この記事で分かること
- 座礁資産が、独立した会計区分ではなく、減損会計の「兆候」と「将来キャッシュ・フローの見積り」に現れる概念だと整理できます
- 3シナリオ(移行遅延・基準・加速)の年次CFから「認識の判定→使用価値→減損損失」までを表で追う手順
- ヘッドルーム(帳簿価額に対する余裕度)の2通りの測り方と、減損が出始める境界の読み方
想定読者:電力・素材・エネルギー関連企業の経理・経営企画の担当者、およびそうした企業へ融資・投資する金融機関の若手で、脱炭素による固定資産の回収可能額の変化を自分で試算したい方
前提知識:減損会計の3ステップ(兆候・認識・測定)の名前だけ知っていれば足ります(本文で補います)
結論:座礁資産のリスクは「前 提の置き方別に、認識の判定と測定を並べる」試算で測れる
座礁資産(脱炭素などの外部環境の変化で、当初見込んだ収益を得られなくなる資産)1は、会計上の独立した区分ではありません。実務では、外部環境の変化で資産グループの将来のキャッシュ・フロー(CF)の見積りが下がり、それが固定資産の減損会計の判定に影響します。「座礁資産だから減損する」と短絡せず、「どの前提のとき、どこから減損になるか」を数字で確かめます。
以下は学習用の架空事例(素材メーカーX社の石炭火力の自家発電設備1基、帳簿価額7,000百万円)です。3シナリオで12年分のCFを組むと、結論は次のように分かれました。
- 移行遅延:割り引く前のCF合計13,618百万円が帳簿価額を上回り、減損なし。
- 基準:割り引く前の合計8,285百万円が帳簿価額を上回り、認識されません。ただし使用価値(現在価値)は6,146百万円で、帳簿価額を下回ります。
- 加速:割り引く前の合計4,620百万円が帳簿価額を下回り、減損損失3,380百万円を認識します。
なお、事業の切り出しで親会社側に残る共通費を指す座礁コストは別の概念で、本記事の座礁資産とは関係しません。減損の3ステップは固定資産の減損会計の解説に委ね、本記事は、そこで所与とされる「使用価値」を脱炭素の前提から導く部分に絞ります。
座礁資産が減損の判定に現れる経路
日本基準(企業会計審議会「固定資産の減損に係る会計基準」。2002年の設定時の意見書)では、減損とは「資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態」とされています2。稼働率の低下や炭素コストの増加は、この収益性の低下の原因になりえます。減損の判定は、経営環境や資産の市場価格などの外部の情報を使って減損の兆候がある資産グループを見つけるところから始まり、企業会計基準委員会(ASBJ)の適用指針は、経営環境の著しい悪化の例に規制強化などの法律的環境の著しい悪化を挙げています3。脱炭素の動きが兆候にあたるかは、個々の事実で判断します。
判定は2段階です。まず、資産グループの割り引く前の将来CFの総額が帳簿価額を下回るときに減損損失を認識します。これは、測定が主観的になりやすいため「減損の存在が相当程度に確実な場合に限って」認識するという考え方に基づきます4。次に、認識する場合に限り、帳簿価額を回収可能価額(正味売却価額と使用価値のいずれか高い方)まで減らします。資産のまとめ方(グルーピング)は、他の資産のCFからおおむね独立したCFを生む最小の単位で決めます5。本記事の設例は、この設備1基を1つの資産グループとして扱います。
この2段階は日本基準の枠組みです。IFRS(IAS第36号)の手順は異なるため本記事では扱わず、概観は日本基準とIFRSの実務差分に委ねます。以下は日本基準の個別財務諸表で考える試算です。
設例の前提:3つのシナリオを3つの前提に分解する
将来CFの見積りは「企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測」に基づく必要があります6。気候シナリオは予測ではなく「もしこうなったら」の想定です。そこで、シナリオの違いを、稼働率・粗利単価・炭素コストの3つに落とし、残りは共通にします(図表1)。
| 項目 | 移行遅延 | 基準 | 加速 |
|---|---|---|---|
| 稼働率:1年目(%) | 80.0 | 75.0 | 70.0 |
| 稼働率:毎年の低下幅(ポイント) | 0.5 | 1.0 | 1.0 |
| 稼働率:12年目(%) | 74.5 | 64.0 | 59.0 |
| 粗利単価(円/kWh。炭素コスト控除前) | 3.0 | 2.9 | 2.8 |
| 炭素の実質負担単価:1年目(円/tCO2) | 100 | 200 | 300 |
| 炭素の実質負担単価:毎年の上昇額(円/tCO2) | 30 | 60 | 80 |
| 炭素の実質負担単価:12年目(円/tCO2) | 430 | 860 | 1,180 |
