この記事で分かること

  • SPC(買収ビークル)を使った買収で、株式を取得する場合と資産(事業)を取得する場合とで、制度上どこに違いが生じるのか
  • 税務上の「のれん」に当たる資産調整勘定の一般的な枠組みと、会計上ののれんとの関係
  • グループ通算制度の基本的な仕組みと、買収後のグループ関係を考えるうえでの論点の位置づけ
  • 取得対価100億円の仮設例で、買い手の税務ポジションの差がどの程度の金額になりうるか(式・代入・結果まで検算)

LBOやカーブアウトで「ストラクチャー」を検討するとき、税務は価格や資本構成と違ってモデルの表面に出てきにくい一方、買い手のリターンに数%単位で効いてくる領域です。本記事は、国税庁・財務省・総務省・e-Gov法令検索で確認できた制度の枠組みだけを使い、SPCによる買収で必ず出てくる税務論点を地図として整理します。個別案件の判定を行うものではなく、税務上の助言でもありません。適格・非適格の判定や通算制度の適用可否は事案ごとに結論が変わるため、実際の検討では必ず税理士・税務専門家の関与を前提としてください。

結論:ストラクチャーの違いは「税務簿価が洗い替わるか」に集約される

SPCによる買収の税務論点は数多くありますが、買い手の立場から見た最大の分岐点は一つです。取得によって対象資産の税務上の帳簿価額が取得価額へ洗い替わるかどうか、ここに尽きます。

株式を取得する場合、対象会社という法人はそのまま存続します。会社の中にある資産・負債は誰にも移転していないため、税務上の帳簿価額も、繰越欠損金も、引当金の残高も、原則としてそのまま残ります。買い手が支払った対価と純資産の差額は、連結財務諸表の上ではのれんとして現れますが、対象会社の法人税の計算とは無関係です。

これに対して、事業譲渡や非適格の会社分割のように資産・負債そのものが移転する取引では、取得した側は取得価額で資産を受け入れます。時価純資産を超えて支払った部分は、法人税法上「資産調整勘定」として認識され、一定の期間にわたって損金に算入される仕組みが設けられています(法人税法62条の8)。減価償却の基礎となる金額も時価まで引き上がります。半面、不動産取得税・登録免許税といった流通税や、消費税の資金負担が新たに発生します。

したがって、ストラクチャーの比較は「どちらが得か」を感覚で語るものではなく、①資産調整勘定による将来の損金 ②簿価洗い替えによる追加償却 ③取得時に発生する流通税・消費税の三つを金額に置き換え、現在価値で足し引きする作業になります。後半の設例では、この三つを実際に計算します。

SPC買収を税務の目で3つに分解する

LBOでは、ファンドが出資し、レンダーが融資する買収ビークル(SPC)を新設し、そのSPCが対象会社の株式または対象事業を取得します。LBO全体の仕組みそのものはLBOとは|仕組み・リターンの源泉・モデルの全体像を一気に理解するで扱っているため、ここでは税務の観点だけを取り出します。

税務論点は、時間軸に沿って三つに分けると整理しやすくなります。第一に取得の瞬間、株式を取得するのか資産・負債を取得するのか。第二に取得直後から保有期間、SPCと対象会社をどのようなグループ関係に置き、SPCが負担する支払利息をどの所得と対応させるのか。第三に会計と税務の分離、連結上ののれんと税務上の資産調整勘定は別建てで動くという点です。

SPC買収ストラクチャーと3つの税務論点 PEファンド レンダー 出資 借入 買収SPC(Acquisition SPV) エクイティとLBOローンで買収資金を用意する 株式 or 事業を取得 対象会社/対象事業 取得後はSPCの完全子会社または合併後の一体 ① 取得形態 株式取得か、資産(事業)取得か ② 取得後のグループ関係 グループ通算・合併をどう考えるか ③ のれんの扱い 会計上ののれんと税務は別建て
図:SPCを用いた買収の基本形と、税務検討で最初に切り分ける3つの論点(一般的な整理)。

