この記事で分かること
結論:開発モデルは「月 次の資金繰り」を主役に据える
不動産の取得(アクイジション)モデルは、購入初日から安定稼働したNOIが存在する前提でモデルを組み立てられます。年次ベースのDCFに月次のNOI・デットサイジング・CFを積み上げていく手順はすでに不動産取得モデルの作り方|NOI・DCF・LTV/DSCRをExcelで組み立てる手順で扱われており、本記事ではその6タブ構成やデットサイジングの手順自体は繰り返しません。
これに対して開発案件は、竣工までの間、収益を生まない資産に対して用地費・建築費・諸経費・建中金利が月次で積み上がっていく期間が先にあります。したがって開発モデルの土台は「年次のリターン計算」ではなく「月次の資金繰り(キャッシュの出入りとローン残高の推移)」になります。採算性の判断ロジックである残余法・Yield on Cost・開発スプレッド・感応度分析は不動産開発案件の投資分析|残余法・開発利回り(Yield on Cost)と感応度の回し方に譲り、本記事では開発案件特有のExcel実装、具体的には月次タイムラインの敷き方、出来高ベースの建設費ドローダウン、建中金利の資本化とローン残高への累積、竣工前後で変わる融資テストの切り替えに絞って解説します。
以下ではすべて「以下は説明用の仮設例です」という前提で、単位を百万円(100万円)に統一した小規模な賃貸マンション開発を題材に、式から数値代入、結果、意味の順で検算しながら組み立てます。
月次タイムラインの設計:フェーズが変わると計算式も変わる
開発モデルの列見出しは、取得モデルのように単純な暦月の並びではなく、案件のフェーズを表す列を必ず持たせます。本記事の設例では、月0を用地決済(土地代金と諸経費の支払い)、月1から月6を建設期間(工期6か月)、月7から月12をリースアップ期間(6か月)、月13以降を安定稼働期とします。工期やリースアップ期間の長さは案件ごとに異なり、実際には18か月から24か月程度に及ぶことも珍しくありませんが、仕組み自体は月数を増やしても変わりません。
実装上のポイントは、月ごとに「現在どのフェーズにいるか」を判定する列(フェーズフラグ)を用意し、建設費ドローダウンの式・リースアップ収益の式・安定稼働後の式をIF文で切り替えることです。取得モデルは単一フェーズの式をそのまま12か月・複数年と横に伸ばせば足りますが、開発モデルはこのフェーズ切り替えがあるために同じ行の中でも月によって参照する計算ロジックが変わる点が構造的な違いになります。
出来高(工事進捗)に応じた建設費ドローダウンの組み方
建築費は契約時に一括で支払われるのではなく、施工者が実際に完了させた工事の出来高(工事進捗の度合い)に応じて分割して支払われます。国土交通省の出来高部分払方式実施要領でも、請負代金相当額は直接工事費などの出来高比率を契約金額に乗じて算出すると定められており、実務上「工事の進み具合に応じて支払う」という考え方が制度上も裏付けられています。開発モデルではこの出来高比率の月次推移をS字カーブとして仮定し、それに総建築費を乗じることで各月の建築費支出を計算します。
式
月次建築費=総建築費×当月の出来高進捗率(月次)
本設例では総建築費を600(百万円)とし、着工から竣工までの6か月間の月次出来高進捗率を5%・15%・25%・25%・20%・10%(合計100%)と仮定します。工事は着工直後と仕上げの終盤は動きが遅く、躯体工事が本格化する中盤にピークを迎えるため、この山型の配分が一般的なS字カーブの形になります。
| 月 | 出来高進捗率(月次) | 月次建築費(百万円) | 累積建築費(百万円) | 累積出来高比率 |
| 月1 | 5% | 30.00 | 30.00 | 5% |
| 月2 | 15% | 90.00 | 120.00 | 20% |
| 月3 | 25% | 150.00 | 270.00 | 45% |
| 月4 | 25% | 150.00 | 420.00 | 70% |
| 月5 | 20% | 120.00 | 540.00 | 90% |
| 月6 | 10% | 60.00 | 600.00 | 100% |
| 合計 | 100% | 600.00 | 600.00 | 100% |
エクイティ先行投入とデットの引出順序
開発案件では、融資する金融機関はスポンサー(事業主体)が自己資本を先に投入し終えてから、はじめて借入金を引き出す(ドローする)順序を求めることが一般的です。自己資本が先に毀損する順序にしておくことで、貸し手からみた実質的な返済順位が引き上がるためです。本設例でもこの考え方をそのまま単純化し、月0の用地費と諸経費(合計240)はすべて自己資本で拠出し、月1以降の建築費ドローダウン(合計600)はすべて開発ローンからの借入で賄うという資金調達の前提を置きます。
