの関門が配当ロックアップです。一定条件を満たさない限り配当・株主ローン返済を禁止する条項で、典型的な条件は、実績DSCRと予測DSCRがいずれも基準(設例では1.20倍)以上であること、DSRA残高が目標水準を充足していること、期限の利益喪失事由が発生していないことの3点です。いずれかを欠くと配当は停止されます。
配当可能額(運営1年目・説明用の仮設例)
CFADS 570 − 元利返済 422 − DSRA積み増し 0 = 148百万円
DSCR 1.35倍 ≥ ロックアップ基準1.20倍 → 配当可能
Excelでは =IF(AND(実績DSCR>=1.2, 予測DSCR>=1.2, DSRA充足フラグ=1), 分配可能額, 0) の判定行を作り、留保現金を翌期に繰り越す口座残高行を持たせます。ロックアップが発動するとエクイティCFのタイミングが後ろにずれるため、IRRに直接効きます。
エクイティIRRとプロジェクトIRR
PFモデルの最終出力は2つのIRRです。前者は事業そのものの収益力と案件間比較、後者はレバレッジ後の株主リターンを見ます。
| プロジェクトIRR(アンレバード) | エクイティIRR(レバード) | |
|---|---|---|
| 初期投資 | 建設投資額の全額(調達方法を問わない) | スポンサーの出資額のみ |
| キャッシュフロー | CFADS(借入・返済・利息を含まない) | 配当可能額+DSRA解放+残余価値 |
| 設例の値 | 約4.8% | 約8.0% |
設例のIRR(説明用の仮設例・運営期CFADSを一定と単純化)
プロジェクトIRR:初期投資 −7,200(EPC 6,600+開発費 600)/各年 CFADS +570 × 20年 → 約4.8%
エクイティIRR:初期出資 −1,800/1〜17年 配当 +148/18〜20年 +570(返済完了後)/20年目にDSRA解放 +210 → 約8.0%
プロジェクトIRR 4.8% > 借入金利 2.5% であるため、レバレッジが株主リターンを8.0%へ押し上げています。逆にいえばプロジェクトIRRが借入金利を下回る案件では、借りるほどエクイティIRRは悪化します。LBOでの同じ論理は財務モデリング完全ロードマップ|DCF・LBO・M&AモデルをExcelで一気通貫で作るで扱っています。
期間が不等間隔になるPFモデルでは IRR ではなく =XIRR(CF範囲, 日付範囲) が安全です。IRR は期間長が均一である前提で、半期モデルでは半期利回りが返ります。NPV は第1期をすでに1期割り引く仕様なので、t=0の投資額は範囲外に置いて足します。3関数の罠はNPV・IRR・XIRR関数の実践|Excelでの正しい使い方と3つの罠に整理しています。ハードルレートと比較する際は税引前/税引後の別を揃えてください。
感応度分析の作り方
投資委員会やレンダーが最初に見るのは感応度表です。「何が起きたらDSCRが1.0倍を割るのか」を示すためで、PFではいつ悪化するかで意味が変わるため2種類を分けます。融資組成前に悪化するサイジング段階では借入可能額が減り必要エクイティが増え、確定後の実行後ではDSCRが低下してロックアップに接近します。
| ケース | 運営1年目CFADS | 借入可能額 | 必要エクイティ |
|---|---|---|---|
| ベース | 570 | 5,790 | 1,800 |
| 発電量 −10% | 490 | 4,977 | 2,613 |
| OPEX +10% | 548 | 5,561 | 2,029 |
| 金利 +1.0%pt(3.5%) | 570 | 5,342 | 2,248 |
発電量が10%下振れするだけで、必要エクイティは1,800から2,613へ45%増加します。CFADSの減少が目標DSCRで割り増しされ、17年分の現在価値として増幅されるためです。「発電量の10%」は資源評価(P50/P90)の議論であり、最も精査すべき前提だと分かります。
2軸の感応度表(発電量 × 金利など)はデータテーブル機能で作ります。手順は【構築】感応度テーブルをゼロから作る|データテーブル機能の完全手順、使い分けはWhat-If分析の3兄弟を参照してください。PF特有の注意は2つ。データテーブルは反復計算と相性が悪いため、IDCの循環を反復計算で処理していると実行のたびに違う値が出ます。結果セルは単純参照にする:左上に計算式を書くと再計算のたびに壊れます。
| ケース | CFADS | DSCR | ロックアップ(1.20倍) | エクイティIRR |
|---|---|---|---|---|
| ベース | 570 | 1.35 | 充足 | 8.0% |
| 発電量 −10% | 490 | 1.16 | 抵触(配当停止) | 3.2% |
| OPEX +10% | 548 | 1.30 | 充足 | 6.6% |
| 金利 +1.0%pt(変動金利) | 570 | 1.19 | 抵触(配当停止) | 4.9% |
※金利ケースは元本返済スケジュールを据え置き、金利差分だけ元利返済額が増えるものとした概算です。
ベースケースのDSCR 1.35倍は一見余裕がありますが、発電量−10%で1.16倍、変動金利が1%上がるだけで1.19倍と、いずれもロックアップ基準1.20倍を割り込みます。DSCRの余裕は見た目より薄い。これが感応度表を作る意味です。エクイティは返済後の残余なので、上流の小さな変動が下流で増幅されます。
チェック行と整合性検証
PFモデルは行数が多く、1か所の誤りが全体に伝播します。Outputsの最上部にチェック行のサマリーを置き、異常があれば赤く表示させる仕組みを組み始めた初日に作ってください。
