この記事で分かること

  • 会計的投資利益率(ARR)の定義と、DCF法・IRRとの根本的な違い
  • 初期投資基準と平均投資基準という2通りの計算方法
  • 整数設例で、同じ投資案件でも分母の取り方で数値が変わることを検算
  • 日本企業の稟議実務でARRが今も使われる理由と、限界

30秒で分かる定義

会計的投資利益率(Accounting Rate of Return、略称ARR、読み方:かいけいてきとうしりえきりつ)とは、投資によって得られる会計上の平均年間利益を投資額で割って求める、時間価値(割引計算)を考慮しない簡便な投資評価指標です。「ARR法」「平均投資利益率」「簿価ベース投資利益率」とも呼ばれます。DCF法やIRRのようにキャッシュフローの時間価値を反映する手法とは異なり、会計上の利益(減価償却費控除後)をそのまま使う点が特徴です。

なぜ実務で重要なのか

経営企画・事業部門では、DCFやNPVほど専門的な計算を要さず、稟議書で経営層に説明しやすい指標として、設備投資の一次スクリーニングに使われることがあります。融資審査では、借り手企業の投資案件の採算性を簡易に把握する補助指標として参照される場合があります。IB・PEの実務では主要な投資評価指標として使われることは少ないですが、簡便法の限界を理解しているかどうかは面接で頻出のテーマです。

計算式(または仕組み)

ARR(%) = 投資による平均年間会計利益 ÷ 投資額 × 100

分母の「投資額」には、初期投資額をそのまま使う方法(初期投資基準)と、投資期間中の平均簿価(初期投資額と残存価額の平均)を使う方法(平均投資基準)の2通りがあり、どちらを採用するかによって数値が大きく変わる点に注意が必要です。

整数設例で確認する

設例(架空数値・単位:百万円)。設備投資100(耐用年数5年、残存価額ゼロ、定額法で減価償却)を行い、5年間の税引後増分利益の合計が100と見込まれるとします。

年平均利益 = 100 ÷ 5 = 20。初期投資基準のARR = 20 ÷ 100 = 20%です。一方、平均投資基準では、投資額を期首簿価100と期末残存価額0の平均、すなわち(100+0)÷ 2 = 50として計算するため、平均投資基準のARR = 20 ÷ 50 = 40%となります。同じ投資案件でも、分母の取り方だけでARRが2倍の差になることが確認できます。

投資判断への影響

ARRは会計利益ベースであるため、稟議の意思決定基準として単純明快ですが、キャッシュフローの時間価値を無視し、投資期間中の資金の出入りのタイミングを反映しません。そのため、同じARRでも初期に大きなキャッシュアウトが集中する案件と、後年に分散する案件を区別できず、IRRの落とし穴とは対照的な形で、時間価値を考慮するIRRやNPVとは評価結果が食い違うことがあります。投資評価の実務では、ARRを一次スクリーニングに使う場合でも、最終判断はNPV・IRRと併用するのが基本です。

財務モデル・Excelでの使い方

モデルでは、投資額・耐用年数・残存価額・年次の税引後増分利益をアサンプション行に置き、平均利益は=SUM(年次利益)/耐用年数で計算します。初期投資基準と平均投資基準の両方をチェック行として並べて比較できるようにし、IRR・NPVのセルと並べて表示することで、指標間の乖離を視覚化するのが実務的な設計です。

この用語をExcelで「組める」状態にする

初期投資基準・平均投資基準の両方でARRを計算し、IRR・NPVと並べた投資評価シートを組めるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「ARRが高い投資案件は必ず優れている」→ 正しくは、時間価値を無視しているため、早期に利益が出る案件も後年に利益が出る案件も同じARRになり得る点に注意が必要です。

誤解2:「ARRとROIは常に同じ指標」→ 正しくはROIは文脈によって定義が様々ですが、ARRは会計上の利益と投資額の比率という定義が比較的固定されている点で異なります。

日本実務での扱い(2026年8月時点)

日本の製造業を中心に、設備投資の稟議プロセスにおいて、DCF法やIRRと並行してARR(あるいは類似の「投資利益率」)を補助指標として使う企業が一定数存在します。会計上の利益ベースであるため、決算上の予算管理・実績評価とダイレクトに接続しやすいという実務的な利点があるためです。ただし、上場会社の重要な投資判断においては、資本コストとの比較が可能なROIC(投下資本利益率)使用資本とROCEのような指標と併用することが望ましいとされています。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:ARR(会計的投資利益率)の限界を、DCF法と対比して説明してください。
「ARRはキャッシュフローの時間価値を考慮せず、会計上の利益をそのまま使うため、資金の早期回収を評価できません。また減価償却方法や利益の会計処理によって数値が変わりうる点も、DCF法との大きな違いです。稟議での説明のしやすさという利点はありますが、投資判断の最終基準としてはNPVやIRRを優先すべきです。」

深掘りでは「初期投資基準と平均投資基準のどちらを使うべきか」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. ARRと単純回収期間法はどう違いますか?
A. 回収期間法は投資額を回収するまでの年数を測る指標で、ARRは投資期間全体の平均的な利益率を測る指標です。どちらも時間価値を考慮しない簡便法という共通点があります。

Q. ARRの計算に使う利益は税引前・税引後のどちらですか?
A. 実務上どちらも用いられますが、税引後利益を使うほうが投資の実質的な収益力を反映しやすく、他の指標との比較でも一貫性が保てます。

出典・参考(2026-08確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。

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