この記事で分かること

  • 棚卸資産の低価法の定義と、評価損のみを計上する非対称なルール
  • 正味売却価額の考え方と、整数設例での評価損の計算
  • 切放し法と洗替法の違い
  • 2008年の基準改正で低価法が原則化された経緯とIFRSとの整合性

30秒で分かる定義

棚卸資産の低価法(読み方:たなおろししさんのていかほう)とは、期末の棚卸資産を取得原価と正味売却価額のいずれか低い方で評価する会計処理です。低価法、正味売却価額、評価損と呼ばれることもあります。時価(正味売却価額)が取得原価を下回った場合にのみ評価損を計上し、帳簿価額を切り下げます。逆に時価が値上がりしても評価益は計上しない、非対称な保守的処理である点が特徴です。

なぜ実務で重要なのか

小売・製造業の経理にとって、季節商品や技術陳腐化しやすい在庫の期末評価は毎期の重要な決算論点です。財務DDでは、対象会社が低価法を適切に適用しているか、滞留在庫の評価損計上を先送りしていないかを確認し、正常収益力の算定に反映します。PE・与信審査にとって、棚卸資産の実質的な換金価値を把握することは、担保評価や運転資本の分析に直結します。

計算式(または仕組み)

評価損 = 取得原価 − 正味売却価額(マイナスの場合のみ計上)

正味売却価額は「売価 − 見積追加製造原価 − 見積販売直接経費」で求めます。取得原価が正味売却価額を上回る場合のみ評価損を計上し、下回る場合(値上がりしている場合)は評価益を計上せず取得原価のまま据え置きます。

整数設例で確認する

設例(架空数値)。商品A 10,000個、取得原価(帳簿価額)1個あたり2,000円、合計 20,000,000円とします。期末時点の正味売却価額が1個あたり1,700円まで値下がりしていた場合、評価損 =(2,000 − 1,700)× 10,000 = 3,000,000円を計上し、期末棚卸資産の評価額は 1,700 × 10,000 = 17,000,000円まで切り下げられます。仮に翌期、この商品を実際には1個2,100円で販売できたとしても、切り下げ後の帳簿価額1,700円が翌期の売上原価の基礎になるため、翌期の売上総利益は前期に評価損計上した分だけ相対的に大きく見えることになります。

PL・BS・CFへの影響

評価損は原則として当期の売上原価に算入され、PLの利益を押し下げます。BSでは棚卸資産の帳簿価額が正味売却価額まで切り下げられます。現金の動きを伴わない非資金項目であるため、キャッシュフロー計算書(間接法)では当期純利益への調整項目にはなりません(在庫の増減額自体が運転資本の調整として反映されます)。在庫の評価方法全体は在庫の評価方法とCOGSで扱っています。

財務モデル・Excelでの使い方

  • 在庫の滞留期間(DIO)が長期化している品目を抽出し、正味売却価額の下落シナリオごとに評価損リスクを感応度分析する
  • 過去の評価損計上実績から、売上原価に対する評価損の比率を予測モデルの前提として織り込む

この用語をExcelで「組める」状態にする

滞留在庫の正味売却価額シナリオから評価損リスクを試算し、売上原価予測に織り込めるようになる。

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実務家が確認するポイントとよくある誤解

誤解1:「低価法は時価が上がれば評価益を計上できる」→ 正しくは、評価損のみを計上する非対称な処理であり、値上がりによる評価益は計上しません。これは会計上の保守主義(将来の損失は早めに認識し、未実現の利益は認識しない)の考え方に基づきます。

誤解2:「一度切り下げたら永久にその価格のまま」→ 正しくは、翌期以降も状況に応じて再度評価を見直します(原則は切放し法)。切放し法では前期の評価損はなかったものとして翌期の取得原価(=前期末の切り下げ後帳簿価額)を基準に再評価し、洗替法では前期の評価損をいったん戻し入れてから再評価します。

日本実務での扱い(2026年7月時点)

企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」により、2008年度から低価法(従来認められていた原価法のみの適用から変更)が原則的な評価方法として位置づけられています。この改正はIFRS(IAS第2号「棚卸資産」)とのコンバージェンスを図ったもので、両基準の低価法の考え方はほぼ共通しています。EDINETの有価証券報告書では、「棚卸資産の評価に関する会計方針」の注記で採用している評価方法(先入先出法・移動平均法等の原価配分方法と低価法の適用)を確認できます。

面接・モデルテストで問われるポイント

Q:棚卸資産の低価法が、なぜ評価損のみを計上する「非対称」な処理になっているのか説明してください。
「会計における保守主義の考え方に基づき、将来発生する可能性のある損失は早期に認識する一方、未実現の利益は実現するまで認識しないという原則があるためです。棚卸資産の時価が下落した場合は、将来その在庫を売却した際に損失が生じる可能性が高いため、あらかじめ評価損として認識します。逆に時価が値上がりした場合は、実際に販売して収益を実現するまでその利益を財務諸表に反映させない、という慎重な取扱いが求められています。」

深掘りでは「切放し法と洗替法の実務上の使い分け」「正味売却価額の見積りにおける恣意性のリスク」が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. 切放し法と洗替法の違いは何ですか?
A. 切放し法は、前期末に計上した評価損をそのまま帳簿価額に反映させ続け、翌期はその切り下げ後の価額を基準に再評価する方法です。洗替法は、翌期首に前期の評価損をいったん戻し入れ(取得原価に戻し)、期末に改めて低価法を適用する方法です。日本基準では原則として切放し法が採用されます。

Q. 正味売却価額はどのように見積りますか?
A. 期末時点で想定される売価から、完成までに要する見積追加製造原価と、販売に直接要する見積費用(販売手数料等)を控除して算定します。市場価格が明確な商品は市場価格を基礎に、受注生産品は個別の契約条件を基礎に見積ります。

出典・参考(2026-07-21確認)

※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。