| チェック項目 | 判定の考え方 | 検出できる誤り |
|---|---|---|
| Sources = Uses | =ABS(Sources-Uses)<0.001 | IDCの未収束、資金計画の漏れ |
| 最終期の債務残高=0 | 返済最終期の残高がゼロ | Sculptingの誤り、返済フラグのズレ |
| フラグの合計 | 運営フラグ=40、返済フラグ=34 | 期の切り方、日付境界の誤り |
| 建設期の収益ゼロ | 建設フラグ期間の売上合計=0 | 運営フラグの掛け忘れ |
| 現金残高とDSCRの下限 | =MIN(現金残高範囲)>=0/=MIN(DSCR範囲)>=1 | 資金ショート、返済不能期の見落とし |
チェック行は各シートの同じ行番号に置き、Outputsで =SUM(各シートのチェック行) を取って0でなければ条件付き書式で赤くします。この単純な仕組みが最も機能します。他人のモデルの読み解き方はExcelの数式監査の技術|F2・F9・数式表示・トレースで他人のモデルを読み解くにまとめています。
加えて桁と常識でも検算します。設例なら総事業費7,590百万円 ÷ 50,000kW = 約15.2万円/kW という建設単価。こうした指標を数本置けば、桁が飛んだときに真っ先に気づけます。
よくある間違い7つ
- 建設期の循環参照を放置する:IDC→Uses→借入額→IDCの循環を反復計算だけで処理し、一度エラーが出るとモデル全体が0やエラー値で埋まります。対処法のどれを採るかを組み始める前に決めてください。
- フラグ漏れで運営開始前にCFが立つ:売電収入行に運営フラグを掛け忘れると建設期にも収益が発生し、CFADSが過大になり借入可能額まで過大に出ます。「建設期の収益合計=0」のチェック行で検出できます。
- 年次と半期を混在させる:モデルは半期なのに目標DSCRは年次基準、金利は年利のまま半期残高に掛ける、といった混在です。期間按分係数の行を1本通し、年額前提をそこで期額に変換してください。年利2.5%の半期分は1.25%です。
- IRRの期間換算を間違える:半期モデルで
IRRの結果を2倍して年率とするのは誤りです。正しくは=(1+半期IRR)^2-1、あるいはXIRRを使います。半期IRR 3.9%なら年率は7.95%であって7.8%ではありません。 - DSRA積立をCFADSから控除する:DSRAは元利返済の「後」の資金移動です。控除するとDSCRが不当に低く出て、借入可能額も過小になります。
- プロジェクトIRRのCFに利息や借入を混ぜる:資本構成中立の指標なので、CFADSに利息や元本返済が混入していないか行の構成を確認してください。
- LLCRの割引率に株主資本コストを使う:LLCRは債務の返済能力を測るので割引率は借入金利(または融資契約の定義レート)です。正味現在価値の考え方は同じでも、目的が違えば割引率も変わります。
よくある質問(FAQ)
モデルは月次・半期・年次のどれで作るべきですか。
建設期は月次、運営期は半期が実務の標準です。建設期は資金支出とIDCの精度が借入額に直結するため月次が必要で、運営期は元利返済もDSCRのテスト単位も半期の案件が多いからです。1ファイル内で建設期=月次列、運営期=半期列とブロックを分けるか、月次で全期間を作って半期に集約します。
Debt Sizingで目標DSCRとギアリング上限のどちらがバインドするのが普通ですか。
案件と市場環境によります。オフテイク契約が強固でCFADSの確実性が高い案件では低めの目標DSCRが許容されギアリング上限がバインドしやすく、逆にマーケットリスクを取る案件(卸電力価格に晒される発電所、交通量リスクのある道路等)では目標DSCRが高く設定されDSCR基準がバインドします。必ず両方を計算してMINを取り、どちらがバインドしているかを表示する行を作ってください。
CFADSが将来一定でない場合、年金現価係数は使えますか。
使えません。設例は説明のためCFADS一定と単純化していますが、実務では発電量の劣化、OPEXのインフレ、税金の立ち上がり、大規模補修でCFADSは毎期変動します。この場合は =SUMPRODUCT(CFADS範囲/目標DSCR × 割引係数範囲 × 返済フラグ範囲) で各期の返済可能額の現在価値を積み上げます。
まとめ
PFモデルは、「タイムライン→収益→OPEX→CFADS→借入・返済→DSCR/LLCR→エクイティIRR」を一方向につなぐ装置です。決定的に違うのは、借入額が前提ではなくCFADSからの出力である点で、この一点を理解するだけで組み立て順序が決まります。
実装上の急所は3つ。期間フラグをTimingシートに集約すること、IDC循環をどう断つかを先に決めること、チェック行を初日から置くこと。これが揃えばモデルは長期の改訂に耐えます。
そして感応度表はベースケースの数字よりも雄弁です。設例では発電量が10%下振れするだけでDSCRが1.16倍に落ち、配当ロックアップに抵触し、エクイティIRRは8.0%から3.2%へ低下しました。PFモデルを作る本当の目的は、この「どこで壊れるか」を意思決定者に見せることにあります。
出典・参考(2026年8月21日確認)
- 資源エネルギー庁「固定価格買取制度(FIT制度)・FIP制度」に関する公表資料(制度の枠組み・対象電源の区分)
- 経済産業省 調達価格等算定委員会「調達価格等に関する意見」(各年度の制度設計の考え方)
- 本記事の数値はすべて説明用の仮設例であり、上記出典から引用した数値は含みません。実際の案件では融資契約書・オフテイク契約書・技術DD報告書の実数を用いてください。
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。