| シナリオの確率(編集部の仮定。第8節) | 30% | 50% | 20% |
共通の前提(すべて学習用の仮定)は、帳簿価額7,000百万円、経済的残存使用年数12年、現金固定費(本社費などの配賦額を含む)年900百万円、維持的な設備投資年100百万円、満稼働時の発電量1,000百万kWh、排出係数0.9kgCO2/kWh(満稼働時の排出量900千tCO2)です。CFは各年末・税引前に生じ、12年後の処分CFは0とします。
年間の正味CFの式(編集部の算式。単位:百万円)
稼働率t=1年目の稼働率−低下幅×(t−1)、実質負担単価t=1年目の単価+年間上昇額×(t−1)
正味CFt=稼働率t×(粗利単価×1,000−900×実質負担単価t÷1,000)−900−100
加速シナリオの1年目は、粗利が0.70×2.8×1,000=1,960、排出量が0.70×900=630千t、炭素コストが630千t×300円/t÷1,000=189で、正味CFは1,960−900−189−100=771です。12年目は稼働率59.0%、炭素コスト626.6(排出量531千t×1,180円/t)で、正味CFは25.4とほぼゼロまで下がります。
CFに入れるものと入れないもの
現在の使用状況と合理的な使用計画を考慮して見積り、計画されていない将来の設備増強や事業再編の結果として生じるCFは含めません。一方、現在の価値を維持するための合理的な設備投資は含め、利息と法人税等の支払額は含めません7。そこで設例では、維持的な設備投資は控除し、燃料転換のような大型の改修は、計画として決まっていない限り入れていません。計画が決まっていれば、その計画に沿って見積り直します。撤去費用(資産除去債務)は別の論点で、設例に含めません。
見積り期間は、認識の判定では経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方です8。設例の12年は20年より短いので12年分を見積り、12年経過時点の正味売却価額を割り引く前の合計に加えます(設例では0と仮定)。使用価値の見積り期間は、20年の上限が無く経済的残存使用年数です。
炭素コストの置き方と制度の現状
設例の炭素コストは「実質負担単価」という仮定で置きました。カーボンプライシングのうち排出量取引制度(GX-ETS)は、2026年度から法定化され、当初は排出枠が全量無償で交付される方針です。対象は直接排出量が前年度までの3か年度平均で10万トン以上の事業者で、発電部門は2033年度から段階的にオークションを導入する方針です9。2026年度の排出枠の上限価格は4,300円/トン、下限価格は1,700円/トンです10。
無償割当の範囲では負担は小さく、割当を超える排出分や将来の有償化・割当基準の強化で負担が膨らみうる、というのが編集部の整理です。設例の実質負担単価はその負担を1トン当たりに均した編集部の仮定で、制度の価格そのものではありません。X社が制度の対象になるかどうかも、本記事では判断しません。内部炭素価格をCFに織り込む考え方は用語集に委ねます。
年次CFから認識の判定へ:割り引く前の合計を帳簿価額と比べる
図表1の前提から各年の正味CFを計算し、12年分を並べたものが図表2です。1年目から12年目にかけて、移行遅延は1,328.0から946.7、基準は1,040.0から360.6、加速は771.0から25.4(いずれも百万円)まで下がります。最下段の2行が、認識の判定に使う「割り引く前の合計」と、測定に使う「現在価値の合計(使用価値)」です。
| 年 | 現在価値係数 | 移行遅延 | 基準 | 加速 |
|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 0.9434 | 1,328.0 | 1,040.0 | 771.0 |
| 2年目 | 0.8900 | 1,292.0 | 972.8 | 696.0 |
| 3年目 | 0.8396 | 1,256.2 | 906.8 | 622.5 |
| 4年目 | 0.7921 | 1,220.8 | 841.8 | 550.4 |
| 5年目 | 0.7473 | 1,185.6 | 777.8 | 479.7 |
| 6年目 | 0.7050 | 1,150.6 | 715.0 | 410.5 |
| 7年目 | 0.6651 | 1,116.0 | 653.2 | 342.7 |
| 8年目 | 0.6274 | 1,081.6 | 592.6 | 276.4 |
| 9年目 | 0.5919 | 1,047.4 | 533.0 | 211.5 |
| 10年目 | 0.5584 | 1,013.6 | 474.4 | 148.0 |
