この記事で分かること
- 減損会計の3ステップ(兆候の把握→認識の判定→測定)と、それぞれで使う数字の違い
- 割引前将来キャッシュフローと回収可能価額を使い分ける理由を整数設例で確認
- 減損がEBITDA・将来の減価償却費・ROICに与える影響
- 日本基準とIFRS(IAS36)の実務差分と、有報での確認箇所(2026年7月時点)
30秒で分かる定義
固定資産の減損会計(Impairment of Fixed Assets)とは、収益性が低下して投資額の回収が見込めなくなった固定資産について、帳簿価額を回収可能価額まで切り下げ、その差額を減損損失として費用計上する会計処理です。読み方は「げんそん」。対象は有形固定資産、無形固定資産、のれん、投資不動産などです。日本基準では(1)兆候の把握、(2)認識の判定、(3)測定、の3段階を順に進めます。特徴は、認識の判定に割引前の将来キャッシュフローを、測定には割引後の価値を含む回収可能価額を使う点で、この二段構えが日本基準を理解する鍵です。
なぜ実務で重要なのか
PEファンド・投資銀行にとって、減損は「過去の買収や設備投資の失敗が財務諸表に現れる瞬間」であり、投資仮説そのものが問われます。FASの財務DDでは、対象会社が減損を先送りしていないか(兆候があるのに認識していないか)を検証し、必要ならバリュエーション上で自ら評価減を織り込みます。エクイティリサーチでは、減損を一過性費用として正常化利益から除外する一方、減損後は償却費が減って翌期以降の利益が押し上がる——この非対称な影響を予測に織り込みます。のれんの取り扱いはのれんとPPA入門、のれん固有のテストはのれん減損テスト入門を参照してください。
計算式(ま たは仕組み)
日本基準の判定と測定は、次の式で表せます。
【測定】減損損失 = 帳簿価額 − 回収可能価額
回収可能価額 = max(正味売却価額, 使用価値)
使用価値 = 将来キャッシュフローの割引現在価値
正味売却価額は「時価 − 処分費用見込額」、使用価値は「使い続けた場合の将来CFの割引現在価値」です。会社は売ることも使い続けることもできるので、有利なほうの金額まで価値が残っていると考えます。
前提となるのが資産のグルーピングです。機械1台だけでキャッシュフローは生まれないため、他からおおむね独立したキャッシュフローを生む最小の単位でまとめます。この単位が減損の有無を最も大きく左右します。大きくすれば不振事業が好調事業に救われ、細かくすれば減損が出やすくなります。
整数設例で確認する
設例(架空数値)。単位は百万円です。ある資産グループについて、期末の状況は次のとおりです。
- 帳簿価額:1,000(残存耐用年数4年、定額法、残存価額ゼロ)
- 将来キャッシュフロー見積り:各年200 × 4年 = 総額800(割引前)
- 割引率:10%
- 正味売却価額:700
STEP2(認識の判定):割引前将来キャッシュフローの総額800は帳簿価額1,000を下回るため、減損損失を認識します。
STEP3(測定):使用価値は、1年目 200 ÷ 1.1 = 181.8、2年目 200 ÷ 1.21 = 165.3、3年目 200 ÷ 1.331 = 150.3、4年目 200 ÷ 1.4641 = 136.6 の合計で 634.0。回収可能価額は正味売却価額700と使用価値634の高いほうなので700、減損損失は 1,000 − 700 = 300です。
| 項目 | 減損前 | 減損後 | 差 |
|---|---|---|---|
| 固定資産の帳簿価額 | 1,000 | 700 | △300 |
| 年間の減価償却費(4年定額) | 250 | 175 | △75 |
| 当期の減損損失 | — | 300 | +300 |
検算します。減損前の年間償却費は 1,000 ÷ 4 = 250、減損後は 700 ÷ 4 = 175。翌期以降の償却費は毎年75ずつ軽くなり、4年分で75 × 4 = 300、当期に一括計上した減損損失300と一致します。減損とは将来計上するはずだった費用を当期へ前倒しする処理だという構造がここに現れています。
仮に正味売却価額が500なら回収可能価額は使用価値634となり、減損損失は366です。どちらが高いかで結論が変わるため、実務では両方を見積もります。割引計算の考え方はDCF法と同じです。
PL・BS・CFへの影響
PLでは、減損損失は原則として特別損失に計上されます(日本基準。IFRSでは営業費用として表示されるのが一般的)。EBITDAには影響しません。減価償却費と同じ非資金費用として足し戻されるためです。したがってEV/EBITDA倍率で評価している会社に大型減損が出ても倍率は動かず、PERベースの利益だけが大きく毀損します。
BSでは固定資産が直接減額され、純資産が同額減ります。自己資本比率は低下し、財務制限条項の純資産維持条項に抵触するリスクが生じます(コベナンツ入門)。
CFでは、減損損失は現金支出を伴わないため間接法の営業CFで加算調整され、キャッシュフローは1円も動きません。ただし将来のROICは分母の投下資本が減るため機械的に上昇します。「減損翌期のROIC改善」は事業が良くなったのではなく分母が縮んだだけです。減価償却と投資の関係は減価償却とCapexの実務で整理しています。
財務モデル・Excelでの使い方
減損は「シナリオ次第で発生する非経常項目」としてモデルに組み込みます。