実際の案件では建築費の一部にも自己資本を充当する比例配分方式が使われることもあり、エクイティとデットの充当順序は融資条件や案件のリスク許容度によって異なります。本記事では「自己資本が先に入り、その後はローンが建築費ドローダウンをそのまま引き受ける」という最も単純化した前提を置いていることをあらかじめ明記しておきます。この前提を置くと、月次のローン引出額の計算式は建築費ドローダウンの表(表1)をそのまま参照するだけで済み、モデルの行が単純になるという利点もあります。
建中金利(IDC)の資産計上とローン残高への累積
建設期間中に発生する借入金の利子は、建物が使用を開始するまでの期間に対応する部分について、原則として固定資産の取得価額に算入します。国税庁のタックスアンサーでも、事業の用に供される前の期間に対応する利子については資産の取得価額に算入しなければならないとされています。つまり建中金利(Interest During Construction、IDC)は竣工前についてはP/L上の支払利息ではなく、建物の取得原価の一部として資産計上される点が、竣工後の運用フェーズとの決定的な違いです。
式
当月の建中金利(IDC)=期首の借入残高×月次金利 / 期末の借入残高=期首残高+当月ドロー+当月IDC
ここで実装上の注意点があります。もし「当月の借入残高」に対して当月の金利を計算しようとすると、借入残高そのものが当月のドローと当月の金利の両方に依存するため、循環参照(サーキュラー・リファレンス)が発生します。これはLBOモデルの循環参照問題と同じ構造の問題です。開発モデルでは、金利計算の基準を「当月末残高」ではなく「前月末(期首)残高」に固定することで、この循環参照を反復計算(イテレーション)を有効にせずに回避できます。当月のドローや当月のIDCそのものには当月の金利計算が依存しない設計にしておくのが実務上の定石です。
本設例では、開発ローンの金利を年率4.8%(月次0.4%)とし、月1のドロー30から起算して6か月分の建中金利を積み上げます。
| 月 | 期首残高(百万円) | 当月IDC(百万円) | 当月ドロー(百万円) | 期末残高(百万円) |
| 月1 | 0.00 | 0.00 | 30.00 | 30.00 |
| 月2 | 30.00 | 0.12 | 90.00 | 120.12 |
| 月3 | 120.12 | 0.48 | 150.00 | 270.60 |
| 月4 | 270.60 | 1.08 | 150.00 | 421.68 |
| 月5 | 421.68 | 1.69 | 120.00 | 543.37 |
| 月6 | 543.37 | 2.17 | 60.00 | 605.54 |
| 合計 | - | 5.54 | 600.00 | 605.54 |
竣工時点(月6末)の借入残高は605.54(百万円)、うち600.00は現金で引き出した建築費ドロー、5.54は資産計上された建中金利です。ここで開発コスト全体の検算を行います。総事業費は用地費・諸経費240.00に建築費600.00と建中金利5.54を加えた845.54となり、資金調達サイドの自己資本240.00と借入残高605.54の合計とも845.54で一致します。ドローダウン表と金利表の数値を積み上げるだけで、総事業費と資金調達額が自動的に一致する構造になっている点が、開発モデルを検算するうえでの基本的なチェックポイントです。
竣工後のCFの切り替え:リースアップと分譲売却
竣工して引渡しを受けると、モデルは「コストが積み上がる期間」から「収益が発生する期間」へと切り替わります。開発案件のCFの組み方は大きく分けて、竣工後も保有して賃貸稼働させる(リースアップして保有運用する)場合と、区分所有として分譲し引渡し時点で売却代金を受け取る場合の2通りがあります。
賃貸稼働の場合、竣工直後から満室のNOIが立つわけではなく、入居付けが進むにつれて稼働率が段階的に上昇します。本設例では、安定稼働時点の月間NOIを6.00(百万円)と仮定し、リースアップ期間である月7から月12にかけて、安定稼働NOIに対する到達率を20%・40%・55%・70%・85%・95%と仮定します。月13以降は稼働がおおむね落ち着き、安定稼働NOI6.00がそのまま計上されるものとします。