株式取得と資産取得——制度の枠組みを分解する

売り手側で何が起きるか

法人が株式を譲渡した場合、その譲渡利益額または譲渡損失額は、原則として譲渡契約をした日の属する事業年度の益金または損金に算入されます(法人税法61条の2第1項)。事業譲渡の場合は、移転する個々の資産について同様に譲渡損益が認識され、売り手法人の課税所得を構成します。

個人が株式を譲渡した場合は申告分離課税となり、税率は20%(所得税15%・住民税5%)です。あわせて、平成25年から令和19年までは復興特別所得税として基準所得税額に2.1%を乗じた額を所得税と併せて申告・納付することとされています(国税庁 タックスアンサーNo.1463)。オーナー系企業の買収では、この個人株主の課税と、事業譲渡の場合に法人段階の課税を経てさらに株主段階の課税が生じうる点との差が、売り手のスキーム選好を大きく左右します。

買い手側で何が起きるか

資産調整勘定の規定は、条文上「内国法人が非適格合併等により……被合併法人等から資産又は負債の移転を受けた場合」に適用されます(法人税法62条の8第1項)。ここでいう非適格合併等には、適格合併に該当しない合併のほか、適格分割に該当しない分割・適格現物出資に該当しない現物出資・事業の譲受けのうち政令で定めるものが含まれます。

裏を返せば、株式を取得しただけでは資産・負債の移転が起きないため、この規定の適用場面になりません。株式取得で連結上に計上されるのれんは、法人税の課税所得計算に影響しないという結論になります。

資産調整勘定が生じた場合の取扱いは、条文で明確に定められています。当初計上額を60で除して計算した金額に、その事業年度の月数を乗じた金額を各事業年度で減額し(同条4項)、減額すべきこととなった金額は、その事業年度の損金の額に算入します(同条5項)。逆に対価が時価純資産価額に満たない場合は差額負債調整勘定となり(同条3項)、同じく60で除した金額に月数を乗じた額を減額し(同条7項)、益金の額に算入します(同条8項)。

資産調整勘定 = 非適格合併等対価額 − 移転を受けた資産・負債の時価純資産価額
各事業年度の減額(損金算入)額 = 当初計上額 ÷ 60 × その事業年度の月数(法人税法62条の8第1項・4項・5項)

流通税と消費税——資産取得だけに生じるコスト

資産を実際に動かす取引では、登記や取得に伴う税が発生します。不動産の所有権移転登記に係る登録免許税は、土地の売買の場合、本則が課税標準(原則として固定資産課税台帳に登録された価格)の1,000分の20で、令和11年3月31日までに登記を受ける場合は1,000分の15に軽減されます。相続・法人の合併または共有物の分割による移転は1,000分の4、その他の原因による移転は1,000分の20です。建物についても、売買または競売による移転は1,000分の20、相続または法人の合併による移転は1,000分の4、その他は1,000分の20とされています(国税庁 タックスアンサーNo.7191)。

ここで見落としやすいのが、会社分割は「相続・法人の合併」には含まれないという点です。土地の売買に用意されている1,000分の15の軽減も適用対象外となるため、登録免許税だけを見ると分割のほうが重くなる場合があります。

不動産取得税は、課税標準を固定資産課税台帳に登録された価格とし、標準税率は本則4%、住宅および土地については令和9年3月31日まで3%の特例が設けられています。また、住宅用地・商業地等の取得については課税標準としての価格を評価額の2分の1に圧縮する特例があります(総務省 地方税制度「不動産取得税」)。一方で、地方税法73条の7は「形式的な所有権の移転等に対する不動産取得税の非課税」を定めており、その第2号で法人の合併または政令で定める分割による不動産の取得を非課税としています。登録免許税とは逆の方向に効く、という点が実務上の勘所です。