| 11年目 | 0.5268 | 980.0 | 417.0 | 86.0 |
| 12年目 | 0.4970 | 946.7 | 360.6 | 25.4 |
| 割り引く前の合計 | - | 13,618.4 | 8,285.0 | 4,620.1 |
| 現在価値の合計(使用価値) | - | 9,714.9 | 6,145.8 | 3,620.4 |
認識の判定は、割り引く前の合計を帳簿価額7,000百万円と比べるだけです。移行遅延の13,618と基準の8,285は帳簿価額以上なので、判定はここで終わり、減損損失は計上しません。加速の4,620は帳簿価額を2,380百万円下回るため、減損損失を認識して測定に進みます。図表3は、この関係を累計で見たものです。移行遅延は6年目、基準は9年目に累計が7,000を超え、加速は12年目でも4,620にとどまります。
測定:使用価値と正味売却価額から、減損損失と損失後の利益への影響を出す
認識された加速シナリオでは、回収可能価額=正味売却価額と使用価値のいずれか高い方で測定します11。使用価値は、継続的な使用と使用後の処分によって生じると見込まれるCFの現在価値(将来の金額を、時間の価値と不確実性を反映した率で今の価値に換算した額)です。税引前のCFに合わせて、割り引く率も税引前の6.0%を仮定します12。
測定の式(単位:百万円)
使用価値=Σ(正味CFt÷1.06のt乗)=3,620(図表2の最下段)
回収可能価額=max(正味売却価額800、使用価値3,620)=3,620
減損損失=帳簿価額7,000−回収可能価額3,620=3,380
正味売却価額が800と小さいため、使用価値が回収可能価額になります。損失3,380百万円は原則として特別損失で、非現金の費用のためその年のCFは変わりません。損失後の帳簿価額3,620百万円を残存12年・定額法(残存価額ゼロ)で償却すると、年間の償却費は583.3百万円から301.7百万円へ281.6百万円減ります。12年の累計の減少額は損失と同額(丸め前で3,379.6百万円)で、費用の総額は変わらず計上時期が前倒しになるだけです13。日本基準では、その後に回収可能性が回復しても減損損失の戻入れは行いません。
ヘッドルーム:余裕度は2通りの測り方がある
ヘッドルーム(余裕度)は、日本基準の2段階に対応して2通りに測れます(編集部の整理)。「割り引く前の合計−帳簿価額」は認識に至るまでの余裕、「使用価値−帳簿価額」は認識された場合の損失の目安で、両方を並べて見ます。
3シナリオの値は、移行遅延が前者+6,618・後者+2,715、基準が前者+1,285・後者−854、加速が前者−2,380・後者−3,380(百万円)です。
基準シナリオは、現在価値では帳簿価額を回収できない状態でも、日本基準では損失が出ない典型です。損失が出ていないことは余裕を意味しません。割り引く前の余裕が1,285百万円(帳簿価額の約18.4%。1,285÷7,000)しかなく、次節のとおり前提が少し動くと認識に変わります。
感応度:減損が出始める境界を読む
基準シナリオを土台に、炭素の実質負担単価の路線を0.5〜2.0倍、稼働率の水準を全年一律に+5〜−10ポイント動かしたのが図表4です。作り方は感応度分析・シナリオ分析の作り方に委ねます。ストレステストと同様に、前提を悪い側へ動かして結論がどこで変わるかを見ます。
| 炭素の実質負担単価の路線(基準=1.0倍) | 稼働率 +5ポイント | 稼働率 ±0ポイント | 稼働率 −5ポイント | 稼働率 −10ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 0.5倍 | 0(認識なし)割り引く前 11,832 | 0(認識なし)割り引く前 10,236 | 0(認識なし)割り引く前 8,639 | 0(認識なし)割り引く前 7,042 |
| 1.0倍 | 0(認識なし)割り引く前 9,739 | 0(認識なし)割り引く前 8,285 | ▲1,885割り引く前 6,831 | ▲2,917割り引く前 5,377 |
| 1.5倍 | 0(認識なし)割り引く前 7,645 | ▲2,122割り引く前 6,335 | ▲3,061割り引く前 5,024 | ▲4,000割り引く前 3,713 |
| 2.0倍 | ▲2,543割り引く前 5,552 | ▲3,390割り引く前 4,384 | ▲4,237割り引く前 3,216 | ▲5,083割り引く前 2,049 |
図表4から読めることは3つです。第1に、減損損失は少しずつ増えるのではなく、境界で0から大きな額へ飛びます。炭素の路線が1.0倍のとき、稼働率を5ポイント下げると割り引く前の合計が6,831で帳簿価額を割り、損失は1,885になります。第2に、境界は稼働率でおよそ4.4ポイント下がったところです(1ポイント下げるごとに割り引く前の合計が約291百万円減ると線形で補間)。第3に、炭素の路線が1.5倍になると、稼働率が現状のままでも合計が6,335となり、損失2,122が出ます。
