この記事で分かること

  • 利益が出ていないスタートアップの評価に使う3つの手法(VC method・First Chicago法・マルチプル)の考え方
  • VC method:exit時の想定価値を目標リターン倍率で割り引いてポストマネーを出す整数計算
  • First Chicago法:成功/中間/失敗のシナリオ価値を確率で加重する整数計算
  • DCFが効きにくい理由と、プレマネー/ポストマネーの区別

結論:将来の出口価値から逆算し、シナリオで幅を取る

まだ利益が出ていないスタートアップは、過去実績や安定した将来キャッシュフローを前提にする評価がそのままでは使えません。そこで実務では、将来の出口(exit)でどれくらいの価値になるかを起点に、投資家が求めるリターンから逆算するVC methodや、成否のシナリオを確率で加重するFirst Chicago法、直近の売上・ARRに倍率を掛けるマルチプルを組み合わせて評価します。いずれも「一つの正解」ではなく、複数手法で価値のレンジを掴むのが基本姿勢です。

図解:VC methodの計算フロー

VC methodの計算フロー:出口価値から現在価値へ逆算 ① Exit時の想定企業価値 100億円 将来のIPO・売却時の価値 ÷ 目標リターン 10倍 ② ポストマネー (投資後企業価値) 10億円 投資額で割る ③ 投資家の持分比率 投資額 ÷ ポストマネー 例:2億円 ÷ 10億円 = 20% 計算式 ポストマネー = Exit時想定価値 ÷ 目標リターン倍率 = 100億円 ÷ 10倍 = 10億円 プレマネー = ポストマネー − 投資額(例:10億円 − 2億円 = 8億円)
図:VC methodは、Exit時の想定企業価値を目標リターン倍率で割り引いて現在のポストマネー(投資後価値)を求め、そこから持分比率を逆算する。

なぜDCFが効きにくいのか

DCF法(Discounted Cash Flow)は、将来のフリーキャッシュフローを予測し、割引率現在価値に割り引く評価法です(詳細はDCF法を参照)。ただしアーリー期のスタートアップでは、将来キャッシュフローの不確実性が極端に大きいことが問題になります。まだ黒字化しておらず、売上の立ち上がり方や継続率、そもそも事業が生き残るかどうかに幅がありすぎて、数年先のCF予測が一本の数字に収束しません。結果として、割引率や成長率のわずかな前提差で企業価値が何倍にも動き、DCF単独では説得力を持ちにくくなります。だからこそ、出口価値からの逆算(VC method)やシナリオ加重(First Chicago法)が重宝されます。

VC method(ブイシー・メソッド)

VC methodは、投資家(VC)が求めるリターンを起点に現在の企業価値を逆算する手法です。手順は、(1) 数年後のExit時点の企業価値を想定し、(2) 投資家が求める目標リターン倍率で割り引いて、(3) 現在のポストマネー(投資後価値)を出す、という流れです。

整数設例。Exit時に企業価値100億円になると想定し、投資家の目標リターンを10倍とします。すると現在のポストマネーは次のとおりです。

ポストマネー = 100億円 ÷ 10倍 = 10億円

この10億円が「今回の資金調達を織り込んだ後」の企業価値、すなわちポストマネーです。ここに新規投資額を割れば、投資家の取るべき持分比率が決まります。例えば投資額が2億円なら、持分は 2億円 ÷ 10億円 = 20% となります。目標リターン倍率が高い(=ハイリスクを見込む)ほど割引が大きくなり、現在価値は小さく評価される点が直感的なポイントです。

プレマネーとポストマネー

バリュエーションでは、プレマネー(pre-money)ポストマネー(post-money)の区別が欠かせません。プレマネーは「今回の調達を受けるの企業価値」、ポストマネーは「今回の調達を織り込んだの企業価値」で、両者は次の関係にあります。