消費税については、事業譲渡は「資産の譲渡等」として課税の対象になります。国税庁の質疑応答事例では、営業の譲渡は営業に係る資産・負債の一切を含めて譲渡する契約であり、資産の譲渡については課税資産と非課税資産を一括して譲渡するものと認められるため、課税資産と非課税資産の対価の額を合理的に区分して課税すると整理されています。土地の譲渡は非課税ですが、建物や機械装置は課税資産となり、標準税率10%(国税庁 タックスアンサーNo.6303)が対価に上乗せされます。仕入税額控除の対象となれば最終的な負担とは異なりますが、クロージング時点では実際に資金を用意する必要があります。

論点株式を取得する場合資産(事業)を取得する場合
資産の税務上の帳簿価額対象会社に残り、変わらない取得価額で受け入れる(時価まで洗い替え)
税務上ののれん相当生じない(資産・負債の移転がない)資産調整勘定。60で除して月数按分し損金算入
対象会社の繰越欠損金法人に残る(利用には別途の制限規定がある)法人に残るため、事業だけを買う側には移らない
簿外債務・偶発債務法人ごと引き継ぐ承継対象を契約で特定できる
登録免許税・不動産取得税不動産の移転が生じないため原則発生しない移転する不動産について発生する
消費税株式の譲渡であり課税資産の譲渡とは異なる課税資産の対価に課税(土地は非課税)
許認可・契約の承継法人が変わらないため原則そのまま個別に承継手続が必要になりうる
表:株式取得と資産取得の一般的な違い。実際の取扱いは取引の内容・当事者の関係により異なります。

スキーム全体の使い分けはM&Aスキーム比較|株式譲渡・事業譲渡・合併・会社分割はどう使い分けるかで整理していますので、会社法上の手続や実務上の制約はそちらを参照してください。

設例:同じ100億円でも買い手のポジションはどれだけ違うか

以下は説明用の仮設例です。実在の企業・案件とは関係がなく、税率・耐用年数・評価額も計算を追いやすくするために単純化した仮定値です。実際の判定は個別の事実関係によって変わります。

ある上場企業が保有する「A事業」を、PEファンドがカーブアウトで取得するとします。取得対価は100億円。実効税率は30%、割引率は8%と仮定し、取得は事業年度の期首に実行され、初年度から12か月分を計上できるものとします。なお、財務省の資料によれば日本の法人実効税率は2018年度以降29.74%とされ、防衛特別法人税(2026年4月施行)の課税対象に該当する場合は30.64%となるとされています。設例の30%はこれを踏まえた丸めた仮定値です。

移転対象(資産取得の場合)時価税務簿価前提
土地8.08.0非償却。固定資産税評価額6.0
建物20.012.0残存耐用年数20年・定額。評価額12.0
機械装置10.06.0残存耐用年数8年・定額
運転資本(純額)7.07.0簿価=時価と仮定
承継する負債△5.0△5.0退職給付債務等
時価純資産価額40.028.08.0+20.0+10.0+7.0−5.0
表:設例の前提(単位:億円)。すべて理解のための仮設例です。

① 資産調整勘定による損金

資産調整勘定は、対価から時価純資産価額を差し引いて計算します。

資産調整勘定 = 100.0億円 − 40.0億円 = 60.0億円
各期の損金算入額 = 60.0億円 ÷ 60 × 12か月 = 12.0億円(5年間で合計60.0億円)

年間12.0億円が損金に算入されるため、実効税率30%のもとでの税額の減少は 12.0 × 30% = 3.6億円/年です。これを割引率8%で5年分の現在価値に直します。年金現価係数は (1 − 1.08−5) ÷ 0.08 = 3.99271 ですから、3.6 × 3.99271 = 14.37億円となります。

② 簿価の洗い替えによる追加償却

建物は時価20.0億円に対して税務簿価12.0億円ですから、差額8.0億円が新たに償却の基礎に加わります。残存耐用年数20年の定額法では 8.0 ÷ 20 = 0.4億円/年。機械装置は差額4.0億円を8年で償却するため 4.0 ÷ 8 = 0.5億円/年です。土地は非償却なので、時価と簿価が一致している設例では追加償却は生じません。