割り引く率も測定に効きます。加速シナリオの使用価値は、率6.0%で3,620、8.0%で3,365、4.0%で3,910となり、減損損失は3,380、3,635、3,090百万円です。基準シナリオは、8.0%でも割り引く前の合計が8,285のままなので認識されません。認識の判定が率に左右されないことは、2段階の特徴です。
1つの見積りか確率加重か:説明可能性の観点
見積りには、最も可能性の高い単一の金額を使う方法と、複数のCFを確率で加重した期待値を使う方法があり、どちらも適用できます14。仮に移行遅延30%・基準50%・加速20%と置くと(編集部の仮定で、根拠のある確率ではありません)、割り引く前の期待値は0.3×13,618+0.5×8,285+0.2×4,620=9,152百万円で、帳簿価額を上回ります。単一の基準シナリオでも確率加重でも、認識の判定は「認識なし」です。
確率の置き方は結論を左右します。遅延と基準の比(30対50)を保ったまま加速の確率だけを上げると、約58%を超えたところで期待値が帳簿価額を下回ります。見解として、確率加重は「結論を軽くするため」ではなく「使用計画が複数あり幅があるため」に使い、加速シナリオの結果は別途ストレスの結果として示すのが安全だと考えます。開示の枠組みはESG・サステナビリティ開示の基礎
よくある間違いと限界
- 炭素コストの入れ忘れ・二重計上:粗利に織り込み済みの炭素コストを、別行でも引かないようにします。
- 割り引いた値で認識を判定する:認識の判定は割り引く前の合計です。割り引くのは測定の使用価値だけです。
- 計画のない転換投資をCFに入れる:決まった計画があるときだけ、その計画に沿って見積り直します。
- シナリオを予測と読む:本記事の数値はすべて学習用の仮定です。「この業種は座礁する」といった断定は、試算からは出てきません。
限界として、設例は資産グループ1つ・年末払い・税引前・12年後の処分CFゼロと単純化しています。実在企業の減損事例は、有価証券報告書などで年度とページまで追跡できるものに限るべきで、本記事では扱いません。
実務チェックリスト
- 資産グループの単位と帳簿価額を確認し、シナリオの違いを稼働率・単価・炭素コストなどのドライバーの年次の路線に分解してある
- 見積り期間が経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方に収まり、計画のない設備増強・事業再編のCFは含めず、維持的な設備投資と配賦後の本社費は含めている
- 認識の判定は割り引く前の合計、測定は税引前の率による使用価値で行い、2つの値を分けて持っている
- ヘッドルームを2通りで出し、稼働率・炭素価格の路線を動かして認識が始まる境界を把握している
よくある質問(F AQ)
減損の兆候が無くても、シナリオ分析で帳簿価額を割ったら減損しますか。
日本基準では、兆候がある資産グループについて認識の判定を行う枠組みで、兆候の有無の判断が先に来ます。ただし試算で余裕が小さいと分かれば、兆候の判断を丁寧に行う動機になります。
炭素の排出枠が無償で交付される間は、炭素コストを入れなくてよいですか。
無償の範囲に負担はありませんが、将来の有償化や割当基準の強化が合理的な使用計画に影響すると見込まれるなら、その見込みをCFに反映します。どこまで反映するかは、説明可能な仮定で決めます。
まとめ
座礁資産は会計上の区分ではなく、外部環境の変化が将来CFの見積りに入り、減損の認識と測定に現れる実務上の概念です。設例では、移行遅延は余裕が大きく、基準は認識されないが使用価値が帳簿価額を下回り、加速は減損損失3,380百万円が認識されました。損失は境界で飛ぶため、ヘッドルームを2通りで測り、感応度で境界を把握することが要点です。数値は学習用の仮定で、実際の判断は企業の事実と会計基準の原文に基づいて行ってください。
脚注
- Corporate Finance Institute「Stranded Assets」の冒頭の節「What are Stranded Assets?」および「Testing an Asset for Impairment」。座礁資産を、事業環境の変化により本来の経済的な収益を得られなくなった資産とし、貸借対照表では資産の減少、損益計算書では非現金の損失として表れ、減損テストで判定できると説明しています(一般的な概念の参考。参考文献 R3)。同ページの米国会計基準・IFRSの手順の説明は、日本基準の説明としては使っていません。↩