これに対して分譲売却の場合、収益は毎月少しずつ積み上がるのではなく、引渡し(決済)のタイミングでまとまった金額として一括計上される点が構造的に異なります。稼働率という概念の代わりに、契約進捗率(売買契約の締結状況)や引渡し完了戸数の進捗という別の変数がCFを左右し、開発ローンの返済も月次の元利金支払いではなく、各戸の引渡し代金を原資に随時返済していく形になります。稼働率のランプアップを前提にしたリースアップ型のDSCRテストは分譲売却案件にはそぐわず、代わりに「引渡しスケジュール通りに売却代金が入ってローンを完済できるか」という完済確認(ペイオフテスト)が中心的なチェックになります。本記事では紙幅の関係で、以降のDSCR・LTVの数値例は賃貸稼働(リースアップ)のケースに絞って示します。
竣工前後で変わるDSCR・LTC・LTVテスト
建設期間中は物件がまだ収益を生んでいないため、金融機関はNOIを前提にしたDSCRではなく、総事業費に対する借入残高の割合であるLTC(総事業費比率)で融資の健全性を確認します。竣工後は物件の評価額や安定稼働NOIが定まるため、DSCRとLTVによる評価に切り替わります。これが「竣工前後でテストの物差しが変わる」という開発案件特有の構造です。
式
LTC=竣工時点の借入残高÷総事業費 / DSCR=月間NOI÷月間デットサービス / LTV=借入残高÷資産価値(安定稼働NOI÷還元利回り)
竣工時点のLTCは、借入残高605.54を総事業費845.54で割った71.6%です。竣工後のDSCRは、本設例では利息のみの返済(元本据置)を仮定し、月間デットサービスを借入残高605.54に月次金利0.4%を乗じた2.42(百万円)とします。リースアップ期のNOIの伸びに応じてDSCRがどう推移するかを表3に示します。
| 月 | 安定稼働NOI比 | 月間NOI(百万円) | 月間デットサービス(百万円) | DSCR |
| 月7 | 20% | 1.20 | 2.42 | 0.50x |
| 月8 | 40% | 2.40 | 2.42 | 0.99x |
| 月9 | 55% | 3.30 | 2.42 | 1.36x |
| 月10 | 70% | 4.20 | 2.42 | 1.74x |
| 月11 | 85% | 5.10 | 2.42 | 2.11x |
| 月12 | 95% | 5.70 | 2.42 | 2.36x |
| 月13 | 100%(安定稼働) | 6.00 | 2.42 | 2.48x |
竣工直後の月7・月8はまだ稼働が浅くDSCRが1.0倍を下回っており、単月で見ればデットサービスをNOIだけで賄えていません。稼働率が上がるにつれてDSCRが改善し、安定稼働に近づく月12以降は2倍を超える水準まで回復しています。LTVについては、安定稼働NOI6.00を年換算した72.00を還元利回り5.0%で割り戻した資産価値1,440.00に対して、借入残高605.54を割ると42.1%になります。竣工前のLTC・竣工後のLTVはどちらも「借入÷分母」という形は同じでも、分母が総事業費(コスト)か資産価値(バリュー)かという点で意味が異なることに注意が必要です。なお、竣工後のNOIから逆算して借入可能額そのものを決める本格的なデットサイジングの手順、および出口の還元利回り評価やDCFによる価値算定の詳細は不動産取得モデルの作り方|NOI・DCF・LTV/DSCRをExcelで組み立てる手順と不動産DCF法とは?計算手順・割引率・復帰価格を設例で解説に譲ります。
月次から年次への集計とモデルの検算
月次で組んだ開発モデルは、そのままでは年度決算や投資委員会向けの資料としては細かすぎるため、年次サマリーに集計する行を別途用意します。実務では各月に「所属する年度」を示す番号を振っておき、SUMIFS関数でその年度に該当する月だけを合計するか、月番号を12で割った切り上げ(CEILING)で年度を判定して集計する方法がよく使われます。集計行を独立させておくと、月次側の数式を変更しても年次側は参照範囲が変わらないため壊れにくいという利点もあります。
本設例を年次に集計すると、建設期にあたる年1(月0から月12まで)では、用地費・諸経費240.00、建築費600.00、建中金利5.54を合わせた開発コスト合計は845.54になります。同じ年1のうちリースアップ期間(月7から月12)に認識されるNOIの累計は21.90、年1末時点の借入残高は605.54です。安定稼働期にあたる年2以降は、月間NOIが6.00(年換算72.00)で推移し、借入残高は本設例では元本据置のため605.54のまま推移するという前提です。
| 項目 | 建設期(年1・月0〜12) | 安定稼働期(年2以降・目安) |
| 用地費・諸経費(百万円) | 240.00 | - |