ポストマネー = プレマネー + 新規投資額
投資家の持分 = 新規投資額 ÷ ポストマネー

先の設例では、ポストマネー10億円・投資額2億円なので、プレマネーは 10億円 − 2億円 = 8億円、投資家の持分は 2億円 ÷ 10億円 = 20% です。タームシート資本政策の議論では、どちらのマネーで話しているかを取り違えると持分計算がずれます(関連:キャップテーブル)。

First Chicago法(ファースト・シカゴ法)

First Chicago法は、将来を成功/中間/失敗といった複数シナリオに分け、それぞれの企業価値に発生確率を掛けて加重平均する手法です。単一の予測ではなく、スタートアップ特有の「大化けするか、ゼロになるか」の分布を明示的に織り込めるのが特徴です。

整数設例。次の3シナリオを想定します。

シナリオ企業価値発生確率寄与(価値×確率)
成功200億円30%60億円
中間50億円40%20億円
失敗0円30%0円
加重平均(期待値)100%80億円

期待企業価値 = 200億円 × 30% + 50億円 × 40% + 0円 × 30% = 60億円 + 20億円 + 0円 = 80億円

失敗シナリオで価値がゼロになる可能性を確率的に織り込みつつ、成功シナリオの上振れも反映できるため、単なる楽観・悲観の二択より現実的なレンジが得られます。確率とシナリオ価値の置き方に恣意性が残る点は弱点で、感度分析とセットで用いるのが実務的です。

マルチプル(ARR倍率など)

3つ目は、類似企業や直近取引の相場からマルチプル(倍率)を当てる方法です。利益が出ていないSaaSなどでは、PER(株価収益率)が使えないため、ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益や売上に対する倍率がよく使われます。例えばARR10億円の企業に「ARR倍率8倍」の相場を当てれば、企業価値は 10億円 × 8倍 = 80億円 と概算できます。手早くレンジを掴める一方、倍率は市況や成長率・粗利率で大きく変動するため、どの指標にどの倍率を当てるかの妥当性が鍵になります。実務では、VC method・First Chicago法・マルチプルの結果を突き合わせ、価値のレンジと交渉の落としどころを探ります(関連:VCタームシート)。

面接での答え方(30秒回答例)

Q:赤字のスタートアップはどうバリュエーションしますか?
「将来キャッシュフローが不確実でDCFが効きにくいため、複数手法でレンジを取ります。代表的なのがVC methodで、Exit時の想定企業価値を投資家の目標リターン倍率で割り引いて現在のポストマネーを出します。例えばExit100億円・目標10倍ならポストマネーは10億円です。加えてFirst Chicago法で成功・中間・失敗のシナリオ価値を確率加重し、ARR倍率などのマルチプルとも突き合わせて、最終的な評価レンジを固めます。」

よくある質問(FAQ)

VC methodのポストマネーとプレマネーはどう違いますか?

ポストマネーは今回の調達を織り込んだ後の企業価値、プレマネーはその前の企業価値で、ポストマネー = プレマネー + 新規投資額の関係です。設例ではポストマネー10億円・投資額2億円なのでプレマネーは8億円、投資家の持分は2億円÷10億円=20%になります。

First Chicago法とVC methodはどちらを使うべきですか?

二者択一ではなく併用します。VC methodは投資家の目標リターンから逆算する交渉ベースの視点、First Chicago法はシナリオ分布を明示する期待値ベースの視点で、両者とマルチプルを突き合わせて価値のレンジを見極めるのが実務の基本です。

まとめ

利益の出ていないスタートアップは、将来CFの不確実性からDCF単独では評価しづらいため、Exit価値から逆算するVC method、シナリオを確率加重するFirst Chicago法、ARR倍率などのマルチプルを組み合わせて価値のレンジを掴みます。設例では、VC methodでExit100億円÷10倍=ポストマネー10億円、First Chicago法で200億×30%+50億×40%+0×30%=80億円と計算しました。数字そのものより、前提(目標倍率・シナリオ確率・倍率の選び方)を言語化できることが重要です。

出典・参考(2026-07-16確認)

  • 一般的なVCバリュエーション手法(VC method、First Chicago法、マルチプル法)に関する実務解説。

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。