- 企業会計審議会「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(2002年8月9日)「三 基本的考え方」3。減損を「資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態」とし、減損処理を、そのような場合に「一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理」としています(参考文献 R1)。この定義は意見書の説明で、現行の企業会計基準適用指針第6号(最終改正2025年10月16日)も、減損会計基準とこの意見書を参照して取扱いを定めています(参考文献 R4)。↩
- 同意見書 四 2(1)。減損が生じている可能性を示す事象(減損の兆候)がある場合に、減損損失を認識するかどうかの判定を行うこと、企業は内部管理目的の損益報告や経営計画などの内部情報と、経営環境や資産の市場価格などの外部の要因に関する情報に基づいて兆候を識別することが書かれています(参考文献 R1)。企業会計基準適用指針第6号 第14項は、「経営環境が著しく悪化した」場合の例として「重要な法律改正、規制緩和や規制強化、重大な法令違反の発生などの法律的環境の著しい悪化」などを挙げています(参考文献 R4)。↩
- 同意見書「四 会計基準の要点と考え方」2(2)①。測定が将来キャッシュ・フローの見積りに大きく依存し「成果の不確定な事業用資産の減損は、測定が主観的にならざるを得ない」ため、「減損の存在が相当程度に確実な場合に限って減損損失を認識することが適当である」としています。兆候がある資産グループの割り引く前の将来キャッシュ・フロー総額が帳簿価額を下回るときに認識を求める旨も、同じ箇所にあります(参考文献 R1)。↩
- 同意見書 四 2(6)①。資産のグルーピングは「他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位」で行い、実務的には管理会計上の区分や投資の意思決定を行う際の単位等を考慮して方法を定めるとされています(参考文献 R1)。↩
- 同意見書 四 2(4)①。将来キャッシュ・フローは、時価を算定するためではなく、企業にとって帳簿価額が回収可能か、どれだけの経済的な価値を有しているかを算定するために見積られることから、「企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積ることとした」とされています(参考文献 R1)。↩
- 同意見書 四 2(4)②⑤⑥。現在の使用状況と合理的な使用計画等を考慮して見積り、「計画されていない将来の設備の増強や事業の再編の結果として生ずる将来キャッシュ・フローは、見積りに含めない」こと、現在の価値を維持するための合理的な設備投資に関するキャッシュ・フローは含めること、本社費等の間接的な支出は合理的な方法で配分して控除すること、利息の支払額と法人税等の支払額・還付額は含めないことが書かれています(参考文献 R1)。会計基準本文 二 4.(2)(4)(5)・注解(注5)と、企業会計基準適用指針第6号 第38項(1)(2)・第40項・第41項にも同じ取扱いがあります(参考文献 R1・R4)。↩
- 企業会計審議会「固定資産の減損に係る会計基準」二 2.(2)は、減損損失を認識するかどうかを判定するために割り引く前の将来キャッシュ・フローを見積る期間を、資産の経済的残存使用年数または資産グループ中の主要な資産の経済的残存使用年数と20年の「いずれか短い方とする」と定めています(要約は編集部)(参考文献 R1 所収の会計基準本文)。企業会計基準適用指針第6号 第18項は、主要な資産の経済的残存使用年数が20年を超えない場合はその年数経過時点の正味売却価額を、20年を超える場合は21年目以降の将来キャッシュ・フローに基づく20年経過時点の回収可能価額を、それぞれ割り引く前の将来キャッシュ・フローに加算するとし、第37項(2)は、使用価値の算定のための見積期間を経済的残存使用年数としています(参考文献 R4)。↩
- 経済産業省GXグループ環境経済室「2026年度より開始する排出量取引制度について」(令和8年1月14日)p.6・p.8。2026年度から排出量取引を法定化(全量無償で排出枠を交付)し、2033年度から発電部門に段階的にオークションを導入する方針、対象は CO2 の直接排出量が前年度までの3か年度平均で10万トン以上の事業者、排出枠は毎年度の排出実績と同量を翌年度の1月31日に保有する義務、という説明が載っています(参考文献 R2)。制度の詳細は見直しが続くため、2026年10月時点で読めた資料の範囲です。↩