税額の減少は、建物分が 0.4 × 30% = 0.12億円/年、機械装置分が 0.5 × 30% = 0.15億円/年。年金現価係数は20年で 9.81815、8年で 5.74664 ですから、現在価値は 0.12 × 9.81815 = 1.18億円、0.15 × 5.74664 = 0.86億円、合計2.04億円です。

③ 取得時に生じる流通税

不動産取得税は、土地について宅地評価土地・商業地等の課税標準特例(評価額の2分の1)と、土地に対する3%の税率特例を適用すると 6.0 × 1/2 × 3% = 0.09億円。事業用の建物は本則4%が適用され 12.0 × 4% = 0.48億円。合計0.57億円です。

登録免許税は売買による所有権移転登記として、土地が軽減税率1,000分の15で 6.0 × 1.5% = 0.09億円、建物が本則1,000分の20で 12.0 × 2.0% = 0.24億円、合計0.33億円。流通税の合計は 0.57 + 0.33 = 0.90億円となります。

これとは別に、課税資産である建物20.0億円と機械装置10.0億円の合計30.0億円に対して消費税10%の3.0億円をクロージング時に上乗せして支払う必要があります。仕入税額控除の対象となる限り恒久的なコストとは性質が異なりますが、資金繰り上の手当ては必要です。

三つを足し合わせる

株式取得を基準(ゼロ)として、資産取得を選んだ場合の買い手の税務ポジションの差は次のとおりです。

設例:資産取得を選んだ場合の買い手の差(現在価値・億円) 0 5 10 15 +14.37 +2.04 −0.90 15.51 資産調整勘定 の節税(5年) 簿価洗い替えの 追加償却 流通税 (取得時) ネット効果 (対価の約15.5%)
図:設例(仮設例)。実効税率30%・割引率8%の前提で算定。消費税の資金負担は含めていません。単位:億円。

14.37 + 2.04 − 0.90 = 15.51億円。取得対価100億円に対して約15.5%に相当します。ここまでの計算はいずれも「式 → 代入 → 結果」で追えるため、モデルにそのまま実装できます。

重要なのは、この15.51億円が空から降ってくるわけではないという点です。売り手側では、資産取得の場合に移転資産の譲渡益が認識されます。設例の税務簿価合計28.0億円に対して対価100.0億円ですから、譲渡益は72.0億円、税額は 72.0 × 30% = 21.6億円です。一方、仮に適格の分社型分割で簿価28.0億円のまま新会社へ移し、その株式(税務簿価28.0億円)を100.0億円で譲渡した場合も、譲渡益は同じく72.0億円、税額21.6億円となります。設例の前提では売り手の税額は変わらず、買い手のポジションだけが約15.5億円動くという構図です。だからこそ、この差をどちらがどれだけ取るかが価格交渉の論点になります。

もっとも、売り手が個人株主であるオーナー系企業では話が変わります。株式譲渡なら20.315%相当の分離課税で完結するのに対し、法人が事業を譲渡して代金を法人に留めた場合は、その現金を株主へ還流させる段階でさらに課税が生じうるためです。日本のミドルマーケットで株式譲渡が選ばれやすい背景の一つがここにあります。ただし具体的な税負担は株主構成・取得費・還流方法によって大きく変わるため、必ず専門家に確認してください。

3つのストラクチャー案を1枚のシートで並べる

株式取得・事業譲渡・分社型分割の比較は、前提を1か所にまとめて同じフォーマットで回すと差がはっきりします。モデリングラボでは、入力を差し替えながら計算の流れを追う練習ができます。

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のれんは「会計」と「税務」で別々に動く

「のれん」が会計上ののれんなのか税務上の資産調整勘定なのかを取り違えると、モデルの税金行が丸ごとずれます。両者は目的も計算根拠も期間も別物です。

会計上ののれんは、取得原価を識別可能な資産・負債の時価に配分した残額として計上されます。この手続の全体像はのれんとPPA入門|買収価格と純資産の差はどこへ行くのか財務三表への反映はPurchase Accounting(PPA)をM&Aモデル・財務三表へ反映する方法で扱っています。日本基準におけるのれんの償却期間の考え方も、税務上の60か月とは無関係に決まります。