- 固定資産のロールフォワード表(期首残高+Capex−減価償却−減損=期末残高)に減損行を独立して置く
- 減損計上後は償却レイヤーの元本を書き換える。
=減損後簿価/残存年数で新しい償却費を計算し、以降の期に反映させる - 減損損失は非資金費用なので、CF計算書の営業CFで加算調整する行を必ず立てる(ここを忘れるとモデルがバランスしません)
- 減損テストを別シートで組む場合は、割引前CF合計と帳簿価額を比較する判定セル、正味売却価額と使用価値のmax関数、差額の測定セルの3層構成にする
償却レイヤー方式の実装はCapex・減価償却スケジュールの作り方で手順化しています。
この用語をExcelで
固定資産ロールフォワードに減損行を組み込み、減損後の償却費・純資産・コベナンツヘッドルームまで自動で連動させられるようになる。
実務家が確認するポイントとよくある誤解
誤解1:「減損が出るとキャッシュが減る」→ 正しくは、減損損失は非資金費用でありキャッシュは動きません。動くのは帳簿価額と純資産、そして将来の減価償却費です。減損の情報価値は「現金が減ったこと」ではなく「経営者が将来キャッシュフローの見通しを下方修正したこと」にあります。
誤解2:「減損の判定は割引現在価値でする」→ 正しくは、日本基準では認識判定に割引前の将来CF総額を使います。割引後を使うのは測定の段階だけです。この二段構えのため、割引前CFが帳簿価額をわずかでも上回れば減損は計上されず、IFRSより出にくく、出るときは一度に大きくなる傾向があります。
誤解3:「一度計上した減損は業績が回復すれば戻せる」→ 日本基準では、減損損失の戻入れは認められていません(2026年7月時点)。IFRSではのれん以外の資産について一定の要件下で戻入れが認められており、ここは基準間で結論が正反対になる代表例です。
日本実務での扱い
日本では企業会計審議会「固定資産の減損に係る会計基準」(2002年公表)と企業会計基準適用指針第6号が実務の拠り所です(2026年7月時点)。兆候の例として、資産グループの営業損益またはキャッシュフローが継続してマイナスであること、使用範囲・方法の著しい変化、経営環境の著しい悪化、市場価格の著しい下落が挙げられています。
IFRSではIAS第36号「資産の減損」が適用されます。主な差分は2点で、第一にIFRSは割引前キャッシュフローによる認識判定のステップを置かず、帳簿価額と回収可能価額を直接比較します。第二に前述のとおり戻入れの可否が異なります。この差は、日本基準からIFRSへ移行した会社の固定資産・のれんを時系列比較する際に効いてきます(日本基準とIFRSの実務差分)。
開示面では、有報の注記に減損損失の金額、対象資産グループの用途・種類・場所、グルーピングの方法、回収可能価額の算定方法(正味売却価額か使用価値か、使用価値なら割引率)が記載されます。外部分析ではまずこの注記を読み、割引率と見積期間を確認します。監査人が減損を監査上の主要な検討事項
面接・モデルテストで問われるポイント
Q:固定資産の減損を100計上した場合、財務三表はどう動きますか。
「PLでは特別損失に減損損失100が計上され、税効果を無視すれば当期純利益が100減ります。BSでは固定資産が100減り、利益剰余金を通じて純資産も100減るのでバランスします。CFでは非資金費用なので営業CFで100が加算調整され、現金は一切動きません。重要なのは翌期以降で、簿価が下がった分だけ減価償却費が減るため利益は押し上げられ、ROICも分母の縮小で機械的に上昇します。EBITDAには当期も翌期も影響しません。」
深掘りでは「日本基準とIFRSで減損の出方がどう違うか」が問われます。翌期の利益改善を実力と誤読しない点まで言えると評価されます。
よくある質問(F AQ)
Q. のれんの減損と固定資産の減損は同じ処理ですか。
A. 枠組みは共通ですが、のれんは単独でキャッシュフローを生まないため、より大きな単位に配分して判定します。また日本基準ではのれんを20年以内で規則償却するため簿価が自動的に減り、減損リスクは時間とともに小さくなります。IFRSでは償却せず毎期減損テストを行うため、突然大型の減損が出やすい構造です。
Q. 減損損失は税務上も損金になりますか。
A. 会計上の減損損失は、そのままでは法人税の計算上の損金に算入されません(2026年7月時点。評価損の損金算入は法人税法上の一定の事由に該当する場合に限られます)。会計上は費用でも税務上は否認され、将来減算一時差異として繰延税金資産の対象になります。ただし減損を出す業績の会社では回収可能性が問題となり計上できないことも多くあります(繰延税金入門)。
出典・参考(2 026-07-21確認)
- 企業会計審議会「固定資産の減損に係る会計基準」(2002年公表) https://www.fsa.go.jp/
- 企業会計基準委員会(ASBJ)企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」 https://www.asb.or.jp/
- IFRS Foundation, IAS 36 Impairment of Assets https://www.ifrs.org/
- EDINET(有価証券報告書 減損損失に関する注記) https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための架空数値です。