- 同資料 p.16。2026年度の上限価格は4,300円/トン、下限価格は1,700円/トンとし、2027年度以降は前年度の価格に価格上昇率(3%+物価上昇率)を乗じて決める、とされています(参考文献 R2)。↩
- 同意見書 四 2(3)。認識すべきと判定された資産グループは「帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として当期の損失とする」。回収可能価額は、正味売却価額(時価から処分費用見込額を控除した金額)と使用価値(継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値)のいずれか高い方で、減損損失は原則として特別損失とするとされています(参考文献 R1)。会計基準本文 二 3.(減損損失の測定)と 四 2.(減損損失は原則として特別損失とする)にも同じ定めがあり、企業会計基準適用指針第6号 第28項は回収可能価額を正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額としています(参考文献 R1・R4)。↩
- 同意見書 四 2(4)④・(5)。使用価値の算定では、リスクを将来キャッシュ・フローの見積りに反映させる方法と、割り引く率に反映させる方法のいずれも認められ、将来キャッシュ・フローが税引前の数値であることに対応して割り引く率も税引前の数値を用いる必要があるとされています。認識の判定に用いる将来キャッシュ・フローについては、リスクを反映させない方法に統一されています(参考文献 R1)。会計基準本文 二 5. は使用価値の算定に用いる率を「貨幣の時間価値を反映した税引前の利率」とし、企業会計基準適用指針第6号 第43項も、将来キャッシュ・フローが税引前の数値であることに対応して割り引く率も税引前の数値を用いる必要があるとしています(参考文献 R1・R4)。↩
- 同意見書 四 3(1)(2)。減損処理後の帳簿価額は以後の事業年度にわたって減価償却により原価配分し、減損損失の戻入れは「減損の存在が相当程度確実な場合に限って減損損失を認識及び測定することとしていること」「戻入れは事務的負担を増大させるおそれがあること」などから行わないとされています(参考文献 R1)。会計基準本文 三 1.・2. も「減損損失を控除した帳簿価額に基づき減価償却を行う」「減損損失の戻入れは、行わない」と定め、企業会計基準適用指針第6号 第55項も同じです(参考文献 R1・R4)。↩
- 同意見書 四 2(4)③。見積りの方法には、生起する可能性の最も高い単一の金額を見積る方法と、複数の将来キャッシュ・フローをそれぞれの確率で加重平均した金額(期待値)を見積る方法があり、単一の金額が一般的としつつ、複数の選択肢を検討している場合や幅を考慮する必要がある場合は期待値も有用として「いずれの方法も適用できる」としています(参考文献 R1)。会計基準本文 二 4.(3) と企業会計基準適用指針第6号 第39項も、見積金額を最頻値または期待値としています(参考文献 R1・R4)。↩
参考文献(2 026年10月確認)
- R1 企業会計審議会「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」(2002年8月9日公表。会計基準本文・注解を所収。金融庁掲載) fsa.go.jp (参照箇所:意見書 三 3、四 2(1)〜(6)、四 3、会計基準本文 二 2.〜5.・三・四 2.(PDF p.20〜24)。脚注2〜8・11〜14の根拠。閲覧日:2026年10月10日)
- R2 経済産業省GXグループ環境経済室「2026年度より開始する排出量取引制度について」(令和8年1月14日) jcmfs.meti.go.jp (参照箇所:p.6、p.8、p.16。脚注9・10の根拠。閲覧日:2026年10月10日)
- R3 Corporate Finance Institute「Stranded Assets」 corporatefinanceinstitute.com (座礁資産の一般的な概念の参考。脚注1の根拠。閲覧日:2026年10月10日)
- R4 企業会計基準委員会「企業会計基準適用指針第6号 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(2003年10月31日公表、最終改正2025年10月16日) asb-j.jp (参照箇所:第14項、第18項、第28項、第37項、第38項、第39項、第40項、第41項、第43項、第55項。脚注2・3・7・8・11〜14の根拠。閲覧日:2026年10月10日)
※本記事は教育目的の一般的な解説であり、法務・税務・投資助言ではありません。設例は理解のための学習用の架空事例であり、実在の企業・案件とは関係ありません。