一方の資産調整勘定は、資産・負債の移転を伴う取引でのみ生じ、60で除して月数を乗じた額を機械的に減額していきます。株式取得では連結上にのれんが立っても税務上は何も起きません。LBOモデルで会計上ののれん償却を課税所得の計算から除く処理が必要になるのはこのためです。税金行の具体的な組み方、繰越欠損金や利息の損金算入制限の実装はLBOタックススケジュールの作り方|NOL・利息損金算入制限をモデルに実装するを参照してください。

60か月の按分は、期首取得なら単純に5年で均等ですが、期中に取得した場合は月数按分になります。設例と同じ資産調整勘定60.0億円を、3月決算の会社が10月1日に計上したケースを図にすると、初年度と最終年度が半分になり、合計は変わりません。

資産調整勘定60億円を期中に計上した場合の損金算入(億円) 計算式:60.0億円 ÷ 60か月 × 各事業年度の月数 6.0 第1期 6か月 12.0 第2期 12か月 12.0 第3期 12か月 12.0 第4期 12か月 12.0 第5期 12か月 6.0 第6期 6か月
図:設例。3月決算・10月1日計上を想定した月数按分のイメージ。6.0+12.0×4+6.0=60.0億円で当初計上額と一致します。

グループ通算制度とLBO——SPCの利息は誰の所得と対応するのか

LBOでは、SPCが多額の借入を負う一方、事業から利益を生むのは対象会社です。SPC単体で見れば支払利息だけが立ち、対象会社単体で見れば課税所得が立つ、という状態になりえます。ここで登場するのがグループ通算制度です。

国税庁の説明によれば、グループ通算制度とは「完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額の計算および申告を行い、その中で、損益通算等の調整を行う制度」です。後発的に修更正事由が生じた場合には原則として他の法人の税額計算に反映させない遮断措置が設けられ、開始・加入時の時価評価課税および欠損金の持込み等については組織再編税制と整合性のとれた制度とされています(国税庁 タックスアンサーNo.5900)。令和2年度税制改正で連結納税制度を見直して導入され、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用されています。

手続の面では、制度の適用を受けようとする場合、親法人および完全支配関係がある他の内国法人の全てが国税庁長官の承認を受けなければならず(法人税法64条の9第1項)、その申請書は適用を受けようとする最初の事業年度開始の日の3月前の日までに連名で提出することとされています(同条2項)。一方、既に通算親法人との間に完全支配関係を有することとなった法人については、その日において通算承認があったものとみなされます(同条11項)。ゼロから通算グループを作るのか、既存の通算グループへ加入するのかで、必要な準備期間がまったく異なるということです。

また、通算制度への加入に伴い、一定の法人を除き、加入直前事業年度終了の時に有する時価評価資産の評価損益を益金または損金に算入する規定が置かれています(法人税法64条の12第1項)。開始・加入時の欠損金の取扱いにも調整が入ります。SPCを新設して対象会社を完全子会社化するLBOの典型形はまさにこの「加入」の場面に該当しうるため、時期・法人の属性・保有資産の内容によって結論が変わります。

実務では、通算制度を使う以外に、SPCと対象会社を合併して一体化するデットプッシュダウンが検討されることもあります。ただし合併の税務上の取扱いは適格・非適格の判定に左右され、適格組織再編成要件の充足可否という別の論点に移ります。組織再編税制の一般的な枠組みは同シリーズのM&A税務ストラクチャリング入門(ma-037)で扱いますので、本記事では深追いしません。