| 建築費・現金支出(百万円) | 600.00 | - |
| 建中金利・IDC(百万円) | 5.54 | - |
| 開発コスト合計(百万円) | 845.54 | - |
| リースアップ収益(NOI累計、百万円) | 21.90 | 月6.00(年72.00) |
| 期末ローン残高(百万円) | 605.54 | 605.54(元本据置・設例) |
最後にモデル全体の検算を行います。開発コスト合計845.54は、自己資本240.00と借入残高605.54(現金ドロー600.00+資本化利息5.54)の合計と一致し、借入残高605.54は総事業費845.54から自己資本240.00を差し引いた金額とも一致します。表1の建築費累計・表2のIDC累計と借入残高・表4の開発コスト合計という3か所の数値が矛盾なくつながっていることが、開発モデルが正しく組めているかどうかの最終チェックになります。S字カーブの前提や工期の想定自体が妥当かどうかは、Reasonability Check(妥当性検証)の作り方|前提と実績のギャップを机上でつぶすの考え方で、類似案件の実績と突き合わせて検証しておくと安心です。
よくある質問(FAQ)
開発モデルと取得モデルは、結局どちらから学ぶべきですか。
取得モデルの方が構造は単純なので、まず取得モデルでNOIからデットサイジング、CFへの流れを理解したうえで、本記事で扱う月次ドローダウンと建中金利の資本化を追加で学ぶ順序が学習しやすいと考えられます。取得モデルの構造は不動産取得モデルの作り方|NOI・DCF・LTV/DSCRをExcelで組み立てる手順で解説しています。
建中金利はなぜ支払利息ではなく資産に計上するのですか。
国税庁のタックスアンサーでは、事業の用に供される前の期間に対応する借入金の利子について、その資産の取得価額に算入すると説明されています。竣工前の建物はまだ収益を生んでおらず、建中金利は減価償却を通じて竣工後の収益に対応させる考え方に基づくためです。
出来高払いの出来高比率はどのように決まるのですか。
国土交通省の出来高部分払方式実施要領では、請負代金相当額を直接工事費などの出来高比率に応じて算出する方法が示されています。本記事のS字カーブは、この出来高払いの考え方を踏まえたうえでの仮設例です。
建中金利の計算で循環参照(サーキュラー)が発生するのを避けるにはどうすればよいですか。
当月の金利を当月末残高ではなく前月末(期首)残高に対して計算する設計にすると、当月のドローや当月のIDCが当月の金利計算に影響しないため、反復計算を有効にしなくても計算が成立します。仕組みはLBOモデルの循環参照問題と共通しています。
竣工前のLTCと竣工後のLTVは、同じ指標として比較してよいですか。
どちらも借入残高を分子にする点は同じですが、LTCの分母は総事業費(コスト)、LTVの分母は還元利回りなどから算出した資産価値(バリュー)である点が異なります。竣工前後で分母の性質が変わることを踏まえたうえで、時点ごとに使い分ける必要があります。
まとめ
開発案件のExcelモデルは、取得モデルのように初日から安定稼働NOIがある前提では組めず、竣工までの月次の資金繰りを土台にする必要があります。出来高に応じた建設費ドローダウン、期首残高基準で積み上げる建中金利、自己資本を先行させる資金調達の順序、そして竣工前後で切り替わるLTC・DSCR・LTVのテストという4つの要素を押さえれば、開発モデル特有の構造は一通り実装できます。本記事の仮設例では、開発コスト合計845.54(百万円)が自己資本240.00と借入残高605.54の合計と一致することまで確認しました。採算性の判断や感応度分析、取得モデルの6タブ構成、DCFによる出口評価はそれぞれ専門記事に委ねていますので、あわせて参照してください。
開発モデルを自分の手で組めるようになるには
本記事で扱った月次ドローダウン・建中金利の計算ロジックは、実際にExcelで手を動かして数値がつながる感覚をつかむことが理解の近道です。関連記事とあわせて、練習用の環境やモデリング教材を活用しながら、竣工前後で切り替わる計算構造を自分のペースで確認してみてください。
出典・参考(2026年9月確認)
- 国税庁「No.5400 減価償却資産の取得価額に含めないことができる付随費用」(事業の用に供される前の期間に対応する借入金の利子の取扱い) nta.go.jp
- 国土交通省「出来高部分払方式実施要領」(出来高比率に応じた請負代金相当額の算出方法) mlit.go.jp
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。