あわせて押さえておきたいのが、受取配当等の益金不算入です。内国法人が受ける配当等の額のうち、完全子法人株式等に係るものは全額が益金に算入されません(法人税法23条1項)。関連法人株式等については負債利子相当額の控除があり、いずれにも該当しない株式等は50%、非支配目的株式等は20%が益金不算入とされています。SPCが対象会社からの配当で返済原資を得るストラクチャーを考えるときの、基本的な出発点になります。

検討の切り口主な内容時間軸の論点
グループ通算制度完全支配関係にあるグループ内で損益通算等の調整を行う新規開始は最初の事業年度開始の日の3月前の日までに申請
既存グループへの加入完全支配関係を有することとなった日に通算承認があったものとみなされる加入時の時価評価・欠損金の取扱いに調整規定がある
SPCと対象会社の合併借入と事業を同一法人に置く(デットプッシュダウン)適格・非適格の判定が前提。手続にも時間がかかる
配当による資金還流完全子法人株式等に係る配当等は全額益金不算入分配可能額など会社法上の制約は別途確認が必要
表:買収後のグループ関係を考えるときの一般的な論点整理。適用可否は個別の事実関係により異なります。

カーブアウトの2ルート——事業譲渡と分社型分割

親会社から一事業を切り出す場合、実務でよく比較されるのが事業譲渡で直接買う形と、いったん会社分割(分社型分割)で受け皿会社に移してからその株式を買う形の二つです。切り出しに伴う事業面・実務面の論点はカーブアウトM&A入門|事業の「切り出し」で価格が動く3つの論点、スタンドアロン調整を含む財務諸表の作り方はカーブアウト財務諸表の作り方|スタンドアロン調整とコスト配賦で扱っています。ここでは税務の観点だけを並べます。

項目事業譲渡で直接取得分社型分割+株式譲渡
買い手の資産の税務簿価取得価額で受け入れる適格分割なら簿価引継ぎ。株式取得では洗い替わらない
資産調整勘定生じうる(設例では60.0億円)適格分割+株式取得の組合せでは生じない
不動産取得税課税(設例では0.57億円)法人の合併または政令で定める分割による取得は非課税
登録免許税(所有権移転)売買として土地1,000分の15・建物1,000分の20(設例0.33億円)分割は「その他」に区分され土地・建物とも1,000分の20(設例0.36億円)
消費税課税資産と非課税資産を合理的に区分して課税組織再編行為であり事業譲渡と取扱いが異なるため個別確認が必要
契約・許認可個別の承継手続が必要になりうる包括承継だが、許認可は個別法令の確認が必要
表:カーブアウトの2ルートの税務面の対比(設例の数値を含む)。適格判定を含め、実際の取扱いは個別に確認が必要です。

この表から読み取れるのは、流通税は「どちらが軽い」と一言で言えないということです。設例では不動産取得税0.57億円が非課税になる一方、登録免許税は土地の売買軽減が使えなくなり0.33億円から0.36億円へ増えます。ネットでは分割ルートが0.54億円ほど軽い計算ですが、買い手は資産調整勘定と追加償却による現在価値16.41億円を得られません。金額の桁が違うため、流通税だけでルートを決めるべきではないことが分かります。なお、分社型分割が適格に該当するかどうかは支配関係の継続や対価の種類など複数の要件で判定され、売却を前提とした切り出しでは特に慎重な確認が必要です。この判定は本記事の範囲を超えるため、必ず税務専門家の検討を経てください。

DDとモデルにどう落とすか

まず、税務デューデリジェンスの結果をストラクチャーの前提に反映します。過年度の申告漏れや移転価格の論点は偶発債務としてネットデットの調整対象になりえます(調整項目の考え方はネットデット完全ガイド|「現金を引く」だけでは終わらない実務の調整を参照)。株式取得では法人ごと引き継ぐため、この論点の重みが資産取得より格段に増します。同時に、設例で使った実効税率・残存耐用年数・固定資産税評価額・時価純資産は、いずれもDDで確定させるべき数値です。特に時価純資産の評価は資産調整勘定の金額を直接動かします。

モデル上の実装は、ストラクチャーごとにタックススケジュールの入力が変わるだけで、リターン計算の構造そのものは変わりません。株式取得ケース、事業譲渡ケース、分割+株式譲渡ケースを同じテンプレートの上に並べ、税金行だけを切り替えられるようにしておくと、交渉中に前提が動いても即座に再計算できます。なお、適格判定・通算制度の適用可否・評価額の算定・個別の特例の適用関係は、いずれも事実関係次第で結論が変わります。ストラクチャーを確定させる前に、必ず税理士・税務専門家の検討を受けてください。

よくある質問(FAQ)

Q. 株式を取得した場合でも「税務上ののれん」は出ますか。
A. 資産調整勘定の規定は、非適格合併等により資産または負債の移転を受けた場合を対象としています(法人税法62条の8第1項)。株式を取得しただけでは資産・負債の移転が生じないため、この規定の適用場面にはなりません。連結財務諸表上にのれんが計上されても、対象会社の法人税の計算には反映されないという整理になります。

Q. グループ通算制度は買収した直後から使えますか。
A. 新たに通算グループを開始する場合は、適用を受けようとする最初の事業年度開始の日の3月前の日までに申請書を提出し、国税庁長官の承認を受ける必要があります(法人税法64条の9第1項・2項)。他方、既に通算親法人との間に完全支配関係を有することとなった法人は、その日に通算承認があったものとみなされます(同条11項)。どちらのパターンに当たるかで準備期間が変わるため、案件の初期段階で確認しておく論点です。

Q. 買い手に有利なら、なぜ日本の案件は株式取得が多いのですか。
A. 買い手の税務ポジションだけを見れば資産取得が有利になりうる一方、売り手側の事情、契約・許認可の承継手続、従業員の移籍、クロージングまでの期間など税務以外の要因が数多く絡むためです。特にオーナー系企業では、株式譲渡なら株主段階の分離課税で完結するのに対し、事業譲渡では法人段階の課税を経て株主へ還流させる段階でさらに課税が生じうる点が大きく効きます。

Q. 消費税は結局コストになるのですか。
A. 事業譲渡では課税資産の対価に消費税が課され、設例では3.0億円をクロージング時に支払う必要があります。仕入税額控除の対象となる限り恒久的なコストとは性質が異なりますが、還付までのタイムラグがあるため、買収資金の手当てとしては実額で見ておく必要があります。土地の譲渡が非課税である点も、課税資産と非課税資産の区分を考えるうえで重要です。

Q. 設例の実効税率30%はどこから来ていますか。
A. 計算を追いやすくするための仮定値です。財務省の資料では、日本の法人実効税率は2018年度以降29.74%とされ、防衛特別法人税(2026年4月施行)の課税対象に該当する場合は30.64%になるとされています。実務では対象会社の所在地・規模・適用される税制によって水準が変わるため、必ず個別に確認したうえでモデルに入れてください。

まとめ

SPCによる買収の税務論点は、①取得形態、②取得後のグループ関係、③のれんの会計と税務の分離、という三つに分解すると見通しがよくなります。買い手にとっての最大の分岐は、資産の税務簿価が取得価額に洗い替わるかどうかで、洗い替わる場合には資産調整勘定と追加償却という将来の損金が生まれる代わりに、流通税と消費税の資金負担が発生します。

設例では、取得対価100億円に対して買い手のポジションが現在価値で約15.5億円動きました。ただしこの差は売り手の税負担と表裏の関係にあり、オーナー系か事業会社かによって最適解が変わります。グループ通算制度についても、新規開始と既存グループへの加入では準備期間がまったく異なるため、案件の初期に時間軸を確認しておくことが実務的な要点です。

ここで扱ったのは公表資料で確認できる制度の枠組みであり、個別案件の判定ではありません。数値の感覚をつかんだうえで、実際のストラクチャー確定は専門家の検討に委ねてください。

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出典・参考(2026年8月確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための仮設例です。個別の取引に係る税務上の取扱いは事実関係により異なるため、必ず税理士・税務専門家にご確認ください。